第18話:奥義・裂交刃
フィールドの真ん中で対峙するゼウスと剣一郎。
2人の間に協会のHaloが浮かび、アナウンスをする。
『では、これからゼウス対神威剣一郎のエキシビションマッチをスタートします。
武器の使用もすべてOKですが、あくまでもエキシビションマッチなので相手を殺さないように注意してください。
それでは……スタート!』
そう言ってHaloが離れる……か、離れないかのうちに剣一郎が鋭く踏み込み、抜刀してゼウスの首筋に向けて刀を振る。
ガキィィン!!
が、ゼウスのアイギス・ハローが展開した電磁バリアが剣一郎の刀を受け止める。
「……さすがだね、一切の迷いがない。アイギスを展開してなきゃ開始1秒でやられてたよ」
「ふむ。なかなかやりおる」
2人が弾かれるように距離をとる。
「じゃ、次は僕の番だね」
ゼウスの背後の光輪が震える。
剣一郎の顔のすぐ側に、ボルト・スフィアが現れる。
「……む」
バンッ!
ボルト・スフィアが爆ぜるが、剣一郎はもうそこにいない。
「さぁ、どんどん行くよ!」
剣一郎を取り囲むようにボルト・スフィアが出現する。
バババババンッッ!!
ゼウスが踊るようにポーズを決めると、次々に球が爆ぜる。
「キャーーー! ゼウス様ぁ!!」
郊外に特設されたスタジアムが、数万人の熱狂で震える。
「ははは!さぁ!これでトドメだ!」
先程よりもさらに多い球。それが次々に爆ぜるが、剣一郎は全てかわしていく。
「………!?」
会場が異様な雰囲気に包まれる。ゼウスがこれほど相手を仕留めるのに手こずったことは無いからだ。
一般の観客もミューズ達もザワザワし始める。
「ふむ。なかなか面白い武器だな」
「この……だったら、こうだ!」
ゼウスが天に向けて手を突き上げると、先程とは比べ物にならないサイズの球が現れた。
「これで……トドメだ……!!」
ゼウスが球を爆ぜさせようとした直前、球とアイギス・ハローの光輪が弾けて消えた。
「くそ、こんな時に……!」
「師匠!今っす!ゼウスは多分バッテリー切れです!」
セコンド席からカエデが叫ぶ。
カエデはこの1ヶ月、穴が空くほどゼウスの動画を見ていた。
どの動画を見てもゼウスの強さが浮き彫りになるばかりだったが、奇妙な共通点に気づく。
それは、戦闘シーンが5分から長くても10分程度しかないこと。
もちろん、どんな相手でもその時間に戦闘を収めることがすごいと言えばすごい。
が、ゼウスの自己顕示欲の強さを考えれば、見せ場の戦闘シーンをもっと長く取らないことは不自然だ。
そう思ったカエデはアイギス・ハローの仕様書を取り寄せ、熟読した。
「なるほど、ということは……」
仕様書から異常な電気の消費量に気づいたカエデは、戦闘時間が10分程度しかないのは、バッテリーがもたないからだと看破した。
そこで、剣一郎への指示に繋がったわけだ。
「ふむ。なんだかわからんが確かに今が好機のようだな」
剣一郎が素早く距離を詰め、再びゼウスの首筋めがけて刀を振るう。
その時だった。
ガキィン!
剣一郎の刀が折れ、刃が宙に舞う。
「……む」
「師匠の刀が!?」
鎧殼鬼を切ろうが、最新兵装を切ろうがビクともしなかった剣一郎の刀が折れた。ゼウスが、剣一郎の刀を屍から渡されたガントレット、フルグルでガードしたのだ。
フルグルは常に高周波振動を起こしており、刀を砕くのに特化したガントレットだ。
「はっは、馬鹿め!最初に切り付けられた時に、アンタの首狙いの太刀筋は覚えた!おおかた首に刀を突きつけて降参を宣言させるつもりだったんだろうが、同じように首を狙うとは、僕を甘く見たな!」
高笑いをするゼウス。どうやら剣一郎を引き込んで刀を折る最初からの作戦だったようだ。
「そして、さ~ら~に~!」
消えていたゼウスの背後の光輪が復活し、再び振動を始める。
「残念!バッテリー切れじゃないんだよねぇ!!」
先ほどよりも多くのボルト・スフィアが剣一郎を襲う。
距離を取りながら爆ぜる球をかわし、少し離れた場所で息をつく剣一郎。
「なるほど、やるではないか……これは一本取られたわい」
折れた刀を見ながら、剣一郎はつぶやいた。
「え……なんで!?バッテリー切れじゃないの!?」
復活したアイギス・ハローの光輪を見て動揺しているカエデ……と、ゼウス側のセコンド席に座るゼウスのスタッフたち。
なぜか味方であるはずのゼウスのセコンド陣も動揺を隠せないでいた。
「な、なんでだ?ボスのバッテリーが回復してる……」
「ボスがあの位置にたったら急にバッテリーが回復したぞ、どうなってるんだ?」
「や、そんなことは気にするな、バッテリーを気にせずに戦えるならボスは無敵だ!」
「そうだな!よし、いけ、ボス!!」
盛り上がる脳筋セコンド陣。だが、その裏に屍の暗躍を知るマネージャーは、顔をそむけてセコンド席から出て行った。
「ボス……大丈夫なんですか?あんな怪しいヤツの力を借りて……」
フィールドでは、ゼウスが剣一郎を捕らえられないいらだちを感じ始めていた。
「クソ…なんで当たらないんだ!?」
給電ポイントから電力が供給されるため、ボルト・スフィアは際限なく作れる。
しかし、とにかく剣一郎には当たらない。遠目にはそれほど動きが早いようには見えないが、ひたすらよけてよけてよけまくる。
剣一郎は目線の向きや筋肉の動きをわざとゼウスに見せ、ボルト・スフィアを出現させる位置を誘導しているのだ。
ゼウスの方もなまじ優秀なヒーローのため、無意識のうちに誘導にひっかかり、ボルト・スフィアをよけられまくっている。
「……しかし、このままではらちがあかんな…」
剣一郎は移動しながら、試合前にカエデから渡された指弾用のベアリングの玉をいくつか懐から取り出す。
ビッ、ビシッ!
鋭い音を立ててベアリングの玉がゼウスを襲うが、アイギス・ハローのシールドがそれを防ぐ。
「はんっ、無駄だ無駄!何をしたってこのシールドは貫けないよ!」
「……とはいえ、ワシとしては近づかないといかんともしがたいのでな」
ボルト・スフィアをかいくぐり、指弾で牽制しながら剣一郎がゼウスに近づいていく。
「ぐ、この……」
ある程度近づいたところで、剣一郎は脇差を抜いて切りかかる。
が、やはりシールドに阻まれた。とはいえ、ゼウスの方もフルグルで脇差を折ることはできていない。ガントレットが危険と学んだ剣一郎がフェイントを織り交ぜて来るため、脇差をフルグルで受けることができないためだ。
離れればボルト・スフィアと指弾。近づけば脇差とシールド。戦いは膠着状態に入った。
「やれ、やっちまえ、ボス!」
「やっぱりボスが最強だぜ!」
盛り上がるゼウスのセコンド陣とは対照的に、剣一郎のセコンドに入っているカエデは静かだった。戦況を打破する何かが無いかとフィールドを探し続けていたからだ。
「ん?あれ、なんすかね……」
カエデが気づいたのは、先ほどゼウスに折られ、地面に刺さっている刀の刃。
刃はなぜかパリパリと帯電し、火花が散っていた。
刃にゼウスが近づくと、その帯電した電気がゼウスの方に流れるような動きをする。
そして、その直後にボルト・スフィアの数が増えるのだ。
「まさか……あの場所の近くに行くとバッテリーに無線充電されるんじゃ……」
脇差でガンガンアイギス・ハローのシールドをぶったたく剣一郎に向かって、カエデは叫んだ。
「師匠!刀です!さっき折れた刀の刃が刺さっているあたりの地面を、破壊してください!」
「……む?…分かった、やってみよう」
剣一郎が一時的に距離を取る。
深く腰を落とし、下段の構えをとる。
「神威天影流奥義、裂交刃」
剣一郎が下段の構えから、地面をはじくように逆袈裟に脇差を切り上げ、間髪入れずに左右逆に切り上げる。
地面を斬撃が走り、2つの斬撃がクロスする位置で、
ドォン!!
と、地面が爆ぜた。
「ちょ……な、なんつーデタラメな……」
給電ポイントになっていた地面がえぐられ、ゼウスが焦る。
「くそ、あっちの給電ポイントを……バッテリーが……」
そうつぶやいて移動を始めるが、剣一郎がその前に回り込む。
「この、舐めるなよ!」
そう言ってレーザーレイピアを起動するゼウス。果敢に切りかかるが、さすがに剣一郎に剣では敵わない。
レーザーレイピアを払い落とされ、喉元に脇差を突きつけられた。アイギス・ハローのシールドも、もう発動しない。
「………ここまでだ」
剣一郎がそう告げた。
「えぇ!?嘘でしょ!!」
「ゼウス様ぁ!!」
会場から悲鳴に近い声が上がる。
が、会場の混乱とは反対に、ゼウスの顔はどこか晴れやかだ。
全てを、出し切った。
汚い手も使った。
その全てを、この侍は真正面から向き合い、真っ向から叩き潰してくれた。
剣についても圧倒的に格下だということはすぐに分かっていただろうに、最後まで全力で叩き潰してくれたのだ。
この数年……ランキング1位になってから……これほどまっすぐにゼウスと向き合ってくれる人がいただろうか。
「はは……なんだか、気分がいいや」
「ふん…お主もなかなか強かったぞ」
ゼウスに向かって手を差し出す剣一郎。
「…よく言うよ、そんな、無傷でさ」
ゼウスが自嘲気味に笑い、剣一郎の手を取った。
ゼウスの控え室。ゼウスのマネージャーはモニターで戦いを見守っていた。
「ボス……負けちゃいましたか。また1からですね」
憑き物が落ちたようなゼウスの顔を見て、安心した表情で彼女は言った。
その時、ゼウスの荷物からビンが1つ落ちた。
「え、何これ………?」
マネージャーが見たのは、ビンに入った妖魔。ゼウスが屍から受け取ったものだ。
ゼウスの最後のプライドだったのか、その妖魔がビンから出されることは無かったのだ。
「なんなのもう、気持ち悪い!」
彼女はビンごと妖魔をごみ箱に捨てた。
「チッ、役立たずめが……」
観客席でそう毒づくのは屍だ。
「しかも、渡した妖魔も仕込んでないようだな。なんのプライドなんだか……
まぁいい、キサマは最初から私の手のひらの上だ」
屍が妖力を送ると、ゼウスのフルグルが砕け散った。
「わぁ、なんだ!?」
驚くゼウスの腕に、アメーバ状の妖魔が張り付いている。ビンに入れて屍から渡されたものと同じ妖魔だ。ゼウスが使わなかった時のために、最初からフルグルの中に仕込まれていたのだ。
「む、なんじゃそれは?」
「あ、コイツは……!」
次の瞬間、妖魔がゼウスの腕から吸血を始める。屍は少量の吸血と言っていたが、ヂュルヂュルと音を立てながら、かなりの勢いだ。妖気が逆流し、ゼウスの血管を黒く浮きたたせている。
「グッ、うわああぁぁぁ!!」
そのまま妖魔はズルリとゼウスのバックパックに移動し、爆発的な成長を見せる。
ゼウスのバックパックから巨大な触手が何本も現れた。その触手は地面に突き刺さり、電気エネルギーを吸い上げる。
「ひっ、何あれ……」
「ゼウス様!ゼウス様ぁ!」
ミューズ達の悲鳴が響きわたるが、ゼウスには最早その声は届いていないようだ。
触手に持ち上げられ、宙に浮かぶゼウス。アイギス・ハローが再起動し、過剰な電力量で巨大な光輪を形作っている。
その姿は禍々しい神のようだった。
「なんじゃこれは……何が起きている……??」
剣一郎が脇差を構え直す。
「さぁ、ここから最強のヒーローと侍の第2ラウンドだ!神威剣一郎、今度こそキサマの最後だぞ!!」
観客皆が悲鳴をあげる中で、屍だけが笑っていた。




