第20話:奥義、腰にクる
ゼウスと剣一郎の戦いから数日。
ゼウスは入院し、ベッドの上で回復を待っていた。
吸血により大分血を失ったのと、電気によるダメージでここ数日眠り続けていたものの、今ではベッドの上で起き上がれるくらいには回復している。
ベッドの脇にはマネージャーが座っている。
大勢いたスタッフもだいぶ去り、今ではこのマネージャーと数人程度だ。
しかし、剣一郎に負け、スタッフも減っていたが、今のゼウスの顔は晴れやかだ。
「マネージャー。今の僕のチャンネル、フォロワー数はどれくらい?」
「………そんなことは気にせずに、今は体を治して……」
「いいから。知りたいんだ」
「……フォロワー数でいうと、ボスが眠っていたこの数日で100分の1になってます。アンチコメントもかなり付いてて、まだ下がる可能性もありますね」
「……そうかそうか」
ゼウスは窓の外を見ながら、穏やかに呟く。
「それでも、60万人くらいのミューズは残ってくれてるってことだろ?素晴らしいじゃないか。
なんかな、No.1ヒーローって肩書きが外れたらすごく気持ちが軽くなったんだよ」
マネージャーがゼウスのその姿を見て少し涙ぐむ。
「また新たなスタートだね。なんか、2人だけでチャンネルを立ち上げた時のことを思い出すじゃないか。それに……」
トントン、とゼウスの病室の扉がノックされる。
「……ゼウスさん、目覚めたっすかー?」
扉を開け、ひょっこりと顔を出したのはカエデだった。
「……Maple、ちゃん……」
「お、目、覚めたんすね! よかったよかった。はいこれ、お見舞いのフルーツ。早く元気になってくださいね!」
ゼウスを助けた時のような、満面の笑みを向けるカエデ。
「君が……助けてくれたんだよね。君が受け止めてくれなければ、僕は……」
「やー、そんなそんな。ヒーローとして当然のことをしたまでっすから!」
「今日は……僕のお見舞いに…?」
「あ、気にしないでください!今日は師匠の腰の湿布をもらいに病院に来たついでっすから!
師匠にもゼウスさんの病室に顔を出すよう言われましたし!」
「し、湿布?」
「そーなんすよ、師匠ったら奥義の連発でぎっくり腰になっちゃって!おじいちゃんなんで治りが遅くて困っちゃいます!」
「そ、そうなんだ……」
「じゃ、失礼します!早く退院できるといいですね、次の動画楽しみにしてます!」
カエデはそこまで言うと、嵐のように去っていった。
静まり返った病室で、ゼウスが小さくため息をつく。
「僕は入院、侍はぎっくり腰で湿布を貼るだけ、か。………完敗だな」
「ボス、気にしないで。まずはしっかり体を治しましょう」
マネージャーはそう言うが、ゼウスはそんな言葉も耳に入らない様子で、頬をうっすらと赤らめ、何かに魂を奪われたような目でカエデが出ていった扉を見つめていた。
「……ねぇ、マネージャー。Mapleちゃんって……何が好きなのかなぁ……」
「…………はぁ?」
「見つけたかも知れない……僕のヘラを」
「……………ボス?」
かつてのNo.1ヒーローの完全なる陥落。
マネージャーの呆れ顔をよそに、ゼウスの頭の中はカエデのことで一杯になっていた。
一方、ホテルに帰ったカエデ。眠る時にもベッドを使わなかった剣一郎が、苦悶の表情でベッドに寝ていた。
「おぉ、湿布をもらってきてくれたか。ありがとう」
「師匠、まだ辛そうですねぇ……」
「だいぶよくはなったがな。若い頃はもっと奥義を連発できたが、歳はとりたくないわい……」
「それでもあの強さっすからね、さすがっす。弱ってる師匠が見られるってのもレアで、ちょっと嬉しいっすよ」
「こいつめ……ちょっと、そのテーブルの煙管を取ってくれるか」
「ダメです、腰を治してる間は煙管禁止っす。これを機会に、止めたらどうっすか?」
「か、カエデ………」
しょんぼりする剣一郎。それを見て、ニヤニヤするカエデ。部屋の中に弛緩した空気が流れる。
「ま、今はゆっくり治してくださいよ。ゼウスさんとの対決動画の再生数もスパチャも上々で、しばらく余裕あるっすから。
治ったら次はどこに向かいましょうかね?」
「……刀じゃ」
「刀?あ、そうか、打刀が折れちゃったんだ…」
剣一郎が腰をさすりながら言う。
「脇差じゃ奥義の威力もいいとこ8割ってとこだからな。やはりしっかりした本差を新調したい。
大戦期から頼んどる刀鍛冶のジジイがいてな、性格は悪いが腕は確かじゃ。次はそやつの所に向かいたい」
「おおぉ!刀鍛冶編っすね、すごい!大人気マンガみたいじゃないっすか!激アツっす!!」
「……マンガ?」
「あ、いやいや、なんでもないっす!そうっすね、腰が治ったら即出発しましょう!その鍛冶屋さん、検索したら出てきますかね?」
「いや、どうだろうな。ヤツもワシと同じくデジタル音痴だと思うぞ……」
場面は変わって、ヒーロー協会本部の会議室。そこは重苦しい空気に支配されていた。
「……まさか、ゼウスがやられるとはな。あれほどサポートしてやったというのに、不甲斐ない」
「あれ以降、Mapleのチャンネル登録者数はうなぎ登りだ。このままでは協会へのヘイトや、ヒーロー不要論が広がりかねないな……」
「何よりマズイのが、スポンサーの間にも動揺が広がっていることだ。もうすでに、何社かのスポンサーが降りると言ってきている」
広報戦略局長が大きくため息をつき、末席に座っている屍を睨みつける。
「……おい、化け物。お前の作戦は失敗だったぞ。どう責任を取るつもりだ?」
そう言われた屍は奥歯をギリギリ鳴らしながら頭を下げる。
「大変申し訳ございません、まさか侍があれほどの強さとは……次の作戦はもっと緻密に……」
「ふん。お前に次があると思っているのか、おめでたいヤツだ。もういい、出ていけ。顔を見るだけで吐き気がする」
局長はアゴで会議室の扉を指し示す。
会議室から出てきた屍は、近くにあるゴミ箱を蹴飛ばしながら叫んだ。
「クソが、下等な人間共め!!おのれ神威剣一郎、このままでは済まさんぞ……!!!」
会議室の中では丁寧に話していたが、ゴミ箱を蹴飛ばして牙を剥き出しにし、荒い息をする屍は、凶暴な妖魔そのものだった。
それからさらに数日。
腰も治り、歩けるようになった剣一郎は、カエデに急かされるように旅に出ていた。
「さぁ、師匠!早く次の街に行くっすよ!
移動しながらまた妖魔を倒して動画を撮って、もっともっとチャンネルを大きくするっす!」
「待て待て、そんな急がんでもいいだろう、急に動くとまだ腰が……」
「次の目的地は刀鍛冶の里っすね!どんな動画が撮れるかな、有名マンガみたいなカッコイイ画が撮れるかな?」
「いや、ただの鍛冶屋で里とかではないが……」
「それにしても、ここ何日かこの辺を歩くとなんか悪寒がするんすよね、なんでだろう……」
カエデと剣一郎が話している所へ、病院の窓から熱視線を送るゼウスがいた。
「はぁ………Mapleちゃん……尊い……」
「……ボス………私も見捨てた方がいいのかな……?」
心底呆れた表情でマネージャーが呟く。
それぞれがそれぞれの思惑を抱えたまま、剣一郎とカエデの旅は続く。
ヒーロー協会と妖魔、そしてゼウス(?)から狙われるようになった2人の旅は、これからどうなっていくのだろうか?
【第1部 毎日更新中】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い」「設定が新しくて引き込まれる」と思っていただけましたら、執筆の大きな励みになりますので、ぜひ以下の応援をお願いします。
・下の「ブックマークに追加」をポチッと!
・下の「評価する」から、星(☆☆☆☆☆)で評価!
皆様の反応が、第2部への執筆、そして世界展開への大きな動力源になります。
次回更新もぜひお楽しみに!




