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黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
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第9話 ソルクティスとモンスター

「中々の大物だねぇ〜。B級でも結構苦戦しそうだ〜」

「特殊能力は無さそうか?」

「見たところは、ね。『INT』も無さそうだし、多分大丈夫でしょ」

「そうか」


 御織みお星恋せいこは、ヨダレをダラダラと垂らしながら御織たちを見る巨大な怪物について、冷静に観察していた。


 こちらを餌としか思っていないかのような怪物の姿は、黎翔れいとがさっき会った怪物より遥かに恐ろしく感じられる。はずなのに.....


 黎翔心は意外にも落ち着き払っていた。禍々しい紫色を浴びる御織と星恋の背が、あまりにも頼もしく見えたから。


 観察を終えたのか、御織は黎翔の方を振り向き、話しかけてきた。


「さ〜て、そんじゃまあ説明しますかね。てことで森さんヨロ!」

「.....お前が説明するのではないのか?」

「アタシ座学嫌いだから。こーゆー説明は森さんの得意分野でしょ?」

「......お前というやつは.....」


 御織は手際よく星恋に面倒事を押し付ける。星恋は面倒くさそうに小さくため息をついた。


「.....黎翔。今からお前に、この世界に蔓延る災禍───『ソルクティス』について軽く教えてやる」


 星恋は、黎翔の方を見ることなく語りかける。

 黎翔は、姿を見られていないことは分かっているが小さく頷き、耳を傾けた。


「あの黒い太陽と紫色の空は、災禍───『ソルクティス』と呼ばれている。原理の説明は面倒だから省くが.....『ソルクティス』が発生すると一定範囲にマナが充満し、異形の怪物───『モンスター』が発生する」


 星恋は、目の前の怪物にいつ抜いたかも分からない刀を向けながらそう言った。


(ソルクティスにモンスター.....一体どういう原理なんやら.....)


 自身の常識では理解出来そうもない情報を与えられ、黎翔は若干混乱する。

 が、極力何も考えたくない派の黎翔は、すぐに思考を放棄して話を聞くことに注力しようと切替える。


「『ソルクティス』を終わらせない限り、モンスターは無限に湧き出る。モンスターは付近の生命体を無差別に襲う性質があるため、とにかく早く『ソルクティス』を終わらせなければならない」

「実際、今まで何回か対応遅れて世界の危機に追い込まれたこともあったらしいよ〜?」


 星恋の真面目な話に、御織が楽しげに割り込む。それを鬱陶しそうに退け、星恋は話を続ける。


「『ソルクティス』を終わらせる方法はただ一つ。『ソルクティス』の根源である、あの黒い太陽を発生させた強力なモンスター、通称『ボスモンスター』を倒すことだ」


 そう言いながら目の前の巨大な怪物を指さす。


(てことは、アイツが『ボスモンスター』.....)


 黎翔は、その話を聞いて妙に合点がいった。


(アイツ絶対さっき会ったモンスターより強そうだし.....その理由が、アイツが普通のモンスターより強い『ボスモンスター』だから、ってんなら納得できるし)


 狩猟生活で研ぎ澄まされた感性は正しかったみたいだな、と少しだけ得意に思う。


「まぁ、大分簡単に説明するならこんなところだ。なにか質問はあるか?」


 星恋は話を終えたらしく、チラリと黎翔の方を見ながらそう聞いてきた。

 黎翔は、ひとつだけ質問を思いつく。


「一つ質問したい」

「なんだ?」

「アイツ.....どうやって倒すつもりなんだ?」


 黎翔はおずおずとそう質問する。


 2人の様子からして、勝算がない訳では無い───というか勝つ気満々なのは明白だった。だが、それでも理解できなかった。


(あんなデカくて強そうなバケモン、どうやって倒すんだ.....?)


 硬そうな表皮、2人の何倍もある巨大な体躯、見ただけで背筋が凍えるような鋭い爪、殺意に満ち溢れた視線。


 どうやっても勝てる気がしない。幾度も猟師として野生動物を狩る父を見てきた黎翔の本能がそう告げていた。


「ふっ、簡単な話だ」


 星恋は、少しだけ笑って話し始める。


「我々は、君達1000年前の人類とは異なる点がある。それは.....日常的にマナを浴びていることだ」

「マナを.....?それが一体何なんだ?」


 黎翔はそれが何を意味するのか計りかね、再度問い直す。


「最初の『ソルクティス』が発生した時.....世界中に『マナ』がばら撒かれた。『マナ』に触れた人間は身体能力が異常発達し、『ステータス』を見ることが出来るようになり、さらに『魔法』を習得したのだ。そのおかげで我々は.....」


 チャキ.....


「恐らくお前の、500倍は強いだろうな」

「ご、500倍?」


 ニヤリと笑ってモンスターの方に向き直り、星恋はそう答えた。

 直後.....


「行くぞ、御織!」

「うい!」


 急に御織に合図を出し、同時に『ボスモンスター』に向かって走り始める。


 星恋は、右手一本で刀を握ったまま、とてつもない速度で『ボス』に向かって走る。対して御織は、その場で手の中に光の塊を生み出す。魔法だ。


「グギョオオオォォォォォッ!!」

「.........っ!!」


 2人が動くのを見るやいなや、『ボス』はその場で大きな雄叫びを上げた。


 反射的に黎翔が耳を塞ぐ中、星恋は怯まず進み続け、御織は笑顔で突っ立っている。


(なんなんだ、コイツら.....)


 とドン引きした黎翔だった。

 そんな黎翔を置き去りに、星恋は既に『ボス』の目の前まで迫っていた。


 片手で握っていた刀に左手を添え、霞の構えに直す。そして.....


「はああぁぁぁぁっ!!」


 走る勢いそのままに、『ボス』の心臓目掛けて刀を突き出した。黎翔が見た感じ、鉄さえも穿つような勢いだと感じた。


 だが.....


 ガキィィィィィン!!


「っ!防がれた!」


 ただ攻撃を喰らうだけの『ボス』ではなく、刀が当たる寸前に腕で心臓を防御した。


 異常に太く大きく発達した腕は、星恋の一撃を喰らってなお傷一つついていなさそうだった。

 さらに.....


「グギョオオオォォォォォッ!!」


 ガバッ!


 その場で腕を振り上げ、防御されて体勢が崩れている星恋に向けて振り下ろさんとしていた。


「危な───」


 黎翔が反射的にそう叫ぼうとした───が、黎翔の心配は無駄に終わることとなる。


 ドカァァァァァン!!


「グギョッ!?」

「愚鈍な奴だ。そのような鈍い攻撃、当たるはずないだろう!」


 星恋は即座にその場から飛び退き、攻撃を回避する。

 空振りした『ボス』の腕は周囲の地面を大きく抉っていた。あれに当たったら.....と想像するだけでも恐ろしい威力だと、黎翔は感じた。


 だが、星恋は怖気づく様子もなく、刀を構えて即座に攻撃を再開する。


「はあぁぁっ!」


 ガキン!


 そしてそれを再び『ボス』が受け止め.....


「グギョオオオォォォッ!」


 ドカァァァァァン!!


 『ボス』が攻撃し、星恋が回避するこれの繰り返し。


(何がしたいんだ?星恋は.....これじゃ体力の無駄だ)


 黎翔は少しだけ不安に感じてしまう。それを察したらしく、御織が黎翔に話しかける。


「心配しなくて大丈夫だよ〜。森さんは今チャージ中なだけだから」

「え、チャージ?」


 急に話しかけられ、黎翔は少しだけビクっとする。


「モンスターって、見た目の通りめちゃんこ硬いの。だから物理的なダメージが通りにくくて、現に森さんの刀でも歯が立たない。でも.....代わりに、マナを介した攻撃にはそんなに強くないんだ」

「そうなのか?」


 黎翔は今更知らされる新事実に驚きつつ、「早く言ってくれよ」と文句を伝える。


「すまんすまん、忘れてた。で、今森さんは『スキル』をチャージしてるんだ。クールタイム待ちって言った方がいいかな?」

「す、スキル」


 またも知らない単語を使われ、黎翔は混乱し始める。


「この辺はまた今度説明するよ。とにかく強い技がもうちょっとで使えるから、それまで時間稼いでる的なイメージでオケ」

「気になるけど.....まぁいいや」


 助かるならそれで、と黎翔は納得し、大人しく見守ることにした。

 その会話をした、すぐ後だった。


「御織!」


『ボス』と戦いながら、星恋が御織の名を呼ぶ。


「お、たまったっぽい。そんじゃいっくよー!」


 合図を確認した御織は、両手を前に突き出す。そして.....


「『重力魔法───グラヴィティア』!」


 楽しげな声で、魔法の発動を告げる。


「ッ!グギョッ!?」


 その瞬間、重力魔法によって『ボス』の動きが停止する。『ボス』は驚いたように声を漏らしていた。


「森さん、やっちゃって〜!」

「分かっている!」


 動きが止まったのを確認し、星恋はその場で大きく飛び上がる。


「見てな黎翔、魔法と並ぶこの世界の神秘を」

「.........!!」


 魔法を発動している御織が、振り向きながらそう言った。黎翔はごくりと唾を飲み込み、結末を眺める。


 飛び上がった星恋は刀を振り上げ、自由落下を始める。その瞬間───


 刀が紅く輝き、揺らめいた。


「『スキル───魔炎刀フレアブレード』!!」


 ズガァァァァァァン!!


「グギョォォォ!!!」


 炎を纏った刀が振り下ろされ、その一太刀によって『ボス』は真っ二つに切り落とされる。

 その一撃の威力は凄まじく、『ボス』を斬った程度では飽き足らず地面まで裂いていた。長く伸びた裂け目が、『スキル』の強力さを物語っている。


「グ、グガ.....」


 ズシン.....


 真っ二つに斬られた『ボス』は、そのまま2つに別れて両側に倒れる。その巨体が倒れたことにより、少しだけ辺りが揺れた。

 そして......


 パァ──────


「!晴れた.....」


 紫色の太陽が消え、本物の太陽によって辺りが照らされる。

 その陽光が、『ソルクティス』の終焉を告げた。

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