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黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
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第8話 紫色の空

「.......!?」


 女性は鋭い眼光を黎翔に浴びせながらそう問うた。

 黎翔は、突然飛んできた謎の質問に困惑する。


「え、いや、えっと.....」


 まずあなたは誰ですか?とか、どういう意図の質問なんですか?とか、色々聞きたいことがあったせいで、逆に言葉に詰まる。すると、


「ちょっと森さん!自己紹介が先でしょ!」


 御織が先にそう言ってくれたおかげで、なんとか場が凍りつかずにすんだ。


「ふむ、それもそうか。では、自己紹介させてもらおうか」


 女性はピシッと姿勢を整え、黎翔に身体を向ける。


「本官は『水仙騎士団』筆頭騎士兼第五部隊教官、森星恋(もりせいこ)であります。以後、お見知りおきを」


 彼女は、スラスラとそう述べた。端的かつ分かりやすいその説明からして、彼女は無駄を嫌う性格なのだろうと推測できた。御織のような楽観主義的方向性ではなく、効率主義的という意味で。


 まぁ、『水仙騎士団』が何か知らない黎翔にとっては不十分な自己紹介だと言えるが。


「俺は蒼井黎翔です。よろしくお願いします」


 黎翔も、端的に自身の名前を伝えつつ、頭を下げる。


 丁寧かつ誠意ある対応をされた以上、黎翔側も同等の誠意を返さねばならない。それが蒼井流の対人方針である。


「よろしく、黎翔。さて、それでは先の質問の続きといこうか」


 軽く挨拶したのち、彼女は即座に話を戻そうとした。やはり効率主義者のようだ。


「お前はこの国のために命を懸けられるか?」


 もう一度、同じ質問をされる。

 黎翔は少しだけ答えを考えた。


(この国のために、か.....どうだろうな。知らない場所だし、懸ける意味も義理もないな)


 理性的に考えれば、それが間違いのない答えだ。そう判断し、返答しようとした時.....


(.....いや、違う。それじゃダメだ)


 黎翔は一つだけ、懸ける理由があることに気づいた。すぐさま回答を考え直し、修正した回答を伝える。


「.....俺はこの国になんの義理もない。命を懸けようとも思えないな」


 素直にそう告げる。彼女は、短くはぁ、とため息をついた。

 それを遮るように、黎翔は回答の続きを話す。


「でも、俺は御織にならば命を懸けられる」

「うぇっ?アタシ??」


 黎翔の答えを聞いた御織は、気の抜けた反応を漏らす。


(コイツ、ずっと話聞いてなかったな.....)


 と内心イラッとしつつも、それを表には出さない。


「.....分からんな」


 緑髪の女性───星恋は、黎翔の回答を聞いて訝しげな表情をつくる。


「この世界に命を懸けられないのは分かる。が、御織も先程会ったばかりの他人だろう。なぜそう断言できるのだ?」

「そうだよ!なんでアタシなわけ?」


 本気で理解できないといった様子の星恋に、御織も追随する。


「簡単だよ。俺はさっき御織に命を助けられた上、アンタの仲間からも守ってくれた。だから、御織は俺が命を懸けて守らなきゃいけない相手なんだよ」


 黎翔は「当然だろ?」と言わんばかりに薄ら笑みを浮かべながらそう言った。


「いや、お前は相当理不尽な目に遭っているのだぞ?無理やり召喚されて、殺されかけて、襲われて。それを強者が助けるのは当然なのでは.....」


 星恋の方は、困惑顔で再びそう問う。が、黎翔は一ミリも態度を変えることなく、ノータイムで返答する。


「関係ないね。御織が俺の恩人である事実は変わらないからな。それに.....俺が御織より弱いことは、俺が借りパクしていい理由にはならない」


 借りた礼は必ず返す。相手を尊重し、敬愛する。それが命の遣り取りならば尚更だ。


 それが人として当然のことだ───父からいつも聞かされていた言葉だった。黎翔の中に浸透し深く根付いている、黎翔の執念にも近いその感性は、何人足りとも引き剥がすことはできないだろう。


「.....ふ、そうか」


 黎翔の回答を聞いて、星恋は満足気に笑った。


「お前ぇ〜〜〜っ!いい奴だな、黎翔!」


 ガバッ!


「うわぁぁぁっ!?」


 黎翔の話を聞いた御織は、黎翔に向かって走り出し、そのまま突っ込んで抱きつく。


「はっ.....ぁ.....」

「アタシを守るなんていい度胸じゃないか!にははっ!」


 美少女に抱きつかれ意識が飛びかけの黎翔を無視し、御織は楽しそうに黎翔に伝える。

 その二人に、星恋もゆっくりと近づく。


「黎翔。お前の心意気、私も気に入った。素直で礼儀もあり、崇高でありながら身の丈にあった理念を持つ冷静さもある。合格だ」

「ふぇ.....?」


 朦朧とする意識の中、褒められていることだけは理解する。


「私から、お前の立場について考え直してもらえないか頼んでみよう。そのためにも一度本部に来てもらいたいんだが───」


 星恋がそこまで言った、その時だった。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン.....


「「っ!?」」


 どこかから、鐘のような音が鳴り響く。

 

 その音に、黎翔は直感的に不気味な気配を感じとった。


「.....森さ〜ん?こんなタイミングで()()なんて、アタシ聞いてないんだけど?」

「私も聞いてないから知らん。自分で考えろ」


 御織と星恋は心当たりがあるらしく、二人で顔を合わせてそう話していた。


「なぁ、この音なんなんだ?」

「.....そうだな、もう少し見てたら分かるよ」


 黎翔の質問に、御織がそう答える。

 嫌な予感を感じる中、黙って見守っていると───


 ヴ.....ギギギギギ.....

 ブワッ!!!


「っ!?」


 一瞬、空気が大きく軋むような音が聞こえ───次の瞬間、突然太陽が紫色に染まる。


 さっきまで放たれていた眩い陽光は跡形もなく消え去り、紫色の禍々しい光が空と地上を呑み込む。


(......!!この光景は......)


 その瞬間、黎翔はようやく違和感に気づいた。


 さっき目が覚めた時、黎翔は「眩しい」と感じた。その理由は.....


 黎翔が気を失うその瞬間まで、世界は紫色だったからだ。まさに.....今目の前に広がる、この光景のように。


(なんで!?さっきまで普通の空だったのに.....なんでまた紫色に!?ていうか、なんでさっきは普通の空だったんだ?)


 黎翔の脳内を疑問が埋め尽くす。突如与えられた大量の情報を処理しきれなくなる。が.....


「黎翔!」

「っ!?」


 御織に大声で名前を呼ばれ、我に返る。

 黎翔が声の方を見ると、さっきまでくっついていたはずの御織が、いつの間にか少し離れた場所で星恋と共に立っていた。


「これより、チュートリアル・延長講義編を始めます。この世界で生き残る上で絶対知ってもらわなくちゃいけない内容だから、絶対遅れないように」

「え、急に!?」


 さっき終わったはずのチュートリアルの再開に、黎翔は大いに焦る。が.....

 次の瞬間、その焦りすらも奪われることとなる。


「グギョォォォォォォォッ!!」

「.......っ!!」

「来たね」


 大地裂くような野太い声が鳴り響く。その声を聞いた瞬間......

 黎翔の全身を恐怖が駆け巡る。


「今の、声.......」


 黎翔の脳内に浮かぶ。この世界に来てすぐ出会い、黎翔を死の間際まで追いやった.....

 あの、怪物の姿を。


 無意識に、御織たちの方を見る。すると、


「御織、等級は?」

「D.....いや、Cかも。割とデカいのが一匹だけだね、取り巻きはナシ。一番楽なヤツだ」

「承知した」


 御織と星恋は冷静にそう話し、準備運動を開始していた。


(倒す気なのか?まさか.....)


 いくら何でも無謀だ、と思い、質問しようとする。


「おい、2人ともなにして───」

「黎翔。これからキミに、1000年前と今との一番大きな違いを教えてあげる」

「は─────」


 黎翔が言葉を紡ぐ前に、御織が話を被せる。

 その言葉の意味を理解しかね、再び質問しようとしたその時───


 ドカァァァァァァン!!


 天から、巨大な物体が落ちてくるのが見えた。


 落下の衝撃で地面が抉れ、砂埃が舞う。

 砂埃の間から薄らと、何かの影が見えた。その薄い影ひとつで、黎翔は落下物の正体を理解する。


(───アイツだ。怪物だ。しかも、さっきのよりずっとデカい)


 パッと見3倍近くのサイズ感の怪物を目にし、全身が震え始める。


 ───そんな黎翔を尻目に、二人の女性が怪物の前に立ち塞がる。


「おいっ!やめろ、死ぬぞ───」


 という黎翔の忠告に被せるように、二人は黎翔の方を振り返りながら声を発する。


「「アタシ/私 に任せ ろっ☆/るがいい」」


 その頼りがいのある声と態度に、黎翔は少しだけ冷静さを取り戻せた。


「チュートリアル、番外編。この世界が抱えるある種の癌の話。1000年前には存在しなかった、最悪の災禍───『ソルクティス』と、『モンスター』について.....」

「講義開始と行こうか」

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