第72話 天才たちの連撃演舞
その2人は、それぞれ別の道の才能を持っていた。
捨て子だった2人は、とある男に拾われ、育てられ、努力し、その才能を開花させた。小学校、中学校、高校。全ての課程において優秀な成績を収め続け、特に戦いの才能は常にトップだった。
その才能が認められて蕾種大学四葉組に進学してからも、2人はやはり天才だった。最上位の生徒達には及ばぬものの、常にクラスの上位をキープし続けた。
実際の『ソルクティス』攻略にも貢献し、一般人からもそこそこ認知されていった。
そして、いつからか2人には通り名がついていた。
『氷妃』虹崎妃。魔法系ステータスに恵まれた彼女は、大学生でありながら上位職『魔導師』を獲得した。そのステータスと優秀な『スキル』によって無数の氷柱を操る、氷の女王。
『土竜の刃』桐生紀章。勇者候補に名を連ねる実力者。未だ職業を持たないため、ステータスと『スキル』で圧倒的なディスアドバンテージを負っている。にも関わらず、高い『魔力操作』の技術と国内最高峰の剣技を会得しており、『魔導師』である妃をも凌ぐ戦闘能力を持つ。
そんな2人の連携力は、国内随一とまで呼ばれている。基本的に個人か小隊単位での戦闘が主にも関わらず、たった2人で各ポジションの役割を果たしつつ連携を取るその技量は、唯一無二なのだ。
そんな天才2人の完璧な連携攻撃が今、『ボス』に襲いかかろうとしていた。
「行くよ!『氷結魔法・フリージア』!!」
妃は、自身の周囲に5つの魔法陣を召喚する。そして、その中心から生成された氷柱を『ボス』に向けて放つ。
「コイツを防ぎきれるか楽しみだなァ!!」
同時に、紀章も『ボス』に向かって切りかかった。霞の構えのまま、一気に距離を詰めた。
「ギィ……!!」
それに対して、『ボス』は上段を解除して中段に戻した。防御を優先する気のようだ。
最初に警戒したのは紀章の斬撃。振り始めるギリギリまで互いに動きを見せなかったが、紀章が間合いに入って僅かに剣先を挙げた瞬間に『ボス』も動いた。紀章の狙いを看破したのだ。
紀章は、わざと分かりやすく刀を振り上げて面を狙うフリをした。が、真の狙いは、面を防御しようと手元を上げた瞬間の小手だった。
大きく刀を振り上げた紀章は、その瞬間に踏み込みながら足をピタリと止めた。そして、『ボス』が面を防御しようと手をわずかに上げた瞬間に、少しだけ刀に角度をつけて斜めに振り下ろした。
それを読んでいた『ボス』は、上げかけた手を再び中段辺りまで下ろした。同時に、素早く手首を返した。
ガキン、と金属同士がぶつかったような音が鳴った。それは、『ボス』の刀が紀章の刀を叩いた音だった。
紀章の刀の剣先が、地面近くまで叩き落とされる。軽い手首の返しだけでここまでのパワーを生み出せることに、紀章は驚きを通り越して乾いた笑いが零れた。
これは、完璧な相小手面の入りだ。相手の小手を自身の小手で潰し、そのままの勢いで相手の面を捉える。剣道の駆け引きの軸となる技の一つだ。
本来であれば、紀章の死は確定したようなもの。刀を叩かれて無防備な紀章にできることなど、自身の頭がかち割られるのを待つ以外にないからだ。
だが……仮にこのまま攻撃に転じた場合、死ぬのは『ボス』の方だった。
「………!!」
それを理解している『ボス』は、すぐさま一歩後ろへ退く。直後———元いた場所を5本の氷柱が抉った。
「チッ、相変わらず勘のいいヤツだなァ、オイ」
うんざりしたようにため息をつく。
今の雑な小手は、相手を誘導するためのもの。自身がヘイトを買うことで、本命の妃の魔法への注意を削いで確実に当てる作戦だった。
「まぁ続けてればいつかは当たるよ」
「だなァ。長引かせたかァねェーし、全力で行くかァ」
「お、いつものやっちゃう?」
「あァ。ちゃんと合わせろよォ?」
「りょうかい!」
短い会話の後、2人は再び攻撃準備に移る。
今回も、先陣を切るのは当然紀章だ。
だが、今度は真正面から切りかかった。飛び込むように面を狙い、それを『ボス』が受ける。それによって、紀章が今最も恐れなければならない、鍔迫り合いになってしまう。
にも関わらず……紀章は、なぜか笑っていた。
「さァ、行くぜェ?終わりのない追撃の嵐を全身で味わえェ!!」
紀章がそういった瞬間———背後から、氷柱の嵐が再び到来する。
だが、それは悪手と言わざるを得なかった。紀章が密着している今、『ボス』を狙った氷柱は紀章にも確実に命中してしまう。
それを確信して、『ボス』は紀章を押す力を更に強めた。紀章が簡単には抜け出せないように。
そして———それもまた、致命的な悪手であった。
突然紀章が、がくりと姿勢を落とした。本来であれば、鍔迫り合いの最中にそんな真似して危険なのは紀章であり、剣道だったらこのまま止めがかけられる、最悪引き面で一本取られるところまで見える。
が、これは剣道ではない。何でもありの殺し合いだ。
姿勢を落とした瞬間、鍔迫り合いで自身にかけられている『ボス』の荷重から抜け出した。ほんの一瞬、紀章だけが自由になったのだ。
その一瞬で、紀章はふわりと空中に飛び上がった。そして、『ボス』からの距離を僅かに離した。
氷柱は、真っすぐに『ボス』に向かって飛翔した。
回避する必要はないと割り切っていた『ボス』は、突然の事態に対処しきれなかった。5本中3本が、肩や脇腹に命中した。
「グッ……!!」
「ハハッ、引っかかったなァ!」
苦しそうに呻く『ボス』を煽るように、紀章は笑う。
魔法、とりわけ想像したマナ物質を発射する系統のものは、魔法を発動する瞬間に軌道を決定する。発動・発射後は原則として軌道を変えることができない。
即ち、仮に今紀章が回避し損ねた場合、紀章は『ボス』諸共死ぬのだ。それを理解して尚妃は容赦なく魔法を放つ。紀章も、妃が躊躇なく攻撃してくれると信じているから、魔法の軌道を直に見なくても回避できる。
2人の天才は、互いを信頼している。だから、2人は2人で連携して戦える。
紀章は、すぐに追撃に移った。辛うじてその攻撃は防御され、また鍔迫り合いになる。そして、再び氷柱が飛来する。
休む間もなく次の攻撃に移られたせいで、『ボス』の脳は混乱したままだった。激しい動揺のなか、紀章は再びひらりと宙を舞って氷柱を回避する。
『ボス』も回避しようと思考したものの間に合わず、右腕に掠った。
「まだまだ行くぜェ!!」
紀章は、魔法に当たって僅かに集中力が途切れた『ボス』に再び切りかかった。当然『ボス』は防御するが、またも鍔迫り合いに発展する。
後ろから、またも氷柱が襲い掛かる。そしてそれをその場で回避しようとするも、5本全てをかわし切ることはできず掠める。この動作が、繰り返される。
それは、端から見たらまるで舞のようだった。紀章は妃の魔法が当たらないようにひらひらと回避しながら刀を振るい、妃は蒼く輝く氷塊を散らし続け、そしてその完璧な連携に翻弄され、てんてこ舞い状態になる『ボス』。
蟻地獄に近いそのトラップは、着実に『ボス』を削っていった。少しずつ、確実に。
その洗練された狩りを見て、黎翔は目を輝かせていた。
「すげぇ……これが『四葉組』3位と4位の連携……!!」
憧れと感動が、口から洩れる。だが、子供のようにはしゃぐ無邪気な心のうちには、少し違った感情もあった。
「……というか、そうか。俺が戦ってるときに妃が魔法を使わなかったのは、俺が邪魔だったからなのか。俺が妃の魔法の軌道上にいたから……なのに、妃を責めちまった。ははっ、俺はまだまだ弱いな……」
紀章の完璧な動きを見て気づいたその事実は、黎翔に心に若干の罪悪感と悔しさを生んだ。
「……取り返したい」
こうした複雑な感情の中から芽生えた意思は、ふつふつと煮えたぎっていた。負けず嫌いな側面が現れ、若干ムキになっていた。
「もう傷は治った。立てるし走れるし、ナイフも握れる」
ゆっくり立ち上がって、近くに落ちていたナイフを拾う。そして、ぐいーっと背伸びした。
「ここからは、俺も役に立って見せるちゃんと連携してみせる……!!」
そう参戦を決意して、華麗な舞の方へ走り出す。
その瞬間———突如、『ボス』の行動パターンが大きく変化した。
「グギョオオオオオオオオッ!!!」
「「っ!?」」
巨大な咆哮と同時に、その場で大きく刀を振るう。その強引なまでの動きに、紀章は距離を取らざるを得なかった。
退いた紀章のもとに、黎翔と妃が駆け寄る。紀章は黎翔をチラリと見て、少し心配そうに話しかけた。
「黎翔ォ、もう動けンだなァ?」
「ああ、こっからは俺も———」
そこまで言いかけた時———
突如、『ボス』が地面に刀をたたきつけるように振るった。
ズドン、という轟音が、揺れと同時に響く。それによって地面は大きくひび割れ、コンクリートの破片が辺りに飛び散る。
「な、何をする気だ!?」
「分からない、けど……」
「ヤバそうッてのだけはァー分かるなァ……!!」
状況を掴めずにいる3人に対し———
『ボス』の剛力が、再び牙を剥く。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.21
POW:1757+50 DEX:1532 DEF:1168
INT:0 MP:0 RES:0 Total:4458
武器:猟刃……マナ属性 特殊効果なし
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』アクティブ化 1213s
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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