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第69話 虹崎妃の猛攻

「16、17……」


 妃のカウントが半分を回ってすぐ、『ボス』の刀は完全に生成された。


「18、19———」


 生成したての刀を右手でしっかり握り、その刃を品定めするように眺める。


 その様子は、余裕に満ちていた。あと10秒で『ボス』にとって致命的であろう紀章の秘策が発動する———あと10秒ということを本当に理解しているかは知らないが———タイミングとは思えないほどに、ゆっくり準備していた。


 その様子に、黎翔は言い得ぬ恐怖を感じた。得体の知れない不気味さに最大級の警戒心を抱き、身構える。


(残り10秒、どう攻めてこようと止めて見せる……!!)


 悪夢の30秒、それを締めくくる最後の戦いは———


「———20」


 3分の2のカウントと共に、幕を開けた。


 まるで黎翔に興味なしと言わんばかりの態度だった『ボス』は、突然黎翔に視線を向けた。さっきまでより一層強い殺意と共に。


(っ、来る……!)


 黎翔の勘が全力で警鐘を鳴らしてきた。悪寒が駆け巡り、鳥肌が一斉に発露する。


 黎翔の視界の先、15m離れた位置で、『ボス』は……

 刀を握ったままの右腕を、胸を隠すように身体を右に捻りながら真上に振り上げた。更に、左膝を大きく踏み出し、踏み込みながら右腕を振り下ろした。肩、肘、手首と滑らかに。

 残像が残る程の速度で右腕が振り下ろされ、手首が返された瞬間───『ボス』の手から、刀が放たれた。


(は───っ!?)


 近接戦を想定していた黎翔は、突然の遠距離攻撃に動揺してしまった。一瞬反応が遅れたのだ。


 慌てて飛んでくる刀を弾こうとして、ナイフを振った。

 が、反射に近い形だったその一振りには、全くと言っていい程力がこもっていなかった。そのため、刀とナイフがぶつかった瞬間、『ボス』の全力が込められた刀の勢いを受け止めきれずにナイフは遥か後方に吹き飛ばされてしまった。更に、黎翔は大きくバランスを崩し、後ろに2歩よろけてしまった。


「21」


 たった1カウントのうちに、黎翔の防御は完全に崩壊させられた。そして、


「22」


 次のカウントのタイミングで『ボス』は黎翔に急接近、間合いを詰め切った。


(ヤバいっ!?)


 体勢を崩していた黎翔は、次の攻撃を悠長に分析している暇がなくなってしまった。攻撃される前に何とか踏ん張って立て直したものの、攻撃を受ける準備は出来ていない。


 構えを見て攻撃箇所を分析している暇は無いため、体勢を立て直すと同時に黎翔は心臓部をガードすることにした。胸の前で両腕を交差させ、全力で力を込め、速度の乗った初撃を全身で警戒した。


(クソッ、もう回避は間に合わねぇ。受けるしかねぇけど……狙いがどこかも分からないこの状況で、的確に攻撃部位を防御出来るかは運次第……!!)


 ストレートも、アッパーも、最悪蹴りでも。

 相手のPOWは高いが、素手での攻撃ならガード出来れば致命傷は避けられる。攻撃が来るまでの僅かな時間の間では、それぐらいしか思考出来なかった。


 目の前に迫った無手の『ボス』、その右手は黎翔の胸元へと伸び───


「23」


 そのカウントと同時に、ガードの僅かな隙間から、胸ぐらをがっちりと掴んだ。


「な───」


 予測していた攻撃手段とかけ離れたその行動に、黎翔の思考は動揺で停止してしまった。


 そんな無抵抗の黎翔の身体を、『ボス』は軽々と引っ張った。身体を捻りつつ右腕を黎翔ごと後ろに持っていき、黎翔を振り回した。


「ぐうぅ……っ!!」


 黎翔の身体は宙を舞い、強い負荷がかけられた。が、振り落とされないように『ボス』の右腕になんとかしがみつき、辛うじて投げ飛ばされずにすんだ。


「24」

「ギィッ……」


 だが、『ボス』の攻撃はまだ終わっていなかった。

 今の動作は、ただ助走をつけるための前準備に過ぎない。本番はここからだ。


 捻った上半身を正面に戻すと同時に、黎翔ごと右腕を全力で振った。刀を投げた時のような上からではなく、地面とほぼ水平の向き───サイドスローだ。


「うおおおぉぉぉぉっ!?」


 サイドスローの遠心力によって、黎翔の身体には大量の運動エネルギーが加わった。


 腕を180度回し、手首を返した瞬間───『ボス』は、黎翔の胸ぐらから手を離した。そう、リリースしたのだ。


 とてつもない運動エネルギーを帯びていた黎翔は、リリースされた瞬間の勢いに耐えきれなかった。『ボス』の腕を掴んでいた両手を、放してしまった。


 そうなれば、行き着く先は必定。吹っ飛ぶだけだ。


「クソッ………!!」


 空中に投げ出された黎翔に、出来ることはなかった。紀章の真横スレスレを通り、妃の遥か後方まで吹き飛ばされ……


 屋上の端の端、落下防止の柵に激突。鉄で出来た柵が大きく歪む程の勢いでぶつかり、埋まり、ようやく停止した。


「がっ」


 背中からモロにぶつかり、嗚咽と血液が漏れる。推進力と脊椎のコントロールを失った黎翔は、そのまま地面に落下して倒れた。


「───25」


 5秒。たった5秒で、先の20秒を無傷で稼いだ黎翔の防御は破壊された。


(クソッ、マズった……!!まさか投げとは……)


 揺らぐ視界で、辛うじて『ボス』と紀章たちを見ながら、後悔する。


(身体が痺れて動けねぇ……あと、あとまだ5秒もあるのに……!!)


 モヤがかかったようなぼんやりした意識の中、必死に思考を回転させた。だが、ピクリとも動かない身体に出来ることはなく、ただ現実を悔いることしか出来なかった。


 残り5秒を、妃一人で───魔法職一人で裁くなど、到底不可能だ。

 万事休す。そう思った。


「ギィッ!!」


 現に、次のカウントがなされるより早く、『ボス』の右腕が紀章に伸ばされていた。

 手の中の泥は、既に8割方形を成している。しかし、まだ完成はしていないため、紀章は動くことが出来ない。


(考えろ、考えろ……!動け、動け動け動け!!!)


 黎翔は、必死に命令した。何度も命令し続けた。それでも、身体は動かなかった。

 『ボス』の右腕は紀章の眉間まで残り1mまで迫り、もう手遅れな段階まで進んでしまった。どのみち今動けても、間に合わない。


(クソオォォォォォッ!!)


 心の中で絶叫し、地面を全力で叩いた。動かない腕では、悔いを表現することすら出来ないから。


 『ボス』の剛腕は、紀章の顔面を吹き飛ばす程の勢いで振るわれ───


 紀章の顔面に命中する前に、ピタリと停止した。


「ギ……ッ?」


 『ボス』は、不思議そうな表情をしていた。何故紀章に拳が当たらなかったのか分からない、そんな表情だった。


(え……?)


 黎翔も、同じような表情をしていた。

 だが、黎翔が不可思議を感じた理由は、少しだけ別だった。なぜなら、黎翔は『ボス』の腕が止まった理由が分かっているから。


 紀章の目の前に立つ『ボス』、その右腕に……


 地面に輝く水色の魔法陣。その中心から生えた歪な形をした巨大な氷柱が、突き刺さっていたのだ。

 突き刺さった部位からは、紫色の液体が滴り落ちていた。貫通まではしていなかったが、あの剛力を持つ『ボス』のストレートを止めた以上、相当な硬度であることは疑いようがなかった。


「26」


 あれを出現させた人間は、考えるまでもなく分かっている。今なお冷静にカウントを刻んでいる、妃だ。

 黎翔が驚いた理由は、氷の出現が突然だったからだ。今まで黎翔が戦っている間一度も参戦しなかった妃が、突如無詠唱で魔法を発動した。その事実に驚いていた。


「ギィッ……!!」


 『ボス』は、少し焦ったように右腕に力をいれていた。だが、何度力を入れても氷はビクともしなかった。


(なんつう硬度だ……いや、魔法で作られたからモンスターの『ボス』には割れないって感じなのか?どっちにしろ、『ボス』の動きを封じ込めた……!!)


 黎翔には出来ない魔法という必殺技に、目を見開いて驚いた。

 だが、妃の攻撃はこれで終わりではない。


「27……」


 妃は、そのカウントと同時に背後に3つの魔法陣を召喚した。

 水色に輝くそれからは、0.5秒程の短い間を置いた後、再び氷柱が生成された。


「ギッ……!!」


 危機感を覚えた『ボス』は、左手で氷柱を攻撃した。

 1回目でヒビを入れ、2回目で完全に破壊した。ようやく右手が解放されたのだ。


 紀章との距離は変わらず1m程。妨害しようと思えば一秒も必要ないだろう。


「28!」


 しかし、妃がそれを許さない。


 『ボス』が氷柱を割ると同時に、次のカウントへと進んだ。更に、そのタイミングで妃は右腕を前に突き出し、『ボス』の方を指さした。


 その瞬間、魔法陣から生み出された3本の氷柱が、『ボス』めがけて急発進した。その速度は、『ボス』の拳を遥かに上回る速度だった。


 一瞬にして迫った氷柱たちを、『ボス』は回避することしか出来なかった。魔法攻撃に弱いというモンスター最大の弱点が、ここにきて顕著に響いていた。


 3方向から同時に向けられた氷柱を回避するため、『ボス』は後ろに下がらざるを得なかった。すぐさま飛び退くことでギリギリ回避したものの、再び紀章との間に距離が生まれた。

 回避された氷柱のうち2本は地面にぶつかって砕け散り、残り1本は『ボス』の後方へ飛んでいった。


(速い……モール内で使った魔法よりも、更に速い。もしかしたら別の魔法なのか……?)


 先の共闘を思い出し、戦慄する。これほどの力を持ちながら、ここまで温存して隠し続けていた妃の胆力に。


「29……!!」


 あと1秒。ついに、紀章の秘策が───『ボス』にとって致命的となる何かが、完成する。


 紀章の手の中で完成されようとする何かを見て、『ボス』は全身を恐怖に駆り立てられた。何としても紀章に攻撃を加えなければ、という一心で動いた。


 今までの速度であれば、一秒で詰め切れない程の距離。それを、『ボス』は一気に詰め切った。


(っ!?速ぇ、今までより遥かに……!!アイツ、防御無視で紀章を攻撃する気か!?)


 黎翔は、その時初めて『ボス』が今まで様子見しながら動いていたことを理解した。黎翔のカウンターと妃の攻撃、両方を警戒していたため少し速度が落ちていたのだ、と。

 だから、その警戒心を捨てた『ボス』は、今までより速く動いたのだ。残り一秒、ギリギリ滑り込める程に。


(ヤバい、間に合う……!!)


 『ボス』は、紀章の手元で輝く完成目前の泥に向けて手を伸ばした。

 0.1秒の世界わ間に合うか間に合わないかの瀬戸際。その境界線で、勝敗を決したのは───


 どこからともなく現れ、『ボス』の右腕を貫通した氷柱だった。


「ギッ!?」


 突然現れた氷柱は、泥の塊に迫る『ボス』の右腕を真下から貫いた。だが、今回の氷は魔法陣から出現した訳では無い。どこからか飛んできたのだ。


(今の……まさか、さっきの3本のうちの1本か!?)


 あの3本のうち、1本は『ボス』の背後に飛んで行った。それを動かせたのであれば、今の氷の挙動にも合点がいく。


 何はともあれ、今回の氷柱は最初の地面から生えたものと違い、浮いているため『ボス』の腕を固定することは出来ない。『ボス』の拳の軌道を、泥と紀章の顔よりも上に逸らした程度だ。


 結局のところ、紀章と『ボス』との距離はほぼゼロに近い。なんなら、もう0.2秒後には『ボス』の身体が紀章にぶつかるだろう。


 だが、その0.2秒で結果は分かたれた。


「───30」


 『ボス』が紀章にぶつかるよりも早く……最後の1カウントが刻まれた。




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蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.21

POW:1757+50 DEX:1532 DEF:1168

INT:0 MP:0 RES:0  Total:4458

武器:猟刃……マナ属性 特殊効果なし

職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』アクティブ化 1461s

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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