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第68話 剛力の一太刀VS最速の攻撃

あまりにも遅くなりました。その割に作中では20秒しか進んでません。本当に申し訳ない。

「頼んだぜ黎翔ォ!」

「なんかよう分からんけど……任せろ!」

「私もサポートする!」


 紀章の指示を受けてすぐに、妃は紀章の真後ろに駆け寄り、黎翔は紀章と5m程度距離を空けて正面に立った。紀章の周囲360°を二人で死守する構えだ。


(妃は……というか、魔法タイプは近距離が苦手なはず。俺が妃より広い範囲を守らねーと……!)


 正面に佇むその達人に全意識を集中させる。いつ、どこから攻撃が来ても守れるように。


「行くぞォ!『汚泥魔法・スラッジア』!!」


 紀章は、両手を突き出しながら黎翔の後ろでそう唱えた。

 直後、茶色く輝く魔法陣が紀章の足元に出現した。2秒程の間を空けた後、魔法陣がより一層強い光を放った。そして、魔法陣の中から、一塊の茶色い物体が出現した。


「っ!?お前、魔法使えるのか!?」

「当たりェーだァ!使えねェー奴のが少数だッつーの!ンな事より、今集中してッから絶対ぜってェー話しかけてくんなよォ!」

「お、おう」


 半ギレでそう言われ、少し申し訳ない気持ちになった。そのため、黙って紀章の作戦を考えることにした。


(あの茶色いの……泥か?あれを使って攻撃するってことか?でも、なら30秒も要らなくないか……?)


 そう思いつつ、紀章の出方を待つ。

 魔法陣から出現した泥の塊は、紀章の胸の辺りまで浮かび上がってきた。紀章は、その泥の塊に向かって両手のひらを翳した。


 その瞬間……紀章の両手と泥の塊が、黄金色に輝きはじめた。


(っ!?なんだ、これ……?)


 黎翔には、この状況を見ても何が行われようとしているか理解出来なかった。ただ、辺りの雰囲気が僅かに変わったことを感じ取れる程度だった。

 だが……


「………ッ!!」


 マナへの理解度が高く、感覚も鋭い『ボス』は、すぐに悟った。


 紀章を───魔法の行使者を殺さねばならない、と。


(っ!?ヤバい、めちゃくちゃヤバい気がする……!!)


 危機感に駆られて紀章を殺しにかかった『ボス』は、一気に殺気立っていた。強烈な殺意とともに全身に力が籠ったことを、黎翔は感じ取った。


(落ち着け、冷静に観察するんだ。そして、感じ取れ……アイツが、どこを狙っているのかを!)


 右手のナイフを強く握り締め、全神経を極限まで研ぎ澄ませた。


「虹崎ィ!」

「了解!カウントスタート!!」


 紀章の合図で、妃が両手から魔法陣を出現させた。そして……


 地獄の30秒が始まった。


「1───」


 妃が最初のカウントを刻んだ瞬間だった。


(………っ!ここだ!!)


 黎翔は、強烈な殺気を感じ取った。と同時に、反射に近い形で身体が動いた。


 更にそれと同時に、『ボス』の方も動いていた。

 その脚力で、地面が割れるほどの一蹴りを放った。一息の間に一気に距離を詰め、もう一歩踏み込めば刃が黎翔に届く所まで迫った。


(速ぇ……!だが、今回は一息で詰め切れない間合いだったから大丈夫だ。ちゃんと見えてる)


 目の前に迫った『ボス』の姿を、黎翔はしっかり捉えていた。今までのような勘頼りの防御ではなく、より確実に対処出来る状態にあった。

 『ボス』は、懲りることなく上段で攻めてきていた。並外れたPOWを活かすには最適であるが、こうも何度も同じ手を使われれば、いかなる馬鹿でも対策しようと考えるだろう。

 黎翔は馬鹿ではないため、とうに対策法を思いついている。早速実行に移し始めた。


「2……」

「ギィッ!!」


 妃のカウントと同時に距離を詰め、奇声と共に刀を振り下ろす。それに対し、黎翔は……


 ナイフの側面で、約30度程度角度をつけて受けた。そして、ナイフの側面で綺麗に受け流した。


「ッ!?」

「へへっ、作戦成功……!!」


 渾身の一振を受け流された『ボス』は、そのままの勢いで刀を膝下辺りまで振り抜いた。その勢いにより、若干体勢も崩れて右足に軸が偏っていた。避けられるとは思っていなかったらしく、驚いているような雰囲気があった。

 と同時に、紀章の後ろで見ていた妃も感心するように目を見開いていた。


「3、4……」


 例のカウントは継続しながら、だが。


 そんな周りの反応に若干ニヤつきつつ、黎翔は次の手を考え始めていた。


(油断するな。次が来る……!!)


 黎翔はすぐさまナイフを胸元まで戻した。その間、全力で目の前で体勢を崩した『ボス』を監視しながら。


(さっきの紀章との攻防。あの時、初撃で空振りした『ボス』は速攻次手に切り替えていた。あの動きから読むならば、恐らく燕返しが来る)


 先のやり取りで紀章の右手と拳銃を斬った、あの高速の燕返し。黎翔はそれをかなり警戒していた。


 というのも、燕返しはかなり防御が難しいのだ。地面に対し垂直な軌道でないため、今取った受け流し戦法は使いづらい。そもそも下から上へ振り上げる動作は、角度によっては胴や腰、脚など、身体の広い範囲を狙える。刃渡り10センチ程しかない黎翔のナイフでは、絶対に対処しきれない範囲だ。

 燕返しは上段の一撃と違い、右手一本で放たれる。威力は間違いなく初太刀より落ちるが、より駆け引き要素が強く、非常に防ぎにくい必殺技なのだ。


 だから、黎翔は考えた。では、どうすればいいのか?


 簡単である。


(俺が先に殺せばいいんだろ……っ!!)


 先手必勝。燕返しより先に黎翔が攻撃すればいいのだ。


 左足を引き、身体を僅かに捻り……胸元に引き戻した、ナイフを握った右腕を、すぐ側に迫っていた『ボス』の心臓部目掛けて思いっきり突き出した。


 突き技。刃物を使った攻撃手段の中で、恐らく最も速い攻撃。

 攻撃範囲が狭い上、威力も振り技より落ちる。が、急所を貫けば全く問題なく致命傷を与えられる技である。


 黎翔は、燕返しが放たれるより前に攻撃したかった。だから、突き技を選んだのだ。


(さぁ、引けよ『ボス』。お前が今出来ることは、俺から間合いを取ることだけだ!)


 心臓部、つまり身体のほぼ中心を狙ったその一撃は、その場で回避することは不可能である。

 更に、攻撃範囲が狭い分刃を使って防御することも難しい。相当狙って防がなければ、普通に身体に当たってしまうだろう。


 つまり、『ボス』に今出来ることは撤退以外に存在しない。黎翔はそう読んでいた。

 だが、『ボス』の取った行動は意外なものだった。


 燕返しの為に右手一本で刀を握っていた『ボス』は、そのまま身体の前に刀を持ってきた。

 ちょうど身体の軸と重なるように立てられた刃は、ものの見事に黎翔の突きの狙いと重なった。


(っ!?こいつ、防いでカウンター狙う気か!?ヤバい、もう止まらねぇ!!)


 既にほとんど肘を伸ばしきっていた黎翔は、突きを止めることも軌道を変えることも出来なかった。判断が間に合わなかったのだ。

 どうにもできないまま、黎翔は『ボス』の刀に突きを放つ。若干の混乱も相まって、次の行動を考える余裕も無いままに。


 結果───


 ガキン、と嫌な音が鳴った。同時に、黎翔の手にはナイフ越しに甲虫を潰したような、硬いものと柔らかいものを同時に壊したような感覚が伝わった。


 焦りを不快感に上書きされた黎翔は、比較的冷静に何が起きたのか確認した。


 突き出したナイフ、それを防いだはずの『ボス』の刀が……

 黎翔が突いたはずの場所から無数のヒビ割れが伸び、綺麗にへし折れていた。


(へっ?嘘ぉ!?)


 黎翔は内心驚きを禁じ得なかった。まさか自分程度の力で、それもナイフで放った突きで、刀を折れるなんて思ってもみなかったから。


 それは『ボス』も同じだったようで、折れて上へ打ち上げられた刃先を見て愕然としていた。


(よ……よく分からんけど結果オーライ!追撃チャンスだ!!)


 一瞬思考を放棄してしまったが、慌てて我に返った。そして、混乱の渦中にある『ボス』に向けて追撃の突きを連続で放つ。


 一発目は再び心臓部を狙ったが、迫る刃で我に返った『ボス』に寸前で回避されてしまった。次いで放った3発の突きも、ひらりひらりと左右に回避された。


「チッ!」


 半分ヤケになってナイフを振ったが、突きより遅い横振りが当たるはずもなく、後ろに飛びのく隙を与えてしまった。


 間合いが切れて仕切り直し。せっかく取った有利対面が無くなり、本来なら大きな損を悔いる盤面だ。

 が、今回の場合は大した損にはならない。なぜなら、


「11、12……」


 今のやり取りで10秒強の時間を、それも無傷で稼げたからだ。仕切り直しになったため、攻めの駆け引きと間合いを詰める時間も換算すれば、次の攻撃まで5秒近くかかる。更に、


「ギィ……」


 『ボス』は折られた刀を創りなおさなければならないため、追加で5秒近くの時間が必要となる。


「19、20……」


 トータルで20秒。妃のカウントもついに3分の2を回り、残り10秒となった。




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.21

POW:1757+50 DEX:1532 DEF:1168

INT:0 MP:0 RES:0  Total:4458

武器:猟刃……マナ属性 特殊効果なし

職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』アクティブ化 1471s

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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