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第66話 宣戦、魔刀の武者

「ところで、さっき黎翔はなんで勝てると思ったの?」


 全速力で非常階段を駆け上がりながら、妃が尋ねた。黎翔も、足を止めることなく返す。


「あぁ、それか。御織の発言からして、通常より多くのマナを一般モンスターの産出に使ってるのは間違いない。つまり、『ボス』は通常よりも弱いはずだからな」

「……それだけ?」


 黎翔の回答に対し、納得しきれない様子の妃が更に追及した。

 それに対し、渋々というように黎翔が追加の回答を伝えた。


「……まぁ、御織のやつが無理難題を押し付けてくるとは思えないからな。多分出来るんだろ」

「うーん、まだ根拠としては弱いんだけど……」


 それでも尚妃は引き下がらなかった。少し不満げに質問を重ねた。

 それを聞き、黎翔は諦めたようにため息をついた。


「………正直に言うなら、勘だ。何となく勝てるって思ったんだよ」

「え……本気?」

「あぁ。猟師の勘は当たるもんだからな」

「てめェ、勘だけであんな自信満々に言い切りやがッたのかよォ……」

「なんか……うん、すごいね」

「そういう反応されると思ったから黙ってたんだよ……!」


 予想通りの、呆れたような言葉と冷めた視線を送られ、黎翔は話したことを後悔した。


「まぁ、過ぎたことは忘れようぜ?今は『ボス』戦の方を考えるべきだ」

「まァそりゃァそうだなァ」


 23階の扉の前を通過しつつ、最前を走っていた紀章は振り返った。


陣形フォーメーションを決める。前衛フロントはァ……」

「俺がやる」


 紀章が言い切る前に、真っ先に黎翔が名乗り出た。


「……いいのかよォ?」

「あぁ。そもそも他に出来ることとか無いからな」

「そう……かァ。なるほどなァ、あの馬鹿何にも教えてねェーのかァ……」

「諦めな紀章くん。あの子はそういうとこあるから」


 紀章と妃が、少し困ったように何かを話した。

 その内容が分からなかったため、黎翔は追及しようとした。が、


「黎翔ォ、絶対ェー死ぬなよォ」

「ん……お、おう」


 すぐに紀章が、先に黎翔に声をかけた。どうやら2人の話が終わったらしいため、追及は諦めることにした。


「俺ァ中衛ミドルだァ。極力前衛(フロント)のサポートはするつもりだがァ……」

「大丈夫。自分でも死なねぇようにするから」

「頼むぜェ」


 少し心配そうな紀章に、黎翔はサムズアップで応えた。

 その余裕な様子を見て、紀章は小さく笑った。


「私は後衛バックだね。火力は任せて」

「あァ。頼んだぜェ、虹崎ィ」

「もちろん」


 妃のポジションもあっさりと決定し、準備は整った。

 そして……同時に、屋上に繋がる扉までたどり着いた。


 紀章が、ゆっくりと右手でドアノブを握って、2人を振り返った。


「準備はいいかァ?」


 その言葉と同時に、3人は各々戦闘に備えた。

 紀章は拳銃を握り、黎翔は貰いたてのナイフを右手で構え、妃は手の中に光を創り出した。


「あぁ」

「もちろん」


 そして、力強く頷いた。その瞳に、光を宿して。


「さァ───行くぞォ!!」

「「おう/えぇ!!」」


 『ボス』戦が、いよいよ始まる。


 バン───開戦の狼煙を上げるように、紀章は全力でドアを開けた。そして、3人揃って扉の向こうに一気に飛び込んだ。


 建物の外は、やはり紫色に染まっていた。邪悪な雰囲気が全身から感じられ、不快感を覚えた。

 頭上には真っ黒な太陽が浮かんでおり、そこから一層強い紫光が降り注いでいた。


 闇に呑まれたその街で、最も空に近い場所が、この25階建てのデパートの屋上だった。そこから見下ろされる街は小さく、何も見ることは出来なかった。

 屋上は、黎翔が思ったよりも広かった。周りには鉄柵も張られており、簡単に落ちるような場所でもなかった。駐車スペースは無いが、代わりにPのマークが刻まれていた。


 高所故の強い風が吹き荒れる、無機質な紫色の大地。その中央に───


 『それ』は、静かに座っていた。


「「「………!!!」」」


 銃、ナイフ、魔法───三者三様の攻撃手段を構えていた黎翔たちは、『それ』を見た瞬間に思考が一瞬停止した。


 『それ』は、どう見てもモンスターだった。なのに、モンスターだとは思えなかった。

 やけに細身で、全身昆虫のような外殻に包まれてはいるが、手や足の形はしっかりと認識できる。

 顎も他の個体ほど大きくなく、頬の辺りから一対の刃状の何かが生えてはいるが、全体的な輪郭はかなり人に近しい。


 そして───『それ』は、綺麗な姿勢で正座をしていた。黎翔達が現れて尚、微動だにせず。

 しかも、目の前には細長い何かが置いてあった。モンスターの外殻に似た、黄土色に輝くそれは、薄く、長く、鋭かった。一部のみ底面が小判型の円筒になっており、円筒と刃の中間点は広い面になっていた。


 その特徴から───それが、刀だと分かった。


「なぁ、これは一体……」

「あれは……本当にモンスターなの?」


 黎翔も紀章も妃も、その光景に困惑していた。あたかも人のように振る舞い、人に似た形状の肉体を持つそれを、モンスターだとは思えなかったから。


「分からねェ。だが……一つ分かることがあるとするならァ……」


「「「アイツは、強い」」」


 声を揃え、全力で警戒する3人。

 その視線の先で、目を瞑って沈黙を貫いていたいた『それ』が───


 不意に、紅い瞳孔を露にした。


「「「っ!?!?」」」


 その瞬間、3人の背筋が凍りついた気がした。全身で、目の前の敵は危険であることを理解した。


 硬直して動けない3人を置いて、『それ』は───


 『ボス』は、遂に動き出した。


 腰を上げ、右足を立て、左足を立て、立ち上がった。その全長は180cm程。モンスターにしては小柄だ。全体的にやはり細身で、巨大な腕も至大な脚もなかった。

 だが……その立ち振る舞いからは、強者の風格を感じられた。


 立ち上がった『ボス』は、右手をガバッと開いた。すると、落ちていた刀がその手中に吸い込まれ、握られた。


 柄を握った瞬間、ミシリという音がした。異常なまでの握力である。


(コイツ、マジでヤバい……!!)


 誰の目から見ても明らかなその事実だが、黎翔は『ボス』の異質さをより詳細に理解していた。

 というのも、黎翔には見えているのだ。『ボス』の横に浮かぶ、紫色の板───


 ステータスが。


──────────────────

POW:4103 DEX:2358 DEF:781

HP:1897 RES:-2012 INT:0 Total:7127

──────────────────


 その数値は、かなり極端に偏っていた。DEFやHPの値はさほど高くない代わりに、POWとDEXが異様に高い。速度と火力に特化した、超攻撃型のステータスだ。


(DEXの値は俺とそこまで大きな差は無いが、POWの値が俺の倍以上ある……!正面から戦って勝てる相手じゃねぇ!!)


 強者の風貌に圧倒されつつも、冷静に分析を行う。その間にも、『ボス』は戦闘態勢を整えていく。


 右手で握った刀に左手を添え、両手で握る。そして、右足を一歩下げて身体を斜めに向ける。

 同時に……両手を頭上に上げ、左肘を突き出し、剣先を高く掲げた。


 最も攻撃的な───『火の構え』の別名を持つ、上段である。


「ッ!来るぞォ!!」


 紀章の叫びで、3人は即座に打ち合わせ通りの陣形を組んだ。各々の武器を構え、戦闘態勢を整えた。


 いよいよ、『ボス』との殺し合いが始まる───圧倒的強者との命の奪り合いを前にしているにも関わらず、黎翔の思考はやけに落ち着いていた。


(上段ってことは上からだよな。距離を詰めて上から強力な一太刀を振るうつもりだろう。あのPOWの値からして、受け切るのは厳しいかもしれない。でも……不思議と、死ぬ気はしないな)


 以前戦った『ボス』や、紀章に向けられた拳銃、そしてさっき倒したモンスター……今まで格上に本気の殺意を向けられた時、黎翔は本能的に『死』を感じ取っていた。少しでもミスをすれば死ぬと、そう本能が告げていた。


 が……今は、全くそんな気はしなかった。『死』を前にした時の恐怖も焦燥も無く、普段通りの呼吸と鼓動が出来ていた。


(これは……俺が強くなったからなのか?)


 最初は、そう思った。

 だが、すぐに気づいた。


(───いや、違う。これは……)


 それを理解した瞬間───黎翔の身体は、勝手に動いていた。


 今組んだばかりの、黎翔、紀章、妃の順に並んでいた陣形。それを崩し……妃の前まで一息に飛び退いた。

 そして、右手に持っていたナイフを───


 全力で振り上げた。


 ガキィィィィン!!


「「「っ!?!?」」」


 甲高い、金属のぶつかった音が鳴り響いた。

 それは、一本のナイフと黄土色の禍々しい刀が、猛烈な勢いでぶつかった音だった。2振りの刃は、そのまませめぎ合いに発展する。


 ───3人の中で一番後ろにいて、『ボス』と最も距離の離れていた、妃の目の前で。


「っぶねぇ……っ!!」

「な……ンだとォ!?」

「速い……!!」


 目で追えない程の速度で距離を詰めてきた『ボス』に、紀章と妃は驚いていた。同時に……


「ギィ……ッ!!」


 そんな神速の一振りを止めた黎翔に対し、『ボス』は酷く驚いていた。


 『ボス』の刀をナイフ一本で受け止めた黎翔には、その強烈な衝撃が全身に伝っていた。黎翔の身体がミシミシと屋上の床にめり込みかける程の威力だった。


(なんだ今の……!!本当に刀か!?ハンマーとかの衝撃かと勘違いしたぞ!?)


 上段から振り下ろされた一太刀は、速く重かった。刃とは思えぬようなその重みは、面となって黎翔とナイフを襲った。


 更にその重みは、今尚黎翔に降り注いでいた。


(強っ!?やばい、負ける……!!)


 黎翔の腕だけで防ぎきれず、少しずつ刀が黎翔の額に迫った。上から押さえつけるように与えられる面の衝撃は、黎翔の全身に巨大な負荷をかけていた。


(もう、限界───)


 両手が眉間の辺りまで押し込まれ、刀が黎翔の額を僅かに切った時。


 パシュッ、と空を切る音が鳴ると同時に、黎翔にかかっていた負荷が一瞬で消えた。


 紀章の『魔力弾スペルバレット』が、刀に命中したのだ。


 弾丸は、刃の側面の、ちょうど中間辺りに命中した。そして、刀は命中した箇所から簡単に折れてしまった。


「死ねェッ!!」

「ギィッ……!」


 刃が折れたのを見て、紀章は更に追撃しようと3連続で引き金を引いた。

 だが、それが当たる前に『ボス』は再び黎翔たちから距離を取った。そのため、放たれた三発の弾丸は床にめり込むのみとなった。


「大丈夫かァ、黎翔ォ!?」

「あぁ、平気だ」

「ごめん、私が油断してたから……」

「気にすんなって。別にダメージもないからな」


 紀章が黎翔の前で庇うように立ち、妃も魔法を構えて攻撃準備を整えながら、黎翔の心配をした。


「にしてもよく見えたなァ、アイツの動きィ」

「あぁ、いや。俺も見えたわけじゃないんだ」


 黎翔は、2人と同様『ボス』の動きが見えていた訳ではなかった。なかったのだが……


(まぁ、最後に頼れるのは勘、ってことか……)


 そう、いつも通りの勘によって、黎翔は妃への攻撃を読んでいた。


(俺が危機感を感じられなかったのは、コイツが俺に殺意を向けてなかったからだったんだ。じゃあ誰に?って話だが……妃か紀章、どっち先に狙うかっていったら、魔法で一撃必殺を狙える妃だろう)


 と直前にそう思考して行動に移した黎翔は、動きこそほぼ見えなかったものの、辛うじて攻撃を受け止めることは出来た。


(まぁ、こんな化け物に殺意向けられて気づかない訳ないもんな。現に、こうして真正面で攻撃受け止めたら……怖いったらありゃしねぇもんな)


 至近距離で『ボス』と相対した瞬間から、黎翔の心臓は激しく鼓動していた。唇が乾き、冷や汗が滝のように流れ、呼吸が浅くなっていた。手と足の震えも、徐々に大きくなってきていた。


 『死』を前にした恐怖と焦燥。何度も感じたあの感覚が、再び黎翔を襲い始めた。


「ギィ……」


 距離を取った『ボス』は、右手を前に突き出した。

 すると、右手の前に細長い光が集まり始めた。そしてそれはゆっくりと形を成し……


 さっき折ったはずの刀が、無から生成された。


「っ!?なんで……」

「あれは『魔力造形』だよ。周辺のマナを一点に集中させて特殊な物質を創り出し、ソイツを自在に操作して成形する……強いモンスターがよく使う技術アーツなんだ」

「んなもんありかよ……!!」


 今の攻防が完全に無意味となったことに、黎翔は少し落胆した。が……


「……でも、あれが壊せるのは分かったからな。希望は見えた」


 右手でしっかりとナイフを握り締め、強い意志の宿った瞳で『ボス』を睨んだ。


「絶対死なずに、お前を狩る!!」


 堂々と、宣戦布告をした。




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.21

POW:1757+50 DEX:1532 DEF:1168

INT:0 MP:0 RES:0  Total:4458

武器:猟刃……マナ属性 特殊効果なし

職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』アクティブ化 2201s

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

──────────────────

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