表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
6/67

第6話 少女と男

「ぐ......クソ、動けない.....っ!!」


 手を地につけ、頭を下げ。

 必死に抵抗しているにも関わらず、欠片も変わることの無い現状を、男は嘆いていた。


(まさか.....ここまで強いとは.....)


 暁御織(あかつきみお)。世界最強のその少女の名を知らぬ者は、日本のどこにもいない。

 男も例外なく知っていた。その少女が最強であること自体は。


 だが.....


(次元が違いすぎる。俺と召喚者のガキの差なんて可愛く見える程だな.....)


 男は見誤っていた。世界最強と称される、その少女の実力を。

 一回りも年下の少女とこれだけの格差が存在することに、男は落胆を通り越して絶望さえ感じていた。


「いや〜、キミたちみたいに弱いクセにアタシに逆らうなんて無謀な真似するやつ、チョー久しぶりに見たよ!にははっ☆」


 そんな男に対し、御織は容赦なく煽り散らかす。


「さて.....と。それじゃ、勝者の質問タイムといこうか?」


 男の前にしゃがみ込んで視線を合わせ、笑顔でそう言う。


「.....チッ、断る。そんな約束した覚えはない」


 煽られて少し頭にきていた男は、御織から視線を外しながら不服そうにそう言った。


「わ〜ぉ、キミいい度胸だね。度胸だけなら認めてあげられるカモ」


 男の苛立ちなど何処吹く風、御織はさらに男を煽るような発言をする。


「クソ、大人を舐めやがって.....!」

「土下座しながら言われてもな〜」

「ぐっ......」


 男は何とか少女を見返そうと努力するも、図星を突かれて言い争いでも簡単に負けてしまう。


「俺にだってプライドはある。お前に俺達の正体は言えない」


 苛立ちを必死に隠しつつ、少女に反抗する。


 ───それがどれだけ愚かな行為か、男はすぐに知らされることとなる。


「あっそ。じゃあ─────」


 冷たい声を発すると同時に、少女は右手を掲げる。その手の中には───


 紫色の、光の塊が握られていた。


 ミシミシミシッ!


「っ!?ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 途端に、男の全身に重くのしかかっていた重力がさらに巨大化する。


 必死に堪えていた男の身体はうつ伏せになり、地面にミシミシと音を立てながらめり込む。


「ぐっ.....ぐおぉぉぉっ!!!」

「キミの飼い主のこと、話さないならキミはこのままぺちゃんこだよ。それでもいいのかな?」


 可愛らしい笑顔と声色で、男の耳元で囁く。が、やっていることは欠片も可愛くない。


「何をしようと......俺の答えは、変わらん.....!」


 男は、最後の威厳を保つべくそう言う。

 自身の主───その人のことを伝えてしまえば、完全にこちら側の負けだと理解しているからだ。


 いわゆる『上層部』の人間である主のことを暁御織に伝えてしまえば、きっと暁御織は主に反抗するだろう。最悪、彼女と『上層部』の戦争になる可能性もある。


 暁御織について、『上層部』の者たちはこう言っていた。


『我々が最も恐れるべきは、彼女と敵対することだ』

『暁御織は、簡単に国一つ滅ぼす怪物だ』

『あの存在は.....世界の秩序を揺るがしかねん』


 と。


 口々に、暁御織はヤバいと言っていた。

 だから.....絶対に言う訳には行かない。主の存在、ひいては『上層部』に関連することは、何一つとして。


「えぇ〜、じゃあキミ死ぬしかないんだけど」

「構わん。国の平和の方が大事だ」

「へぇ〜、立派なもんだねぇ」


 少女は、ジトーっとした視線をこちらに向けてくる。なにか文句言いたげな表情だ。

 だが.....


(文句言いたいのはこっちなんだよ.....!!)


 さっきからずっと、男の身体は少しずつ地面にめり込んでいっている。いい加減痛いし重いし助けてほしいと全身が訴えかけてきていた。


「はぁ、時間の無駄だなぁ。何が目的なの?」

「.......言わん」

「アタシだって人殺しにはなりたくないんだけど〜」

「なら解除しろ.......!!」

「ん〜、やだ!」


 少女は、ツンツンと男の身体をつつきながらそう言う。完全に馬鹿にされている。


(ダメだ。ここは我慢しなければ)


 男には、勝算があった。このまま待ち続ければ、状況が多少良くなるという目算が。


(予定だとそろそろのはずだ。そろそろ、あの方が......)


 男がそう思った直後だった。


 パァ─────


「っ!太陽が.....」


 先程まで禍々しい紫色の光に包まれていた空が、不意に眩いほどの青天へと変わる。

 黒く染まっていた太陽はいつも通りの白い太陽へ戻り、その周りには青空が広がる。


 突然訪れた、この変化こそ.....男にもたらされた福音である。


(.....どうやら、俺達の勝ちのようだ)


 男はそう確信した。地面にめり込みながら。


「『ソルクティス』が終わった?なんで.....っ!まさかっ!?」


 少女が、バッと後ろを振り向く。その視線の先には.....


 さっき男の部下の一人が投げ飛ばされた衝撃で出来た窪み以外、何一つ残っていなかった。


「なるほどね、キミたちの狙いは.....」

「あぁ。時間を稼いで、俺の部下にあのガキを運ばせていたんだ」


 御織が男との会話に集中している間にこっそりと、先程吹き飛ばされた部下が召喚者の少年を運んでいた。


 そして、その行き先はただ一つ。

 この近くで『モンスター』を倒しているであろう、主の元だ。


「残念だったな、暁御織。この勝負は俺達の勝ちだ」


 勝ち誇ったようにそう言う。

 だが.....男が見上げた視線の先の少女は、なぜか笑っていた。


「あぶねぇあぶねぇ。みすみすやられるとこだったぜ」

「.....?」


 少女は、そう言った。


(何言ってんだ?もうあの少年は見失っている。今から追いかけても間に合うはずないだろう)


 きっと今頃、主の手元に渡った少年は、再び『政府』の地下実験室に向かい始めている頃だ。もう何をしたって間に合わない。はずなのに.....


 少女は、すくっと立ち上がる。そして.....こちらに右手を向ける。


「じゃ、キミとはここでお別れね。バイバーイ」

「は────」


 男は一瞬、その手の中に紫色の光を見た。そして───


 直後、視界は黒く閉ざされた。


──────────────────


「はぁ、はぁ、はぁ.....」


 足音と上がりきった呼吸音だけが耳に入る。

 先程、一人の少女に投げられた衝撃で、全身が痛む中.....男は走っていた。


「いってぇ、マジキツい.....」


 軍服をまとい、背中に一人の少年を背負った男は、息も絶え絶えに主のもとへ急ぐ。


 自分の上司達が見事に少女にやられているのを見た時は(終わった.....)と思ったが、その光景に釘付けだった少年を後ろから気絶させ、ここまで運んできた。我ながらいい機転だったな、と若干ニヤつく。


「マジキツい.....けど、もうちょっとのはずだ。たしかあの人がいるのは、この先だ」


 細い路地の先には光が見えている。あの光の先に、主がいるはずだ。


(よし、もうちょっとだ。いやー、頑張ったな、オレ)


 男は、内心自分を褒めたたえる。凄まじい達成感に快感さえも覚えそうだった。が.....

 刹那。


 ドカァァァァァァン!!


「がはっ!?」


 上空から落ちてきた謎の物体が直撃し、吹き飛ばされてしまう。


「痛ってぇ.....!!」


 痛む身体をゆっくり持ち上げ、自身にぶつかったものの正体を確認する。

 そして.....絶望する。


「やぁ!間に合ってよかったよ〜」

「っ!?あ、あっ......」


 そこにいたのは、あの少女───暁御織だった。

 少女は、ゆっくりとこちらに近づく。


(ウソだろ!?なんでバレてんだよ!!)


 男はこの最悪の状況を嘆いた。どうしても変わらないであろう、この状況を。


「さ〜て、ワンちゃんはお寝んねの時間ですよ〜」


 御織は、恐ろしい笑顔で男に右手を伸ばされる。男が死をも確信したその瞬間───


「止まれ」

「ひょ?」


 狭い路地に、もう一つの声が響く。その正体は.....


「げっ、まさか.....!!」

「あ.....!指揮官!」

「すまん、待たせたな、緑川中尉」


 『上層部』と呼ばれる人間の一人であり、男達の主である、緑髪の女性だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ