第4話 チュートリアル・前編
「キミ、ゼッタイアタシより後ろにいてね?ワンチャン巻き込まれるから」
「わ、分かった......けど、本当に大丈夫なのか?」
御織の強気な態度を見てもなお、黎翔は疑心暗鬼な様子で問い質す。
が、御織側の対応は変わらない。
「任せな!アイツらくらい瞬殺よ瞬殺。てか、手加減のがムズいんだよねぇ〜、コナゴナになる前に止めないとだから.....」
「こ、粉々.....?」
なんだコイツ、何する気なんだ?という一抹の不安を抱えつつ、仕方なく事の顛末を見守ることにした。
「はーいみなさーん、そこでストップね」
「...........」
御織が、少しずつこちらに近づいてきていた男達に話しかける。いつも通りの陽気な様子で。
「ゾロゾロ大勢引き連れて何用かな?ここの『ソルクティス』のボスならここにはいないけど」
(そるく.....てぃす?なんだそれは?)
またも出てきた知らない単語に頭を悩ませる。
(『ソルクティス』.....そういえば、さっきも似たようなこと言ってたな。確か『峯明塔ソルクティス』だったっけ?何かの隠語なのか?分からん.....まぁいいか)
考えたがわかるはずもないため、諦めて御織に丸投げする。
「.....暁御織。お前のことだから、我々の目的は既に分かっているのだろう?無駄な駆け引きはよそうじゃないか。さぁ、後ろの男を渡せ」
「ヤダ」
敵のリーダーらしき男からの提案を、たった一言で玉砕する。なんの捻りも、考えもなしに。
「.....はぁ、ならばやるしかないようだな」
「だね〜。さ、始めよっか」
二人がそう言うなり、敵全員が臨戦態勢になる。
警戒心を全開にして、敵は腰に差していた剣を抜いて御織に向ける。全員かなり強そうだと感じた。
対して御織は、両手を腰に当てたまま、なんの警戒もすることなく棒立ちのままだった。
「御織?お前、武器は.....」
「いらないよ〜。アタシ、元々武器使えんから」
「じゃあ素手でやる気か!?」
(オイオイ、女の子が素手で大人の男複数人が剣って.....!!流石にズルすぎるだろ!?)
黎翔はそう感じたが、だからといって自分に出来ることはない。その無力さを憎みつつ、御織の無事を祈る。
「後悔はするなよ?」
「アタシのセリフだよ〜い」
互いに軽く言葉を交わす。その間も、御織は一切動くことなく。
そして、その言葉を皮切りに.....
「総員、攻撃!!」
「「「「はっ!!!」」」」
敵が一斉に動き出す。
剣を振りかぶり、同時に御織へと向かってくる。
(コイツ、どうやって凌ぐ気なんだ?このままじゃ.....)
寿命が縮みそうな思いで御織を見る。が.....
「さて!そんじゃボーイのチュートリアル、始めていきますか!」
「.......え?」
御織は、何故か笑顔で黎翔の方に振り向き、話しかけてきた。
「おまっ!?なにして───」
「チュートリアルその1!この世界の人達は1000年前の世界の人にはない特別な能力を持っていまーす!」
黎翔の心配を完全に無視し、御織は陽気に話し続ける。
.....既にすぐ真後ろまで、剣を振りかぶった敵が迫っているのに。
「死ねぇっ!!」
「危な───」
「そんな特別な能力を持っているので───」
ピシッ
「っ!?」
「なにっ!!」
御織の頭のすぐ上まで迫った剣は、御織の髪を斬る僅か数ミリ前で停止した。その理由は.....
「こんな感じで、指2本で振り下ろされる剣を止めちゃうことも可能でーす!!」
彼女の発言通り.....人差し指と中指のたった2本の指で、振り下ろされる剣を止めたからである。
「この能力には個人差があってね、ある一定の強さを基準に数値化されてるんだ。で、その肉体の強さの数値を『ステータス』と言います!これ、テスト出るよ〜?」
御織は、2本の指で軽々しく剣を止めながら、尚も話すのをやめない。
(『ステータス』.....って、さっき御織がチラッと言ってたよな)
その時、御織はこう言っていた。
『んーや、無理だね。アイツらとキミとでは『ステータス』に差がありすぎるし』
と。
(そして今アイツは、ステータスに個人差がある、そう言った。でもって御織は指2本で大の男が振り下ろした剣を止めている。つまり.....)
(御織ってめっちゃ強いのでは???)
「うおぉぉぉぉっ!!」
「っ!!危ない!」
黎翔がそう考え気を抜いていると、今度は横から別の敵が迫ってきていた。今度こそ危ないんじゃ───
バキィィィン!!
「!?はぁっ!!」
そう思っていたら、今度はさっきより衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
横から御織の腹を狙う男の剣は、無防備な御織に直撃し───
何故か、そのまま折れてしまった。
黎翔は当然驚愕だが、剣を振った男もかなり驚いていたため、これが異常なことだというのはすぐに察せられた。
「チュートリアルその2!『ステータス』は6種類の数値で構成されている!」
「おいふざけんな!なんだよ今の!!」
黎翔は、思わずそうツッコミを入れてしまった。意味が分からなすぎた上、なんか関係なさそうな話題になりそうだったから。
「こら!チュートリアル中に喋るんじゃありません!」
「す、すまん。だが今のはなんなんだよ!?」
御織に怒られ、謝罪する。が、黎翔は文句も忘れない。
「今何が起こったのか説明する前に、『ステータス』の種類について話すね?6種類の『ステータス』、ひとつめ!『POW』!」
元気よくそう宣言すると同時に、右手の指で捕まえていた剣を天高く振り上げる。
と同時に、剣を握っていた男もそのまま宙に投げ出されていた。
「『POW』はそのまま筋力を表します。これが高いと〜.....」
ブンブンブンブンブン!!
「ぐわぁぁぁっ!!やめ、やめろぉぉぉっ!!」
「あ、オッケー。ほいっと」
「きっ、急に投げるなああぁぁぁぁ───」
ドカーーーン!!
「こんな感じになりまーす!!」
「は........???」
目の前で起きたあまりに意味不明な光景に、黎翔は困惑以外の感情が湧き出てこなかった。
御織は今.....重そうな剣と、それを握る大男を、2本の指だけで振り回していた。しかも軽々と、結構なスピードで。
そしてそのまま男ごと、剣を黎翔の遥か後方までぶん投げてしまった。
「で、次が『DEF』!これも文字通りだね!」
「ディフェンス.....防御力か」
この説明を聞いて、黎翔は理解する。
(さっきの剣が折れたヤツ、あれは.....御織の『DEF』が高すぎて、剣では歯が立たなかったんだ。なんてヤツだよ、マジで.....)
「で、次の値がね〜」
とそこまで話した時、今度は敵が三人同時に切りかかってきていた。
「お、ラッキー」
御織はそれを見てそんなことを呟く。何が?と思っていると、
「オラァっ!」
「喰らえっ!」
「はああぁぁっ!!」
ビュンビュンビュン、スカッ
今度は3本同時に襲いかかってくる剣を、その場から一歩も足を動かさずに回避してしまった。
「ハイ、これが3つ目の『ステータス』───『DEX』だよ!」
「で、デクス.....なんて??」
「うーん、まぁ『素早さ』だと思えばいいよ!」
(なるほど、それで全部回避してたのか.....)
ここまでの説明を聞き、黎翔は何となく方向性が掴めてきた。
『ステータス』は、文字通り身体能力を事細かに記載したものなのだろう。本来測れない能力値を客観的基準に落とし込んだ、超便利な数値。
(俺はどんなもんなんだろうか?なんとなく弱い気はするけど)
黎翔は少しずつ思考に余裕を持てるようになっていた。理由は簡単。
さっきから.....目の前で暴れる少女が、あまりにもバケモンすぎるから。
(コイツヤバくね?世界最強って自分で言うだけの事はあるな.....)
御織がやられる可能性が完全に脳内から掻き消え、安心してチュートリアルを受ける気になってきた。
........のだが。
「ここまでの数値はね、アタシあんまし高くないの。だから凄さが伝わりにくいカモ」
「は???」
御織のトンデモ発言に、目を見開く。
「でも安心して!こっからはアタシの得意分野だからさ!」
「え、ちょ待っ───」
「よーし、ギア上げていくぞ☆」
.....この時、黎翔の頭には別の不安が浮かんできた。
(.....あの人たち、生きて帰れるのかな.....)
御織が強すぎて、普通に殺人するんじゃないか?という別種の恐怖に悩まされながら、チュートリアルを受け続けることになった。




