第35話 あらたな スキルを てにいれた!
「グルルル.....」
「.........」
涎を垂らし、欲望に染まった『ボス』の細長い瞳孔が、黎翔の姿を映す。
対する黎翔は、冷たい瞳で『ボス』の姿を眺める。
黎翔は、御織との会話を終えて少し休憩したのち、再びさっきの場所へと戻ってきた。『ボス』を殺す、ただそれだけのために。
辺りには、地面がえぐれた戦いの跡が複数残っている。黎翔の『ボス』の間には、血溜まりもできていた。恐らく、腕を潰された場所だろう。
互いの距離は20m程。『ボス』の速度なら一瞬で詰められる距離だ。
だが......
「...........」
黎翔は、とても落ち着いていた。力まず、だらけず、動かず.....普段と変わらぬ自然体のまま、そこに立っていた。
「グルルル.....」
『ボス』は、さっきと違いかなりやる気満々といった様子だった。腹が空いたのか、出会ってから常に涎がボタボタ零れている。
「グルルル.....!!」
右腕がピクリと動く。少しだけ前傾姿勢になる。瞳が若干動く。
足を一歩、前へと動かす。
攻め気に溢れた動き.....そのどれを見ても、黎翔は動じない。指一本動かさない。ただひたすらに、致命的な隙を晒す瞬間だけを待つ。
そして.....
『ボス』の呼吸が、一瞬深くなる。
刹那。
「グギョオオォォォォッ!!」
ダンッ!という破裂音と共に、『ボス』は地面を蹴り飛ばして急接近する。
その速度は、人間の動体視力でどうこう出来る問題ではなかった。きっと、殺された事実さえ認識出来ぬままに引き裂かれることになるだろう。
普通の人間ならば、の話だが。
「っ!?マジか.....!」
黎翔の顔には、驚きの色が見えた。
その理由は至って簡単。『ボス』の動きが.....
あまりにも、ゆっくりに見えたから。
「よっと!」
なんの苦労もなく、右前に飛び込む。すると、
「グギョッ!?」
『ボス』の右腕が、黎翔の元いた場所を切り裂き.....その場に黎翔がいない事実に驚きの声を上げた。
「隙だらけだぜっ!!」
「ギョッ!?」
綺麗に空振りして体勢の崩れた『ボス』は、黎翔にとって格好の餌食だった。
さっき捉えた右眼の弱点目掛けて右足を思いっきり振り上げ───
「オラァッ!!」
回し蹴りを放つ。
ドカッ!
鈍い音が鳴る。
弱点のある右眼あたりを狙ったその蹴りを受けた『ボス』の様子は.....
「ギィ......」
突然人が変わったかのような黎翔の動きに、少し驚くような表情をしていた───気がした。表情の区別ができる部位が無さすぎて分からないが。
それでも、攻撃が効いている感じはしなかった。苦しむとか痛がるとか、そういった動きは見られなかった。
「.....ハハッ」
すぐさま、後ろへ飛び退き『ボス』との距離を取る。さっきのようなカウンターを喰らわないためだ。
(見た感じ、やっぱりまったく効いてなさそうだな)
全力で蹴ったら、腕のように壊れる恐れがあったため、少しだけ加減した蹴り。
それでも十分に威力はあるはずなのに.....『ボス』には効いてないように見える。
(普通に考えたら焦るべき場面なんだろうが.....)
黎翔は落ち着いていた。なんなら、薄ら笑みを浮かべていた。
(やっぱり.....減ってる。『HP』の値が)
黎翔の視界に移る『ボス』───その隣の、薄い紫色の板。
『ボス』の『ステータスウィンドウ』だと予想されるその板に書かれた数値には、変化が生じていた。それは.....
『HP』の値が、『1839/2006』になっていたのだ。
(元々2006だったから.....左側の数字が現在の残りHPって感じだろう。つまり.....多少は効いてるってことだ)
御織からもらったアドバイスのおかげで知ることができたこの事実。それは、黎翔の心に大きな余裕を持たせていた。勝ちを確信し、緊張も何も無く笑っている。
それだけではない。黎翔の心の余裕には、もう1つ要因があった。
(マジで便利だな、新しいスキル───『野性』)
御織に教わって獲得したそのスキルも、黎翔を勝利への道に誘っていた。
時は30分前に遡る────────────
「さて、それではまず『ステータスウィンドウ』を開いてください!」
「あいあい!」
御織に言われた通り、脳内で
(『ステータスウィンドウ・オープン!』)
と唱えて目の前に青い板を召喚する。
(───あ、またレベル上がってる)
召喚してすぐ、チラリとステータスを見た。
さっき2体のモンスターを倒したおかげか、レベルは2から7へジャンプアップ。ステータスも増えていた。
「出来た?」
「あ、おぅ!」
御織に呼ばれ、再び意識を御織の方へ戻す。
「それの一番下に、樹形図みたいなのがあるの知ってるよね?」
「そりゃまぁ目立つからな」
『ステータスウィンドウ』の一番下───ステータス欄と、その下のスキルが並んでいる欄の更に下───にある、大きな図形に目を通す。
『ステータスウィンドウ』の3分の2近くを占めるそれの存在は、初めて見た時から知っていた。何を表すのかは知らなかったが。
「その樹形図はね、黎翔が獲得できるスキルを表してるんだ。低ランクのスキルを手に入れると次のランクのスキルを手に入れる資格が手に入る。そうやって、順番にスキルを獲得していくための機能なんだ。名付けて『スキルツリー』!」
「おぉ〜!!」
目を輝かせながら、黎翔は話を聞く。
(『スキルツリー』、なんかすごそうだ!)
なんとなく凄そうだと感じた黎翔は、
「早速スキル手に入れようぜ!どうやってやるんだ?」
早口で方法を尋ねる。
「まま、焦んな焦んな。スキル解放には当然制限があってね、『スキルポイント』が必要なのだよ」
「ほう?」
元々自由にできるとは思ってなかったため、特段驚きもなく反応する。
「で、それはどうやって手に入れるんだ?」
「レベルアップでもれなく1ポイントもらえるよ!で、今持ってるポイントは右下に書いてある」
「右下.........これか」
樹形図の右下、小さく『SP:6』と書いてあった。
「スキル1個解放するたびに1ポイント使うんだ。で、使ったらやり直しとかは出来ないからね、慎重に選ぼうね!」
「あいあい!」
「てなわけで、やってみよ〜!」
「おー!!」
まるで小学生のようなテンションで会話は締めくくられ、黎翔は御織から『ステータスウィンドウ』へと視点を変える。
(さて、まず取るべきスキルはーっと)
パッと『スキルツリー』を見ると、まずは確実に取らなければならないスキルがあった。
(『野性』ってやつは確定か。これ取らないと他のも入手出来ないって感じね)
最初のスキル『野性』の部分をタッチする。すると、
──────────────────────
スキル:野性.....動体視力が大幅に上昇する。移動時、音と気配を消せる。
パッシブスキル 消費MP:0
獲得しますか?
はい(SP消費1) いいえ
──────────────────────
というメッセージが表示された。
(結構汎用性高そうだな。こりゃ取り得だ)
早速、『はい』をタップする。
その瞬間───
「っ!?これは.....!!」
突然、肌の感覚が敏感になったように感じる。さらに、異様に視界が広く、鮮明になったように感じた。
(これが『野性』......!!)
急に自分の身体が自分の身体じゃなくなったような浮遊感と、全神経が研ぎ澄まされたような心地良さを同時に感じ、不思議な気分を覚える。
(この調子でスキルを手に入れれば、アイツに勝てる.....!!)
そう思い、黎翔はさらに『スキルツリー』を操作する。
(.....ん?次のスキル.....)
『野性』から派生した三本の線の先には、それぞれ『POW+10』、『DEX+10』、『DEF+10』と書かれていた。
(しょっぺぇな.....こういう『ステータスボーナス』的なやつもあるのか.....)
少し残念がりつつ、これらのスキルを取らないと進めないため渋々獲得した。
結局、その後もしばらく操作を続け.....
『POW+10』のステータスボーナスを4つ獲得した。
スキルポイントは、『野性』と合わせて合計5消費し、残りは1になっている。
(スキルポイントは.....まだ1あるけど残しとくか。今使ってもだし、次のスキルは結構優秀だけど.....今の俺には無用の長物だからな)
御織に言われた通り、慎重に使うことにしのだった。
──────────────────
こうして黎翔は、短時間で一気に強くなっていた。
(わざと多めに取った『POW』のステータスボーナス.....あれで結構ダメージ伸ばせると思ったんだけどな.....)
本人は、あまり納得行ってない様子だが。
(なんにせよ、このまま全部避けて勝ち切る.....!!)
黎翔は油断することなく『ボス』を見る。そして.....
「かかってこいよ、人喰い畜生野郎。俺がじっくり料理してやるぜ!」
煽り文句と共に、ニタリと笑みを向けた。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.7
POW:757+50 DEX:632 DEF:468
INT:0 MP:0 RES:0 Total:1858
職業:狩猟者 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』アクティブ化 2100s
『野性』パッシブ
ステータス補正:物理特化
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