第36話 野性VS野生、熾烈な殴り合い
「オラァッ!!」
ドゴッ!
若干手を抜いた蹴りが、『ボス』の右眼あたりに命中する。
「ギィ.....!!」
それを受けて、イラついたように『ボス』は左腕を振り回し、黎翔を狙う。
「っとぉ.....」
バッ、ブンッ!!
それを読んで、黎翔は先んじて後ろへ飛び退き、しっかりと回避する。
相変わらず『ボス』の攻撃は異様な速度で、空を切る音が耳に刺さって痛かった。
「危ねぇ.....油断も隙もないな」
余裕を持って回避しながらも、内心冷や汗が止まらなかった。
『あれに当たったらどうなるか────』
上半身と下半身が泣き別れになって死ぬ瞬間が想像され、背筋がヒヤリとする。
(ま、『野性』があるから当たんねぇけどな!)
新たなスキル『野性』の効果で動体視力が大幅に上昇したおかげで、黎翔の瞳は確かに『ボス』の動きを捉えていた。攻撃も、表情の変化も、その一挙手一投足がハッキリ見えていた。
慢心.....とまでは行かないが、黎翔の中に余裕があるのは確かだった。
それに対して.....
「グルルル...........」
『ボス』の方は、涎を一段と垂らし、歯を食いしばっていた。瞳孔は鋭く尖り、強い殺意を帯びている。見るからにどこか不満げだった。
(大分イラついてそうだな、アイツ)
悠然と佇む黎翔とは対照的な『ボス』を見て、少しだけニヤリと笑う。
そして左手を前に突き出し、
「ホラ、来いよ」
と煽るように声をかける。
「グルルルゥァ.....!!」
すると、なんとなく煽られたと感じたのか、『ボス』は歯をギリッと食いしばって牙を見せた。
その鋭い眼光と恐ろしい牙から、凄まじい怒りを感じた。
(やべ、煽りすぎたか.....?)
と不安にならないでもなかったが、
「グギョォォッ!!」
次の瞬間、『ボス』が再び猛烈な勢いで黎翔に突っ込んでくるのを見て、逆に少し心配が和らいだ。
(あぁ、むしろやりやすくなったな)
鉄砲玉のように、怒りに身を任せて『ボス』は突っ込んでくる。常人に視認できない程の速度は、本来なら死を覚悟して然るべきなもの。
だが.....
「丸見えなんだよなぁ、俺には」
『ボス』の動きが見える黎翔にとって、むしろ好都合だった。
「ギャッ!!」
距離を詰め、射程圏内に入った瞬間.....『ボス』は勢いのままに黎翔に向けて右腕を振り下ろす。
それを見て、即座に黎翔は身体を捻りながら左に飛び退く。
ビュッ!!
「ッ!?」
鼻先を掠りそうなその一撃は、気持ちのいい音と風圧を撒き散らすだけで終わった。
「学ばねぇな.....っと!」
身体を捻った時の勢いのままに、再び右足を『ボス』の右眼へ打ち込む。
ドッ!
「ギィッ!」
それを食らって、『ボス』はギロリとこちらを睨む。
(おぉ、怖ぇ怖ぇ?つか強く蹴りすぎたな、右足痛ぇ.....)
つま先がヒリヒリする中、再び『ボス』から距離を取ろうとする。
その瞬間───
(っ!?ヤバい!!)
突然、猛烈に嫌な予感を感じた。
咄嗟にその場でしゃがむ。黎翔の本能が、そうしろと訴えてきたから。
刹那─────
ビュゴォッ!!
「っ!?」
突然、『ボス』が右腕を横に振るった。
元々黎翔が立っていた、首の高さ辺り───しゃがんだ状態でいう黎翔の頭の真上あたりを通過したその腕は、既のところで空振りに終わった。だが.....
その攻撃の速度は、黎翔の強化された動体視力でギリギリ軌道を認識できるレベルだった。さっきまでより明らかに速かった。
(っぶなぁっ.....!!)
全身の毛が逆立っている気がした。一気に鳥肌が立っていた。
「ギィッ!?」
『ボス』の側も今ので仕留める気だったらしく、かなり驚いていた。速く振りすぎた腕は『ボス』の身体を引っ張り、体勢を崩していた。
「やりやがったな.....っ!!」
黎翔は、そのまま左手を地面につける。
そして、左腕で地面を一気に押し、お返しと言わんばかりに、両足で『ボス』の顔面に蹴りを入れた。
片手逆立ちのような状態で打ち込んだ一撃は、黎翔の腕力と蹴りのインパクトが合わさり、かなりの威力が出た。
「ギャッ!!」
さすがに今のはかなり効いたようで、『ボス』は短い悲鳴を上げて後ろへよろけていた。
(チャンス!!)
即座に体勢を整え、左足を地面につける。
そして一気に右足を振り上げ、『ボス』の顔目掛けて伸ばす。
「ギッ.....!!」
バキッ!
『ボス』は、よろけながらも両腕を顔の前に持ってきてガードの姿勢を取った。
(学んできやがったか.....!)
硬い腕に命中した右足に、ジンと衝撃が染み渡る。
(ガードされたら攻撃のしようがねぇな。一度切るか)
即座に右足を引き戻す。一度距離を取ろうと考えた時.....
「ギャッ!!」
『ボス』が反撃の意を込め、再び右腕で黎翔の首を狙ってきた。
(さすがにもう学んだぜ、それは.....!!)
その動きを覚えていたため、すぐに飛び退くのを諦めてしゃがみ、回避する。
ガードが空いたのを確認し、反撃しようとするが.....
「ギギッ!」
「っ!?」
『ボス』は、空振りしたにも関わらず、さっきと違って体勢を崩していなかった。
しっかりと両足で真っ直ぐ立った状態の『ボス』は、フリーの左腕をしゃがんでいる黎翔目掛けて振り下ろしてきた。
「っとぉっ!?」
ギリギリそれを認識した黎翔は、即座に右に転がる。
ドガァン!
という轟音と共に地面が抉れる。その凄まじい威力から、相当な殺意を感じた。
更に───
「グギャァァッ!!」
「ちょっ!?」
今度は右足を持ち上げ、転がっている黎翔の真上に持ってきた。踏み潰すつもりのようだ。
(ヤバい、近すぎる.....!!)
転がっても避けきれないと察し、即座に左腕を地面につける。そして、さっきの蹴りと同じ要領で地面を押し、その反動で飛び退く。
ドガァァァン!!
さっきよりも凄まじい威力の踏み込みで、地面が割れる。コンクリートの破片が辺りに飛び散る。
「はぁ、はぁ、はぁ.....っ!!」
またもスレスレで回避した黎翔は、ようやく『ボス』と距離を取ることに成功した。
距離を取れたことで、少しだけ余裕ができた。そのため、肩で息をしつつ冷静に現状を分析する。
(今の動き....明らかにこっちの動きに対応されてた。コイツも学んできたってわけか.....!)
額の汗を拭いながら、『ボス』を凝視する。
『ステータスウィンドウ』を見ると、HPの値が『1182/2006』となっていた。
それを見て、黎翔は少し複雑な心境に陥る。
(結構減ったけど.....でも半分あんのか.....)
黎翔はかなり息が上がっているのに、『ボス』はその気配もない。
動きに対応され始め、『ボス』の攻撃の精度も少しずつ上がっている。
黎翔からすれば、勝ち目がどんどん薄くなっているとしか感じられなかった。少し不満気な表情で、『ボス』を睨む。
(さて、どうするか.....)
このまま戦いを続けて、勝てる気がしなかった。だから、なにか作戦を立てるべきだと考えていた。
(あえて近距離で戦うか?全部攻撃避けて、7発くらい反撃入れれば倒せる気はする。ただ体力的にキツイよなぁ.....新しいスキル.....は、出来れば温存したい。てか、今取っても意味無いし。ん〜、他に方法はないか.....?)
なかなか妙案が思いつかない黎翔は、少しずつ思考の沼にはまっていく。『ボス』への集中が、若干弱まる。
その瞬間───
「ギャッ!!」
「っ!?」
またも『ボス』が鉄砲玉のように突っ込んできた。例がごとく、超高速で。
(だーもう、考える時間もねぇ.....!!)
思考を切り替え、回避と反撃の準備に思考を切り替える。
『ボス』は相変わらず右腕を振り上げていた。
そのため、黎翔も今まで同様、振り下ろされる寸前に左に回避し、反撃の右足を準備しようと思案する。
ビュンッ!
と空を裂く音が響く。『ボス』が全力で右腕を振り下ろした合図だ。
(よし、これでまた多分HPを削れる───)
そう思い、右足を『ボス』の右眼に向けて振る。
しかし───
バキッ!
「っ!?なにっ!?」
その蹴りは.....右眼に命中する前に『ボス』の右腕に防がれる。
(チィッ、学習してきやがった.....!!)
危機を察知し、すぐに距離を取ろうとする。
が、既にそれは手遅れで───
「グギョォッ!!」
ドゴッ───
「っがはっ!?」
黎翔が逃げる前に、『ボス』の右拳が腹に入る。そして.....
ギュン───ドカァァァァン!!
「あがっ......」
猛烈な勢いで黎翔の身体は吹き飛ばされ、近くの瓦礫に激突した。
──────────────────
蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.7
POW:757 DEX:632 DEF:468
INT:0 MP:0 RES:0 Total:1858
職業:狩猟者 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』アクティブ化 1600s
『野性』パッシブ
ステータス補正:物理特化
──────────────────




