第31話 こんしんのいちげき!
鋭い視線で、3匹のモンスターを睨みつける。
いつの間にか人間を喰っていたモンスターは完全に食べきったようで、既に跡形もなく消えていた。ただ、血まみれの手と口だけが、その存在を証明していた。
(俺は御織の優しさを踏みにじり、御織の覚悟を侮辱した。この落とし前は自分の手でつけなきゃならねぇ)
黎翔は、先程までの自身の行動を省みて、恥ずかしさで死にたくなる。その愚かさに呆れ返る。
だが.....
(過去は過去。今すべきことに集中だ)
後悔や動揺の色は、既にほとんど見えなかった。冷静に、自らの失態を取り戻すことだけを考える。
(俺が今すべきことは簡単だ。アイツらを俺の手で殺す。ただそれだけだ)
御織の期待に応える、唯一の方法。
それを実現すべく、黎翔は.....
(さぁ.....どうやって戦うか)
全ての脳のリソースを使い、攻略法を考えていた。
(御織が期待してくれてる以上、絶対勝ちの目があるはずだ。それが何かって話ではあるんだが.....なんにせよ、とりあえず今出来る攻撃手段を考えるべきだな)
一瞬たりとも目をモンスターから離すことなく、かつ高速で思考を回転させる。
(素手は.....無理だな、明らかに硬そうだし。で、無一文だから特段武器も持ってない。唯一通用するであろう魔法も、俺だけは使えない)
どんどん思考の幅が狭まっていき、少し不安が募り始める。
(あとはスキルか.....)
さっき、自ら切り捨てた選択肢が脳に浮かぶ。
(そういえば、俺スキル持ってたよな。あれってどんな効果なんだ?)
黎翔は今更ながら気づく。
さっきは『レベル1だから弱い』と決め打ちしたし、聖とステータスを確認した時も途中で話が途切れたせいでよく分かっていない。だから、具体的な効果など知る由もなかった。
更に、黎翔はスキルの効果の調べ方も教わっていなかった。一瞬、手詰まりかと思った。
だが.....
(いや、もしかしたら.....『ステータスウィンドウ・オープン』)
ヴン
一縷の望みにかけて、『ステータスウィンドウ』を開く。すると、一つ違和感に気づいた。
(あれ?レベルが2になってる?)
いつの間にか、レベルが上がっていた。それに伴ってか、ステータスも400ほど上昇し、トータルが500を超えていた。
(いつの間に.....まぁいいや。今はスキル優先だ)
出てきた縦長の青い板と複数の文字を凝視する。絶対に見逃さないように。
すると.....
(.....!やっぱりそうだ。スキルの欄はこれだな)
ステータスの下の方に、『職業スキル』という欄があった。その下に、2つのスキルと説明書きのようなものが添えられていた。
(さっき名刺と見比べた時、絶対こっちの方が文量多いと思ったんだよな。やっぱり詳細が書いてあったんだ)
予想が当たり、僅かに希望が浮かぶ。
(とりあえず内容確認だ。スキルは、えっと.....『狩人の心得』と、『狩猟者の勘』か)
2種類のスキルを素早く読み解く。
──────────────────
職業スキル1.『狩人の心得』.....ステータス合計値が自身より低い相手へのダメージが10倍になる。また、モンスターに対して与えるダメージが2倍になる。
パッシブスキル 消費MP:0
──────────────────
一つ目のスキルは、具体的な数値・データが並んでいた。
(モンスターへのダメージ2倍.....!これならワンチャンあるぞ.....!)
かなり強そうだ、と少し嬉しくなる。その流れで、もう一つのスキルも読み解く。
──────────────────
職業スキル2.狩猟者の勘.....相手の弱点・ステータスを見ることができる。勘が大幅に発達する。慣れが早い。
ユニークスキル 消費MP:0 効果時間:3600s
使用可能
──────────────────
こちらは、対照的にかなりざっくりとした書き方だった。
(んー、よう分からんな.....ま、いっか!)
ただ、なんとなく強そうだと感じ、効果は理解しきれてないが、
(使用しよっと)
なんとなく、『使用可能』の部分に指を伸ばす。すると、
ティロン♪
という効果音と共に、
《スキル『狩猟者の勘』アクティブモード》
というメッセージが表示された。
何か変わったのか───とモンスターたちを一瞥する。が、
(.....今んとこ変化ないな)
弱点もステータスも、特に何も見えなかった。期待外れだったな、と肩を落とす。
(ま、いつか使えるだろ。多分)
『弱点とステータスを見る』効果を発動出来ることだけ覚えておくことにして、一度『ステータスウィンドウ』を閉じる。
(一応、一つ目のスキルの効果でダメージは上がってるっぽいし.....ワンチャン物理攻撃で倒せるかもしれねぇな。レベルも上がってたし)
レベルアップによって上昇したステータス400ポイントのうち、半分はPOW───いわば物理攻撃力だった。
(.....ま、やるしかねぇってことだな)
思っていた通り、スキルの中にそこまで強力なものは存在しなかったが.....
それでも、黎翔の内には確かに闘志が宿っていた。
(こういう時は、当たって砕けるのが最適解なんだよ.....!!)
両手を握りしめ、顔の前で構えてモンスターたちを睨む。
「グギャギャッ!」
3匹のうち、さっき人を喰っていたヤツがこちらをバカにするように笑った。
「グルルル.....」
「ジュルル.....」
他の二匹も、涎を垂らしながら黎翔を見つめてきた。
「.............っ」
目が合った瞬間、黎翔は全身身震いがした。細く暗い瞳孔に宿る殺意に、身の毛がよだつ。
冷や汗が垂れる。少しだけ足が震えているし、呼吸も心拍も早い。
怖い、そう思う。
でも.....
「......ハハッ」
恐怖の中で、黎翔は、確かに笑っていた。
「グギョォォッ!!」
笑っていたモンスターが、突然雄叫びを上げる。
その瞬間、
「グギャッ!!」
「グォォッ!!」
他の2匹が勢いよく地面を蹴り、黎翔に迫ってきた。
その速度は、さっきのモンスターより更に速かった。人間では到底追いつけないような速度だった。
実際、黎翔も目で追えなかった。一直線に近づいてくる2匹のモンスターの姿を、2筋の光としてしか捉えられなかった。
そのまま、黎翔の目の前まで迫ったモンスターは片腕を振り上げ───
「っ!!」
バッ!
ボコォン!!
その腕は、空を切って地面に激突する。
2本の腕によって、黎翔の立っていた地面は粉々に吹き飛び、コンクリートの破片が辺りに散らばる。
片方の腕は、地面に完全に刺さっていた。かなり本気で殴りに来ていたようだ。
「!?グギャッ!?」
地面に刺さったモンスターは、少し遅れて驚いたように声を上げた。今の一撃で確実に仕留めたと思っていたらしい。
「ハハッ!バカが、んな簡単に喰らうわけねーだろ!!」
言葉が通じないと分かっているが、黎翔ほ全力で煽る。
が、内心では、
(あっぶねぇぇぇぇぇ!!)
正直、かなりドキドキしていた。
というのも、黎翔は攻撃が命中する直前に横に飛び込んで回避したのだが、その際姿は見えていなかったため、完全に直感頼りの賭けだったのだ。
(なるほどな、今のが『狩猟者の勘』か.....!!)
攻撃を受ける直前、黎翔は本能的に危険を察知していた。
そして、黎翔も知らぬうちに身体は動き出していた。完全に直感───というより、むしろ脊髄反射に近いレベルの動きだった。
『勘が大幅に発達する』───その文言の意味を、ようやく理解した。
更に───
(────そうか、これか......!!)
黎翔は、なぜかモンスターの下顎が赤く見えることに気づいた。
ごく小さな範囲であり、それがなんなのか確証は無い。だが......
直感的に理解した。あれが.....
『狩猟者の勘』にある、『弱点』なのだと。
それを理解した瞬間、黎翔は一気に地面を蹴ってモンスターに近づく。
「お前のその硬そうな皮膚.....一撃でブチ抜いてやるよ!!」
そう叫びながら、腕が地面に突き刺さって動けないモンスターに向けて右腕を振り上げる。
「ギィ.....」
モンスターは、刺さっていない左腕で頭部をガードしようとしていた。その分厚い皮膚は、とても素手で撃ち抜ける代物じゃないことは、誰が見ても明白だった。
だが.....
「うおおぉぉぉぉらああああぁぁぁぁっ!!!」
黎翔は、迷わず右腕を振り下ろす。その拳は───
「アッパーァァァァァァ!!」
「!?」
完全にフェイント、振り下ろしかけていた右腕を引き戻し、その勢いで上半身を思いっきり捻り、左腕をモンスターの下顎目掛けて撃ち込む。
正面からの攻撃に備えていたモンスターは、不意の一撃に反応できず.....
バコォォォォン!!
防御の左腕の下から潜り込むようなパンチを、モロに顎に喰らう。
『モンスター相手に2倍』かつ、弱点である顎に向けて渾身の一撃を受けたそのモンスターは......
「ギョッ..........」
顎から頭まで一撃で粉々に吹き飛び、後ろに倒れた。
──────────────────
蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.5
POW:657 DEX:432 DEF:368
INT:0 MP:0 RES:0 Total:1458
職業:狩猟者 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』アクティブ化 3540s
ステータス補正:物理特化
──────────────────




