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黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
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第30話 死と隣り合わせの男

注:今話はグロ要素が含まれてます。苦手な方と15歳未満の方はそっとお閉じ下さい。

「ちょ.....!黎翔、なんてことするのさ!?」

「いや〜、悪ぃ悪ぃ。これくらいしか方法思いつかなかったんでな。お前ならこのくらい大丈夫だろうと思ったからさ」

「んも〜!酷いよ、道徳心どこやったの!?」

「いや〜、悪かったよ」

「お前、あんまり申し訳なく思ってないな!?」


 プンスコと怒る御織に軽く謝罪する。


(いや〜、上手くいってよかったぜ)


 黎翔は、内心かなりドキドキだった。今なお心臓の鼓動が速く強いままな程緊張していた。


(最初に出会ったモンスター.....俺を追いかけてビルとビルの間に挟まるくらいの勢いで突っ込んできてたからな。やっぱり知能はかなり低めだと見て間違いないな)


 過去の記憶から推理し、最適解を導き出す。理想的な戦い方が出来て、少しだけ得意になった。

 対して不服そうな御織は、わざとらしく頬を膨らませ、恨めしそうな視線を向けていた。


「はぁ......今回はしてやられたけど、次はもう手出さないからねっ!!」

「あぁ、わか.....ん?次?」


 黎翔は適当に返事しようとして、途中で違和感に気づいた。


(今次って言った?ていうか.....『ソルクティス』終わってないんだけど?)


 未だに紫色の空を見上げる。そして、再び嫌な予感は募る。


「あのー、今のって『ボス』じゃない感じのヤツだったりします?」

「そりゃそーだよ!あんな弱いわけないじゃん!雑魚1匹倒した程度じゃ、攻略は終わらないよ!」


 『ボス』を倒さなければ『ソルクティス』は終わらない。即ち、黎翔の攻略もまだ終わっていない。


 その事実は、得意になって伸び始めていた黎翔の鼻を、見事に根元から叩き折った。


「グギョォォォォッ!!」

「っ!?」


 がくりと肩を落とす黎翔の耳に、再びモンスターの声が届く。

 声の方を向くと.....


「グルルルルル.....」

「ジュル.....」

「グギャッ!グギャッ!」


 さっきと同じくらいの小さいモンスターが.....3匹、立っていた。

 しかも、そのうちの1匹は.....


「グギャギャッ!!」


 グチャッ、グチャッ

 ミチミチッ!


「......は?え、は??」


 邪悪に嗤いながら、人間らしきものを貪っていた。

 肉が引きちぎれる音が、骨を喰らう音が、血と涎の混じる粘性の赤い液体が落ちる音が.....不快な音が、耳を突く。


 既に身体の殆どは喰われたらしく、原型は見当たらない。ただ、モンスターの両手に握られているのは間違いなく人間の手と足だった。赤い肉と白い骨が剥き出しで、ボロボロの断面からして引きちぎられたように見える。


 その様を、黎翔は目を見開いて眺めるしかできなかった。助ける方法が.....その名誉を守る方法が見つからなかった。


「.....あぁ、まだ残ってたんだ。見逃してたのかな」

「え.....?」


 御織は、この状況で尚平静を保っていた。辺りをキョロキョロとよそ見しながら、平然とした態度でそう言った。


「なん.....お前、え.....?」

「せっかくアタシが避難勧告出したのに.....なんでいるのかなぁ」

「御織.....?」

「ん?どした?」


 震える声で、御織に話しかける。


「お前.....なんでそんな、普通なんだ.....?」

「?というと?」

「だって.....目の前で人が死んだんだぞ.....?」

「そうだね、死んだね。それがどうかした?」

「......っ!!テメェッ!!」


 黎翔は、御織の「普通さ」に怒りを覚えた。

 両手で強く胸ぐらを掴み、全力で睨む。


「お前は.....!なんでこんな時まで普通なんだよ!!あの人は、お前が真面目にやってりゃ助けられてた命だろうが!!それを見過ごして、挙句反省も無しだと?ふざけんな!命を粗末に扱うんじゃねぇッ!!」


 脳に次々浮かぶ言葉を、怒りを、全力で御織にぶつける。


 黎翔は、誰よりも命を大切にしたいと願っていた。猟師として幾つもの命を奪ってきた家系にあるからこそ、黎翔はその命の重さを知っていたし、大切にしなければならないと教わってきた。


 だが.....御織は、それを聞いてなお動じる気配はなかった。


「うん、そうだね。そうかも」

「......っ!!なら───」

「でも、アタシは反省する気はないよ」

「はっ?」


 胸ぐらを掴まれたまま、ぬけぬけとそう言い放った。


「だって、アタシはちゃんと避難勧告したんだよ?ここら一帯立ち入り禁止にして、誰も巻き込まないようにしてた。それを破ったのは彼だもん」

「でも!」


 更に食いつこうとする黎翔の声を遮るように、御織は少しだけ声を張る。


「救ってられないんだよ.....!アタシの手は小さいし、アナタの手も小さい。この巨大な災禍の前で、アタシだけの力で全てを救うなんて出来っこないんだよ.....っ!!」

「........っ!!」


 眉間に皺を寄せ、ギュッと両手を握る御織の姿は、とても苦しそうだった。


「アナタはよく知ってるはずだよね、『死』について。少なくとも、アタシよりかはね」

「......?」

「本来、人間は大量の血を見たり大怪我してる人を見たり───ひいては『死』を目にした時、底知れぬ狂気に犯される。それだけで発狂して、防御反応で意識が飛ぶ場合だってある。今の光景は、正しくそれに該当する」


 御織は、黎翔の両腕に手を置き、少しだけ力を入れる。


「アタシはあの光景を幾度となく目の当たりにしてきた!アタシの手からこぼれた命の散り際を、罪悪感と共に何度も何度も!!」


 ここに来て初めて、御織は激しい感情を露わにする。

 目に涙を浮かべ、黎翔の腕に置かれた両手に力を込める。


「それでも.....まだ、アタシは慣れることができない。今も吐きそうで仕方なくて、まっすぐ見つめることが出来ない......!!あの音だけで、場面を想像するだけで......アタシは、アタシは......っ」


 大粒の涙を零しながら、彼女はそう言った。

 それを聞いて思い出す。そういえば.....


 彼女は一度たりとも、あの光景を見てなかったな、と。


(そうか、さっきまでの平然とした態度、あれは.....全部、強がりだったんだ)


 今まで何度も目にしてきた、少女の強がり。

 わざと明るく振舞おうとする彼女の優しさに、今に至るまで気づけなかった自分の愚かさを恨む。


「───でも、アナタは違うでしょ?」

「え?」


 御織が、ふと低く小さな声を零す。


「アナタがあの時感じた感情は、さっき言ったどれにも当てはまらない───『怒り』だった」

「っ!?」


 突然、あまりにも恐ろしい声色でそう言われる。


「アナタは猟師として幾つもの命の散り際を目にし、幾度も命に直に触れた。その過程で、アナタは『死』に慣れてしまった。だから、アレを見ても何も反応せず、冷酷に思考した。一般人が抱くはずの恐怖や狂気を感じず、アタシを苦しめる後悔と懺悔も無視して、『命が失われた事実』だけを認識した。アタシから見たら、アナタの方が余程冷たくて異常だよ」

「..........っ!!」


 御織は、低く冷たい声でそう言った。


(.....そうだ。俺は確かに、あの時.....死んだ人のことじゃなくて、命が失われたことに怒った。そして、死んだ理由を探して.....そのまま、御織のせいだって、考えたんだ)


 過去の自分の思考回路の冷酷さに、今初めて気づく。


(俺は.....無意識のうちに、命を軽んじてたんだな.....)


 己の愚かさに後悔し、御織の胸ぐらを掴んでいた両手から力が抜ける。

 御織は、崩れた襟元を直す。そして、


「命は等価であるべきだけど、命が等価であることは出来ない。救える命に限りがある以上、救えない命は割り切らなきゃいけない。理不尽に満ちたこの世界では、普遍的に知られた常識だよ」


 涙を拭いながら、御織はハッキリと黎翔に伝えた。


「アタシにはそれが出来なかった。どうやっても命を諦めきれなかった。でも......」


 ふと視線を上げ、真っ直ぐな瞳で黎翔を射抜く。


「アナタには、それが出来るはず」

「.........っ!!」


 力強く、ハッキリとした言葉だった。


(.....そうか、そうなのか。御織は、俺を本当に信頼してるんだ)


 何故自分を助けたのか?何故自分のワガママを許してくれたのか?何故自分を殺す気で鍛えようとしてくれていたのか?


 その問の答えが、今の御織の言葉に詰まっていた。


「.....ごめん。俺が甘かった」


 ここまでの自分の無礼を理解し、頭を下げる。


「謝罪は受け付けてない。行動で示しなさい」


 御織の言葉はとても厳しかった。黎翔を突き放すように、冷たくそう答えた。

 だが.....黎翔には分かっている。それも全て優しさなんだ、と。


「分かりました、先生」


 黎翔もあえて冷たい無機質な反応を返す。すると、


「分かればよろしい」


 御織は、ようやく少しだけ笑ってくれた。


「それじゃ.....あとは分かってるよね?」

「当然だ。俺が......」


 御織に背を向け、モンスターたちの方に身体を向ける。


「アイツらを、ブチ殺す」


 強い決意と恨みを込めて、そう告げた。

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