第27話 命懸けの小競り合い
「これより、蒼井黎翔の処遇を決める投票を行う」
聖がそう宣言すると同時に、泰輔が発言する。
「ワシはソイツの実験利用に賛成する」
ブレることのないその意思に、黎翔は少しだけイラッとした。
(アイツとはあんまり関わりたくないな)
面倒なタイプだ.....と直感的に悟る。
さらに、泰輔に続いて、
「俺も同意だ」
「小生も.....」
「鳴花は黎翔オモチャにするー!」
頼、厳吏、鳴花も、泰輔に同調した。
(もう4人が敵.....)
既に『花被片騎士』の過半数である4人が黎翔の実験利用に賛成し、黎翔の運命がほぼ確定する。
(クソ、もう無理じゃねぇか.....)
自身の決意をものの見事に打ち砕かれ、泣きたい気分になる。下を向き、悔しさを両手に込めて握りしめる。
だが、今なお黎翔の死を諦めない者もいた。
「僕は反対だ。黎翔は正式な団員として扱うべきだと主張する」
「私も団長に賛成する」
聖と星恋は、まだその瞳に希望を抱きながらそう言った。
「2人とも.....」
「まだ諦めないで、黎翔。きっと大丈夫だから」
励ますように聖がそう言う。
さらに、御織も口を開こうとする。
「アタシは.....」
「御織、お前には聞いとらん。『花被片騎士』じゃないモンは黙っとれ」
が、それを即座に泰輔が制した。
「いやいや、アタシは最初から投票に参加する気はないよ。ただ、立会人になろうと思って」
「立会人.....?」
御織は、比較的明るいテンションでそう言った。
「『花被片騎士』の投票で物事を決める時は、立会人が必要なの。公正な立場でその投票を判断して、最終的な決断を下す立会人がね」
「公正な立場.....」
その言葉を聞き、黎翔が何かを言う前に即座に泰輔が口を開いた。
「そうじゃな、公正な立会人が必要じゃな。その点で言えば、お前は公正からかけ離れておるのではないか?」
黎翔は、全く同じ意見を持った。
(俺を庇おうとしてくれたんだろうが.....流石に無理ある提案なんじゃ?)
自信満々な泰輔と不安な面持ちの黎翔を見て、御織はクスリと笑う。
「そうだね、アタシは公正か微妙な立場だね」
「微妙じゃない。確実に、じゃ」
「ていうわけで!アタシが立会人として公正かどうか判断してもらおうかな───団長、聖に!」
「「「「..........!!」」」」
御織は、元気にそう宣言する。それを聞いた『花被片騎士』の4人は、「しまった」とでも言いたげに目を見開いていた。
「どういうことだ.....!?」
「黎翔は思わなかった?『花被片騎士』全員の投票をして、多数決で国の方針とかみたいなチョー大事な物事を決定する場合、団長の権限も他の『花被片騎士』と等価ってのはさすがに弱すぎないか?って。その問題を解消するために、立会人の決定権は団長にしかないんだ〜!」
楽しげに説明する御織を見て、再び希望が湧き上がる。が、
「.....御織は、立会人として公正だと判断する。したがって、今回の投票は御織を立会人として行う。投票整理と同数投票時の決定権を彼女に委任しよう」
「チィ、小癪な.....」
聖がそう宣言したことで、黎翔は少しだけ瞳に光を戻す。対して、泰輔は悔しそうに舌打ちしていた。
「まーまー泰輔さん、落ち着きなよ。アタシはちゃ〜んと公正に判断するからさ!」
「信用ならん!」
「まぁ落ち着け泰輔。この決定は覆らんし、御織もきっと正しい判断を下すだろう!」
苛立ちを表に出す泰輔を頼が宥める。それを見て、より煩わしそうにしていた。
「さて!そんじゃここまでの投票を整理すると〜」
手の指を折り、数える仕草をする。そして、
「現在、黎翔の入団が2票、実験が3票───」
「待たんかーっ!!明らかな不正じゃわっ!!」
「わぁ、おっきい声〜!」
御織が、票数を明らかに虚偽申告したため、即座に泰輔が止めに入る。
これには黎翔もさすがに驚き、
「堂々としすぎじゃね?」
と声を漏らしてしまった。
「も〜、不正じゃないってば。聖と森さんが入団でしょ?で、頼さんと厳吏と泰輔さんが実験。ホラ、合ってるじゃん!」
「鳴花の分があるじゃろうがっ!!」
御織が面倒くさそうに虚偽申告の内容を説明し、泰輔がしっかりツッコミを入れる。
(なんで行けると思った???)
と疑問に思うレベルの公開だった。
が、御織はため息をつきながら続けた。
「いや、鳴花は実験利用じゃないでしょ」
「え?」
「は?何を言って───」
「鳴花の投票先は実験じゃなくて隷属だよ?言ったじゃん、『オモチャ《どれい》にする』って」
「「.........っ!!」」
そういえば、と黎翔も思い出した。鳴花は一度も実験利用を明確に伝えたわけではなかった、と。
「それは、アレじゃ!言葉の綾というか───」
「アタシが立会人なので投票先の解釈はアタシにしかできませ〜ん!」
「なっ.....!このクソガキが!!」
「落ち着け泰輔、暴れても意味はない」
御織が煽り、泰輔が拳を振りかざし、頼が制止する。
意外と御織ってやり手だな.....と黎翔は感心した。聖も満足そうに笑っている。
「鳴花、間違えちゃった.....?」
「なっ!?い、いや、それは.....」
鳴花が涙目でそう言うと、泰輔は急にモゴモゴと言い訳しようとした。が、
「鳴花は間違えてないよ。だから安心して!」
「そっか!御織姉がそう言うんなら大丈夫だねっ!」
御織が先に会話に割り込み、片付けてしまった。狡いな.....と、感心を通り越して若干呆れ始める。
(でも、おかげでギリギリ助かったな)
残る一人が黎翔の味方をしてくれれば、一旦実験は回避できるかもしれない。そんな希望をいだき始める。が、
「でもこれ、最大でも同数票にしかならなくね?その場合どうすんの?」
現状、入団が2票、実験が3票。そして残る『花被片騎士』は一人。
つまり、どう頑張っても同数票にしかならないのだ。
「その場合は御織が───立会人が投票することになっているよ」
「そゆこと〜!あくまで公正にね、公正に」
「ウソつけ!!」
それを聞き、黎翔は安心した。
あと一票稼げれば.....それで、黎翔は勝てるのだから。
「てなわけで、残る投票権はあと一人!だよね───副団長?」
御織はそう言いながら、部屋の入口の方を見る。
そこには、タブレット端末を慣れた手つきで操作する副団長───錯羅の姿があった。
(......!!そうか、ラスト1票はこの人か.....)
ラスト一票が、あの冷酷そうな副団長だと理解し、再び絶望しそうになる。
が.....
「副団長はどうするのかな?」
やけに笑顔で、一ミリも警戒心のない御織を見て、その不安が少しだけ和らいだ気がした。
それだけじゃない。
「フッ.....」
隣にいる聖も、余裕そうに笑顔を浮かべていた。
なんで自信満々なのかはともかく、なにか策があるのは明白だった。だから、黙って事の顛末を見届けることにした。
「さぁ、投票してもらおうか!」
「...........」
副団長は、タブレットから目を離すことなく沈黙を貫いた。
黎翔の心臓がドクドクと音を立てる。冷や汗が頬を伝う。
(緊張するから早くしてくれ.....!!)
人生最大の分かれ道を前に、黎翔は緊張で死にそうになっていた。
数秒間、タブレットを叩く音だけが鳴り響く。そして.....
錯羅が手を止め、顔を上げる。
「.......私は」
時間が止まったようだった。ゆっくりと、その先の言葉が聞こえた。
「彼の入団に賛成します」
「............!!っしゃぁ......!!」
ハッキリと放たれたその言葉を聞き、黎翔はその場で両手ガッツポーズを決めた。
「んじゃ、投票結果は.....入団3票、実験3票、隷属1票。同数のトコがあるんで立会人のアタシが最後の一票を〜〜〜......入団に入れまーす!てなわけで〜、黎翔の処遇は『水仙騎士団』入団で決定で〜す!」
御織が明るく宣言し.....
この瞬間、黎翔の命運は確定した。




