第24話 蒼井黎翔の『ステータス』
足元から溢れた光は、すぐに収まった。
同時に魔法陣も消え、床はただの無機質なコンクリートの灰色だけが広がる。
「.....え、終わった?」
魔法が終わった───はずなのに、黎翔の身体には全く変化が感じられなかった。
「終了だよ。お疲れ様、黎翔」
「黎翔、身体に問題とかない?」
聖は労いの言葉をかけ、御織は即座に心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫。というか、大丈夫すぎる」
「そっかそっか、そりゃ良かったよ」
安心したように明るく御織はそう言った。
「え、なんか何も変化無いんだけど.....」
不安になって聞くと、聖が笑いながら答えてくれた。
「安心して。どんな人でもそうだから」
「おぉ、よかった」
自分がおかしいわけではないと分かり、少し安堵する。
同時に.....
(.....もう、後には退けない)
本当に自分の存在が、1000年前から抹消されてしまったのだと判明し.....若干の後悔を感じた。が、
(なんか.....逆に吹っ切れた気がするな。肩の荷が下りたっつーか)
元の時代に戻る───黎翔が抱える一つの目的が消滅したことで、視界が晴れたような澄み渡った気分でもあった。
「それじゃ、お楽しみの『ステータス』確認タイムと行こうじゃん?」
「だね」
黎翔が一人考え事をしていると、聖と御織がそう言った。
「どうやって確認するんだ?」
「簡単だよ!『ステータスウィンドウ・オープン』って祈れば出て来るから!」
「原理が謎すぎるが、まぁ分かった」
黎翔は難しいことは考えず、言われた通りに
(『ステータスウィンドウ・オープン』)
と心の中で念じる。
次の瞬間───
ヴン
「のわぁ!?」
目の前に、青く薄い板のようなものが出現する。
縦長の長方形の板には、文字やら数字やらが規則正しく並んでいた。黎翔には、パッと見では理解出来そうになかった。
「見えた?」
「あ、あぁ」
困惑しながら、肯定する。
「じゃあ.....えっとね、それの上の方に『ID』っていう欄ない?」
「えっと.....」
そう言われて一番上を見ると、右端に確かに『ID』という文字と、それに続く長い数字の羅列があった。
「あったぞ。『137438691328』って書いてある」
「なげ.....聖、覚えた?」
「もちろんだよ」
「さすが。絶妙にキモいね」
「悪口だねぇ」
数字を伝えると、聖が手のひらの上に小さな魔法陣を出現させ、御織に罵倒されても手を止めることなく何かを念じていた。
数秒後.....
キィン───
手の中の魔法陣が消え、一枚の名刺くらいのサイズの板が出現する。
「なんだ?それ」
「詳細は省くけど.....簡単に言えば、これは黎翔専用の『ステータスカード』。キミの『ステータス』の全てが記載されているとても大事なものだ」
「おぉ.....!!」
黎翔は、ついに自分の『ステータス』が分かるという事実に心を踊らせる。
「さて、それじゃ確認しようか」
「おう、そうだな」
「アタシも見る見る〜!」
3人で、聖の手の中にある小さなカードを覗き込む。
そこに書いてあった内容は.....
──────────────────
蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.1
POW:57 DEX:32 DEF:68
INT:0 MP:0 RES:0 Total:158
──────────────────
.....この通りだった。
(御織にチュートリアルで聞いたのと同じ内容だな)
さっき御織から習った内容を思い出し、それぞれの英語が指し示す意味を思い出す。
そして.....気付く。
(.....下3つって、全部魔法関連だよな?綺麗に0なんだけど.....)
御織が言っていたことが事実なら、多分そうだよな.....と思考し、疑問に思う。
どことなく、嫌な予感がした。
(.....分からん、まだ分からんから。一旦2人に聞こう、そうしよう)
すぐに隣にいる2人に質問する。
「なぁ、なんで魔法系の『ステータス』全部0なんだ?そういうもんなのか?」
恐る恐るそう聞くと.....二人はしばらく顔を見合わせた後、少し気まずそうに答えた。
「えぇ〜っとですねぇ.....本来、他の『ステータス』は0のことがたま〜にあるんですよ。赤ちゃんとか、おじいちゃんとか」
「だが.....魔法系の『ステータス』は、万人がある程度持ち合わせているはずなんだ。産まれたての赤ちゃんも、僅かにINTを備えているくらいだし」
それを聞き、猛烈に嫌な予感が増大した。
「....えっと、それってつまり.....」
「まだハッキリとは言えない。言えないが.....」
「黎翔、もしかしたら魔法使えないかも.....」
.....嫌な予感は的中する。いつもどんな時も、それだけは変わらない。
そして、当然のように今回も的中してしまった。
(そんなことある?)
黎翔は、最早絶望を通り越して放心状態にあった。何も考えたくなかった。
それを見て、御織は必死に慰めようとする。
「ま、まだ分かんない!もしかしたら使えるかもだしさ、ね?もし今すぐ魔法使えなくても、頑張ったら使えるようになるはずだからっ!」
「そ、そうだよ黎翔。まだ落ち込むには早い。だから、その.....うん。元気出してくれないかな?」
必死に励ます御織と、若干憐れみの視線を向ける聖に慰められ、黎翔は余計悲しくなった。
そして、その悲しみは徐々に怒りに転ずる。
「こ.......」
「「こ??」」
「こんな理不尽.....許せるかよおおぉぉぉぉっ!!」
バチィン!
ヤケクソで、聖の手にあった紙切れを全力で叩き落とす。
「もうダメだ。俺は死ぬんだ.....」
直後、またも悲しみが込み上げ、その場に座り込む。
「れ、黎翔.....」
それを見て、御織までもが憐れみの視線を向けてきた。黎翔は死にたくなり、更に小さくなる。
「なんだか可哀想になってきたね.....」
「珍しくアタシも同意かも.....」
聖は、そう言いながら、叩き落とされた紙切れを拾い上げ.....
途中で、何故か固まった。
「?どした、聖?」
それを見た御織も、紙切れを覗き込む。直後、
「えぇっ!?」
という大きい声が聞こえてきた。
「なんだよ、うるせぇな.....」
と黎翔は呟きつつ、ノソノソと立ち上がって聖の手元の紙切れを覗き込む。
二人が見ていたのは、どうやら裏面のようだった。さっきとは別の内容が書かれていた。
(なになに.....?)
そこには、いくつかの文字が樹形図のようなものと一緒に書いてあった。その文字は.....
「えっと、『職業:狩猟者』?」
『職業』という知らない単語に、黎翔は困惑する。
チラリと二人を見ると、またも顔を見合わせていた。が、今回はさっきの気まずそうな空気感とは違い.....
驚いて固まっている、そんな様子だった。
「なぁ、これなんなん───」
なんなんだ、と言い切る前に、声を被せられる。
「「黎翔!キミ、多分相当強いよ!!」」
「え??」
二人して声を揃えてそう言われ、黎翔は余計に困惑することになった。




