第20話 最強と最狂の本気の喧嘩・後編
「ぶはははははははっ!最強などと名乗っておったが所詮は小娘じゃな!」
「ふむ、少し深く斬りすぎてしまったな。大丈夫か、御織?」
「気にしちゃダメですよぉ、司令。コイツ、ずっと言うこと聞きませんしぃ.....」
「でも痛そうだよ?大丈夫かなぁ」
『花被片騎士』の4人は、頼と厳吏の攻撃で座り込む御織のもとへ近寄る。
「はぁ、はぁ.....っ!!せやぁっ!!」
ビュッ!
4人が近寄ってくるのを見るやいなや、御織は即座に頼に対して右拳を突き出す。が.....
「おっと」
パシっ
「まだ抵抗するか。ならば.....」
「......っ!!」
グンッ、ドカァン!
「かはっ!!」
頼は右拳を掴んだまま、綺麗に上手投げを決めた。地面に叩きつけられた御織は、そのまま仰向けに倒れる。
が、すぐに上半身を起こし、その勢いのまま頼に再び頼に右手を伸ばす。
「はぁっ!」
「ははっ、いい根性だな!」
パシっ
「だが、君では俺に勝てないだろう」
ビュッ、ドゴッ!
「がぁ..........!!」
伸ばされた右拳を躱した頼は、そのまま御織の腹に一撃、お返しの右拳を差し出した。
綺麗に腹に入った御織は、そのまま腹を抑えて倒れ伏す。
(御織.....っ!!)
黎翔は、倒れたままどんどん傷口から血が流れ落ちる御織を見ていられず、近寄ろうと立ち上がる。
が.....
「動くな!!」
「っ!?」
それを察した御織が、大声で制止する。
「でも!」
「動かなくていい。私のことは気にしないでいいから」
黎翔が命令に抗議しようとするも、すぐさま遮られる。
(いいわけねぇだろ.....っ!!)
黎翔は、拳をギュッと握り締める。
もう、見ていられなかった。このまま彼女が傷つく光景を。
目の前で、真っ白な服がどんどん赤く染まる。額には汗をびっしりかき、呼吸も荒い。小さなその身体は、小刻みに震えていた。
(なにが心配しなくていい、だ。そんなに痛そうなのに.....!!)
心配そうに御織を眺める。が、御織から拒絶される以上、自身の介入は出来ないことも理解する。
(俺は.....なんで俺は、なにもできないんだよ.....!)
今更ながら、自身がこの世界に適応できない弱者であることを悔やむ。「もし自分も戦えたら」、と。
「黎翔、もしあなたが動いたら、アタシの努力が全部無駄になる。だからお願い.....今は大人しくしてて」
息も絶え絶えに、御織はそう言った。黎翔はどうすることもできず、その場に立ち尽くす。
聖はその様子を見て、優しく笑う。
「そうだな.....ではこうしようか。頼」
「うむ」
チャキッ
一言指示された頼は、脱力していた御織の左腕を掴んで身体を無理やり起こさせる。そして、腰に差していた剣を抜き────
御織の首に当てた。
「!?何してんだ!!」
「黎翔、君が僕の指示に従うなら、御織を治療してあげる。でも、もし君が従わないなら......」
「.........っ!」
そこまで言うのを聞き、頼は僅かに剣を押し込み、御織の首の皮を斬る。
切れた所からは一筋の血が滴り落ち、御織の服に赤いシミを増やす。
「この部屋は、御織の血で満たされるだろうね!」
再び邪悪な笑みを浮かべながら、聖はそう宣言した。
(.....そんなもん、一択だろうが)
黎翔は鋭い目つきで聖を睨み、口を開こうとした。
「わかっ───」
わかった、と言いきる前に、その言葉は遮られる。
「黎翔、アタシがさっきなんて言ったか覚えてるかな?」
「......!?」
遮ったのは、やはり御織だった。
左手首からだらだらと流れ、右肩の部分がどんどん血塗れになっているにも関わらず.....
黎翔に話しかける御織は、笑っていた。
「おま、なんで.....」
「黎翔、さっき言ってくれたよね?『アタシに恩を返すために戦う』って」
「.........!!」
それは、星恋に質問された時、黎翔が答えたことだった。
黎翔はそこまで真剣に話していなかったため、まさか覚えられているとは思わず、少しだけ恥ずかしく思った。
「だ、だからなんだよ!お前に恩を返すために、俺は.....」
「じゃ、恩が───『借り』がある相手に従うべきじゃない?自分を騙した、『貸し』がある相手じゃなくてさ」
「...........!!」
御織は、初めて出会った時のような明るい調子で話し始めた。それを見て、思わず少し安心してしまう。
「信じて、黎翔。アタシは絶対勝つから」
ニコリと、可憐な笑顔を見せる。黎翔はこんな状況にも関わらず、ドキッとしてしまった。
「わ、わかった!信じるからな、御織!.....まそういうことだからよ、俺はお前の命令には従わないよ、聖」
照れ隠しのように早口で御織との会話を切り上げ、聖に向かってそう宣言する。
聖は少し苛立ちを感じたように舌打ちしたのち、
「頼」
「うむ。すまんな御織、団長命令だ」
頼に一言、指示を出す。
『殺せ』という意図が込められた指示を。
(御織、信じてるからな......っ!!)
黎翔は心の底からそう願った。何をするのかは知らないが。
だが.....不思議と黎翔は、不安は感じていなかった。なぜなら.....
御織が、自信満々な笑顔を浮かべていたから。
「団長、本当に殺していいのだな?」
「あぁ。惜しいが仕方ない。黎翔さえいれば恐らく───」
頼と聖は、短いやり取りを行う。そのやり取りが終わる前に───
カンッ!
固いものがぶつかったような音が、部屋全体に響き渡る。
「「「.........!?」」」
その音を聞いた瞬間───その場の全員の表情が一変した。
黎翔は戸惑うように辺りを見渡し、『花被片騎士』たちは目を見開いて驚き、聖は焦ったように何かを口にしようとし。
そして、御織は───
「にはっ☆」
満面に、邪悪な笑みを浮かべた。
「頼、早く斬───」
「『重力魔法・アンチグラヴィティア』☆」
聖が焦って言葉を紡ぎ切る前に、御織が楽しげに魔法を詠唱する。
刹那─────
グンッ───ドゴォォォン!!
「がはっ!!」
御織の首に剣を当てていた頼の身体が、一瞬で壁に吹き飛ばされる。
「チィッ!!」
それを見た『花被片騎士』は、全員臨戦態勢に入る。だが.....
「『精密重力魔法───ブラックボール』」
御織がそう呟くと、周囲に複数の黒い球体が浮かぶ。
それを見るやいなや、
「まずいっ!!」
「な、なにあれ!?」
「あぁもう、だから小生はやりたくなかったんですよぉっ!!」
攻撃を諦めて咄嗟に逃げの体制に入る。
「逃がさないよ」
御織がそう言うと、拳大の無数の球体はバラバラに逃げようとした3人に襲いかかる。そして───
ドゴォォォン!
「ぐわぁぉぁっ!」
「あがっ!?」
「きゃああぁっ!!」
3人の体に命中するやいなや、漆黒の光を撒き散らしながら爆散した。
小規模ではあったが、爆撃を受けた3人は、壁、床、天井にめり込んでいた。
「くっ.....!『神聖魔法・クリナヴィア』!」
聖はさっきまでの笑顔や余裕を失い、焦ったように魔法陣を召喚する。
が.....
「勝てるわけないでしょ」
ドゴォォォンッ!!
「がはっ.....!!」
魔法陣から魔法が放たれる前に、御織は残っていた黒い塊で聖を地面に埋めた。
「ハイ、終わり」
「.........っ!!」
『カンッ!』という音が聞こえてから、約13秒。
御織は、一瞬にして敵対していた5人全員を戦闘不能に追い込んだ。




