第21話 勝者の余裕と少女の悩み
「いやぁ〜、魔法が無いと弱い〜とか、最強の割に弱すぎ〜とか散々言ってくれたけど.....スキル無かったらキミたちも雑魚だったね!にははっ☆」
その場に倒れ伏す聖に向けて、御織は悪意100%の煽りを投げかける。
未だ重力を掛けられ、地面にめり込みかけている聖は、身を捩りながら御織を見上げていた。
「相変わらず、魔法だけは勝てそうに無いな.....っ!」
「でしょでしょ〜?アタシの最大の取り柄だもん!」
「ちなみに、これを解いてくれたりは.....」
「するとでも思う?」
「ま、そう言うと思っていたよ」
二人は気楽な調子でそうやり取りしていた。第三者から見たら、ついさっきまで殺し合いをしていたとは思えぬ光景だった。
「..........はっ!」
目の前で行われた蹂躙劇と、そこからの今のほのぼのとした(と言っていいのかは微妙なところだが)光景との落差に呆然としていた黎翔は、不意に我に返って御織に駆け寄る。
「御織!」
「ん?どした〜、黎翔?アタシのカッコ良さにホレちまったのかい?」
その場で仰け反り、ドヤ顔を見せつける御織をガン無視し、黎翔は焦った様子で声をかける。
「早く傷どうにかしないと、出血が.....」
黎翔は今も血がダラダラとこぼれ落ちる、全身の切り傷を見ながらそう言った。
そんな黎翔とは対照的に、明るく御織は
「あぁ、大丈夫大丈夫!」
と言った。黎翔は
(なにがだよ!!!)
と思いつつ、何か出来ないかとその場でキョロキョロする。
「心配性だな〜、黎翔は。まぁ見てなよ」
「え?何を───」
御織の呆れたような声を聞いて振り向くと.....
「『重力魔法・グラヴィティア』!」
「ちょっ、御織!?」
御織は、突然その場で魔法を唱えた。
攻撃されると思った黎翔は咄嗟に身構える。
が、3秒程しても魔法は放たれなかった。ただ、御織の手の中に紫の光が浮かんだだけで。
「ジャーン!ほら、すごいでしょっ!」
「え─────っ!?!?」
黎翔が身構える中、御織は突然スカートを捲し上げた。
(うわあああああああああああああ!?!?!?なんでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?)
あまりにも急な出来事に、黎翔は真っ赤になった顔を背けた。
が、御織は黎翔を気にすることなく楽しげに話す。
「アタシの重力魔法を使えば、傷口を塞いで止血するくらい楽勝なんだから!ほら、この素晴らしい神業を褒め称えて!」
「え?」
それを聞いて、黎翔は御織の方を見る。
ドヤ顔でふんぞり返る御織の脚には、血が流れた跡は残っていた。が、さっきナイフで刺されたはずの箇所を見ると、既に傷は塞がり血も止まっていた。まだ傷跡はくっきり残っているが。
「肩も手首も止血は終わってるよ。だから安心しな、黎翔!」
「お、おぅ.....」
「ん?なんか歯切れ悪いね。どした、油切れ?」
「違ぇよ。ただ.....その、悪かったなって」
「?ようわからんが、まぁいいや」
黎翔は、内心申し訳ない気持ちでいっぱいだった。さっき御織がスカートを捲った時、
(急に変態が現れた!?)
と思ってしまったからだ。
ホントごめん、と心の中で謝罪しつつ、そう思ってしまったことは墓まで持っていこうと誓ったのだった。
「さて.....と。後始末といきますかね」
御織はそう言い、再び地面で寝ている聖に視点を落とす。
「その前に、御織?」
「ん?なにかな、大人数でよってたかって可愛い女の子イジメたクセにボロ負けして地面に埋まってる白い悪魔さん?」
「酷い言い様だねぇ」
随分と機嫌良さげな御織は、聖を全力で罵倒した。聖は大して意に介さず、話を続ける。
「さっきのはどういうことかな?」
「なにが?」
「僕のスキルが.....『魔法無効化』が急に解けたんだけど。あれができる人間は......」
「あぁ、それね。多分想像通りだと思うよ?」
聖と御織は、数少ない言葉だけでスムーズにやり取りを交わしていた。そのせいで、黎翔は一つも理解することができないまま話が進んでいき、ただ呆然と二人を眺めるしかなかった。
「......まさか、彼女がそちら側とは」
「知らなかったんだ?一番の側近と言っても過言じゃないのに、怠慢だねぇ〜」
「無茶を言う。多分、今の今まで味方では無かったんだろう?さしずめ、星恋が説得したってところかな?」
「お、あったり〜」
聖は地面に埋まっていながらも、かなり余裕そうな態度で御織と話す。御織は御織で、なんの警戒心もなく聖と話していた。
「ま、感想戦はもういいでしょ?そろそろ帰りたいんだけど」
「.....それについては、敗けた僕は何も言えないな。好きにしていいよ」
「いぇい!てなわけで.....黎翔〜!帰るよ〜!」
「え、急に!?」
欠片も話を理解していないにもかかわらず、突然呼び出されて若干困惑する。
「帰るってなんだ?なんの話だよ?」
「言葉通りだよ。家に帰るの」
「帰れるのか!?」
『家に帰る』────もう既に不可能だと割り切っていた選択肢を与えられ、黎翔は内心飛び跳ねたい気持ちになった。だが.....
「あっ.....ごめん、勘違いさせちゃったカモ」
「え?」
「家っていうのはね、キミの時代のじゃなくて.....この時代の、キミの仮住まい的な場所のことで.....」
「あ、あぁ.......」
黎翔の期待はすぐに破り捨てられ、即座に絶望する。
「ごっ、ごめんね!アタシの言葉足らずで。一応この世界では不自由なく暮らせるように頑張るからさ、元気出してほしいなぁ〜!」
御織が必死に取り繕ってくれたのを見て、黎翔は失望を頑張って抑え込もうと作り笑いをする。
御織は御織で、相当気まずそうだった。自分の失言の重さを理解しているようだった。
「黎翔はさ、とっても理不尽な目に遭ったわけじゃん?それも、アタシたちのせいで。だから、アタシは黎翔には幸せになってもらうべきだと思うの!」
御織は明るく笑顔で、どこか黎翔を励ますかのように話す。さっきと同じ、自身の動揺を覆い隠すかのような、わざとらしい明るさで。
「黎翔、これからはアタシがアナタを守るからねっ!絶対危ない目には遭わないから!安心して!お金もいっぱいあるから、なにも気にしなくても大丈夫だし、執事さんとかもつけるつもりだからっ!」
「...........そう、か」
新婚生活を想像するみたいなテンションで、今後の黎翔の生活について理想を語ってくれた。
そんな御織の心からの優しさを感じ取り、黎翔はとても嬉しく思った。だが.....
黎翔の表情は、どこか暗いままだった。黎翔自身は無自覚だったが。
「.....ダメ、かな?」
「ん?なにがだ?」
「これじゃ足りないかな、キミの理不尽の代償は」
黎翔の暗い表情を見た御織は、突然自信なさげに声を落とした。黎翔はそれにビックリする。
「ホントはね、アナタを1000年前に帰してあげたい。でも、今のアタシたちには無理で.....だから、どうにかしてアタシが罪を償いたいの。でも、こんなんじゃ足りない、よね。ごめん」
さっきまでの明るい態度は一瞬で消え去り、御織は静かに頭を下げる。
それを見て、黎翔は慌てて御織に返事を返す。
「ごっ、ごめん!不満な感じに見えたよな、スマン。別に御織の言葉が嬉しくなかったわけじゃないんだ。てか、むしろめっちゃ嬉しかった。ありがとう、色々考えてくれて」
「........うん。でも、こんなんじゃまだ.....」
「いやいやいや!十分すぎるくらいだよ!ホントに!!」
黎翔は、なるべく明るい声で話した。が、それでも御織はまだ下を向いたままだった。
(......バレてるな、不満があるの)
黎翔はすぐにそう察した。
黎翔は、一つだけ望みがあった。明らかにこの場には不適切で、言うべきじゃないと判断していたため、口にはしていなかったが。
(でも.....バレてる以上、話すべきだよな)
極力隠し事はしない、するならバレないようにする。それが黎翔の流儀である以上、話すべきだろうか?と黎翔は思考を逡巡させた。
(よし、話すか!まぁなんとかなるだろ!)
持ち前の決断力と、未来への丸投げへの罪悪感のなさにより、黎翔はすぐに判断を下した。
「なぁ、御織。実は、一つ頼みがあるんだ」
「!!なに?何でも聞くよっ!」
黎翔の発言に、御織はすぐに食いついた。
(やっぱ気づいてたな、俺がなんか隠してたこと。話して正解だな)
予想が当たって少しだけ得意になる。そのまま、黎翔は自分の願望をサラリと口にした。
「俺に『名前を呼ぶ魔法』を使ってほしいんだ」
「..........ふぇ?」
黎翔が放った願望に、御織の気の抜けた返事だけがこぼれ落ちた。




