第19話 最強と最狂の本気の喧嘩・前編
「黎翔、安心して。アタシがあなたを守ってあげる」
「御織........」
座り込む黎翔の前に御織が立つ。聖に対し、激しい怒りを表情に顕しながら。
「すごい形相だね、御織。可愛い顔が台無しだよ?」
「................」
「.....どうやら、本気で怒らせちゃったみたいだね」
聖はさっきまでと同じように優しい声で煽るように話すが、御織はそれに反応しない。聖はその態度から御織の怒りを理解し、呆れるように笑う。
「御織、大人しく彼をこちらに渡してくれないか───」
「断る」
「そんなに食い気味に言わなくても.....ていうか、断って困るのは黎翔だよ?君のその態度は本当に黎翔のためなのかな?君の自己満では───」
「断る」
聖の煽りを遮るように、御織は再び低い声でそう宣言した。
聖は「やれやれ」と言いながら、右手を前に伸ばす。
「僕としては穏便に解決したいんだけど。君がその態度を変えないなら......」
そこまで言った時、突然.....
聖の右手が輝き出す。
「どうやら.....やるしかないみたいだね?」
「.............」
聖の宣言を聞き、御織は両手を開き......
手の中に、紫色の光を呼び出す。
「『空間魔法・マグニフィア』」
聖がそう呟くと、床一面に真っ白な魔法陣が輝き出し、薄暗かった部屋が照らされる。黎翔は咄嗟に身を守ろうと身を縮める。
「黎翔、大丈夫。君は絶対動かないで」
「........っ!!」
御織が背中越しに黎翔に話しかける。黎翔は、それを聞いて少し安心し、小さく頷く。
次の瞬間─────
キィィィィ────ブワッ!!
「.....!!壁が、遠くに......」
魔法陣がいっそう強い輝きを放つ。黎翔が一瞬目を瞑り、再び開くと.....
四方の壁が遠ざかり、さっきまでそこまで広くなかった空間が一気に広くなっていた。
「へぇ、そっちから仕掛けてくるんだ。意外」
「これ以外に方法がないからね。黎翔は何としても手に入れなければならないし」
「.....あぁ、そゆことね。それでそんなヤケになってんだ?アハハっ、滑稽だね!」
御織は、ここに来てニヤリと笑みを浮かべながら聖を煽った。それを聞いた聖は、初めて表情を強ばらせる。
「.....なんとでも言うといい。数刻後、牢の中で反省する羽目になるのは君なのだから」
聖は、パチンと指を鳴らす。
すると.....聖の後ろから、4人の人物が近づいてくる。
「ふむ、団長の命だ」
「ぶははっ、まさかここまでお膳立てされた状況が作れるとはな!」
「みーねぇ、倒しちゃっていいんだよねっ!鳴花に任せて!」
「小生もやらなきゃダメですかね?」
「当然だ、厳吏!団長の名だからな!」
それは、『花被片騎士』の4人───頼、泰輔、鳴花、そしてボサボサ髪───厳吏と呼ばれた女だった。
頼は剣を、泰輔は拳銃を、鳴花は魔法陣を、厳吏は2本の短剣を握りしめ、御織を見ていた。
「悪いね、御織。5人がかりで、本気で潰させてもらうよ」
「好きにしたら?勝つのはアタシだから」
聖がそう言うと、6人は臨戦態勢に映る。
それを見た黎翔は、ようやくここから戦闘が始まることを理解した。
黎翔は、ここまでのあらゆる出来事と莫大な情報を処理しきれず、思考が一時的に著しく遅くなっていた。そのせいで、今まで白昼夢に浸るように呆けていた。
だが.....
(御織が.....殺されるかもしれない)
目の前で行われる残虐な戦闘の結果を想像し、ようやく正気に戻った。
「御織!やめ───」
「心配いらない。勝つから」
黎翔が御織を止める前に、御織は冷たい声でそう宣言した。黎翔は無理にでも止めるつもりだったが、その声を聞いてこれ以上止めることは出来ないと理解する。
「さぁ.....戦闘開始だ」
聖の、その言葉を皮切りに───
頼と厳吏が即座に御織に飛びかかる。
目にも留まらぬ速さで御織に振り下ろされた、3本の剣光は───
「『重力魔法・グラヴィティア』」
御織の目の前で、突然停止する。
頼は「ほぅ」と感心したように笑い、厳吏は「チッ」と舌打ちをしながら御織からすぐさま離れようと飛び退く。が.....
「遅い」
「「........っ!!」」
グッ───ドゴォォォン!
御織から離れる前に、その場に高速で叩きつけられる。
「動けん.....!凄まじいパワーだな.....っ!」
「痛.....最悪.....」
「はい、2人終わり」
「嘘だろ........」
一瞬で、『花被片騎士』の2人を撃破した御織は、冷たくそう言い、すぐに視点を聖の方に移す。が.....
「バカめ、そっちは誘導じゃ!」
「くらえ〜っ!」
2人が御織と戦っている間に、泰輔と鳴花は聖の後ろから位置を変え、二人で左右から御織を挟むように立っていた。
「改造版魔導銃を喰らうがよい!」
「『光魔法・レイア』!」
泰輔は拳銃から紫色の銃弾を放ち、鳴花は手の先に光る魔法陣から、一筋の光線を放つ。
どちらも凄まじい速さで御織のもとへ迫り───
「遅い」
ブワッ!
「なっ!?」
「き、消えちゃった!?」
御織に当たる前に、虚無へと掻き消える。
「ふざけるな!何をしたのじゃ!」
「自分で考えなよ、タヌキ。それがアンタの仕事でしょ?」
「なっ.....!おのれ、言わせておけば───」
「『グラヴィティア』」
ドゴォォォン!
「ぐはっ.......!!」
御織は、煽られて怒りながら拳銃を向けてきた泰輔を、容赦なく魔法で地面に叩きつける。一瞥もすることなく。
さらに.....
「おじぃ!」
「はい、終わり」
「え─────」
ドゴォォォン!
「いっ......!」
そんな泰輔を見ていた鳴花も、ノールックのままに一瞬で地面に倒されてしまった。
「じ.....冗談だろ.....?」
黎翔は、目の前で行われた蹂躙に目を見開いていた。
(『花被片騎士』って上層部のめちゃ強いヤツらなんじゃないのかよ!?なんだよこれ、ボコボコじゃねぇか.....っ!!)
今なお地面に倒れ伏す4人を見て、黎翔は哀れみすら抱いていた。
だが、御織は1ミリも気にせず聖を見ていた。
「あとはアンタだけだね」
「.........」
御織は、聖に攻撃しようと手を伸ばす。だが.....
「『スキル───無秩序因子』」
「..........っ!!」
聖がそう言うと同時に、部屋全体に白い光が張り巡らされる。
そして.....
バチン!
「っ!御織っ!!」
「チッ.....」
御織の手の中にあった紫色の光が弾け飛ぶ。
(一体、なにが───)
黎翔が状況を理解しようと尽力する。
が.....黎翔が状況を理解する前に、戦況が動き出す。
ブシュッ!!
「ぐっ.....っ!!」
「っ!御織っ!!」
「ふむ、魔法がなければ余裕だな」
「当然でしょ。この人、魔法以外はそんな強くないし」
さっきまで御織の魔法で地面に倒れていた頼と厳吏がいつの間にか立ち上がり.....目にも止まらぬ剣技で御織の右肩と左手首を切り裂き、両足にそれぞれナイフを刺した。
御織はぐらりと身体を崩し、その場に座り込む。傷口からは大量の血が滴り落ち、血溜まりができる。
それを見て、聖は邪悪な笑みを浮かべた。
「あははははっ!いい様だね、御織!」
「チッ......!!そういう事か.......っ!!」
馬鹿にするように笑われ、御織は舌打ちしながら聖を睨む。が、聖は欠片も動じない。
「御織、君は強い。世界最強の名に恥じぬ強さだ。だが.....魔法無効化のスキルを手に入れた、僕にだけは勝てない!!」
「..........っ!!」
聖はどんどん口角を上げながらそう言った。
黎翔は聖の言葉を聞き、絶望する。
(魔法無効化だと.....!?なんだよ、そのズルみたいな能力.....っ!!)
聖はその黎翔の様子を見て、更に口角を上げながら宣言した。
「さぁ、絶望するがいい!そして───大人しく僕に負けたまえ!!」
勝ち目のない戦闘が、幕を開けた。




