第17話 儀式・中編
「間に合ったみたいでなによりだよ、黎翔」
「え.....いや、え.....?」
黎翔は、颯爽と現れた御織を前に、困惑を極めていた。
(なんでいるんだよコイツ.....!?てか、間に合ったってなんだよ!?)
混乱してその場に座り込んでいると.....そこに、近づいてくる人影があった。
「久しぶりだね.....御織。来てくれるとは思わなかった」
白い髪をなびかせ、ゆっくりと歩み寄るその影の正体は───
「アタシだって来るつもり無かったよ?アンタの顔見たくなかったもん───聖」
『水仙騎士団』団長.....聖だ。
「そうかな?僕は君に会いたかったけどね。自由な魔女さん?」
「いやいや、アタシなんかがお目にかかるなんて失礼ですよ〜?悪魔さん?」
互いに穏やかな声と態度で、しかし大量に棘と毒を含んだ言葉を投げつけ合う。
笑顔で話している......はずなのに、黎翔には二人の間に火花が散っているようにしか見えなかった。
「あの、御織さん?」
「ん、なんだね?哀れな少年よ」
「哀れって.....まぁいいや。なんでここにいるんだ?さっき来ないって言ったのに.....」
黎翔は、困惑一色という様子を全面に出しながら質問する。
「そりゃもちろん、黎翔を助けるためだよ!」
えっへん、と薄い胸を張りながら自慢げにそう言われた。が......
「いや、何から助けるんだよ!今から大事な魔法を使ってもらうって時に.....どっちかっていうと邪魔されたんだが!?」
黎翔は御織の態度に少しだけイラッとし、捲し立てるようにそう言った。
そんな黎翔を見て.....御織は、涙を拭うような真似をしながら黎翔の肩に手を置き、
「うんうん、そうね、そう思うよね。可哀想に、あなたは騙されたんだわ.....」
と言った。
(悪魔.....って、絶対団長のことだよな。何を騙したっていうんだよ.....?)
チラリと聖を見ながら、黎翔はそう考える。
聖は相変わらず優しく微笑んでいた。黎翔は、とても『悪魔』と呼ばれる所以を理解できなかった。
「説明してくれよ、どういうことなのか」
「もちろん。そのために来たんだから」
御織は黎翔の方に体を向け、話し始める。
「君、さっきの魔法についてなにか聞かされてる?」
「あのでかい魔法陣のことか?」
「Yeah!」
そう言われ、一瞬過去の会話を思い出す。そして、脳に浮かんだ言葉をそのまま伝える。
「『魔法を発動したら、自ずと感じられるようになるはず。今まで感じられなかった、この世界との繋がりが』.....って聞いた。それで『ステータス』が見えるようになるって」
そう伝えると、御織は「予想通り」と言わんばかりにブンブンと頭を縦に振っていた。
「うーん、素晴らしい!嘘は言ってないね!相変わらず回りくどい弁舌が得意ですね〜、悪魔さんは」
パチパチと拍手しながら、御織は嫌味たっぷりにそう言う。
「じゃあ答え合わせしよっか」
「.......?」
御織は、少しだけ真面目な顔つきになり、話し始めた。その雰囲気を感じ取り、黎翔は黙って聞こうと決めた。
「あの魔法は.....『名前を呼ぶ魔法』なんだ」
「......え?え......名前を呼ぶ??」
あまりに意味不明な名前の魔法に、思わず声が漏れる。
「それは、一体どういう.....」
「んーと.....一言で言うと、『この世界に認めてもらう魔法』ってとこかな」
「ますます分からん......」
御織は「ん〜」と少し唸り声をあげた後、再び説明を再開する。
「今の君はね、『この世界に認められてない』んだ。実体と魂は存在してるけど、『世界』が君を認識出来てない」
「?????」
「言い換えると.....生まれて間もない赤ちゃんが、肉体と意識は存在するけど戸籍上には名前がない、みたいな。伝わるかな?」
黎翔は少しだけ考えた後、御織に返事を返す。
「なんとなく。要は、『物理的にここに存在してる』が『神様はそれを知らない』んだろ?」
「おー!いい表現だね、それ!」
パチン、と華奢な手でフィンガースナップを決めながら、御織は明るい声でそう言った。黎翔も少しだけ楽しい気分になる。
「で、『神様』に存在を認識してもらって初めて、『ステータス』やら『マナ』やら『魔法』やら、この世界にしかない概念に『触れる』ってことだろ?」
「いいね、冴え渡ってるよ!!」
二人でポンポン会話が進み、どんどん楽しくなってきた。
が.....ここで黎翔に疑問が生じる。
「ん、でも.....それって必要な事なんじゃねぇのか?『名前を呼ぶ魔法』使わないと、俺は雑魚のまんまってことだろ?魔法も使えねぇし」
「そうなんだけどね〜.....」
御織は、少し嫌そうな顔をする。黎翔は首をかしげながら、御織の返事を待つ。
「この魔法はね、ひとつ大きなデメリットがあるんだ」
「デメリット.....?」
深刻そうに話す御織を見て、黎翔は少しだけ緊張する。
.....とてつもなく嫌な予感がしてならなかったから。
「この魔法のデメリットは.....『名前』を呼び出すこと。つまり.....元いた世界における君の存在を、完全に抹消してしまうことなんだ」
「.........は?」
黎翔の嫌な予感は、最悪の形で的中した。




