第16話 儀式・前編
コツ、コツ、コツ.....
「少し暗いから、足元気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
薄暗い螺旋階段を降りる途中、聖は優しく黎翔に話しかける。
「鳴花、気をつけて降りるんじゃぞ」
「うん、分かった!」
その後ろでは、泰輔と鳴花がにこやかに会話をしている。その様子は、まるで祖父と孫のようだった。
さらにその後ろには、腕を組みながら歩く頼と、未だに資料を眺めている錯羅、一言も話さない星恋がついてきていた。
「ところで.....一体どこに向かってるんです?」
黎翔は、小さい声で聖に問う。
『君の才能、ステータスの確認だ』
聖は、そう言ったのち、会議をしていた部屋の奥───錯羅が座っていた場所の後ろの壁に手を伸ばした。すると.....
ゴゴゴゴゴゴゴゴ......ガタン
重そうな音を立てながら石造の壁が動き、一つの通路が姿を現した。
その通路の先にあったのが、この長い螺旋階段だった。
「さ、行こうか」
と促されるがままに聖に着いてきた黎翔は、この先に何があるのか知らないで進んでいた。
それを、今になって不安に思い、目の前の聖にコッソリと聞いたのだ。
「この先には、ある特殊な装置があるんだ。それを使えば、君の『ステータス』を見ることが出来るようになるんだ」
「へ〜.....」
優しく答えてくれた聖に対し、比較的適当な返事を返す。
というのも.....
(なーんか胡散臭いんだよなぁ.....)
黎翔は、直感的に不信感を抱いていたのだ。だから、話半分にしか聞いていなかった。
(優しくしてくれてるのは事実なんだけど.....なーんか裏がありそうな気がするんだよな)
警戒心は解かないでおこう、と黎翔は決心し、そのまま深く続く階段を下った。
──────────────────
「.....!あれは.....」
しばらく階段を下ったのち、黎翔の瞳が光を捉えた。
「あの先だよ」
聖は優しく教える。黎翔はそのまま光へと進む。
その先にあったものは.....
「.....なんだこれ?」
光は小さな部屋から漏れ出ていた。
その部屋の壁には本棚がいくつも並んでおり、そこに納められている本のほとんどは少し色褪せており、とても古そうだった。
そして、部屋の外にまで溢れ出ていた光の正体は.....
「魔法陣.....?」
無機質なコンクリートの部屋の真ん中で燦然と輝く、巨大な魔法陣だった。
「これが、君の『ステータス』を知るために必要な装置だよ」
聖は、口を開けて驚く黎翔に語りかける。
その脳に直接響くような声に若干の目眩を感じつつも、黎翔は現状を冷静に分析していた。
(この魔法陣を使う.....ってことは、もしかして隷属契約とやらを無理やり結ばされる可能性もあるのか?今からでも逃げるべきかもしれねぇが.....)
即座に最悪の状況を想定する。その後の行動まで予測したが、それは無理だなとすぐに諦める。
(.....そもそも、そんな無理やりな行動させる場合、多分星恋が反対してくれるはず。だが.....)
そこまで思考し、星恋を見る。
星恋は、下を向いてどこか少し悔しそうな表情で黙り込んでいた。両手を広げギュッと握り締め、一人の世界に入っているようだった。
それを見て、黎翔は猛烈に嫌な予感を感じる。
(.....あれ?もしかして俺、やばい?)
星恋が団長に反抗出来ないから黙っている───という、正真正銘最悪の可能性に至り、冷や汗が止まらなくなる。
「.....あの」
「聞きたいことは分かっているよ。安心して、これは隷属契約をする魔法陣、とかではないから」
「......っ!!なんでそれを......」
「ふふっ。君のその冷や汗と、不安に満ちた瞳を見れば誰でも分かるよ」
聖は、相変わらず優しく静かにそう話した。
それを聞き、黎翔は少しだけ安心する。
(そういうことなら信じてもいいか.....?)
少し楽になった心を抱え、聖にさらに質問する。
「俺はどうしたらいいです?」
「魔法陣の上に立ってくれるだけでいいよ。魔法を発動したら、自ずと感じられるようになるはず。今まで感じられなかった、この世界との繋がりが、ね」
黎翔は、言葉の意味は半分くらい理解できなかった。が、立ってればいいと分かったため、
「分かりました」
と言い、魔法陣の真ん中へと歩き出す。
(こんなんで『ステータス』とかいう謎能力が見れるようになるなんて.....不思議な世界だ。でもまぁ何はともあれ、この結果が俺の今後の人生を決めるんだな.....そう考えると.....う、ちょっと緊張で気持ち悪くなってきた.....)
疑問と不安と緊張感を抱きつつ、若干震える足を叱咤して魔法陣の中へと向かう。
「飲み込みが早くて助かるよ、黎翔」
「即断即決。野生じゃトロトロしてたら殺されるんで」
「いい心がけだね。気に入ったよ」
黎翔は少しだけ笑顔になる。思いがけない所で団長からの好評を得たからだ。
(さっきは疑っちまったけど.....いい人じゃんか、団長さん)
先程の評価を改め、黎翔は満足気に笑みを浮かべる。そして......
魔法陣の真ん中に、姿勢よく立ち、聖たちの方を振り向く。
そんな黎翔の目に真っ先に映ったのは、どこか不安そうにこちらを見つめる星恋の姿だった。
俯き、手を強く握っている。黎翔は、『ステータス』の結果が不安なんだろうと考えた。
「星恋、心配すんな。きっと何とかなるから」
「........っ!!」
明るめの声を作り出し、星恋に届ける。それを聞いた星恋は、顔を上げた。
その顔は.....やはりどこか不安そうだった。いや、申し訳なさそうとも取れるかもしれない。
(心配症だな。まぁ俺も不安ではあるが)
なんとか不安を取り繕おうとする。話を逸らすため、聖に話しかけることにした。
「これでいいんすよね?」
「うん。魔法発動の準備をするから、もう少し待ってて」
聖はそう言うと、ゆっくりと手の周りに光を集め出した。あれは.....
(魔法.....?でも、御織のと色が違うな。それに、雰囲気も)
聖の手の中に現れた光は、真っ白で眩しいほどに輝きを放っていた。
御織の、優しい紫色の光とは違う、強烈な光.....
(.....そういや、御織は何してんだろうな)
自身を救ってくれた、奔放で明るい少女の姿を思い出す。
(アイツのためにも、ちゃんといい結果残さねぇとな)
何が出来るでもないが───黎翔は、そう決心した。
「準備出来た。始めるね」
「お願いします」
聖は、手の中に輝く白い光を天に掲げる。閉ざされた地下の部屋に、天もクソもないが。
すると......
キィィィィ─────
(!眩しっ!!)
足元で輝いていた水色の魔法陣が、より一層輝きを強め、黎翔を包む。
(頼むぞ、俺の『ステータス』.....!!)
だんだんと強くなる光に包まれながら、黎翔は願う。
魔法の終了を待ちながら─────
「はい、一旦止めまーす!」
「え?」
どこからともなく、明るい声が響く。
刹那────
ドカァァァァァァァン!!!
「「「「!?!?!?」」」」
突如、巨大な音が周囲に響き渡ると同時に、辺りが土煙で満たされる。
その影響か、光り輝いていた魔法陣が輝きを失い、辺りは真っ暗になってしまった。
(なんだ!?)
黎翔は焦って辺りを見渡す。一つでも情報が欲しくて。
だが.....そんなことをするまでもなく、何が起こったのかはすぐに分かった。なぜなら.....
「にはははははーっ!御織様、見☆参!」
「!?はぁっ!?」
魔法発動の邪魔をした犯人が.....即座に名乗り出たのだから。




