第15話 水仙騎士団団長、雅客聖
「証明.....ですか?」
黎翔は、眼鏡越しに恐ろしい眼光を浴びせる錯羅に、恐る恐る聞き返す。
「そうです。それを見て私達は、貴方をどう利用するか決定します。具体的には.....実験に用いるか使い捨ての駒にするか、といったところでしょうか」
「............」
錯羅の言葉で自身の人権が存在しないことを理解し、口を閉ざす。
(あーあ、なんでこんな目に遭わなきゃならねぇんだ.....)
屈辱的な死が確定し、絶望と怒りが混じった最悪な心境になり、背もたれにもたれかかる。
「そう落ち込むことはない。ワシらが有効活用してやるからのぉ!ぶははははははは!!」
「その通り!キミの活躍は後世にまで語り継がれるだろう!安心して死ぬがよい!」
「鳴花、黎翔で遊ぶの楽しみ!」
項垂れる黎翔に対し、泰輔は意図的に煽り、頼は善意100%の励ましで煽り、鳴花は黎翔の恐怖をさらにかき立てる。
(こいつら.....言いたい放題言いやがって.....!)
若干苛立ちつつも、下手な真似は出来ない現状を正確に理解しているため、我慢して完全に無視する。
「皆さん、騒がないで下さい。品がありません」
そんな黎翔の怒りを代弁するかのように、錯羅が三人を窘めてくれた。
やっぱり意外といい人だな.....と黎翔は感心する。
「ありがとうございます」
「............」
一応感謝を伝えておいたが、錯羅は知らんぷりだった。優しいのか冷たいのかどっちなんだ?と若干混乱する黎翔だった。
「ところで.....さっき証明って言ってましたけど、俺は何したらいいんですか?」
少しだけ話す元気が湧いたため、錯羅に向けてそう質問する。
「そうですね.....もう少しお待ちください。時間通りですとそろそろでしょうから」
右腕に輝く高そうな腕時計を見ながら、そう言われた。
(時間.....そういえばずっと気にしてたよな、あの人)
黎翔は少し不思議に思い、錯羅を眺める。一体何を待っているのか───
「全員、跪き、頭を垂れよ!!」
「っ!?」
黙って腕時計を見ていた錯羅が、突然大声で叫ぶ。
反射的に頭を下げた黎翔含め、その場にいた全員が、入口の方を向いて膝をつき、一斉に頭を下げた。
(ちょ、一体何が.....?)
そう疑問に思っていると.....
バタン!
と大きな音を立てて、黎翔の目の前の大きな扉が開いた。
その奥から、コツ、コツ、と足音を立てながら、ゆっくりと一人の人間が部屋に入ってきた。
その人は、綺麗な銀色の長髪を靡かせていた。顔つきはとても優しく、まつ毛がとても長い。瞳はどこまでも蒼色で、穏やかな深海のようだった。
身長は170近くあるが、身体が異様に細く、肌も病的なまでに白い。死を前にした病人のようだった。
だが.....彼(もしくは彼女)も軍服を身につけていた。『花被片騎士』と違って、全身白い上にかなり軽そうだったが。
「待たせてしまったかな」
穏やかで優しい声だった。それなのに、とてもハッキリと脳に響く声だった。
少し低めの声。どうやら男みたいだ。
(この人は.....)
黎翔は、頭を下げたまま視線を目の前の人間に向ける。
(.....なんだ、これ.....ホントに人なのか.....?)
黎翔は少し見ただけで、その人物の異様さに気づいた。
原則として、生命は生きることを最高の目的として無意識のうちに掲げ、その生を謳歌する。
人はその他にも沢山の欲望を抱えて生きているため、生への執着は死を間際にしなければ発揮されないが.....他の生命は、何時いかなる時も生きることを最優先に生きている。野生という、常に死と隣り合わせの環境にいるならば尚更だ。
黎翔は、そんな生への執着に溢れる野生動物に幾度となく触れてきた。そのおかげか、何となく他者から生への執着を感じることが出来るようになっていた。
だが.....目の前の人間は違った。
(コイツ、まるで生気を感じない.....本当に生きてるのかすら怪しいほどだ.....)
その人間は、怖いほど静かで、何も感じられなかった。まるで空のペットボトルが喋っているかのようだった。
「君が.....黎翔、だったかな?」
「........!!」
目の前の人間が視線を黎翔に落としたため、綺麗に目が合った。
一瞬吸い込まれそうになるほど深く暗い瞳に呆気に取られかけるも、質問されていたことを思い出して正気に戻る。
「そ、そうです。俺が召喚者の......」
「聞いているよ。よく来てくれたね」
優しく微笑み、労いの言葉をかけてくれた。
彼はそのまま視線を上げ、部屋全体をみわたす。
「頭を上げてほしいかな。このままでは餡蜜も食べられないよ?」
餡蜜.....?と疑問に思いつつ、ゆっくり頭を上げる。
それを見て、彼は満足気に頷いた。
「よし。錯羅」
「はい」
「どこまで行ったかな?」
「予定通りです」
「分かった。では、僕の出番というわけだね」
「はい。よろしくお願いします」
スムーズに、錯羅と彼の間で会話が進む。それが終わるやいなや、再びその場で膝をつく黎翔に視線を落とした。
「まずは自己紹介をしようか。僕は『水仙騎士団』団長、雅客聖。改めてよろしく」
「.........!?」
優しく手を差し伸べる男の発言を聞き、黎翔は目を見開いて驚く。
(団長!?こんな弱そうな人が!?)
信じられない、と思ったが.....
先程の『花被片騎士』の態度を思い出し、黎翔は納得できるような気もした。
「よろしくお願いします.....」
ぎこちなく握手を交わす。その真っ白な手は、見た目通りとても冷たかった。
「さて。今から君には、僕と一緒にあることをしてもらう」
「あること.....」
(証明関連だろうな。何するかは知らんけど)
ついさっきの困惑から一転、即座に頭を回転させ、次の行動を予見する。黎翔の習慣だ。
「君の能力を確かめるための儀式だよ。怖くないから安心して」
「ん.....は、はい」
若干子供のような扱いを受け、危うくツッコミを入れそうになってしまう。なんとか止めるも、微妙な反応になってしまった。
「ちなみにその能力っていうのは.....」
「あぁ。それか」
聖は、話しながら小さく微笑んだ。
「もちろん───君の才能、『ステータス』の確認だ」




