第14話 花被片騎士総合会合
「全員、静まりなさい」
カンッ!
「「「........っ!!」」」
副団長の一言と、ペンと机が激突した音で、場は沈黙に包まれる。
「そのような小競り合いに意味はありません。両者の喧騒で得をする人間もいません。その程度のことを理解出来ないようでしたら、本会議に出席頂く必要はありません。ご退出願います」
「「.........っ!!」」
副団長は、声のトーンを一つも変えずに、それでいて強烈な口調で二人───星恋と、泰輔と呼ばれた白衣の男を責め立てた。
白衣の男は、口を噤んで悔しそうに下を見た。そのまま黙って席に座る。
星恋は、「すまなかった」と頭を下げた後、席についた。
(.....あの人の圧、とんでもないな)
さっきまで喧嘩していた二人を黙らせたのみならず、ずっと余裕そうだった老兵を真顔にさせ、ニコニコ笑っていた鳴花を怯えさせ、縮こまっていたボサボサ髪.....は変化ないが。
その場にいた全員に、強烈な圧を与えた。はっきり言って異常だった。
黎翔は、恐る恐る彼女を見る。
今の喧嘩で、星恋は彼女の怒りを買ってしまった可能性が高い。であれば.....
(俺まで消されるかもな.....このまま)
という、もはや諦めに近い考えに至っていた。
怯えながら、資料に目を通す副団長の出方を待つ。自分の運命を嘆きながら。
「.....召喚者」
「っ!はいっ!!」
突然顔を上げ、黎翔を見つめながら副団長に呼ばれ、黎翔は半分声が裏返りながら返事をする。
(クソっ、殺すなら一思いにやってくれ.....!!)
ギュッと目をつぶりながら、そう祈る。
副団長の次の言葉は───
「.....私は『水仙騎士団』副団長、飛鳥錯羅です。以後、お見知り置きを」
「......え?」
座ったまま、小さくこちらに頭を下げながら、副団長───錯羅は、自己紹介をした。
あまりにも予想外の展開に、黎翔は目をぱちくりさせる。
(まさか.....副団長、味方なのか!?)
初めて差した光明に、大きな希望を抱く。目を輝かせ、副団長を見つめる。だが.....
「全員、自己紹介をしなさい。死にゆく者への手向けだと思って」
残念ながら、そういうことではなかったらしい。
再び落胆する黎翔を嘲るように、白衣の男が口を開いた。
「ぶっはははは!それもそうじゃな、教えてやるわい!ワシは常磐泰輔、『日日騎士』の長じゃ!せいぜい尊敬するがよいわ!おっと、もう死ぬんじゃったな!ぶはははははははっ!!」
最低な笑い声が響く。それに続いて、なんの悪意もない笑みを浮かべる二人が口を開く。
「我は黒羽頼、『桜花騎士長』だ!よろしくな、少年よ!」
「鳴花は鳴花だよ!『朝顔騎士』でいちばん強いの!」
明るく自己紹介する3人に対して、黎翔はもはや苛立つ元気もなかった。
「小生のことは無視でいいんでぇ.....自己紹介なんかしても意味ないですし.....」
ボサボサ髪の女は、小さい声でそう呟いた。他の面々も、それを受け入れるかのように完全無視を決め込んでいる。
錯羅は、少し不満そうにそれを眺めたのち、再び黎翔の方を見る。
「しっかり把握しましたか?召喚者」
「あ、あぁ。ありがとう、ございます」
ぎこちない敬語で、感謝を伝える。
(一応敬意を払ってくれたんだよな.....?多分味方ではないけど.....)
その真意は理解出来ないものの、黎翔は少しだけ錯羅へのイメージを改善した。
「では、今度こそ本題に。押しているので手早くお願いします」
「任せろ!」
「はーい!」
「承知した」
錯羅は再び資料へ目を落としながら指示を出す。それに対し、頼と鳴花、そして星恋が返事を返す。
「では、まずは定例報告から。『カード』をお見せ下さい」
そう言われた『花被片騎士』の面々は、各々の着用していた服の一部───とりわけ、軍服の胸ポケットから───一枚の小さな厚紙を取り出した。
『カード』と呼ばれたそれは、名刺くらいのサイズだった。黎翔は、なにか細かい文字がずらりと並んでいることくらいしか見えなかった。
「.....ふむ、確認完了です。全員許容範囲内ですね」
「一人ノロマがおるようじゃがなぁ?」
「泰輔、そう言うな。彼女なりに歩んでいるのだから」
各々のカードを見た後、泰輔は誰かを馬鹿にするような発言をした。それに対し、頼が庇うような発言をする。
黎翔は、それが誰に向けての発言かすぐにりかした。
(.....星恋、だよな)
チラリと後ろ姿を見ると、星恋は下を向いて固まっていた。その後ろ姿から.....
少しだけ、悔しそうな雰囲気を感じた気がした。
「全員、席に戻ってください。続いて、『黒沢池湿原ソルクティス』についてですが.....」
サラリと、錯羅は次の議題に移ろうと席に戻る。
(え、定例報告終わり?もう?)
少し困惑する黎翔だったが、『花被片騎士』は全員慣れたように席に戻っていた。
(まぁいいか。ところで次の議題って.....)
『黒沢池湿原ソルクティス』───その言葉の意味は、何となく察せられるものがあった。
『黒沢池湿原』は、新潟県に位置する───していた、と言うべきだろうか───観光スポットだ。そしてその単語に『ソルクティス』が組合わさっている。
(つーことは、『黒沢池湿原』で発生した『ソルクティス』ってわけか。ここまで理解してりゃ、あとは話聞いてればなんとなく意味も掴めるか)
と一旦思考を区切り、話に耳を傾ける。
「『蒲公英騎士長』、偵察は済みましたね?」
「うぇっ!?はっ、はい、一応は.....」
錯羅に話しかけられたボサボサ髪の女は、過剰に驚きながら小さい声でそう言った。
「報告書は?」
「団長に.....」
「レベルは?」
「S上位でした。小生も入りましたけど、多分相当面倒です。多分、量攻めメインかと.....」
「了解しました。対策はいずれまた」
錯羅と『蒲公英騎士長』と呼ばれた女による会話は、あまりにもスムーズに進行した。黎翔の理解が追いつかないほどに。
(な、何言ってんのか分かんねぇ.....)
理解を諦め、黎翔は全部聞き流す。他の面子を見ると.....
「「「「............」」」」
全員、黙って何かを考えているようだった。どうやら上層部という称号は伊達ではないらしく、全員今の会話のみで情報を正しく把握したらしい。
(ダメだ、次元がちげぇや)
大人しく眺めていよう、と心に決めた黎翔だった。
が.....そうも言っていられない状況が、即座にやって来る。
「二つ目の議題も終了です。残すは.....召喚者の処遇についてのみです」
そう、待ちに待った黎翔のターンがやって来たのだ。
「では、最後の議題についてですが.....」
そこまで言い、錯羅は資料から目を上げ.....
黎翔の方を、鋭い眼光で睨みつける。人を殺すことさえ可能なほど、冷たく尖った眼で。
「..............っ!!」
目が合った瞬間、黎翔は直感的に理解した。
今ここで、殺されるかもしれない────と。
「これから貴方には、証明して頂きます。貴方が如何なる能力を有しているのか、その利用価値と共に」




