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黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
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第13話 敵か味方か

 豪華なシャンデリアが吊るされ、高級感と清潔感のある紺色の大理石がメインの広い部屋。


 真ん中に置かれた机の周りに7人、異なった面持ちで座っていた。


 ある者は真剣な眼差しで書類を見つめ、ある者は朗らかな笑みを浮かべ、ある者は涙目で縮こまり、ある者は不満げにふんぞり返り、ある者は無邪気に笑い、ある者はキリッとした表情で座り。


 そして、ある者は.....


(こ、怖ぇ〜〜〜〜〜〜っ!!)


 緊張で胃が張り裂けそうになりながら、小刻みに震える手を握り締めて椅子に座っていた。


「本日の議題は3つ。1つ目が定例報告、2つ目が『黒沢池湿原ソルクティス』について、そして3つ目が.....」


 そこまで言い、その場を仕切る一人の女───副団長と呼ばれたメガネの女性は、黎翔れいとの方を一瞥する。


 見られたことを自覚した黎翔は、ビクリと反応する。


「.....召喚者の処遇について、です」


 副団長は、再び書類に視線を落としながらそう言った。


(し、視線だけで、こ.....殺されたかと思った.....)


 黎翔は、冷や汗に塗れながら必死に恐怖を押し殺そうとしていた。


 先程御織みおと出会ったときも、星恋せいこと出会った時も.....ここまでの恐怖を感じることはなかった。だが.....


 彼女と目が合った瞬間、黎翔は直感的に悟ったのだ。この人はヤバい、と。


(絶対刺激しちゃダメだ)


 邪魔しないよう気をつけなければ、と黎翔は強く誓った。


「それでは最初の議題に入りましょうか」


 書類をパラパラとめくりながら、副団長がそう言う。

 が.....それを止める者がいた。


「待ってくれ」

「っ!?」


 そう声を上げたのは、黎翔の隣に座っている星恋だった。


(うおいいいぃぃぃぃぃ!?)


 黎翔の誓いを光の速さで破壊され、内心大いに焦る。再び体がビクリと硬直する。


「何か質問でしょうか?黒椿くろつばき騎士長」


 冷たい視線と声を星恋に浴びせながら問う。

 隣にいる黎翔が怯える中、動じることなく星恋は答える。


「まずは自己紹介をしてもらいたい」

「何故ですか?」

「彼───黎翔が話についていけないからだ」


 星恋は、黎翔をチラリと見ながらそう言う。

 その場にいる全員の視線が黎翔に集中し、黎翔は三度ビクリと全身を跳ねさせる。


(今は俺にヘイト向けるのやめてほしいんだけどな......!!)


 星恋なりの気遣いだと理解しつつも、若干のありがた迷惑に少し複雑な心境に陥る。


 星恋の回答を聞き、真っ先に口を開いたのは、副団長───ではなく、白衣の男だった。


「なぜそのような必要がある?」

「今述べた通りだ。このまま進めては彼が───」

「違う。なぜそやつのために無駄な時間を割かねばならぬのか、と聞いておるのだ」


 男は、見るからに不満気な態度でそう話した。それを見た黎翔は、すぐに理解する。


(この人は.....確実に俺を奴隷、もしくは実験に使う派の人だな)


 と。

 星恋は、男の発言を聞いて少し声のトーンを下げ、表情を強ばらせた。


「.....3つ目の議題を忘れたか?黎翔は召喚者本人だ、議論に参加することは必然。であれば、名前も分からぬまま参加させる訳にはいかぬだろう」


  苛立ちを抑えるように、そう返答する。

 それに対し、男はバカにするように鼻で笑った。


「議論?ハンっ、そんなもん無意味じゃ」

「なに?」

「そいつはどうせ、実験に利用されるか隷属化で働かせるかの二択なんじゃからな」

「.........っ!貴様っ!!」


 それを聞き、星恋は硬そうな机を手で叩きながらその場で立ち上がる。怒りを顕にしながら。


「落ち着きたまえ、星恋!お前の言い草もわかるが、泰輔たいすけの言ってることも間違っちゃあいないからな!」


 それを言葉で宥めたのは、笑顔で座っていた老兵の男だった。

 とても明るい声で星恋を制止するように言う男を見て、黎翔は少しだけ期待した。


(あの人は、ワンチャン俺の味方かも.....)


 だが、その希望はすぐに潰えることとなる。


「事実、彼の意思など無関係であるからな!隷属にしろ実験にしろ、彼に自由は存在しないのだからな!なーっはっはっ!」


 高らかに笑いながら、そう言った。

 黎翔は、老兵と対照的に最悪の気分になる。


(クソっ、全然敵じゃねぇか.....!!)


 一人頭を抱える黎翔を置き去りに、星恋は二人に反抗しようとする。


「まだそうと決まった訳では.....」


 だが、再びそれを遮るように話す者がいた。


「あのー....喧嘩するくらいなら早く実験に出してしまえばいいのでは.....と、僭越かつ矮小な身ながら、提案させていただきます.....小生のような身分の者が無駄口を叩くべきじゃないとは思うんですけど.....」


 小さな声で、とても早口でそう喋ったのは、一人縮こまっていたボサボサ髪の少女だった。

 節々から感じられる自身への卑下の意志とは裏腹に、ハッキリと敵対の考えを示され、黎翔の焦りは更に肥大化する。


(マズイ、既に半分以上俺の敵だ.....!!)


 副団長、白衣、老兵、ボサボサ。全員黎翔から自由をはく奪して利用しようと考えている。


 味方は星恋と.....


「るんるんる〜ん♪」


 楽しげに笑う少女、鳴花めいかだけだ。

 星恋もそれを理解し、この場を打開する方法を必死に考えていた。


 だが.....そんな2人を、更に絶望させる発言が飛び出す。


「ねぇねぇ星恋姉!鳴花めいかね、黎翔ほしい!」

「っ!?」


 突然のその言葉に、星恋は目を見開いて驚く。黎翔はその言葉の意味を図りかね、唖然とする。


「それは一体、どういう.....」

「前来た人、鳴花の実験で壊れちゃったの。だから、今度こそ壊さないように気をつけて使うの!それでおじぃのお手伝いするんだーっ!」


 無邪気な笑顔で、彼女はそう言う。


(壊れた.....嘘だろ?)


 その一言で、黎翔の表情は凍りつく。一体何をされるのか.....という恐怖で埋めつくされる。

 子供ゆえの無邪気さが成す邪悪を感じ取り、黎翔の気分はどん底に叩き落とされる。


(アイツも敵なのかよ......!!)


 過半数どころか、星恋以外全員敵の現状に目眩がする気分になった。星恋も、鳴花の言葉を聞いて以降反論しなくなってしまった。


「無駄な時間じゃったな」

「そう言うな、泰輔。星恋は優しいんだ、仕方あるまい」

「星恋姉、元気出して?」


 口々に、好き勝手に話す。黎翔には、それが馬鹿にされているように聞こえてならなかった。


(......クソっ、なんなんだよ.....なんで俺はこんな目に.....)


 今更ながら、この理不尽な状況に苛立ちが募る。両の手を強く握り、唇を噛む。


「フン、こんな簡単なことも分からんとは、常識力が足りとらんな。下民の出か?同じ『花被片騎士かひへんきし』として恥ずかしいかぎりじゃ」

「......なに?」


 白衣の男の言葉を聞き、星恋はピクリと眉を動かす。


「.....取り消せ」

「なぜ?ワシは事実しか言っとらん」

「取り消せ!!」


 今まで必死に押し殺していた怒りを思いっきり表に出し、星恋はそう叫んだ。

 白衣の男は若干気圧されつつも、反抗するように睨みつける。


(おいおいおい、今喧嘩すんのはマズイって.....!!)


 黎翔は焦りながらも、特に何も出来ない自分の無力さを呪いたい気分になった。


 一触即発の空気の中、最初に動いた者は───


「全員、静まりなさい」


 カンッ!


「「「.........っ!!!」」」


 持っていたペンを机に叩きつけ、場を沈黙で包み込んだ、その者は......


 この場で最も強い権限を持つ者、副団長その人だった。

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