第12話 花被片騎士
ウィーン、ガタン
.....背後でエレベーターの扉が閉まる音が聞こえる。
それでも、気にせず真っ直ぐ前だけを見つめる。
薄暗い廊下の先にある、扉の隙間から漏れる一筋の薄い光───目的地、『花被片騎士』の会合が行われるであろう場所ただ一点を見つめ、歩く。
1歩、また1歩と光に近づき....
そして.....光源の目の前までたどり着く。
頑丈そうな大きな扉から漏れ出た僅かな光が、やけに眩しく感じられる。この先に待っているであろう権力者の存在を想像すると。
「すぅ......はぁ〜.....」
緊張と力みを少しでも和らげるべく、大きく呼吸する。そして.....
「入るぞ」
星恋が扉に手をかけながら、そう言うのを聞き.....
「.....あぁ」
黎翔も、決意を固める。顔を上げ、背筋を正す。
ギィィィ─────
重い扉を星恋が開け、光が黎翔を照らす。
その大きな光の中へ、黎翔は身を投げる。
蒼井黎翔の、人生を賭けた舌戦が今、始まろうとして───
「星恋姉〜っ!」
ガバッ!
「むぐっ!?」
元気な声が聞こえた───と思ったら、扉の向こうに一足先に入っていたはずの星恋が後ろによろめいた。黎翔はその星恋の後頭部に顔面が直撃し、鼻を負傷する。
「痛ったぁ.....っ!!」
純粋な鼻の痛みと、言葉通りに出鼻をくじかれたことに対する悔しさで、黎翔は若干苛立つ。
何事かと顔をあげると.....
(?なんだ、子供?)
ふらついた星恋にしがみつく、小さな子供の姿が目に映った。
140センチくらいの身長で、青みがかった髪をツインテールにしばっている。顔は星恋に擦りつけているせいでよく見えない。
見た感じ小学生くらいな感じがした。声や雰囲気からどことなくそう感じた。のだが.....
そんな彼女は、紫色の軍服を着用していた。星恋の色違いの、小さな軍服を。
(こんな小さな子が、なんで.....!)
黎翔は、まだ幼い少女が軍服を着用している光景に気味が悪いと感じた。身震いし、顔が引き攣る。
「鳴花、離れてくれ。動けん」
星恋は、くっついている少女に対して若干面倒くさそうにそう告げた。それを聞いた少女───鳴花は、「あ、ごめんね!」と言ってすぐに星恋から離れる。
「久しぶりに会えたから嬉しくって!」
「私も会えて嬉しいよ」
「ほんと!?やった!!」
二人は、入口で和やかに話す。
それを見ていた黎翔は、拍子抜けといった様子で立ち尽くしていた。突然現れた少女があまりにも楽しそうに話すのを見て、さっきまで緊張していた自分がバカらしくなって。
「おやや?」
星恋と話していた鳴花は、星恋の後ろで立ち尽くしていた黎翔を発見する。
「ねーねー!あの人が呼ばれて出てきたひと?」
「あぁ、そうだ───って、黎翔?どうしたんだ、そんな間抜けな顔して.....」
鳴花が黎翔を指さしたため星恋も振り返ると、口を開けっぱなしにし、目を見開いて、力なく立ち尽くす黎翔を発見した。そのあまりにも気の抜けた状態に、驚きと軽蔑を含んだ視線を向ける。
「おにーさん!はじめまして、あたし神原鳴花って言うの!よろしくね!」
星恋の横を通り抜け、黎翔の前まで走ってきた鳴花が軽やかに自己紹介をし、笑顔で黎翔の手を握る。
その手はとても小さいのに、温かくて力強く感じられた。黎翔は、握っただけで何となく感じたのだ。
彼女は、自分より遥かに強い、と。
「おにーさん、名前は?」
「あ?あ、あぁ。俺は蒼井黎翔だ。よろしくな、鳴花」
「よろしくね、黎翔!」
無垢な笑顔でそう言われ、黎翔の緊張が更にほぐれた気がした。少しだけ笑顔がこぼれる。
そんな黎翔を現実に引き戻すように、星恋が声をかける。
「黎翔、入れ」
「あたしが案内してあげるよっ!」
二人に催促され、黎翔は再び気持ちを入れ直す。そして.....
「あぁ、分かった」
今度こそ、扉の向こう側へと足を踏み入れた。
部屋に入った瞬間、薄暗い廊下から移動したせいで一瞬部屋全体が真っ白に見える。反射的に右腕で光を遮る。
すぐに明順応によって視界が色づき、線が像を結び始め、右腕を下ろす。
その視界に写ったのは.....頑丈そうな大理石でできた長机に向かって座る、5人の軍服を着た大人だった。
「来ましたか、森さん」
「はい、ただいま到着致しました、副団長」
一人は、一番奥の席、いわゆるお誕生日席に座るメガネをかけた女性。
真っ黒な軍服を着用しており、外套や帽子など、全身が黒に染まっていた。
漆黒の長髪を下ろし、吸い込まれそうなほどに深い闇を携えた瞳でこちらを見る彼女から、黎翔は本能的に恐怖を感じた。
姿勢がとても綺麗で、座っている姿一つでも育ちの良さが伝わった。
「おぉ!召喚者をしっかり捕らえてきたか!なかなかやるな、星恋!」
「運が良かっただけです、司令」
次は、向かって左側1番奥の席、副団長の右手側に座る少し老けた男が、デカい声で星恋に話しかけた。
彼は、副団長とは対照的に蛍光色の赤の軍服を身につけていた。袖をまくり、太い腕が僅かに見えている。
とても大柄で、腕を組んで足を広げて座るその姿には、どこか威厳じみたものを感じるほど堂々としていた。
白髪を短く整え、髭も剃っている。肌は若干皺があるが、その肉体は健康そのもののように見えた。金赤色の瞳は生気に満ち溢れ、ギラギラと燃えていた。パッと見この中で一番強そうに見えた。
「ようやく見つかったか。ワシの大魔法が台無しになるところじゃったわい」
「おじぃの魔法、すごかった!」
次は、司令と呼ばれた老兵の手前側に座る、頭が輝く男。
この中で唯一軍服でなく白衣を身にまとっており、少し太っていた。40代くらいだろうか?軍人のようにはとても見えなかった。
鳴花に「おじぃ」と呼ばれ、満更も無さそうにしているその姿は、どこかおじいちゃんみを感じた。
そして、もう一人.....
「..............」
無言で、あまりにも静かに、まるでこの空間に存在しないかのように、縮こまって座っている女性がいた。
司令の前に座り、ぷるぷると小刻みに震えているその女性は、とても小柄だった。全身がとても細く、司令の太さと比べると枝かと思えるほどだった。
黒い軍服をブカブカに着て、黒い髪をボサボサのままにしているのを見るに、身なりには気を遣わない性分みたいだ。黎翔はうっすらシンパシーを感じた。
「黎翔!ここ座って!」
「ありがとう、鳴花」
鳴花に案内され、一番端───副団長の正面の席に座る。常に目が合うため少し気まずかった。
だが.....
(そんなに堅苦しい感じじゃないんだな)
鳴花や司令の男が結構喋っているため、黎翔は比較的楽な気持ちになっていた。緊張もかなり減っていた。だが.....
「まだ団長は来ていないが.....時間となったため、始めましょう」
副団長がそう言うと、途端にピリッとした空気が漂い、全員黙り込む。
(どうやら.....始まるようだな)
黎翔も、再び緊張を感じる。だが、過剰なものではなく、ちょうどいい緊張感を持っていた。
「これより、『花被片騎士総合会合』を始めます」
副団長は、そう宣言した。




