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終末の魔女  作者: せいじ
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「殿下」

「うん?」

「妻が戻るまで、馬を少し歩かせましょう」

「そうだね」

 確かに、このままただ待つのも退屈だし、我が流星号も運動したいだろうし。

「はい!」

 号令一下、馬は颯爽と歩きだす。

 ルスの馬が。

 我が流星号は、ヒヒ~ンと鳴いた後、その場を動かなかった。

 ルスは馬を返してきたけど、何も言わなかった。

「少し、待ちましょう」

「うん、そうだね」



 微妙な空気だ。



 すると、待つほどもなく屋敷から、一人の麗人が飛び出してきた。

 リズだった。

 リズの乗馬用のスタイルは意外なほど格好良く、光り輝きながらも揺れる金色の髪と相まって、実によく似合っていた。

 いつもそれほどゆったりとした服装ではなかったけど、乗馬用の服はそれ以上に身体にぴったりとしていた。

 リズは意外に、細い身体をしていた。

 あの胸で。




 どうなってるんだ?




 そんなリズは、手を振りながら笑顔で走って来た。

 俺の人生で、あんな美人が笑顔で俺の元に駆けよってくるなんて出来事は、想像も出来なかった。

 恐らく、もう一生無いだろう。

 とは言え、ただ待っているのもどうかと思い、手を差し出した。

 リズの手を取る為だが、ちょっとキザだっただろうか?

 

 しかし


 リズは、速度を落とさない。


 リズの後ろでは、マリーさんがスカートを摘まみ上げながらも必死に追いかけていた。

 マリーさんは、何かを叫んでいた。

 リズはそれには気にせず、ただ突進してくる。


「リズ?」

 どんどん近づくリズ。

 どんどん動揺を深める俺。

 どうすりゃいい?

 

 どうもこうもなく、リズは走る勢いそのまま、馬の手前で腰を一瞬落とし、跳ねるように飛んだ。

「えい!」

「え?」

 リズは片手で馬の鞍を掴み、そのまま俺の後ろにストンと降りた。

 衝撃は殆ど無く、馬も動揺していなかった。

 ルスも動揺しておらず、少しため息を吐いていた。

 俺だけが、ただ驚いていた。

 背中に伝わるリズの体温が、俺を更に動揺させた。

「リズ?」

 リズは俺の肩に手を置き、息を弾ませることもなかった。

 

 リズって、何者なんだ?


「おぼっちゃま」

「へ?」

「お稽古を致しませんと」

「う、うん」

 お稽古って、何のお稽古?

 二人乗りのお稽古だった?

 ああ、そうか。

 弓の稽古か。

 何を動揺しているんだか。

 弓を持っていることすら忘れるぐらい、リズに気を取られていた。

 俺は気を取り直し、弓に矢をつがえようとしたけど、どうにもうまくいかなかった。

「あ、あれ?」

「おぼっちゃま」

「え?」

 リズが手を添え、弓を構える位置を直してくれた。

 馬上で弓を構えるのって、かなりの難易度ではないかと今更ながら思い知った。

 なるほど、リズの言う通り、馬上で弓を射る練習なんて、俺にはまだ早かったかもしれない。

 でも、今更引き返せない。

 何とか形にしないと。

 俺はリズの指導の下、弓を構えたけど、今度は狙いが定まらない。

「う~ん、う~ん」

「おぼっちゃま」

「え?」

「弓をこう傾けると、的を狙えますわ」

「う、うん」

 今にして思うけど、俺に教えるのは、ルスの役割なんじゃないのか?

 肝腎のルスは、的のすぐ横に居て、俺に何も言ってくれない。

 というか、そんな場所に立っているなんて、危なくないか?

「さあ、おぼっちゃま」

 リズは気にしていないようだ。


 ・・・・・・・・少しは、気にしようよ。


 まあ、いい。

 要は的に当てればいい。

 そう考えた俺は、ゆっくりと的に狙いを定め、矢を放った。

 矢は的に当たらなかった。

 矢そのものが、的に届かなかった。

「おぼっちゃま」

「うん」

「少し、リズに背をお預けくださいませ」

「え?」

「さあ」

 リズは俺の胸元に腕を回すと、グイッと引き寄せた。

 リズの豊満な胸が、俺の背中に当たり、一瞬だけ動揺したけど、すぐに落ち着いた。

 不思議と安心というか、安定したような気がする。

 背中に女性の胸が当たっているのに、何で動揺が収まるんだ?

 俺って、どうかしたんじゃないのか?

「さあ、おぼっちゃま」

「うん」

 息を細く、細く、しかし深く。

 矢を飛ばして的を射るんじゃない、そのまま矢を突き刺すように。



 

 いま!




 ?




 俺は、矢を放つ。


 弦から放たれた矢は、まるで吸い寄せられるかのように、的に命中した。

 ほぼ、真ん中に。

 俺は束の間、呆然とした。

「やりましたわ!やりましたわ!!やりましたわ!!!おぼっちゃま!おぼっちゃま!!おぼっちゃまああああああ!!!」

「リズ?」

 リズは俺の背中で、はしゃいでいた。

「危ないよ、リズ?」

 リズは後ろから俺の腕を取りながら、踊り始めた。

 馬上で。

「リズ?」

「ふっふん♪ふふふん♪ふっふっふっふふふふん♪ふっふっふっふふふん♪うふふふふふふ♪」

「リズ、危ないって」

 弓を持ったままだから、リズに当たらないようにしないといけないけど、リズはそんなことにはお構いなしだった。

 落ちそうで落ちない感覚が、ちょっと怖かったし、俺の背中ではしゃいでいるリズが落ちるんじゃないかと不安になる。


 ・・・・・・・・・その心配は無用か。


「ねえ、ルス?」

 ルスは的に命中した矢を、ジッと見ていた。

「ルス?」

 ルスを呼ぶ俺の声は、リズの歌声にかき消されたので、恐らくは届かなかった。

 まあ、ルスに期待はしていないけどさ。

 どうせ俺に、何も出来ないし。

 だったら、リズが飽きるまで付き合おう。


 ええ、分かってます。


 俺の意思なんか、この際どうでもいいってことを。


 でも、リズがご機嫌なのはいいことだと思う。


 問題は、いつ終わるかだ。


 リズは、まだまだ踊っていた。


 意外にも馬は、微動だにしなかった。





 流星号って、もしかして大物か?

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