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リズとルスが、激しく言い合っている。
俺を巡って。
だと思う。
「殿下」
「うん」
「こちらにお乗りください」
馬だ。
俺の愛馬で、名前を流星号と言う。
もっとも、最初は適当に馬一号と名付けたが、そのせいか俺の言う事を聞いてくれない。
腹を蹴っても、手綱を引いても、何なら声を掛けてものんびりしている。
きっと、名前が気に入らないのだろうと思い、カッコいい名前に変えることにした。
それが、流星号だ。
名前を流星号にしたのは、愛馬には星にちなむ名前を付ける人が多いと聞いたからだ。
問題は、この世界の星の名前を俺が知らないということだ。
だから無難に、流星号とした訳だが、状況に変化無しだった。
流れない流れ星って、哲学的でちょっとシュールだと思うけど、これが自分の愛馬のことだとすると、洒落にならない。
それでも我が愛馬であることには、違いが無い。
問題は流星号が、俺のことを主人と思ってくれているかだが。
俺はルスに促されるまま、鞍と手綱を掴み、颯爽と馬の背に乗った。
颯爽かどうかは、意見の分かれるところだと思うが、そもそも俺の前世では、乗馬なんか縁が無かったから、一人で馬に乗れるだけすごいと思う。
今更馬に乗って、何をするんだ?
すると。
「殿下」
弓を渡された。
もしかして、馬上で弓を射るのかな?
流鏑馬の練習ではないよな?
あれって、見た目以上に難しそうだ。
まあ、これも経験だろう。
「いけません!」
「え?」
いつの間にか、リズが側まで来ていた。
その表情は、どこか焦りすら感じられた。
俺は驚いたけど、馬は微動だにしなかった。
いえ、草を食んでいました。
リズの接近にも、一切の動揺を見せずにだ。
この馬、案外大物かも。
「ルス!あなたはおぼっちゃまに、何をさせるおつもりですか?」
「何って、騎射の練習だよ」
「騎射なんて、おぼっちゃまには早すぎますわ!」
「こういうのは、早く覚えた方がいい」
「早ければいいってものではありませんわ!」
まあ、そうなんだろうけどさ。
でも、やるなら早い方がよく無いかなとは、言わないでおこう。
「おぼっちゃまはまだ、成長途上ですわ。お身体がまだ完全に出来上がっていないのに、そんな危ないことをしたらお怪我をなさいますわ!」
「大丈夫だ。俺がちゃんと付いている」
「急に馬が驚いて、おぼっちゃまを振り落としたら、見るもなにもありませんわ!」
「それこそ心配無用だ」
「どうしてですか?」
「この馬は、何があっても絶対に驚かないようにしっかり調教した、殿下専用の馬だ。獣に襲われても、殿下の指示が無い限り、その場を決して動かない」
そうだったんだ。
知らなかったよ。
ゴメン、流星号。
君は動かないとか、指示を聞いてくれない厄介な馬ではなく、動かない馬だったんだね?
いや、待てよ。
ルスはさっき、指示が無い限りとか言わなかったか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、いっか。
「では、おぼっちゃまが慌てて間違ったご指示をお出しになったら、どうなるんですの?」
「そうしない為に、毎日訓練をしてもらっている」
「だったら、」
「ええっと」
「奥さま」
俺が声を掛ける寸前に、マリーさんが声を掛けてきた。
気配を感じなかったので、ちょっと驚いた。
リズといい、マリーさんといい、この二人は何者だろうか?
「マリー?」
マリーさんは動揺することもなく、さっとこちらに向かって礼をする。
多分、俺に対しての礼ではないだろう。
「殿下が落馬しないように、お側でお支えするのはいかがでしょうか?」
「まあ!」
お側で支えるって、それってみっともなくないかな?
まあ、落馬するのは怖いけどさ。
「ではリズが、おぼっちゃまをお支えいたしますわ!」
拒否権とか、それ以前に俺の意見の入り込む余地は・・・・・まあ無いんだろうけど。
ルスも諦めてたし、そもそも馬上で弓の練習が出来ればそれでいいんだろう。
「おぼっちゃま」
「え?」
「少し、前の方にお座りいただけませんか?」
「え?前って?」
リズは俺の背中をグイッと押し、つられた俺は少しだけ前に押されてしまった。
すると、リズがいきなり鞍に手を掛けてきた。
「リズ?」
「いきますわよ」
「わ!わ!わ!ちょ、ちょっと、ちょっと待った!」
「はい?」
「スカート、そのスカートのままでは乗れないでしょう?」
「ああ、さようでございましたわ」
「ね?だから、乗らなくても大丈夫だから」
「ルス」
「ああ」
「剣をお貸しください」
「え?」
ルスが絶句した。
俺も絶句しそうになったけど、呆けている場合ではない。
「リズ、何をする気?」
「邪魔なスカートを切りますわ」
リズはスカートを摘み上げ、スカートの真ん中を切るジェスチャーを見せた。
「えええええ?何で?どうして?」
「このままでは、おぼっちゃまを後ろからお支え出来ませんから」
後ろって、他に支えるやり方ぐらいあるだろう。
そこまでして、俺を支えなくていいよと言いたいし、どうして俺の後ろに乗ることが前提になっているんだ?
「奥さま」
「なあに?」
お!頼りになる人の登場だ。
ルスは絶句したままだけど。
「そのままですと、殿下をお支え出来ないと存じます」
「そう?」
「はい。乗馬用の衣服の用意がございますので、まずはお着替えをお願いします」
「あら?気が利きますこと」
チャンス! さっすが、マリーさんだ。
俺はすかさず、このチャンスに飛びつくことにした。
「着替えておいでよ、リズ」
「あら、おぼっちゃまったら、うふふふふ♪」
リズは口元を押さえながら、どこか妖しく微笑んでいた。
俺、何か変なことを言ったかな?
「さあ、奥さま」
「ええ」
リズは屋敷に向かって駆け出そうとしたら、すぐに振り向いた。
「おぼっちゃま」
「え?」
「リズはすぐに戻りますから、必ずお待ちになってくださいませ」
「うん」
「必ずでございます、必ずですよ」
「分かったから、急がなくていいよ」
「はい♪」
笑みを浮かべながら、リズが屋敷に戻っていった。
リズが戻るその間、俺は何をしていようか?
ルスは固まったままだし、少し動くか。
「我が愛馬、流星号よ」
当然、ひひ~んと鳴いて返事をしてくれることもなく、その場から動くことも無く、ただ草を食んでいた。
ねえ、ルスよ。
本当にこの馬、俺の言うことを聞くのかい?
それとも、ハウス!とか、ステイとか、馬専用の指示語とかがあるとか?
だったらさ、指示語をちゃんと教えてくれないかと思ったけど、ルスはまだ絶句したままだった。
いっそ、行け!我が流星号とでも呼んでみるか?
・・・・・恥ずかしいな、それ。
前途多難だ。




