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終末の魔女  作者: せいじ
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「あれ?」

 まっすぐ飛んだ矢は、まっすぐと的に当たらなかった。

 俺は咄嗟に、まずいと思った。

 矢が外れた瞬間、意識をリズに向けた。


 リズは、殺気を放たなかった。


 その代わりに、陽気な声を出すルスを見ていた。

「惜しい!」

 睨んではいないけど、ただルスを見ていた。

 微妙に、冷たい感じで。

 リズの周囲だけ、温度が下がっているような気がする程度で。

 よく、気が付かないものだと思う。

 ルスって、意外に神経図太いのかもしれないな。

 弓よりも、そっちを見習いたい。


 俺は軽く返事をした。

「うん」

 

 今度は台車に乗せた的を射る練習だ。

 台車に的を載せる目的は、もちろん的そのものを動かすためだ。

 台車に紐を括りつけ、兵士がそれを引っ張ると言う、まあアナログなやり方だ。

 その動いている的に向かって、俺は矢を放つのだ。

 これが意外に難しい。


「先を読むのです!」

 読むって言われてもなあ。

 台車の速度は遅く、最初は簡単に出来ると思ったけど、これが案外難しい。

 弓を的に合わせて動かしながら、狙いを定めてから矢を放つのだから、これは案外難易度が高いかもしれない。

 だって、動く的を追いかけるのだから、狙いがいまいち定まらない。

「こうやります」

 ルスが手本を見せてくれたけど、さっぱり分からない。

 矢を弓につがえた瞬間、殆ど間を置かずに矢を放つ。

 少しのためらいとか、溜めも一切なくだ。

 しかも、それで的に命中するんだから、一体全体どうなっているんだ?

 動体視力の問題か?

 そういえば、この世界に来てから視力が良くなったような気がするけど、それでも追いきれないようだ。


 もし、才能の違いだったら、これはもうお手上げだ。


 勇者パーティに参加して、魔王討伐後に始まる美少女魔法使いとのラブロマンスは、諦めた方がいいかもしれない。


「さあ、もう一度」

「うん」

 もう一度って、言われてもなあ。

 再度矢を放つも、やっぱり的に届かない。

 かすりもしない。

「殿下、的の移動先を予測し、そこに向かって矢を放ってください」

 言うは易く行うは難し、だと思うよ。

 言われて出来れば、苦労はしない。

「はやく」

「うん?」

 誰だ?

 まあいい。

 俺は声に応じるように、弓を横に動かす速度を、少し早めた。

 的を追い越したような錯覚に襲われたけど、意識せずに矢を放った。


 無意識に矢から手を放し、まるで矢に意思があるように飛んでいった、そんな気がした。


 矢は、的に命中した。


「お見事!」

 ルスの声だ。

 それだけは、はっきりと分かるけど。

 さっき、誰が俺に話しかけた?

「おぼっちゃまあ!!!!よくおやりになりましたわ!!!!!」

 声の主を考えようとしたら、リズの声援に気持ちを持っていかれてしまった。

 リズは、盛大に手を振っている。

 いつものリズの声援だけど、当たったとは言っても的の端っこにかろうじて当たっただけだから。

 まあ、悪い気はしないけどさ。

 でも、誰の声だ?

 リズの声でもないし、今日は少女メイドも居ない上に、肝腎の少女メイドの声を聞いたことがない。

 マリーさんが俺に声を掛けることなんかありえないだろうし、掛けられたら掛けられたで、その冷え切った声は俺にとってはストレスになりそうだ。


 マリーさんに、今、とか、早くとか言われたら、それだけで動けなくなるだろう。


「では、もう一度」

「うん」

 俺は弓に矢をつがえ、移動する的を目掛けて矢を放った。

 今度は、しっかりと命中した。

 的に命中した瞬間、俺は意識を別に向けた。



 声は、聞こえなかった。

 いや、すすり泣く声が聞こえた。

 泣き声がする方を見た。



 リズが、泣いていた。

 俺はその光景に、心の底から驚いた。

「え?」

 何でだ?

「ルス」

「はい、殿下」

「少し、休憩にしよう」

「はい、構いませんが」

 俺はルスの返事を待たず、弓をルスに押し付けてリズの元に駆けた。

 よく分からないが、急がないといけないと思ったからだ。

 リズの側までやってきたけど、リズはうつむいたまま、まだ泣いていた。

 声を掛ける前に俺の存在に気付いたリズは、うつむいていた顔を上げたけど、少し驚いた表情をしていた。

「リズ!」

「ああ、おぼっちゃま」

「どうしたの?何があったの?大丈夫?どこか痛いの?」

 キョトンとするリズだったけど、すぐに元の柔和な表情に戻った。

 でも、潤む目はいつもと違っていた。


 涙の跡が、胸を打った。


 とても、切なかった。


「あらあら、何でもございませんわ」

「でも、リズは泣いていたよ?どうして?」

「ああ、これでございますか」

 リズは目頭を拭い、はにかむように微笑んだ。

 まるで、幼い少女のように。

「うれし涙でございますわ」

「うれし涙?」

「はい」

「うれしいのに、泣くの?」

「はい。大人は悲しみよりも、うれしくて泣くものでございますわ」

「そうなんだ」

「はい♪」

「それで、何がそんなにうれしいの?」

 小首を傾げながら、指を顎に当てる。

 いつものリズの癖だ。

 でもすぐに、しかも明快に返答をした。

「そんなの、当たり前でございますわ」

「当たり前なんだ」

「はい!」

 続きを待ったけど、リズはただ微笑むだけだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ、あれ?」

 え?もしかしてそれで終わり?何がどう当たり前なんだ?


 リズはそれ以上答えることはせず、ただいつもと同じようにニコニコしていた。

 まるで、これでお話は終了でございますわ、と。

「殿下!そろそろお戻りください!」

 ルスの大音声に、急に目が覚めたような錯覚に襲われた。

「じゃ、戻るね」

「はい!」

 リズは手を振っていたので、俺も手を振り返した。

 どこか釈然としないまま、俺は弓の訓練を再開した。




 一度も、的に当たらなかった。

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