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終末の魔女  作者: せいじ
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「あれ?」

 リズに教わった通りに矢を放ったのに、的に命中しなかった。


 まあ、そんなもんだろうさ。

 だって、力加減といい、呼吸といい、狙いといい、すべてリズがやってくれたのだから。

 それをそのままやったつもりでも、後ろにはリズは居ないんだから。

 

 これが俺の本当の実力。

 文句を言う筋合いではない。



 しかし・・・・・・。


 

 何と言えばいいのか、背筋に何か冷たいモノが走った。

 殺気みたいなモノを感じた。

「いったい、誰だ?」

 もしかして、魔女、ではなく虫かな?

 虫が殺気を放っていたら、それはそれで怖いかも。

 俺は恐る恐る、刺さってくる視線を追った。



 意外にも、リズだった。



 リズはいつものように、訓練場の端に佇んでいた。

 いつもと違うのは、リズの表情だった。


 怖い。


 それ以外に、表現する術を俺は知らない。

 でも、殺意を籠めた視線を送っている先は、俺では無かった。

 被害者はというか、標的にされた可哀そうな人は・・・・


 

 ルスだった。



「ルス?」

「ああ、はい、え?あ、で・・・・・・んか」

 で・・・・・・んかって、新しい呼び方かな?

 ルスはすっかり動揺しているようだった。

 相手がリズなら、それはそれで仕方が無いんだろうけどさ、剣士なら殺気ぐらいで動揺なんかするなよと、人ごとのように思う。


 他人事って、気楽でいいなあ。


「で・・・・・・んか、ゆ、ゆ、ゆ、ゆみを、お、お、おあずかりします」

「うん」

 よく分からないけど、持っている弓をルスに預けた。

 リズの視線は更に強くなったようだけど、リズの横に立っている少女メイドも動揺しているけど?

 少女メイドは視線を迷わるように、きょろきょろと周囲を見回していた。

 まあ、怖いだろうね、至近距離だし。

 しかし、リズも大人げないなあ。

 子供を怯えさせるのは、ちょっと頂けないと思うよ。

 これって、児童虐待にならないかね?

 どうせ、何も言えませんけど。


 すまん、無力な主人で。


 ルスは弓をいじっていたけど、やがて俺に返してきた。

「・・・・・・」

 無言かよ?

「あ、ありがとう」

「は!はひ!」

 ため息が出そうになる状況だけど、要は当てればいいんでしょう。




 俺は、息を整えた。




 一度目を閉じ、そして目を見開いた。

 リズが俺を見ているのが、よく分かる。

 ・・・・・よかったね、ルス。

 リズが俺に注目してくれて。


 さて、気を取り直そう。


 後ろには、リズが居る。

 リズに背を預けるように。

 リズが手を添えてくる。

 リズが細くゆっくりと息をする。

 リズと一緒に矢をつがえて、弓をゆっくりと構える。





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今。





 そう聞こえた瞬間、俺は矢を解き放った。


 矢はまっすぐ飛び、的に命中した。

 真ん中ではなかったけど、命中は命中だ。

「ヨシ!」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

「うん?」

 拍手のする方を見る。

「おぼっちゃまあああああ!!!!よくおやりになりました!ご立派でございますわ!」

「え?リズ?」

 リズは俺に向かって、大きく手を振っていた。

 少女メイドも同じく、小さな手を精一杯振っていた。

 何だか、恥ずかしくなってきた。

「殿下」

「ルス?」

「男子たるもの、婦人の声に応えないといけませんぞ」

「うん」

 さっきと態度が随分違うけど、矛先が変わったというか、状況が変化したからかな?

 ルスも呑気なものだなあ。

 俺は精一杯、リズと少女メイドに向かって手を振って応えた。

「ねえ、ルス」

「はい、殿下」

「弓に何かしたの?」

「少々緩かったようですので、少し締めました」

「そうなんだ、ありがとう」

 少し、弦に抵抗があったような気がしたけど、矢がこれでいいと言っている気がした。

 今と言ったのは最初はリズかと思ったけど、もしかしたら、弓か矢が俺にささやいたのかな?

 さっすが、異世界!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 そんな訳あるか。


 俺もとうとう、頭がおかしくなってきたのかな?


「さあ、次も当ててください」

「うん」


 何も、誰も囁かなかった。


 俺は一度目を閉じ、目を開いてから第二射を放った。

 矢は吸い込まれるように、的に命中した。

 さっきよりも、真ん中に近かった。

 俺って、もしかして弓矢の才能があるのかな?

 冒険者にでもなったら、職業を弓兵にしようかな?

 勇者が先頭に立ち、俺が後ろで弓矢による援護射撃をする。

 

 うん、いい。

 特に安全なところが。

 それで、俺の隣には美少女魔法使いが居て、同じように後方で勇者を支援する。


 いつも隣に居るから、やがて旅の果てにロマンスが起きる。


 普段は俺に素っ気ないけど、結構俺のことを気にしてくれる、そんな美少女がいい。

「も、もう!あんただけなんだからね!特別よ!で、でも!か、勘違いしないでよ!」

「そんなこと、分かってるよ!」

「ばか・・・」


 うん、いいかも。


 いや、これはいい!


 楽しいかも。


 でも、勇者と美少女の取り合いにならないといいけど。


 まあ、その時はその時だ。


 美少女を巡って決闘だと言われたら、すぐに身を引こう。


 勇者なんかと戦っても、どうせ勝ってこないし。


 安全第一だ。


 それに、マリーさんと約束したしね。


 なるべく、戦わないって。


 それでも、出来ることが増えるのって、実にいい。


 俺は弓の訓練を続けた。

 でも、やはり真ん中に当てることは出来なかったし、誰もどこからも今とは言ってくれなかった。



 やはり、ただの空耳のようだ。



 真ん中に矢を当てていなくても、それでもリズは喜んでいたけど。

 でも、喜び方が尋常じゃないけど。

 ぴょんぴょん跳ねているし、編んで束ねたよく光る髪と、立派なお胸が一緒に跳ねているし。

 正直、恥ずかしい。

 いい加減、その過保護っぷりを治したらどうかな?

 そう思ったら、聖なる神から罰が当たるかな?

 これだけ、自分を大事に思ってくれる人を蔑ろにするのは、やはり罪だろう。







 自分がそれを、望まなかったとしても。







 そう言えば、聖なる神って、どんな神なんだろうか?


 おっかない神さまでないと、いいと思う。


 触らぬ神に、たたり無しって言うしね。




 さて、練習,練習と。

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