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三回に一回は、矢はなんとか的に当たるようになった。
どうも的に集中し過ぎたせいで姿勢が良くないらしく、集中し過ぎないようにとルスから注意された。
逆にあまり集中しないと、集中してくださいと言われる。
どっちなんだ?
まあ、前世でも上司が矛盾する指示を部下に出すものだ。
しかも、言われていないのに、言った、指示を出したと言われたりすることも間々ある。
それでうまくいったら上司の指導の賜物、失敗したら上司の言う事を理解しない無能な部下ときたもんだ。
上司の指示と違うことをやっても、うまくいけば上司の指導によるものと報告されるが、まあ大きく見ればそうなんだろう。
上司の指示を、うまく丸める工夫を覚えたからだ。
それは無能な上司とうまくやる、一種の処世術のようなものだからだし、自分の力になったのだから。
苦労は金を出してでも買えという、そんなことわざもあながち間違ってはいないのだろうか。
とは言え、俺はこの世界の知識はもちろん、そもそも乗馬や弓矢なんてまだそこまでの域に達していない。
だからどうすれば、ルスの言っていることをうまく丸めることが出来るのか、正直分からない。
分からないから、うまくいかない。
経験値が低すぎる。
これは才能云々以前の話だ。
だったら、どうすればいい?
勝手が違い過ぎて、正直よく分からない。
すると、リズが助言をしてくれた。
馬に騎乗していることを、お忘れになりませんようにと。
俺の背中を撫でながら言うから、一瞬リズが何を言っているのか分からなかったけど。
まあ、リズが俺の背中を支えてくれているせいか、ちょっと油断してしまったようだ。
そんなリズはと言うと、横で俺の背中を支えていると言うより、手で触れている感じだった。
前回のように、俺の背をリズに完全に預けるような感じではなかったので、その分姿勢が悪いのだろう。
だからか、姿勢が安定しないようだ。
それでも決して、落馬する心配が無いと確信してしまうほどの、不思議な安心感がある。
だが、そうも安心していられなかった。
今度は動く馬上から、的に向かって矢を射る練習をさせられたからだ。
まだ、馬が静止している状態で矢を放つ練習が完全ではないのに、いきなりハードルを上げられてしまった。
仕方が無いので、指示通り馬を動かすことにした。
問題があるとしたら、我が流星号は気が向かない限り、決して動くことは無いはずだからだ。
動くはずは無いはずなのに、普通に歩きだした。
ルスが馬の轡を取り、ゆっくりと歩き出すと流星号もそれに合わせるように歩き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・泣くよ?
リズも馬と一緒に歩くので、俺とリズの位置は変わらない。
なんか、変な感じだ。
困ったことは、的の位置が定まらない。
馬が的の周囲をグルグル回る感じならいいけど、実際は横にまっすぐ移動するので、まごまごしていたら射線は斜めになってしまうし、距離感が掴めない。
そうなると、何度矢を放っても、的にかすりもしない。
「おぼっちゃま」
「うん」
「お心をお静かに、ゆっくりと呼吸をしてくださいませ」
「うん」
心静かにって、禅かい?
今度は、無でございますわとか言うのかな?
もしそう言われたら、びっくりだけど。
でも、落ち着かないと。
リズに言われるまでも無く、気が付くと呼吸も乱れていたし、姿勢も悪くなっていたようだ。
リズにそう言われても、どうしても呼吸が落ち着かず、また矢を外してしまった。
「ダメか」
「いいえ、おぼっちゃま」
「何、リズ?」
「いい感じでございますわ」
「そうなの?」
「はい」
リズの表情からは、特に何かあるとは見えなかった。
いつもの、微笑を絶やさない大人の女性の感じだった。
だから俺は、リズのそのいい感じが分からなかった。
何がどういい感じなのだろうか?
ルスは何も言わず、ただ的を見ていた。
的なんか見てないで、ルスの助言が欲しいんだけどなあ。
リズは無言で俺の背を撫でていて、ちょっと情けなかった。
「大丈夫でございますわ」
俺の動揺が、リズに伝わったのだろうか?
「うん」
大丈夫と言われてもなあ。
どうすればいいのか、結局練習あるのみだろう。
そのうち、駆ける馬上から矢を射るような練習も始まるだろう。
流鏑馬のように。
才能無し!
そう判定してくれた方が、まだ楽なような気がするけど、俺の横で微笑んでいるリズを見ると、文句も言えない。
実際、才能無いのにいつまでも頑張ればできるとか、努力は裏切らないと言われながら、最後は才能が物を言うとなると、その時間を他に使うべきだろう。
出来ないことは、いくら努力しても無駄なんだ。
一流スポーツ選手だって、努力だけで成った訳ではないと思う。
才能があるから、才能を認めてもらったからこそ、頂点を極めることが出来るのだろう。
まあ、弓も馬も貴族のたしなみだとするなら、そこそこ出来ればいいと俺は思う。
凡人には凡人なりの、楽しみ方だってきっとあるはず。
それに俺は、別に英雄になりたい訳でもないし、せいぜい勇者一行の端に混ぜてもらい、何となく活躍して後は悠々自適な余生を送れればそれでいいと思う。
そうだ、スローライフこそが我が夢!
問題は、俺にどんな才能があるかだ。
今のところ、特段何かあるようには思えない。
何も無かったら、スローライフどころではないから、何か見つけないといけない。
だから今は、色々と学ばないといけない。
貴族のマナーは、正直あまり学びたいとは思わないけど。
辺境で静かにスローライフを送る。
世の中がどうなろうと、俺はどうでもいいと思う。
貴族の義務?
知るか、そんなもん!
俺は前世で、ブラック企業で散々こき使われた、ただの庶民だ!
問題は、それが通るかどうかだ。
でもまあ、俺が呑気なスローライフを送るには、狩りぐらい出来なければ生きていけないだろう。
ウサギ一匹狩ることが出来ない領主って、ちょっと嫌だよな。
領民に馬鹿にされたら、街に出ることも出来ないし。
そう考えると、この世界も生きづらそうだ。
頑張ろう。
先は長いけどな。




