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終末の魔女  作者: せいじ
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「では、いきます」

「うん!」


 しばらく待った。

 すると。


「魔法発動!」

「!!」

 俺は咄嗟に、その声のした方向に駆け出した。

 向かった先には人が居て、こちらに手の平を向けていた。

 俺は目標を認識し、腰に差していた木剣を抜いた。

「魔術解放!」

「えーい!」

「そこまで!」






「間に合わなかったか」

「それでも、反応は良かったですよ」


 対魔女戦を想定した訓練を行っている。

 ルスが考案してくれた。

 その内容は、人を行動不能かそれに近い効果のある魔術の詠唱時間、その最大射程距離ぎりぎりに俺が位置し、そこから魔女に接近して攻撃出来るかどうかだ。

 複数の者を周囲に配置し、誰が詠唱を始めるか分からない状態からスタートする。

 

 いい感じだったけど、残念なことに届かなかった。


「やっぱり、無理か」

「そうではありませんよ」

「え?」

「この場合、訓練でこの結果です。実戦では、どうなるか分からないからです」

「でも、詠唱は終わっていたよね?」

「はい」

「だったら、僕の負けだよね?」

「魔女が魔術を放てるかどうか、その間際まで肉薄しましたので、これはかなり意表を突けたはずです」

「でも、届かなければ意味は無いって、ルスは言っていたよね?」

「そうです。しかし、あそこまで魔女に肉薄すれば、詠唱を中断して避けるかもしれませんし、仮に殿下に向かって魔術を放っても、あそこまで近付ければ魔女も無傷では済まないでしょうから」

「え?自分が放った魔術なのに?」

「そうです。自分が振った剣でも、自分に当たれば無傷で済むはずはありません。それと同じです」

 よく分からないなあ。

 魔法だったら、放った自分だけは無傷だと思っていたけど、違うんだ。

 もっと異世界モノを、読んでおけばよかった。

「それに魔女が魔術を使う時は、もっと相手に近づくものです」

「そうなの?」

「攻撃は届かなければ意味が無い以上、魔女は相手が逃げられても魔術が届く距離まで近づいてくるものです」

「ふ~ん」

「今回は訓練ですから、もっとも最悪の状況を想定して行っています」

「実戦では、こうならないと?」

「訓練よりも実戦の方が楽が、求められるべき訓練なんです」

「ふ~ん」

「そして今回の失敗により、次の改善点も見つけられます」

「どうすればいいの?」

「どうすればよりも、むしろ驚きました」

「驚いたの?」

「はい。殿下があそこまで一瞬で反応し、しかも素早く相手に近付き、腰に差してある剣を抜いて相手を攻撃する。出来るようで、簡単ではないと俺は思います」

「そうなんだ」

「さて、では・・・・・・・・・・・。一旦、休憩にしましょう」

「え?僕はまだ動けるよ?」

「ええっと、妻が呼んでおりますので」

「え?」

 いつもなら黙って見ているだけのリズだけど、珍しく手招きをしている。

 それも、かなり怖い感じで。

「僕も、行こうか?」

 正直、行きたくないけど。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。いえ、大丈夫です、はい」

 何、その間は?

「うん。頑張って」

 ルスが一瞬、がっかりした表情をしたけど、すぐに真顔に戻った。

 いや、何かを諦めたような顔だったけど。

「殿下はお休みください。すぐに戻ります」

「うん」

 すぐに戻れるといいね。

 それとも、本当に俺に助けてほしいとか?

 無理でしょう。

 リズに泣かれでもしたら、俺は彼女の言いなりになるしかないしね。


 何かを諦めたようなルスの後姿は、まるで敗残兵のようにすら見える。

 まあ、敗残兵なんて見たことないけど。

 しかし、何でルスはあんなにリズを恐れているんだ?

 確かにリズは強かったし、美人だからかな?

 美人でも、怖いのはなあ。

 怖いお嫁さんが俺の帰りを待っている家って、ちょっと嫌だな。

 家出したくなるかも。

 結婚するなら、もっと普通のお嫁さんを貰いたいな。

 俺のことを大事にしてくれる、は適当でいいや。

 だって、リズのようにああも心配されると、正直やりにくいし、胸が苦しくなる。


 特に泣かれると、何も出来なくなる。


 でも、二人は何にを言い合っているんだろうか?

 やっぱり、俺も行けばよかったかな?

 リズは淡々と話しているように見えるし、ルスは身振り手振りを加えて何か説明しているようだし。


 でも、実際はもっと激しいやり取りでもしているのかな?

 そんなことを考えていると、突然声を掛けられた。

「お水でございます、殿下」

「!!」

「殿下?」

 口から心臓が飛び出るかと思うほど、俺は驚いた。



 マリーさんだった。



 水の入ったコップを運んでくれたようだけど、ちなみに運んでいるのはマリーさんの横に居る少女メイドだった。

 しかし、いつの間に。

 まったく気配を感じなかった。

「ああ、ありがとう」

 少女メイドから水の入ったコップを受け取ると、少女メイドは俺の額とか首周りを湿らせたタオルで拭き始めた。

 何故か、無言で。

 いや、いつも無言か。

 普通、失礼しますとか、お加減はいかがですかとか聞くものじゃないかな?

 まあ、いいけどさ。

 

 だって、真剣なんだもの。


 俺は水を飲むけど、何だろうか、不思議とくつろげないし、飲みにくいし。

 というか、マリーさんはいつまで、そこに突っ立っているんだ?

 圧はそれほどすごくはないけど、何となく居心地が悪い。

 特に俺に向けられた視線が、ちょっと息苦しい。

 せめて、何かしゃべってよ。

 その思いが通じたのか、珍しくマリーさんから俺に話しかけてきた。

「殿下、少しよろしいでしょうか?」

「うん?何?」

「殿下は、魔女というか虫と戦うおつもりでしょうか?」

「え?何で?」

「この訓練は、魔女というか虫と戦うことを想定していますよね?」

「うん、そうらしいね」

 まあ、実戦で役に立つかどうかは、俺には分からないけど。

「おやめ頂けませんか?」

「え?」

「奥さまが、心配いたします」

 いや、リズはいつも心配していると思うよ。

 まあ、この場合はちょっと違うか。


 命のやり取りをしようとしている、それをリズは心配しているんだろう。


「うん。大丈夫だよ」

「大丈夫で、ございますか?」

「うん。万が一を想定して、訓練をしてもらっているんだ。だから、魔女と遭遇しない限り、何の役にも立たない訓練だよ」

「それは魔女というか、虫に遭遇したら、殿下御自ら戦うということでしょうか?」

 ああ、そういうことか。

「違う、違うよ」

「どう違うのでしょうか?」

「魔女と遭遇してもさ、相手を理解してないと逃げられないと思うんだ。だから、この訓練は一種の護身術のようなものだよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 え、なに?

 まだ、納得してくれないの?

 と言うか、目が細くなった。


 怖いんだけど。

 

「ほ、ほら、災害は忘れたころにやってくると言うでしょう。だからね、その為なんだよ」

 何言ってんだ、俺。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 いやだ!

 いやだ!

 本当にいやだ!

 細めた目が、益々細くなっているよ。

 怖いよ。

 パワハラで訴えるぞ!

「あ、あのさ、本当なんだよ。本当に本当にさ、本当なんだよ。だいたいさ、そんな物語みたいな真似を、僕がするはずないじゃないか」

 益々、自分が何を言っているのか分からない。

 誰か、助けて。

 ○○さん、お電話ですぅ~、とか。

 あ、は~いと逃げられるのに。

 そう言えば、自分が代わりに電話に出ますよと言った、KYが居たな。

 普段は電話なんか無視する癖に、ここぞと言う時には気が利くふりをしやがる。

 まあ、世渡り上手ということなんだろうけど。


 あいつ、いまどうしているんだろうか。


 で、肝腎の俺の状況だけど、まったく変化なしです。

「僕、魔女と戦うなんて、一言も言ってないよ。僕は勇者なんかじゃないし」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一瞬だけど、マリーさんの眉が、ピクッと動いた気がする。

 マリーさんの動いた眉に反応するように、俺の胃もビクッと反応した。

 あ、これ胃に穴が開くパターンだ。

 胃潰瘍で入院かな?

 まあ俺の場合、通院だったけど。

 何故か労災を認めてくれなかったけどさ。

 そう言えば、この世界の病院事情って、どうなってるんだろう?

 薬師さまって、お医者さまのことかな?

 実際、症状とか診てくれるし。

 それにしても、ストレスが溜まるなあ。

 どう言えば、マリーさんは納得してくれるんだろうか。

「あんなおっかない魔女というか、虫なんかと戦うはずないじゃないか。だって、ルスはもちろん、僕は兵士にだって勝てないんだよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 いや、まだダメなのか?

 というか、視線が益々怖くなっている。

 よく、少女メイドは泣きださないな。

 いや、俺の身体を拭くのに集中しているのか。

 というか、いつの間に俺のシャツをめくっているんだ?

 そんなに汗をかいているのか?

「と、とにかくさ、僕は逃げるから。安心してほしい。魔女というか、虫に出会ったらすぐに逃げるから。本当だよ、ね?約束するから。本当に、本当だから。決してさ、あんなのと戦おうなんて考えないよ。僕が戦うはずないじゃないか。だいたいさ、僕はリズやルスじゃないんだから、ね?だから、信じて?ね?ね?ね?ね?ね?ね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 胃がまた、キュッと鳴った。

 まるで止めを刺すように、圧が強くなったような気がする。

 すごく、怖い。

 視線の冷たさが増したような気がするし、何らな殺意すら感じる。

 目からレーザー光線でも出てるんじゃないか?

 どうしようか。

 一応、俺は主筋だよね?


 主筋ってことはさ、俺って一応、君の上司だよね?


 違いますと言われたら怖いので、聞かないでおこう。


 少女メイドはその間、俺の身体から首周りをごしごし拭いてくれてるけど、もうそろそろいいんじゃないかな?

 痛くなってきたよ?

 胃も痛いけど。

 もしかして、少女メイドも怒ってる?

 俺が、リズを困らせていると。

 君もリズ信者だったか。


 やれやれ。


 まあ、あれだけ美人で格好いいと、信者の一人や二人は出来るだろうけど。


 でもなあ。


 リズだけでも手に余るのに、これ以上は勘弁してほしい。


 一人になりたいなあ。



 贅沢な悩みかな。

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