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終末の魔女  作者: せいじ
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「魔女の倒し方、ですか?」

「うん、魔女の倒し方」

「・・・・・・・・。」

「ルス?」

「逃げてください」

「え?」

「魔女と遭遇したら、とにかく逃げてください」

「え?でも」

「逃げる以外に、魔女を倒す方法はありません」

「え?どういうこと?」

「殿下が無事に逃げることが出来たら、俺が必ず魔女を倒すからです」

「・・・・・・・・・・・・・」

「殿下?」

「で、でも、逃げられない場合は、どうすればいいの?」

「誰かが必ず、殿下を無事に逃がしてくれます。安心してください」

「それって、誰かを盾にしろって言う事だよね?」

「はい、その通りです」

「それは、卑怯なんじゃないの?」

 少なくとも、格好よくはないと思う。

「俺が魔女から逃げたら、卑怯の誹りは免れません」

「ルスの話じゃなくって、僕の話だよ」

「殿下が逃げても、卑怯になりませんよ」

「どういうこと?」

「我々は、殿下をお守りするためにここに居ます。殿下に危機が迫ったら、手段を選ばずに殿下を無事に逃がすことです。それが、我々にとって使命を全うするということですよ、殿下」

「・・・・・・。」

「殿下に戦い方を教えているのも、それは逃げる為であって、殿下自らが戦うことではありませんよ」

「・・・・・・・でも、逃げられない時は、どうすればいいの?」

「・・・・・・・それは、逃げられないではなく、逃げないということですか?」

「違うよ、僕が逃げられないように追い詰められた時の話だよ。魔女の仲間に、退路を塞がれたらの話だよ」

「殿下をそのような状況にならないようにするのも、我らの使命の内です」

 何だか、禅問答をしているような気がするな。

「で、でも、この前は・・・」

「この前は、俺の妻が居りましたよ。妻は立派に、殿下をお守りする使命を果たしたと思います」

「リ、リズは確かに強かったけど、でもリズは、自分を盾にして僕を守ろうとしていたよ。リズは女性なのに」

「それが、妻の役割ですよ、殿下」

 ダメだ、どうしても言い負かされる。

 違うんだ、違うんだよ。

 どう言えばいいんだ?

 守りたいって思うのって、身勝手なことなのか?

 女性を盾にするって、何だか嫌なんだよ。

 リズは強いから盾にしていいじゃないかって、それでいいなんて思えないんだ。


 それがリズの役目だからでいいとは思えないし、俺はルスの言うように割り切れない。


「ふ~、仕方がありませんな」

「え?」

「妻が少々、不機嫌になってきましたので」

「リズが?」

 剣の稽古をしている広場の隅で、リズはいつも静かに佇んでいる。

 両手を前あたりで結び、まっすぐこちらを見ているけど、確かに不機嫌な感じに見える。

 リズはいつも微笑を絶やさないから、無表情になると不機嫌に見えるのか。

「どうも妻は、俺が殿下を困らせているように見えるみたいですな」

「ええ?そんなことはないよ」

 むしろ、俺がルスを困らせていると思う。

 俺が自分の立場を理解し、素直に受け入れればいい。ただ守られていることに、徹すればいい。

 我が儘を言っているのは、俺の方なんだ。

 立場を受け入れない俺を、ルスは説得しているんだろう。

 リズもきっと、こればかりはルスに同意するだろう。

 それが二人の、役目なんだと思う。



 でも、俺って何者なんだ?



「まあ、ありえないとは言えないので、魔女の倒し方をお教えします」

「ホント!」

「ただし、最優先は御身の安全ですよ。それは、約束出来ますか?」

「うん」

「仮に妻が盾になっても、お逃げになれますか」

「・・・・・努力するよ」

「・・・・・・・まあ、いいでしょう。正直、妻の目が怖いので」

 リズを見ると、無表情から明らかに不機嫌な感じになっている。

 握っている手にも、力が入っているように見える。

 それでも決して、この訓練場には入って来ない。

 俺の身体に稽古相手の木剣が当たっても、相手を睨むだけで俺がリズの側に行くまでそこから動かない。

 まあ、リズに睨まれた相手は怯むけど。

 ちなみに、俺も怯みます。

 そんなおっかないリズの側まで行くと、リズ特有の過保護っぷりが全開になるのが不思議だ。

 本当に二重人格ではないかと、疑いたくなるぐらいの変わりようだ。

 そんなリズは、すぐに俺の服を脱がせに来るけど、正直あれはやめて欲しい。

 お怪我はありませんか、痛くありませんかとリズはいつも真剣だから困る。

 あざなんか見つけたら、リズはすぐに泣くからだ。

 リズはあんなに強いのに、何でこの程度のあざなんかで泣くんだろうか?

 虫刺されですらあれだから、もし切り傷なんか出来たら、それは想像するだけで恐ろしい。

 怪我の原因を作った人を、虫呼ばわりして殺処分するかもしれない。



 ハハハハハ、いくらなんでも、それは・・・・・・・・・・無いとは言えないな。



 万が一怪我をしたら、リズに見つからないようにしないといけない。


 そもそも、リズに怪我を隠せるのか?

 これは虫です、虫刺されですと言っても、さようですか、おぼっちゃまを刺すような虫は、リズがすべてこの世から駆除いたしますわと笑いながら言いそうで怖い。


 想像するだけで、身震いする。


 するとルスが、意外なことを言った。

「魔女と戦うには、魔女に接近することです」

「魔女に近づくってこと?魔法を放ってくるんじゃないの?」

「大丈夫です。人を行動不能にするような聖術、いや、魔術は組むには時間が掛かるのですよ」

「え?」

「詠唱をすることで、魔術の術式を組みます。詠唱しているその間は、魔女は何も出来ません。その隙に魔女に接近すれば、奴らは魔術を放てませんし、うまくすれば一撃をお見舞い出来ます」

 簡単に聞こえるけど。

 そんな簡単なことだったら、リズはあの道化師というか魔女というか、ええっと、今は虫だったかをさっさと倒せたはず。

「あ?」

 そうか、あの時は男たちに囲まれていたから、リズは魔女に集中出来なかったのか。

 俺があの場に居たから、リズは動くことが出来なかったのか。



 ただ、俺の盾になるために。



 結局、俺がリズの足を引っ張ったことに変わりはないのか。

「でも、魔女に距離を取られたら、どうすればいいの?」

「それこそ、逃げて下さい」

「逃げられるの?」

「はい。何故なら魔術には射程距離があります。大規模な魔法には長い詠唱と、それを支える膨大な魔力を集める必要があります。これは脅威ですが、届かない攻撃に意味はありませんから」

 ということは、あの、あの、あの、虫?が距離を取った時に、どっちかの男たちに突っ込めば良かったということなのか?

「でも、結界のようなものを張られていたから、逃げられないよ」

「それが、変なんですよ」

「え?」

「結界というのは、高レベルの魔術なんです。しかも、特定の魔女にしか作れないはずです」

「そうなんだ」

「結界という高度で大規模な魔術を行使したのに、あの魔女は更に高レベルの魔術を放とうとしました。普通、同時に高度な魔術を使うことは出来ません」

「・・・・・魔女が二人居たということ?」

 あの時、確かに声がした。

 大丈夫と言ってくれた。

 つまり、道化師というか、魔女、、、、虫?の邪魔をしたということか?

 でもその人が、俺たちが逃げられないように結界を張ったとしたら、一体何の為なのだろうか?

 虫、、、、、じゃなくって、魔女の仲間じゃなかったのか?

 訳が分からないが、更にルスが訳の分からないことを言った。

「普通、高レベルの魔術が使える魔女は、基本単独で行動します。どういう訳か、魔女同士は仲が悪いのですよ」

「仲が悪いの?」

 どういうことだろうか?

「俺が駆け出しの頃ですが、複数の魔女と戦ったことがあります」

「へ~」

「でも、俺たちそっちのけで、魔女同士が争い始めました」

 ええっと、敵を目の前で内輪もめをしたって、そういうこと?

「それで、ルスはどうしたの?」

「二人の魔女がお互いに向かって大魔術の詠唱を始めたので、俺たちはとっとと逃げ出しました。かなりやばい魔術を使っていたので」

「そうなんだ」

 魔女って、同じ場所に居るだけでも嫌なのかな?

 でも、ああいったおっかない連中が徒党を組むどころか、仲が悪いのはむしろ都合がいいと思う。

 敵の敵は味方って感じで、こっちの味方になってくれたらいいと思う。


 大丈夫と言ってくれた魔女なら、もしかして。


 と言うことは結界を張った魔女と、あの空気を震わせた魔女は別の存在。

 それとは別に、大丈夫と言ってくれた魔女は、また別の存在かな。

 でも、何か変だ。

 あの場に、魔女が三人も居たのか?

「高レベルの魔女が二人もこちら側に入るのは、ちょっと考えにくいのですが」

「そうなんだ」

 うん?ルスは今なんて言って?

 こちら側に、なんだって?

「ああ、そろそろ妻も限界のようです。お開きにしましょう」

「え?」

「正直、俺は魔女よりも妻の方が恐ろしい」

 リズを見ると、明らかに怒っていた。

 俺に向けた怒りではないだろうけど、正直怖いと思う。

 攻撃的な視線の端っこが、俺に触れているからだ。



 リズを怒らせてはいけないと、俺の中の何かが囁いているし。



「そうだね、うん、お開きにしよう」

 ルスはさっさと木剣を仕舞い、リズの居る方向とは反対の方向に向かって早足で歩きだした。

 いや、逃げだしたと言う方が近いかも。

 もしかして、リズも魔女?

 魔女が相手なら、とにかく逃げろということは、ここでも通用するのかな?

 いや、やめておこう。

 俺が逃げたら、きっとリズは地の果てまで追いかけてくるだろう。

 

 それは面倒だから、とっとと捕まろう。


 その方が疲れないし、結果として時間の節約になる。


 俺は愛用の木剣をぶらさげながら、リズの居る方に向かって歩き出した。

 リズが何だか、もじもじしているのが気になるけど。

 リズの傍らに居る少女メイドは、何だかおどおどしながらリズを見上げていた。

 それはちょっと、気の毒になってきた。

 それにしても、あの子は最近よく見るな。

 どう見ても、小学生にしか見えない。

 あんな子供に働かせて、親は何をしているんだ?

 まあ、あの少女メイドの雇用主はきっと俺だから、児童福祉法違反で訴えられるとしたら、俺になるんだろうけど。

 そういえば、この世界の人権って、どうなっているんだろうか?

 児童福祉法ぐらい、あるんだろうか?

 義務教育って、あるのだろうか?


 肝腎なことを、俺は知らない。

 


 俺は未だに、少女メイドの名前を知らない。



 いいのか、それで。


 そうだ、労働者なら履歴書があるはずだ。


 履歴書があれば、それを見ればいいはず。


 いいアイデアだ。


 これでこの屋敷に努める人の、すべての名前と来歴がわかるはず。


 ついでにリズの正体も、分かるといいな。




 どこまで行っても、リズはリズだろうけど。

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