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「りれきしょ?・・・・で、ございますか?」
「うん、みんなの履歴書が見たいんだ」
顎に指を当て、小首を傾げる仕草は、いつ見ても可愛いと思う。
でも、悩む必要はあるのか?
だって、履歴書だよ?
まさか、何も無くて雇用した訳ではないでしょう?
まさかと思うけど、無いよね?
「それは、どのようなものでしょうか?」
どのようなって、言われてもなあ。
「ええっと、労働者の個人情報と言うか、来歴というか、雇用主に対する労働者のアピールポイントというか、まあ、そんなものだよ」
よく考えたら、俺は履歴書なんてまともに書いたことが無いので、具体的にそれは何ですかと問われても、ちょっと返答に困るな。
俺も顎に指を当て、小首を傾げてみるか。
キモイか。
「・・・・・・・・・・・・・・ああ、なるほど!」
リズは得心したのか、手をポンと小気味よく叩いた。
「それでしたら、ご安心くださいませ」
「え?」
「当家で働く者は、その家族、親類に至るまですべて調べておりますわ。おぼっちゃまは、ご安心くださいませ」
「ええっと」
「おぼっちゃまの御懸念は、リズもよく理解しておりますわ。ですが、心配はご無用でございますわ」
いや、心配していないんだけど。
でも、なんて言えばいい。
使用人達の名前を知りたいだけなんて、今更だし。
しかも、最近良く見かける少女メイドだって、未だに名前を知らない。
何だったら、リズやルスのフルネームだって、実はよく分かっていないし。
でも、それで困ることが無いから、今まで放置してきたんだけど。
そもそも俺は、人の名前を覚えるのが苦手だ。
だいたい、部長とか主任とか呼んでいればそれでよく、名前を呼ぶ必要は無かった。
まあ、他人に興味が無かったところが、本当のところだが。
「万が一怪しい者が城にやってきても、リズが必ずおぼっちゃまをお守り致しますわ!」
いや、そうじゃないんだけど。
と言うか、怪しい者は入り口で防ぐでしょう?
その為の門番じゃないのかな?
まあ、役に立ちそうに見えないけどさ。
でも少女メイドが、興奮しているのは何でだろう?
鼻息が荒いし。
まあ、いっか。
どうせ女の子の考えていることなんて、俺に分かるはずも無いし。
いつか、君の名前を教えてくれるかな?
「ねえねえ、君の名前を教えてよ」
「は?きもいんですけど?つーほーしますよ」
いやいや、さすがに雇用主相手にそれはないか。
でも、嫌ですと言われたら、どうしようか。
前世の職場で俺と同じ部署に配属された女子社員の下の名前を、他の同僚と同じように呼んだ時は怖かった。
「なまえでよぶのやめてくれますかうったえますよせくはらですきもいですぱわはらですおまえすとーかーですかこのよからきえてくれませんか」
そう早口で、畳み込むように言われたことがあるし。
何故か他の男性社員には、にこにこ微笑みながら対応していたけど。
ちゃん付けはもちろん、呼び捨ても容認していたようだけどさ。
でもさ、仕方ないじゃん。
だって、名字教えてもらってないだから。
その後あの子に構うなと上司に言われたから、その女子社員が仕事でミスをしても、俺は何もしなかったけど。
その結果、俺の評価は地に堕ちたけど。
あの人、冷たい人ですねと、言われた。
しかも、人伝で。
だって、仕方が無いじゃん。
構うなって、言われているんだから。
その経験からか、人の名前を極力聞かないようになったのは。
名前を知らなければ、名前を呼ぶことも出来ないので、攻撃される心配はないはずだ。
はずだけど、今から思い返しても、女子社員は俺の何が気に食わなかったのだろうか?
この件がトラウマになったせいか、相手が名前を名乗ってこない以上、こちらからは聞かないというか、聞けなくなったのも情けない話だ。
相手に役職があると、助かるんだけど。
でもさすがに、自分の身の回りの世話をしてくれる人の名前ぐらい、知っても罰は当たらないと思うけどなあ。
「おぼっちゃま!どうかご安心してくださいませ!リズにすべてをお任せくださいませ!」
「ああ、そうなんだね。リズに任せておけば、ぜんぶ安心なんだね」
「はい!」
リズはその豊満な胸をこれでもかと張り、その存在感もまた、これでもかと見せつけてきた。
その立派なお胸に見惚れているのは、意外にも俺ではなく少女メイドだったけど。
こんな奴らばっかだな。
そう言えば、お城勤めは変わり者が多いって、誰か言っていたっけな?
誰だったっけ?
それはともかく、どうにかしてこの少女メイドの名前を知らないと。
だって、どう呼べばいい?
君?
キモイんですけど。
おい?
何を偉そうに。
少女メイド?
馬鹿でしょう?
ああ、もう!
俺はね、君の名前を知りたいんだよ。
次の手を考えるか。




