神龍 1
今日は七夕ですね。
僕も織姫さんと彦星さんにお願い事をしてみます。
ーーぶっくまーくがふえますように
ーーふぉろわーがふえますように
叶うといいなぁ
ーー神龍
神に匹敵するとされている力を持つそれはこの世界で最強といっても過言ではない生命体である。
他にも強い生命体などいくらでもいるのだが、神龍を前にしたらその存在がちっぽけに思えてしまうのだ。
人族の間では神龍は文字通り神として崇められたり、物語で救世主的な存在として書かれており、どれだけ神龍がすごいかと言うのがよくわかるだろう。
「それで、そんな神龍がなんで一王国のギルド長なんかやっているんですか?」
楓は最も聞きたかったことをカレンに向かって質問する。
今まで楓は特に冒険者ギルドに興味を持たなかったため、まさか神龍がギルド長をやっているなんて思いもしなかったのだが、それでも実際にこうしてギルド長を神龍がやっているところを見ると何かしら面倒なことがあるのかもしれないとカレンの口が開かれる前に何を言われても驚かないぞと覚悟を決める。
「ん? 気まぐれだね。それにしても君はすごいねー。僕を前に全く怯えた様子もなければ必要以上に警戒しているそぶりもない。一体何者なのかな?」
「気まぐれですか……ちなみに、普通の人族ですよ。あなたやアルのように人化の魔法を使っていませんしね」
「うーん。君が普通の人族なんだったらとっくに世界どころか全生命体が消滅しちゃいそうなものだけど……まぁいいか。アルにも久しぶりに会えたし、君たちには感謝しないとねー」
どんな気まぐれが起こったらギルド長なんかになれるのか、楓はカレンに小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢して平然を保つ。
現在カレンは楓が出したお菓子を美味しそうに食べており、もしカレンにあの威圧がなかったら誰もこれが神龍だなんて信じないだろう。
それ以前にこんな少女がギルド長をやっているなんて世間にバレでもしたら冒険者ギルドの信用は一気に地に落ちてしまうだろう。
本人は人の前ではさっきの少年の姿かもしくは屈強な男に化けているようだが、今の姿を見ている楓たちからしたら心配でしかなかった。
「アル? 気分でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと今まで忘れていた気持ちを思い出しちゃって、戸惑っているだけだよ」
「そうか。それならいいが……それよりも、さすが神龍といったところだな。我でも全く勝てるビジョンが浮かばないとは、少しショックだ」
先ほどから黙ってカレンのことを見ているアルのことが気になったのか、ルシフェルがアルを心配したように声をかけるがアルは心配ないと言いながら苦笑いを浮かべなんとか誤魔化そうとしていた。
そんなアルに気を使ってかルシフェルは強引に話を変えるようにカレンに向かってそんなことを言い始めた。
「そうかな? ルシフェル君とアルの二人対私だったらかすり傷くらいならつけられると思うけど? 逆に、君にだけはどうやっても勝てるビジョンが浮かばないんだけどね」
二人が頑張ってもカレンに少し傷を負わせられるだけということがまずおかしいのだが、それ以上にそんなカレンを相手にどれだけやっても勝てるビジョンがわかないと言わせる楓はもっと異常である。
まぁ、それは二人ともすでによくわかっていることなのでそこまで驚くことなく「だろうな」程度で流してしまっているが……
「今回カレンさんは戦争には?」
「カレンでいいよ。私は出るつもりはないよ。でもここが潰れたら冒険者たちは終わりだし、そうなれば王国の敗北は確定だからね」
「わかっていたんですね。まぁ、カレンがここを守ってくれるなら万が一もないか」
何しろ最強のドラゴンがデスハイム王国の最前線の基地を守ってくれるのだ。
そうなれば楓が出る幕もなく帝国や魔族たちに勝ち目はないだろう。
「ま、それがそう簡単にはいかないみたいだけどねー」
「というと?」
「多分相手に異世界人がいるよ」
「あぁ、勇者ですか。彼らなら僕たちが相手をするので大丈夫だと思いますよ」
「いや、そっちじゃなくて。転生者っていったほうがいいのかな? 多分君はあまり興味がないだろうから詳しく調べてないんだと思うけど、向こうにもこちらと一緒で隠し球を用意しているみたいだ」
「なるほど、なら魔族が一気に帝国領にまで転移できたのも納得できますね」
楓は納得したように頷き魔族たちが帝国の味方をする理由と、一気に転移してきた謎が解決したと呟いた。
気になっていたのなら調べろよと思うかもしれないが、楓的にはどうせ戦いの間に楓か『無限の伝説』の誰かが遭遇して倒すだろうからと放置していただけなのでもしここでカレンから聞かなかったとしても大した問題にはならないので問題なかったりする。
「意外と余裕なんだね」
「もし転生者? が現れていたとしてもそこまで厄介な相手ではないでしょう? もし仮に世界の存亡の危機にまで発展するような相手ならば絶対に今までで一度は名前は聞いたことがあるでしょうし、そこまでの敵でないなら僕たち『無限の伝説』だけで問題ありません」
「だろうね。ま、そっちは任せるよ。っと、僕はこの辺で。国王様に呼ばれてるんだった」
「そうでしたね。僕たちも戻ります」
「うん。アルもバイバイ。また会おうね」
「うん。カレン姉さんもまたね」
カレンはアルの少し元気がなかったがその返事を聞いて嬉しそうに手を振るとそのまま部屋を出て行きバルバトスの元へと向かっていった。
一瞬アルの口調が子供っぽくなったことに楓とルシフェルはハッとアルの方を見たが当の本人が顔を真っ赤にして本気で恥ずかしがっていたのでそれ以上からかう事なく三人も日向たちの元へと戻るのであった。




