初対面 4
ルシフェルとアルにしっかりと釘を刺した後、ギルド長がいると思われる部屋はすぐに見つかり楓は扉をノックする。
ちなみに、楓は先ほどの受付嬢を口説こうとしたわけではない。
流石にそんなことをしたら日向たちに殺されるのは火を見るよりも明らかなのでそんな野暮なことはしない。
ただ、あの場で塩対応をするのもどうかと思ったのと、単純に他の冒険者たちに見せつけたかったがための行動である。
「失礼します。カエデです」
「はーい。入ってくださーい」
「ん? 女の人かな……?」
そんな言い訳をしながらノックをしながら自分の名前をいうと部屋の中からは女の子の声、もしくは男の子でも声が高めの比較的若い声で返事が返ってきて流石に楓も少し焦ってしまう。
楓の中で勝手にギルド長と言われているくらいなのでゴツい実力者のようなものを想像していたのだが、声からして楓のその予想は外れてしまったようである。
「こんにちは……女の子?」
「失礼な! 僕はれっきとした男の『娘』だよ! ほら! 付いてるでしょ!」
「ちょ! ズボンに手をかけるんじゃない!」
開口一番楓はやっぱり女の子だったのかと呟いた途端、自称男の娘はズボンに手をかけて何をとは言わないが付いているぞと楓たちに見せようとし始めた。
見た目女の子のような格好をしているまだ少年と言っていい見た目に楓もアル達も油断していたが、行動力だけは半端ない。
特にアルが先ほどから目を見開いて何度も少年のことを見ているが、楓は理由を聞くことなく目の前にいるギルド長に挨拶をする。
「はぁ、茶番はこの辺にしましょう」
「そうだね。こんにちは。僕は冒険者ギルドのギルド長をしているアークだよ。初めましてだよね?」
「『形式上は』ですけどね。初めまして。クラン『無限の伝説』のクランマスターをしている楓です」
「ふふっ。そうだね。『形式上は』になるね」
楓とアークは意味深な笑みを浮かべながら握手を交わした。
なぜここで楓達が『形式上』という言葉を強調しているのかというと、実は楓のクランによく偵察部隊をよこしていたのが、他でもない冒険者ギルドのギルド長であるアークだったからなのだ。
もちろん楓も偵察部隊が自分たちの周りをうろちょろしていることは気づいていたのだが、楓はともかく日向達やサクラ達メイド陣にも危害をくわえそうな気配は一切感じられなかったのでそのまま放置しておいたのだ。
まぁ、それでも楓が見られたくないところやクランハウスの中までは見せる気は無かったので情報を集められたとしても日向たちとの買い物デートの時かこうした依頼を受けている時だけだろうが……
「本当に、君のクランハウスはすごいね! 僕の部下たちも結構優秀なんだけど、全く攻略できる糸口が見つからないって驚いていたよ! あれって君が作ったの?」
「罠とかは僕が配置しましたね。家はもともと用意されていましたよ。まぁ、色々と改造はしていますが……あなたが僕たちのいない間に正面から全力で攻略してきたとしたらもしかしたら攻略されてしまうかもしれませんね」
「そうかな? 僕は普通の可愛い男の娘だけどなー?」
「それをあなたが言いますか? 『神龍』さん」
「ふふっ、やっぱり君は面白いな」
楓がアークに向かってそう言った瞬間、アークから殺気のようなものが漏れ出てきたので楓は一瞬で自分たちのいる部屋にだけ強力な結界を張り外にこの濃密な殺気が漏れ出ることがないようにしておく。
アークはそんな楓たちを見て面白そうな笑みを浮かべると少年のような姿からだんだんと少女のような姿へと変わっていき、その瞬間先ほどでは考えられないほどの力が目の前の少女にまとわりついていた。
「改めて初めまして。アークっていうのは偽名。私の名前はカレンって言うんだー」
ギルド長であり神龍でもあるカレンの容姿は日向たちの姿を見て最近は美少女を見てもそこまで驚かないと自負していた楓でさえおぉと思わされるほどのものだった。
目の前の少女はアルと同じような深紅の髪が綺麗に伸びており、身長は少し小柄で先ほどの少年とほとんど変わらなかったが、先ほどとは打って変わって後ろにいるアルやルシフェルでさえ警戒を解くことなくカレンのことをじっと見ている。
「か、カレン姉さん?」
「アルも久しぶりだね? その様子じゃ、さっきまで気がついてなかったのかな?」
「確信はなかったんだ。でも、なんとなくカレン姉さんかなって……」
「まだまだだね。君の主人は僕の本当の姿に気がついていたのにね」
「っ⁉︎ そ、そうみたいだね」
カレンにきっぱりと弱いと言われたアルはかなりショックを受けたのかいつもの余裕そうな表情が剥がれ落ちて悔しそうな顔をしている。
こんなアルの表情を見るのは珍しいなと楓も思ったのだが、アルのその視線や仕草を見てなんとなく察した楓はそれもしょうがないかとアルに暖かい視線を送る。
さすが神龍といったところか伝説龍のアルでさえちっぽけな存在と思わされるような風格を纏っており、この場でもしカレンに傷をつけられる人間ががいるとしたらそれはもう歴代最強の英雄といっても過言ではないだろう。
「とりあえず、色々と話をしよっか。積もる話もあるしね」
「ですね。結界を解除したいのでその威圧を収めていただけるとありがたいです」
「りょーかい」
楓とカレンは軽い感じでそんなやり取りをするとカレンは先ほどまで垂れ流していた力を押さえ込んでその間に楓は四人分のお茶の準備を終わらせておいた。
そんなやり取りをルシフェルとアルはただただ見ているだけと言う珍しい状態になっており、ルシフェルはともかくアルが非常に悔しそうにしていたのであった。




