教会 3
「よく来てくださいましたね。カエデ様、そして『無限の伝説』の皆様」
楓たちがメイドに案内された部屋に入ると、そこには片膝をついて頭を下げている教会騎士や司祭の姿があり、さらに奥の方には一人の女性の姿があった。
かなり大きな部屋なのにも関わらず、物音は楓たちがその女性の元まで歩く足音以外は何もなく楓たちは少し不気味に感じていた。
「随分と大袈裟な部屋ですね」
「これは私が強要しているのではなくて、この人たちが勝手にやっていることなので知りませんよ。それにしても、まさかあの時の鑑定結果が偽装されたものとは思いませんでしたよ」
「ここはあまり居心地がいいものではありませんでしたしね。それに、僕はステータスを偽装しただけで追い出したのはそちらでしょう?」
巫女と思われる女性に向かって楓はそう挑発ともとれる発言をする。
一瞬、後ろの方にいるメイドから楓に向かって殺気が漏れ出たが巫女の制止によってそれも抑えられ、挑発を受けた巫女は楓の話を聞いてニコニコと感情の感じられない笑みを浮かべている。
楓たちがまだ威圧の類を出していないので巫女も余裕があるのか、そこまで緊迫した様子はないのだが頭を下げている教会騎士や司祭たちは先ほどからずっとガタガタと肩を震わせている。
ある一定の強さを持っているであろう人物たちはそうでもないのだが、ステータス的にも未熟な者は全く動けそうになかった。
「それで、僕たちを呼んだ理由は何ですか?悪いのですが、僕たちは今旅行中でして、できればすぐにでもこの街を発ちたいと思っているのですが……」
「あら、そうでしたか。それは申し訳ありませんでしたね。では、手短に話しましょう。私たちの味方になっていただけませんか?」
「は?」
楓は巫女が放った言葉が理解できずに思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。
以前楓と日向が二人だった頃二人の元に刺客を送りつけて殺そうとしたり、勇者を利用して楓たちの妨害を散々してきたにも関わらず、今更手のひらを変えたように仲間になって欲しいなどと言われれば何言ってるんだコイツ?となるのも当然だが、巫女はそんな楓の反応を見てクスクスと笑うだけであった。
「何か?」
「いえ、随分とおかしな声を出されていたので……それで、ご返事は?」
「はいと言うとでも?まず、僕は勝手にこの世界に召喚されたことを謝られていませんし、今までされたことに対する謝罪もありませんよね?先ずはそこからでは?」
巫女の態度が気に入らなかったのか日向たちがアイテムバッグから静かに武器を取り出す仕草を始めたので楓は急いで巫女に謝罪を求める。
すでにミル、ナビ、ヒストリア、あたりは我慢の限界なのかブツブツと静かに魔法名を唱えているのだ。このまま放っておいたら本当に魔法を撃ちかねないのでリーダーとして楓がしっかりと話をする。
だが、教会騎士や司祭からすれば楓と巫女の会話しか聞いていないためいきなり楓が巫女に謝罪を求めた形になってしまったため今にも楓たちに斬りかからんと武器を持って構えていた。
「そうですね。召喚したのは私ですが、それにも色々と理由がございまして……ですが、そうですね。その件に関しましては本当に申し訳なく思っております」
「そんな笑顔で言われてもな……まぁいいか。コラそこ、魔法を撃とうとしない。それで、理由って何ですか?」
いよいよ我慢の限界がきたのかナビが先に魔法を発動させようとしていたので楓は巫女に対して呆れたようにため息をつきながらもナビの暴走を止める。
どうやら、何か良からぬことを考えているのは確かなので楓は一応巫女の話を聞こうと話を振った。
「カエデ様たちはシンフォニア聖国のことはご存知ですか?」
「いや、知りませんね。デスハイム王国から外には出たことがないので……」
楓は聞いたことのない国名を聞いて首を傾げながらそう言う。
この国に召喚されてからデスハイム王国から外には出たことがないので他の国の名前を言われても当然わからない楓たちである。少し不甲斐ないなと思いながらも分からないものは分からないので楓は正直に巫女に話すことにした。
「シンフォニア聖国はここからずっと西の方にあるのですが、私はもともと聖国出身なのです。説明は長くなるので割愛しますがとある事件に巻き込まれてこの国にやってきたのですが、目標はただ一つ。以前いた地位や場所に成り上がることです」
思っていたよりも俗っぽい話になってきて楓たちは思わず苦笑いになるが巫女はそんなの御構い無しに楓たちに向かって事情を説明していく。
「そこで、お願いなのですが、カエデ様たちにはとある人物を殺害して欲しいのです」
「ちょっと待ってください。自分が何を言っているのかわかってますか?」
「えぇ、当然報酬額は弾みますよ。なんなら私の純潔だって差し上げましょう」
「結構です」
巫女がなんの恥じらいもなくスカートをたくし上げ出したので楓は即答して断る。
だが、日向たちは気に入らなかったのか巫女に攻撃を仕掛けるのではなく楓に向かって一人1回ずつグーパンチで楓の背中を軽く叩き出した。
巫女に攻撃していない分まだマシであるが、当の本人である楓からしたら迷惑極まりない事態である。
「……ともかく、先ほどの依頼は辞退させていただきます。やるなら自分たちでやってください。後ろにいる優秀なメイドにでも頼めばいいでしょう?」
「彼女では少々にが重いのと、それでは犯人が私だとバレてしまいます」
「知りませんよそんなの。ともかく、僕たちは辞退させていただきます。あ、勇者にでも頼めばどうですか? 彼らに純潔を渡すといえば喜んでやるといいますよ」
楓は少々汚い話になってしまったがそれだけ言って日向たちとともに教会を出て行こうと扉に向かって歩き出した。
だが、扉は楓たちが出ていく寸前で閉じてしまい、楓が開けようとしても動かなくなっていた。
「無駄ですよ。その扉は何重もの結界を張ってありますので。あなたたちがいいと言うまで出す気はありません」
「じゃあいいと言えば出してくれるのですか?」
「えぇ、その場合隷属の首輪を着用していただきますが。あぁ、安心してください。しっかりと任務をこなせば外れますので」
「んな無茶苦茶な……まぁいいか。それじゃあ、やりますか」
「結局こうなるんだね」
「まぁ、仕方ないですね」
「結構な人数がいるし、久しぶりに楽しめそうね」
楓は諦めたようなため息をこぼすと次の瞬間には手に武器を持ってそれを構える。
日向たちもだいぶフラストレーションが溜まっていたのか楓が武器を取り出すと皆嬉々として自分の武器を取り出して構え出した。結局戦闘になってしまうことに楓は今後しっかりと対策を練ろうと頭の中で考えるが、今回はすでに手遅れになってしまい、次こそは絶対にうまく切り抜けると心に誓い戦闘を始めるのであった。




