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教会 1


「貴様がカエデだな?悪いがクラン全員でついてきてもらう」


「ちょっと待ってくださいよ。いきなりなんですか?」


「我らは教会騎士団である。司祭様が貴様を呼んでいるのだ。さっさと来い」


 教会騎士を名乗る男はそう言って楓たちを強制連行するために宿の、それも食堂の中だと言うのにも関わらずまるで気にした様子もなく楓たちを包囲し始めた。


 なぜこのような事態に陥っているのかと言うと、先ほどまでクランの全員で仲良く朝食をとっていた楓たちであったがいきなり外が騒がしくなり何事だと外の様子を探ろうとした瞬間に宿の扉が蹴破られそのまま大勢の武装した騎士が楓たちの前へとやってきたのだ。


 最初は何かの間違いだと思っていた楓だったが、先ほどの教会騎士を名乗った時点であらかた事情を察することができた。


 最近は勇者たちが主に楓の邪魔をしていたのでそっちに気が行っていたが、事の発端はといえばこの街の教会が原因なのだ。楓も一応はそのことを考えていたつもりだったのだが、どうにも昨日の模擬戦の方に意識をやっていてさっさとこの街を去ると言うことを忘れてしまっていた。


「ここでウダウダしていても仕方ないし、宿の人たちにも迷惑になるからここはあの人たちの言うことを聞いておいたほうがいいと思うよ?」


「はぁ、それもそうだな。十分時間をください。準備をしてきます」


 楓が非常に嫌そうな顔をしているのに気がついたアルはそう言って楓を説得して、全員で教会に行くことにした。


 幸い、今の所罪状を持って楓たちの元へとやってきたわけではないのでいきなり面倒なことになることはないだろうが、それでも要件もなくここまでしたりはしないだろう。楓も日向たちもそのことがわかっているからか今すぐにでもルーナの村へと行きたい気持ちになるが、ここで逃げて後で何を言われるかわかったものではないので素直に言うことを聞いておく楓たちであった。


「五分で支度しろ。それと、逃げるなよ?」


「わかってますよ」


 楓はそれだけ言うと日向たち女子組を部屋へと戻らせて男組はそのまま教会騎士と外で待つことにした。


 女性陣は色々と準備が必要だろうが男性陣はそこまで必要でもないし、服装もみんな冒険者用の服装をしているので準備をする必要は特になかった。


「あ、宿の店主さんはいますか?」


「ここにいるよ」


 楓は外で教会騎士と待っている間、思い出したように宿の店主を呼んだ。


 現在、宿の中では大パニックというほどではないにしろ、非現実的な事態に他の宿を利用している人たちは迷惑そうに楓たちの方を見ている。


 それは店主も同じようで扉を破壊され、ここまで迷惑をかけられた楓に呼ばれて非常に迷惑そうな顔をしていた。扉の件は楓は全く関係ないのだが、教会騎士に向かって扉の修理代を出せなど言えるはずもなく、結果的に楓を責めるしかできないのだ。


「これ、扉の修理代と他のお客さんに迷惑をかけてしまったお詫びだと思って受け取ってください」


「……⁉︎ こんなにいいのかい?」


「はい。本当にごめんなさい」


 楓は宿の店主へこっそりと白金貨を一枚渡しながら真摯に謝った。


 この状況が楓の故意で起こしたことではないにしろ、宿に迷惑をかけてしまったのは確かなので楓は謝ったのだが、それが功をなしたのか一気に他の客や店主の目が鋭いものから柔らかいものへと変わっていった。


 店主もまさか白金貨を手にすることができるとは思っていなかったのか楓からもらった瞬間は驚いたような顔をしていたがすぐに教会騎士がそばにいることを思い出してあくまでも『修理代』として楓からのお金を受け取ることにした。


 ここで変なリアクションをとると教会騎士に楓から法外なお金を受け取ったことがバレてしまうためすぐに宿の店主は白金貨を自分のポケットへと忍ばせた。


「随分と気前がいいんだな。別に宿の扉くらい勝手に修理するだろうに」


「僕たちは冒険者ですからね。そこそこお金にも余裕がありますし、このくらいのことはして当然ですよ」


「ハッ、勇者から冒険者へと成り下がったものがよく言う」


「おい貴様。我の大切な主人に舐めた口を聞くのもいい加減にしろ。消されたいか?」


 教会騎士たちが楓のことを鼻で笑いながらそう言い捨てると同時に楓の後ろでずっと口を閉じていたルシフェルがいきなり自分の武器を教会騎士の一人に当てながら命令する。


 どうやらルシフェルは教会騎士の楓に対する態度が気に入らなかったのか、覇気を纏いながら教会騎士たちを睨みつけている。


「な⁉︎ なんだ貴様!」


「我はルシフェル。異世界の魔王なり。それよりも、これ以降カエデに舐めた口を聞いてみろ。貴様の頭ごと吹き飛ぶと思え」


 さすが教会騎士を名乗るだけあるのか他のC、Bランク冒険者程度なら簡単に意識を失ってしまうほどの圧力を受けていてもなんとか意識を失うことなく抜剣してルシフェルのことを睨みつけている。


 ただ、ルシフェルと教会騎士の力量差は歴然でどう頑張っても戦いが起これば教会騎士たちに勝ち目などない。


 ルシフェルもそれを知っているからか無闇に攻撃をすることはなくただ自分の主人に対する態度を改めろとだけ言って覇気を解除した。


「りょ、了解した。カエデ殿、先ほどはすまなかった」


「僕は気にしてませんよ。それでも、これ以上反抗的な態度を取られても僕の優秀な仲間が怒ってしまうのでお互い言動には気をつけていきましょう」


 教会騎士たちも、自分たちよりも圧倒的強者の話を無視するわけにもいかず教会騎士たちは楓に謝り、先ほどまでの無礼を詫びた。


 それを楓は了承し、それ以降両者ともに変に反抗的にならないことを約束し、日向たちがやってくるまでじっとその場で待っているのであった。

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