結婚式 5
「やばい、幸せすぎて言葉が出てこない」
「私たちもだよ。でも、その前にテラスに行こ? みんな待ってるよ」
誓いの儀が終わってから楓たちはしばらく無言のままだったがみんな顔を真っ赤にして、さっきまでの全てが幸せだったのは言うまでもなかった。
やはりここでもルーナたちの姿に驚いている人たちが多かったが、それでもルーナたちはルーナたちだと素直に楓たちのことを祝福してくれた人が大勢いて、楓は最後退出する時に思わず泣きそうになってしまった。
今は全員で次のテラスへと移動している最中であり、本来なら色々と話すことも多いのだが、さっきのキスやそれぞれの左薬指で光っている指輪のおかげでいい意味での静けさが楓たちの中で渦巻いていた。
「すごい外の歓声が聞こえますね」
「きっと、私たちが姿を見せるとすごいことになるわよ」
「き、緊張しますね」
ミルたちの言う通り、城内からも外の喧騒がすごい聞こえてきて、どれだけの人が楓たちの姿を見に来ているのか全く想像がつかないほどだった。
そんなことを楓たちが考えながらテラスの方へとメイドに案内されていると、後ろから見知った声が聞こえて来た。
「カエデ。さっきはお疲れ様だったな」
「ミルのお父さん。まさか、国王に誓いの言葉をしてもらえるとは思いませんでしたよ」
「そうだろう。私も初めてやったからな。娘もさっきからずっと幸せそうに笑みをこぼしているし、私も頑張った甲斐があったよ。これからテラスの方へ向かうのだろう? 一緒に行こうか」
「はい」
バルバトスはそう言って楓たちと一緒にテラスの方へと向かった。
流れとしては楓たちが姿を表す前にバルバトスが国民の前に姿を現す予定になっているので、一緒にテラスの方へと向かってもなんら問題ない。
テラスの方へはすぐにたどり着くことが出来て、全員準備もできていると言うことで早速バルバトスがゆっくりとテラスの扉をあけて国民の前に姿を現した。
その瞬間、すごい歓声が楓たちの耳に聞こえてくるがそれがかえって緊張してしまうため日向たち妻陣はみんな耳を塞ぎあって遊んでいる。
「今日は我が娘たちの結婚式へと足を運んでくれて大変嬉しく思う。これから、我が娘の婿であり、この国の英雄であるカエデやその妻になる娘を含めた七人の娘たちが姿を現す。だが、その前に一つだけ私から全国民にお願いがあるのだ」
バルバトスはそう言って一度言葉を区切った。
国王が直々に国民に向かってお願いなど普通はあり得ないため話を聞いていた人たちはざわざわとざわめきだすがバルバトスはそれをかき消すかのように言葉を続けた。
「この国の騎士団長であるルーナ、宮廷魔術師長であるヒストリアのことは皆もよく知っていると思う。今回、カエデの新しい妻となり今日をもってその任を降りるのだが、彼女たちは一つ大きな隠し事を私たちにしていたのだ。それは、見る人がみれば許されないものなのかもしれない。だが、私を含めカエデも、そしてカエデの妻となる五人の妻たちもそれを許し、その上で愛しているのだ。だから、私から皆に頼みたいことは一つ。ルーナとヒストリアがどんな姿であれ、素直に彼ら彼女らを祝福して欲しいのだ。せっかくの晴れ晴れしい結婚式が罵詈雑言で埋まることなく、幸せなものになることを私は望んでいる」
バルバトスはそれだけ言うと国王専用の椅子に座り、楓たちの登場を待った。
国民たちは国王であるバルバトスにそこまで言わせたルーナとヒストリアに、一体どんな秘密が?とさっき以上にざわめきだすが楓たちが順に国民たちの前に姿を現し、最後の二人が登場したところで一瞬だけだが国全体の音が消えたように静かになった。
まるで見計らったかのようなタイミングで楓が魔法陣で声を大きくさせて、ゆっくりと言葉を発する。
「こんにちは。今日は僕たちのためにこうして集まってくださったことを、大変嬉しく思います。先ほど、国王様よりご説明があった通り、僕の妻の二人はみなさんが差別している獣人です」
楓は内心で少しだけ緊張しながらも、さっきと同じように今度は全国民の心に届くように祈りながら言葉を続けた。
「ですので、少しですけどこの結婚式が不安でもありました。みなさんが僕の妻を否定するようなことがあれば、僕はどうしようかなと。ですが、さっきそれが杞憂だったと王城にいた騎士の皆さんや貴族の皆さんが僕に教えてくれました。どうかお願いです。彼女たちを、獣人だからと嫌わないで一個人として彼女たちのことをみてください。これは強制ではありません。別に嫌だからと言って僕がみなさんに何かしたりする訳でもありません」
震えそうな声を必死に抑えながら楓は「ですけど……」と続ける。
現在すべての国民はスクリーンや生で楓の話を聞くためにじっと声を殺して楓の話を聞いている。
この後、どうなるかは楓にもわからない。だからこそ、ここで全てを出しきるために楓は目に溜まった涙を拭って国民全員に心の底から叫んだ。
「俺は!ルーナたちが大好きだ!だからみんなにも彼女たちのことを嫌って欲しくない!種族が違うからと言って冷たい視線を送ったり、かげでルーナたちのことを悪く言われるのもすっごい嫌なんだ!どうか、どうかお願いだから!みんなの中にある差別という名の鎖を解いて欲しい!それがすっごい難しいことだって言うのはわかっている!でも、それでも俺は信じている!この国は、デスハイム王国の誇りある国民は!くだらない差別なんかをせずに、一つの命ある生き物として見てくれると!心の底から信じている!これで、僕の話は以上です。みなさんが誇りある民であることを僕は祈っています」
楓はそう言って深く国民に向かってお辞儀をした。
先ほどと同じくしばらくの沈黙、その間楓はいや日向たちも全員祈るように目をつむって国民の反応を待っていた。
五秒、十秒、十五秒。
流石にやらかしたかなと楓が自傷気味に笑い目に涙を浮かべながら頭を上げようとすると、どこからか楓の名前を呼ぶコールが出てきた。
それは決して悪い方ではなく、楓を心の底から讃えるコールであった。
「「「「「カエデ!カエデ!カエデ!カエデ!」」」」」
それがだんだん勢いに乗り始めしばらくするとすべての国民が楓コールを行い始め、先ほどの城内の歓声など比べ物にならないほどの大きなエネルギーとなって楓たちの元へと届いていく。
そう、今回も楓の気持ちがすべての国民の心に届いたのだ。
楓の拙い言葉が、それでも思いのこもった言葉が国民一人一人の元に届き、それが楓たちの元へと帰って来たのだ。
「楓くんっ!」
「あぁ、俺たちはこの国に認められたらしい。ま、まじで緊張した……でも、お前らマジで最高だぁぁぁぁぁぁぁぁほんっとうにありがとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
この時、長きにわたって引き継がれてきた悪しき風習が一つだけ良い方向へと向かっていくのであった。
そして、あれだけ人に目立つのが嫌だと言っていた楓も今日の、この瞬間だけは心の底から喜び、国民に向かって本気の感謝の言葉を紡ぐのであった。
が、すべてがうまくいくわけじゃなくて……
「ちょーっと待ったぁ!」
「「「「「「「は?」」」」」」
場内の、それも一つの小さな集団の代表にいた一人の男性が、そう勇者たちが楓たちの歓声を邪魔して声を張り上げたのだ。
当然、楓からも、そして国民からもお前空気読めよと言った雰囲気が流れているが当の本人たちはそんなこと気が付いていないのかとても自慢げに、そして楽しそうにしながら楓に物申すのであった。
楓の後ろにいた日向たち全員からクッソ黒いオーラが一瞬にして湧き出てきたのは不可抗力だろう。
「お前ら……ある意味本物の勇者だよ」
楓も最後に呆れたようにしながら勇者たちに向かってそう言うのであった。
さぁて出てきましたバカ勇者ども!
……ちなみに、楓くんこれ失敗した時どうする予定だったのでしょうか?




