オークの巣破壊クエスト 3
「カエデさん、これなんですか?」
案の定、ブレイン達が宿から野営の準備を終え門の前にやって来ると驚いた様子で楓の召喚したユニコーンを眺めている。
「ユニコーン。今回はこいつらに馬役をやって貰う予定だ」
「ユニコーンって…伝説級の魔物じゃなかったでしたっけ?」
「あぁ、おかげで一度も休む必要がないし道中も面倒な雑魚に時間を取られなくて済む。ほら、さっさと乗るぞ」
楓はそう言って日向達を連れて時空魔法で空間を広げてある馬車に入って行く。
当然、ブレイン達は中が想像以上に広い事に驚いていたが楓達はそれをスルーしてさっさとお茶の準備を始めていく。
いちいち説明していては面倒なのと、そもそもあまり冒険者は自分の手の内を見せないのが常識なので説明する義理は無い。
「凄いですね。これを体験したらもう普通に冒険するのが億劫になってしまいそうです」
「あー、まぁその辺は頑張ってくれとしか言い様がない。今回は俺達の事を間近に見に来たんだろ?ならこれ位割り切らないと後からもっと驚く事になるぞ」
「ねー、楓くんは自重って言葉を知らない子だから」
楓の後に日向が笑いながらそう言う。
日向のその発言に誰も否定しないどころかみんな少し笑って首を縦に振っている。
「か、覚悟しておきます」
楓のその発言に誰も否定しない事でブレイン達も本当の事だと信じ、苦笑いを浮かべながらそう言った。
「ヒナタさん達ってカエデさんとご結婚されてるんですよね?」
アッシュはいきなり日向達にそんな質問をする。
純粋に恋話をしたいのかどこかアッシュ達は期待した様な目をしている。楓達より少し年下という事で思春期真っ盛り男子という事になるのでそういう事に興味があるのだろう。
「うん。どうかしたの?」
「いや、どうしてご結婚されたのかが気になって…カエデさんって凄い格好良いし強いのでモテるのは分かるんですけど何か他に惹かれる所があったのかなっと…」
アッシュはもじもじしながらそう言って日向達に結婚したきっかけを聞く。
「そーだね。私は出身地が同じだったんだけどその時から気になってたんだ。その後、とある事がきっかけで2人で冒険する事になって。常に私の事を気にかけてくれて、少しでも不安そうな顔をしたら心配して大丈夫か?って聞いてくれて。その時私は結構寂しかったと言うか不安で仕方なかったからとても楓くんに助けられたんだ。それがきっかけかな?それに楓くんは力は強いけど弱い部分もあるから。私達も支えてあげなきゃって感じちゃうんだよね」
日向は終始頰を赤くしながらブレイン達に向かって話をする。
途中からブレイン達も日向の話の内容よりも日向の顔を凝視して顔を赤くしていたので殆ど内容は入って来ていないだろう。
「凄いですね。僕達もヒナタさん達みたいな素敵な女性とお付き合いが出来るでしょうか?」
「どうだろう?そこら辺は私には分からないけど、力が強いって言うのも確かにここでは大事な要素だから頑張って強くなるのが大切だと思う。強くなったら出会いもたくさん増えるし女性と話す機会も増えると思うよ。女性と付き合うのはそれからだね」
「まずは強くなれって事だな」
日向の後に楓が話をまとめる。
ブレイン達も為になったのか凄いキラキラした目で楓達の事を見ていた。
「僕達も頑張って強くなりたいです!」
「それはいい事だね。ねーカエデ彼らに一度僕達の模擬戦を見せてあげればいいんじゃない?今後の参考にする為にさ」
ブレイン達の純粋な尊敬の念にアルも気を良くしたのか楓にそんな提案をしてくる。
「別に構わないが…まぁどうせ東の森に着くのは明日になるだろうから別にいいか。じゃ、異空間に行くか。ブレイン達もそこの扉の先に行ってくれ。一応戦える準備もしてな」
楓はそう言って立ち上がり、室内にひっそりとあった扉の方を指差してブレイン達を先導する様に扉の方へと向かって行く。
「異空間?ってなんですか?」
「私達が訓練をしても大丈夫な空間の事です。これから私達が模擬戦をするので是非参考にして見てください」
「は、はい!ありがとうございますミルテイラ様!」
流石にミル相手には敬語を使うべきだと判断したブレイン達はガチガチになりながらもしっかりと敬語を使いミルにお礼をいう。
ミルもあまり敬語で話されるのが好きではないのだが流石にブレイン達にタメ語で話させるのはブレイン達の精神衛生上よくないとの事でそのままミルはにっこり笑って楓の後を追う様に歩いて行く。
ミルのその笑顔でブレイン達の顔が更に真っ赤になったのはいうまでもないだろう。
「な、なんですかここは!?」
「外に出ていない筈なのにここって外…だよな?」
「魔法でこんな事も出来るなんて…魔術師としてもカエデさんって凄いんですね!」
異空間に入ってきたブレイン達の最初の感想はそんなものだった。ブレインとアッシュはただただ状況が理解出来ずに慌てていたがミールはやはり魔術師として知識だけはあったのかこの現象を引き起こした楓に尊敬の眼差しを送っていた。
「さて、早速模擬戦をしていくが…そうだな。ブレイン達3人で俺に挑戦してこい」
楓はそう言って木剣をストレージの中から取り出しスッと構え出す。
「よかったね。楓くんは王立学院の生徒や騎士団、宮廷魔術師達もたまに面倒を見ているから良い経験になると思うよ。じゃ、頑張ってね」
日向はブレイン達に最後にそう言ってからささっと少し離れた場所に移動する。他の面々も日向に続いて少し離れた場所へと移動する。
と、いうのも模擬戦をするのにさっきの日向達の場所は邪魔になるからだ。
「王立学院ってこの国のエリート達じゃ…」
「騎士や宮廷魔術師達もってこの国の精鋭じゃないか」
「ひょっとして僕達、滅茶苦茶運がいい?」
日向の捨て台詞がかなり刺さったのかブレイン達は一気に緊張した面持ちで各々武器を構え出す。
ようやく、楓に模擬戦をして貰える重大性が分かった様だ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって。ほら、構えの時から重心がブレてるぞ」
楓はそう言って模擬戦を始める前から指導を始めていく。
これからオークと戦って貰う為に少しでも戦闘力をあげておこうと意気込む楓であった。




