ミルとデート 3
「それで、話っていうのは?」
「うむ、カエデ達も急いでいる様だから端的に話させて貰うが学院で一人の女性にプロポーズしたとか」
楓はやっぱりなと思った。一応ルミナは勇者の末裔の家系なのでこの王都でも一定の発言力を持っていても不思議ではない。
多分、楓が送った手紙の事もバルバトスは知っているだろう。
「はい、それが何か問題でも?」
「あぁ、一応アスタルト家は勇者の末裔という事は知っているか?」
「はい、ルミナから既に聞いています」
「君は勇者の末裔と敵対しているというのに随分と余裕そうじゃないか」
「今更ですよ、既に勇者と敵対していますし」
あれを勇者と認めるのは楓としても嫌なのだが世間一般からしたらあんなのでも希望の勇者だ。
なまじ力があるせいで傲慢になり本来の目的を忘れている勇者を庇う積もりは毛頭ない。
こちらに敵対する様ならいくら元クラスメイトと言えども徹底的に潰すのみだ。
「はっはっは。確かにな。だがアスタルト家は実力も今の勇者とは比べものにならないぞ?」
「言っても魔王に数で挑む事が出来る程度の力でしょう。僕達は自慢ではないですが一人一人がそれに匹敵する力を持っています。日向とミルとルミナの三人がかりなら傷一つつかずに圧勝できるでしょう」
「何?ミルを魔王と戦わせるだと?」
流石にミルのお姉さんとして楓のその発言は看過出来るものではないらしく楓がそういうと今迄黙って聞いていたノアが間に入って来た。
「戦力的な話ですよ。もしそうなっても前衛のルミナ、中衛兼回復のミル、後衛の日向がいればパーティーとしては完璧ですし個々の力もあります。ルミナはまだ全くですが明日を機にどんどん力を付けていくでしょう」
そう言う楓は全く嘘をついている様な雰囲気はないしミル達を過大評価している訳でもない。
ただ、事実を言っているだけである。
「ほう、そこには君とアルメダくんが入っていない様だが?」
「今から魔王の首を取ってきましょうか?」
バルバトスが分かりきっている質問をしてくるので楓もそれに応じる。
ミルとバルバトスはこの楓の発言を当たり前と思っている為大して驚かなかったがノアとファルムはその限りではない。
「本気で言っているのか?」
ノアは楓が強いと聞いていたがそこまで人外の領域にいるとは思ってもいなかった。
先程のミルが女三人でパーティーを組んで魔王を無傷で倒せると聞いた時も頭が一瞬フリーズしたが今はそれ以上の衝撃を受けている。
「すまない、分かりきっていた質問をしてしまった様だ。今、魔王の首を取られてしまうと魔族の活動が活発化してしまうので止めてくれ」
「それは向こうの出方次第ですよ。こちらに火の粉が降りかかってくるのならそれを消すだけですよ」
楓はなんでも無い様にそう言う。
「お父様、どうやらこの国は素晴らしい用心棒がいるみたいだな」
「あぁ、本当に扱いに困る用心棒だよ」
ノアとバルバトスはお互い疲れた様にそう言い合う。
終始ファルムはニコニコ笑いながら楓達の話を聞いていた。
何か嬉しそうなんだけど…
「まぁ、アスタルト家には一応説得はしておくが期待はするなよ。そっちに何か行っても悪いがこちらは何も対処出来ない事を先に把握しておいて貰いたくてな」
意外にもバルバトスから何か言われる事はなかった。
てっきりルミナと別れろとか言われると思ったがそんな事はなかった様だ。
「アスタルト家と敵対するよりカエデ達と敵対する方がこの王都が危険にさらされる可能性が高いからな」
と言う事らしい。まぁ、アスタルト家の事に関しては元々王家にはなにも期待していないし、正直横から入ってこないというのは有難い事だった。
楓としてもミルの親族と敵対するのは嫌だった。
ルミナは家族に虐げられ嫌な思いしか残っていない為別にどうなろうが知った事ではないらしいがミルは違う。
今迄普通の家族として生活してきて、愛を育んで来たのだ。それを無理矢理引き裂く事はしたくなかったので本当にこの無干渉というのは楓としてもありがたかった。
「ありがとうございます。ルミナの家族に関してはこっちでケリを付けるので無干渉は助かります」
「すまない、本当はこっちで処理したかったのだが相手が相手なのでな」
バルバトスは今だけ国王の顔から一人の父親の顔に戻って本当にすまなさそうな顔をしながら楓に向かって謝る。
「いえ、別に謝られる事ではありません。元々僕とルミナの暴走が原因ですから」
「そう言ってもらえると助かる。今日はせっかくのデートだったのにすまないな」
「いえお父様、丁度今日わたしも女として成長する積もりなので一足先に報告出来て良かったです」
ミルは少し恥ずかしそうにもじもじしながらバルバトス達に向かってそういう。
バルバトスとノアは固まったまましばらく動かなかった。
ファルムは嬉しそうにあらあらと言って笑っている。
この人、メンタル強すぎるだろ…
「ま、まさか、妹に先を越されるとは…」
「そ、そうか…そうだよな。結婚してるんだからむしろ遅いよな…」
ノアは女としてミルに負けた気がしてショックを受けていたがバルバトスは単純にミルが嬉しそうに初めてを楓に捧げると言ったのに戸惑っているようだった。
「ちょ!ミル!?」
「旦那様、昨日ヒナタを抱いた時点でこうなるのは分かっていましたよね?」
「ま、まぁだいたい」
「そ、その、わたしも初めてですから優しくして下さいね」
「う、うん。頑張ります」
さっきまでバルバトスに向かって魔王の首を取ってくると豪語していた少年は自分の妻との夜の営みに本気で緊張しているのであった。
「み、ミルに先を越された…」
ノアはまだ再起不能の様だった。




