第71話 ミモザのお店と中央ギルド
俺はモアさんの服を買いに行くことに決めた。
何せ今着ている服はハピロン伯爵の好みで仕立てられた給仕服だ。特別仕様で浄化魔法陣が裏地に施されているらしいのだが、一着だけではしのびないと思い、ミモザさんの店に行くことにしたのだ。
「太ももの露出はお嫌いなのですか。ハピロン伯爵は好んでおりましたが・・・。殿方全てがそうだと思っておりました」
回答に困る質問はやめてほしいです。決して嫌いじゃないんですよ、えぇ。目のやり場に困るだけなんですけどね。
「一着だけしかないっていうのはかわいそうかと・・・」
「ありがとうございます。ジンイチロー様がお選びになるものでしたら、どのようなお召し物でも、私はは大切にさせていただきます」
ということで早速モアさんを引き連れミモザさんの店へ出発。
道中、モアさんは男性たちの目を引くのだが、そんな人目もはばからずに俺のななめ右後ろをピッタリくっついて歩く。
ミモザさんの店にほどなくして到着し、入店した。
「いらっしゃいませ~~~~」
相変わらず最初だけは高い声を張るんですね。
「こんにちは、ミモザさん。久しぶりですね」
「おおお!待ってたんだぞ!」
「え?待ってた?」
「あ!いや!その・・・まぁいいじゃねぇか!固いこと言うな!今日はどうした―――って、その後ろの女は誰だ?」
「こちらはモアさん。俺が雇ったメイドです」
「ミモザ様、お初目にかかります。ジンイチロー様のメイド、モアです」
「ああ、よろしくな」
「モアさん、こちらはミモザさん。フィロデニア王国では彼女の右に出る者はいないぐらいセンスがよくて、めちゃくちゃかわいい服を仕立ててくれるんだ」
「おぉ!わかってんじゃねぇか!服一着無料にしてやるよ」
「ありがとうございます」
モアさんは店内を一通り見て回り、あれこれ手にしていたが、ほどなくして俺のところに何も持たずに戻ってきた。
「申し訳ございませんジンイチロー様」
「気に入ったものはなかった?」
「そういうわけではございませんが・・・」
ミモザさんは少し悲しそうな顔を覗かせた。
「悪いなぁ、モア。あんたには私の服はあわなかったみたいだな・・・」
「ミモザ様、そうではございません。ここに並んでいる服はどれもかわいくて全て欲しいと思えるほどでございます」
「そ、そうか!でもどうして・・・」
「私はジンイチロー様の『メイド』でございます。『最強のメイド』を目指すためには、やはり給仕服のようなシンプルな作りのものが最適かと」
「そう、そうか・・・。実は最近ちょっと作業が滞っていて、あんまりピピーン!と来るものがなくてよぉ。シンプルなのにかわいい服・・・今の私には作れそうになさそうだ・・・」
ショボーン、と肩を落としてしまうミモザさん。いつになくスランプに陥っている様子。
それにしても・・・メイド・・・ねぇ・・・
「ねぇミモザさん。何か書くものある?」
「ん?あぁ、ちょっと待ってろ」
ミモザさんは奥の部屋に行き、紙を持ってきてくれた。俺は自前の鉛筆を取出し、その紙に大雑把に描き上げた。
「お、おい・・・これって・・・」
「『メイド』といえば、これだな」
「ジンイチロー様・・・これはなんということでしょう。このままこのお店に仕えたほうがよろしいのでは?」
元の世界の『メイド』といえば多くの人が想像するであろう、あの服を描いたまでだ。
「この辺にフリフリがあるんだけど、あえて強調せずに、とはいえモアさんはミニスカートが似合うからこんな感じで・・・」
「なんだかんだ言って太ももがお好きなのですね。安心しました」
「そういうわけじゃないんだけど・・・」
「おい!お前スゲェぞ!これ滅茶苦茶かわいいじゃんか!」
「服の色はあえて落ち着いたものがいいかもね。黒、臙脂、紺・・・橙色だとちょっと違った趣向に・・・」
「来た・・・・・来たぞ・・・ピピーン!って来たぞ!」
ミモザさんは奥の部屋に行き、さらに紙を持ってきた。
「モア!ちょっとこっち来い!」
「かしこまりました」
「ここのあたりをこうするとかどうだ」
「素晴らしいですね。ジンイチロー様もお喜びになるはずです」
「このスカートはあまりフワフワしすぎると邪魔くせぇだろ」
「はい。ですが、落とし過ぎるとジンイチロー様に肝心なところをお見せできなくなります」
「じゃあ・・・これくらいなら・・・」
「素晴らしいですね。くるりと振り返った瞬間に中が一瞬見える、その角度と軽さがものをいいます」
「よし!今すぐ作ってやらぁ!これはキタぜ!」
ミモザさんは奥の部屋に駆け込んでしまった。その直後から、何かを打ち付けるようなもの凄い音が聞こえてきた。
「ミモザさんは何を作ろうとしていたの・・・?」
「出来上がってからのお楽しみというところでしょうか」
「嫌な予感しかしない・・・」
「さてジンイチロー様、おそらく出来上がりまで2時間ほどの猶予があるかと思われます。そこで提案なのですが」
「なぁに?」
「私を中央ギルドまで案内していただけますでしょうか」
案内といっても、店を出て近くにあるのでなんということはない。
モアさんが言うには、大山脈に行く間に様々な依頼案件を引き受ける可能性があるやもしれぬ、と推測したらしい。確かにモアさんもギルド登録しておけば、何かと役立つかもしれない。
今さらだけど、やっぱりモアさんも一緒に行くんだよね・・・。そりゃそうだよね、ミニンスクの買い物も付き合ってもらうし、魔力の充填もしなきゃいけないし・・・。
中央ギルドに入ると、いつも通りの喧騒が待っていた。
そしてもう慣れっこになってしまった、男達からの羨望の眼差しも待ち構えていた。
リタさんのカウンターが丁度空いていたので彼女のところへそのまま歩み寄った。
「リタさん、こんにちは」
「ジンイチローさん!ようこそ!」
「今日はこの人の登録をお願いしたくてきました」
「モアと申します」
「登録ですね。・・・あ~・・・今アッチの席で登録水晶使っているので・・・ロビーでお待ちください」
「わかりました」
言われたままロビーで待っていると、男女の集団が建物に入ってきた。皆若い。
ん?あれは・・・。
「ミーアさん!?」
俺の声に素早く反応し、顔を向けてくれた。やはりミーアさんだった。
「ジンイチローさん!!!」
猛速で駆け寄ってきて素早く手を握ってきた。
「ジンイチローさん、本当にお久しぶりですぅ・・・」
「久しぶりだね、元気してた?」
「はいっ!あ、でも、夜な夜な服の裾を濡らす日々が――――」
その時、一緒に建物に入ってきた男性がミーアさんに声をかけた。
「ミーア、こっちだぞ」
「ちっ・・・割り込むな・・・」
「どうしたの、ミーアさん」
「何でもないのです!うふふ!」
「一緒に入ってきた人たちは?」
ミーアさんは少しばつの悪そうな顔で一団を見やった。
「あれは・・・『青の旅団』というギルドパーティーです」
「もしかして、ミーアさんはそこに所属しているの?」
「まさか!!違いますよ?ちょこっと手伝ってほしいって頼まれただけで、別に戦鎚使いでいつも依頼されていてあちこち回っているとかそんなんじゃないのですよ?」
顔が近い。顔が近い。そして目が病んでて怖い。
「手招きしてるよ、ほら」
「もう・・・せっかくのジンイチローさんとの時間が・・・。ジンイチローさん、また今度ゆっくりお話ししましょう!」
「そうだね。またね」
「はい!」
ミーアさんは笑顔いっぱいで俺に手を振って一団の元へ走って行った。
「ジンイチロー様、あの方は?」
「果物屋のミーアさん」
「果物屋・・・ふむ・・・」
「何か?」
「『旋風の戦鎚』という恐ろしい戦鎚使いが王都にいるという情報は耳にしていたのですが・・・」
「どこかの依頼を受けるのかな」
「おそらくは。パーティーの名は聞いたことがありませんが、複数人で受けなければ達成が成らず、かつ『旋風の戦鎚』を入れなければ危険な依頼といったところでしょうか」
「ふぅん・・・」
キンニクマスターをブッ飛ばした時も、大きい戦鎚をもっていたからな・・・。
どうしたらあの小ぶりな体で大きい戦鎚を振り回せられるのだろうか・・・。
もしかしたら魔力循環か?今度聞いてみようかな。
その時、リタさんの俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「いたいた!こっちに来てくれますか!前来てもらったお部屋です!」
イリアのギルド登録をしたあの部屋にまた招かれ、ソファに腰を落ち着かせた。
「粗茶です」
さりげなく右手後方から湯気立つお茶が添えられた。
って―――アンタがどうしてここにいるんだ!
「はっはっはっ!大賢者のいるところに我はいるのだ!」
キンニクマスターは上腕二頭筋を盛り上げながら俺を見た。
「すみません、ジンイチローさん。この人嗅覚だけは馬鹿みたいなんです」
「だと思いますね」
「僭越ながら、同意見です」
俺もモアさんもお茶をすすりながら応えた。
それにしてもお茶がうまいな・・・。筋肉隆々なのに所作が丁寧すぎる。
「それでは登録作業を行いますね。水晶に手をかざしてください」
「かしこまりました」
モアさんが水晶に手をかざす。光り輝いたのちに収束し、リタさんの方にモアさんの情報が映ったようだ。
「えーっと、名前が『モア・ヴォルフス』、24歳、職業が『メイド』・・・メイド?」
リタさんが俺を見た。
「えーっと、メイドというのは、執事でも給仕でもない――――」
「すべてをご奉仕するための職業でございます」
「誤解を招く発言は控えるように」
「かしこまりました」
ほどなく登録は完了して残りのお茶をすすっていると、キンニクマスターが俺を黙ったまま見つめているのが目に入った。
「何か?」
「ふむ・・・どうやら『一線』は超えたのだな」
「一線?」
「うむ・・・。ちょっと私に肉体を見せてはもらえぬか」
「・・・」
「さぁ、脱ぐがよい」
もしかして、キンニクマスターって・・・。
「嫌です」
「私が筋肉を診断してやろうというのだ。二人も大賢者の一線を超えた肉体を見たいだろう」
マスターがそういうと、リタさんは顔を赤くしながら、モアさんは表情を変えぬまま大きくうなずいた。
「ジンイチロー殿よ。確かに筋肉は私の趣味ではあるが、男を食う趣味は持っておらん。安心したまえ」
まぁ・・・そういうなら・・・。
俺は上半身の服を脱いでみせた。
「ジンイチローさん・・・」
「さすがジンイチロー様ですね」
リタさんは口を覆い、モアさんは口を覆いながら鼻血を流している。後者は見なかったことにした。
キンニクマスターもうなずいた。
「やはりな。剣を振るう型が染みついている」
「わかるのですか」
「マグナ村の依頼のときには大して目立たなかったが・・・。修羅場をくぐってきたのだな、ほんの少しの間で成長したのだろう。短い間で大したものだ。剣を振るう時に、昔に比べて振りが速くなったのではないか?」
「確かに。以前よりも思った通りに思った場所に振れるようになっていますね」
「まさしくそれだ。魔法に寄らない戦い方が功を奏している証拠だ。魔法よりも剣で戦っているのでは?」
「筋肉のことになるとさすがですね。その通りです」
「伊達に筋肉を謳ってはいない。これからも魔法と同じく剣も振るい続けるといい。おそらくその先に、これまで見たこともない景色が広がることだろう」
「筋肉隆々は勘弁ですね」
「はははっ、そういう意味ではない。会得できる剣技があるやもしれぬということだ」
「剣技が・・・」
「悪いことは言わん。素振りだけでも毎日こなしてみてはいかがか?剣を振るうための筋肉は、剣を振るうことで洗練されるのだ」
筋肉談話になると途端に真面目な話ができるというのもおかしな話だが、マスターの言う通りだろう。
「わかりました。鍛錬してみます」
「うむ。ん?リタよ、ずっと赤い顔をしているな」
「あ!?こっち見んな!!!」
リタさんのストレートがマスターの頬にめり込んだ。
マスターが嬉しそうな顔でダウンした。リタさんが俺を睨んだので、慌てて服を着た。
俺は悪いことしてないから、その握りこぶしはどうかお納めください・・・。
ミモザさんの店に戻ると、まだ作業をしているのか、奥の部屋でガッチャンガッチャンとけたたましく響いていた。
「まだみたいだね」
「いえ、終わりのようです」
「わかるの?」
「あの音は仕上げの音です。昔母が服を仕立ててくれた時によく聞こえてきました」
「そっか・・・」
モアさんのお母さんてどんな人だろう。モアさんとそっくりな話し方するんだろうか・・。
なんてことを考えていたら、ミモザさんが出来上がったばかりの服をたくさん持って、満面の笑みで登場した。
すごい汗だ・・・。
「やったぞ!待たせたな!」
「ミモザさん、大丈夫?」
「そんなことどうだっていいんだよ!!モア、今すぐ着替えてみろ!」
「かしこまりました」
モアさんが試着室に入った途端、ミモザさんが直立不動のまま後ろに倒れ込んでしまった!
「ミモザさん!大丈夫!?」
「か・・・・か・・・」
「ミモザさん!!」
「かわいいは・・・正義・・・」
カクン・・・・・
「ミモザさ~~~ん!!!」
試着室のカーテンから顔だけ出したモアさんが俺を見た。
「盛り上がっているところ失礼します」
「どうしよう!ミモザさんが!」
「回復魔法で処置をなさっては?」
モアさんは再びカーテンを閉めた。
「・・・・・」
キラキラキラーン☆
「ううん・・・」
「大丈夫?ミモザさん?」
「そっちは行っちゃだめだ・・・食べるウサギはスカートを履くまで肉になれないんだ・・・」
「ミモザさん!?」
ほどなくして目覚めたミモザさんは、モアさんの着替え終わったという声に反応して素早く立ち上がった。
「ジンイチロー様、いかがでしょう」
驚嘆した。メイド服をここまで再現できるミモザさんは才能に溢れていると言わざるを得ない。
「モアさん、いい・・・。まさに、『メイド・モア、ここに在り』って感じだ」
「いいだろ!?いいだろ!?これは中々にいい出来だと思ったんだよな」
「そういえば、まだ服がありましたね。試着してもよろしいですか」
「よし!モア、次はこの臙脂の服を着てくれ!」
「かしこまりました」
次に登場したのは臙脂色のメイド服。エプロン調の飾りが特徴の、これまたミモザさんの『かわいい』が追及された服だ。
「この服も素晴らしい出来だと思います。『ご奉仕』と『かわいい』を体現しています」
「だろ!?じゃあ次はその橙色いってくれ!」
次に登場した橙色は――――
「ミ、ミモザさん。このメイド服は・・・」
「スゲェだろ?職業服を大胆にすると新しい世界が見えてくるぜ」
「ジンイチロー様のねっとりした視線が絡みついて大満足です」
「ジンイチロー、いいだろう!?胸の谷間を強調したのと、スカート丈を短くしたんだ。だからといって短くしただけじゃない。フワフワになり過ぎるとあまりにもあからさまだから、少し落ち着いた雰囲気を作ってみたんだ」
「ミモザ様、勝負下着を所望いたします」
「そういうと思って、スゲェのいくつも用意してみたぜ」
モアさんとミモザさんの二人で盛り上がっているようなので、俺は今着ている服の変えになりそうな服を二着ほど選んだ・・・。
なんだかんだいってまたもや何着かサービスしてくれた。遠慮したのだけど、俺が来たあとは必ず売り上げが伸びるそうなので全く問題ないと言われた。
「ジンイチローが来ると迷いがなくなって新しい服が作れるんだ。それに・・・お前といると楽しいんだよな。私の『かわいい』をこんなにわかってくれる野郎なんて中々いないしよ。だからさ、また来いよな」
「そう言ってもらえると嬉しいです。また来ますね」
「あのさぁ・・・」
「はい?」
「その・・・今度よ・・・一斉売り出しイベントしようと思ってよ。その時に・・・お前と・・・その、一緒に・・・」
「はい?もっと大きな声で」
「その・・・」
「はい?」
「うっせぇえええええ!!」
俺のみぞおちにミモザミギストレートがさく裂した!!
「おおぉおうううう・・・・・・」
「今のはジンイチロー様に落ち度があります」
「ふん・・・また来いよな・・・」
小さく手を振るミモザさんに、引きつりながらも笑顔で手を振った・・・。
いつもありがとうございます。
次回投稿は10/15になります。




