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第70話 空間魔法の伝授

 

「おかえり、ジンイチロー」

「ただいま、ばぁば」


 玄関でのお出迎えに、早速ぎゅっと抱き合って無事を報告。ばぁばのにおい、久々に感じられて懐かしい気持ち。


「おや、この子は・・・」

「お初目にかかります、ミルキー様。私はモアと申します。ジンイチロー様のメイドとして生涯尽くさせていただく所存です」

「メイド?」

「あぁ・・・まぁ、その話はちょっと長くなるから、中に入ってから・・・」

「そうだね。お茶を淹れるよ」



 モアさんは目を見張ってばぁばを見やった。

「素晴らしい香りです、ミルキー様。ミニンスクではこれほどの香草茶を飲むことはできません」

「そんなに大したもんじゃないさ」

 モアさんはしきりにばぁばの香草茶を褒め称えた。彼女もこの香りを気に入ってくれて嬉しい。

「さてジンイチロー。イリアとの道中色々あっただろうが、聞かせてもらえるかい?」

「もちろんさ」



 イリアの特別警護人として王城に出向いた時からここに帰るに至るまで、その間の出来事を可能な限り全てばぁばに話した。



「ジンイチロー、あんたの話はいつ聞いても飽きないねぇ。それに、こんな美人を『メイド』として雇うなんて、想像の上を歩いているね」

「そうはいっても、モアさんがいつ魔力切れになるのか気が気じゃないよ。だからこその実験なんだけどさ」

「魔力溜まりを作っちまうなんて、そんじょそこらの魔法士ではとても出来ない芸当さ。もちろん、この私を含めてね。あんたは正真正銘の『大賢者』さ」

「やめてよばぁば。背中がかゆくなる」

「本当の事さ。自信を持ちな」



 そんな会話をするうちに、話題はフィロデニア大山脈の話題になった。


「ジンイチローはいつ大山脈に行くんだい?」

「できれば近いうちに・・・かな?」

「大山脈までは歩いていくとなるとかなりの日数がかかっちまうからね。まずは馬車を用立てなきゃならん。だが、この王都じゃいい売り手がいないからねぇ」

「ジンイチロー様、ミニンスクであれば良い業者があります。そこを当たって見ては?」

「そうだね、そうしよう。買い上げるとなるとどれくらい?」

「ピンからキリまでございます」

「やっぱりそうだよね・・・」


 馬車だけじゃない、しばらくの服、食糧、野宿道具・・・色々必要だよな・・・どうやって揃えようかな・・・


「ジンイチロー様、このような時に私をお使いください」

「君は本当に素晴らしいタイミングで話しかけてくれるよね」

「伊達にメイドを務めておりませんので」

「どうして俺の考えていることがーーーーまさか人の心が読めるとかいうスキルがあるなんて言わないよね!」

「・・・・・」

「・・・え?」

「・・・そんなはず、あるわけがありません」

 顔をアッチの方向に反らしたまま応えないでほしい。

「いずれにしましても、物を取り揃えるのは王都よりもミニンスクをおすすめします。もし王都で買い出しをなさるのであれば、この私をお使いください」

「ありがとうモアさん。必ずしも王都で揃えなきゃいけないわけじゃないから・・・買い出しはミニンスクにして、特別なものはこの王都で揃えようか」

「かしこまりました」

「モアさんの方がミニンスクを知っているから案内してもらうとして・・・、お使いに行ってもらうのも気が引けるから、買い物は一緒に行こうね!」

「・・・・・・」

「どうしたの?」


 モアさんの端麗な顔に不釣り合いな鼻血が流れ落ちた。


「やはり契約書は必須でしょうか・・・ここまで揺らぐとは、恐るべき破壊力です」

「何のこと・・・?」

「ジンイチロー様の『攻撃力』が余りにも想定を上回るものですから・・・。一緒に行こうだなんて・・・ううぅっ!」


 口を押さえるモアさん。まさか吐き気が!


 と思ったら鼻血がほとばしった!


「スッキリしました」

「血を出してスッキリ!?」

「イリア様が裸で抱きしめたくなるお気持ちがよくわかりました」


 え・・・


「どうしてそれを知って―――――」

「ジンイチロー様のことは全て承知しておかねば強い『メイド』にはなり得ません」


 不意にばぁばがクスクス笑った。


「イリアともうそんなことをしたのかい?王家の娘に手を出したとなれば、王も黙っちゃいないと思うがね。なんてったってイリアは貴族の間では大人気らしいからね。ハピロンが居なくなって喜んでいるのは、もしかしたらイリアを狙う若い貴族かもしれないねぇ。それにしても裸で抱き合う、ねぇ・・・」


 クックックッ、と押し殺すように嗤うばぁば・・・。


「ちなみに、上半身を裸にしたのは私の仕業です」

「あんたかい!!」

「お気づきになりませんでしたか?半径65㎝を超えることはないとお話ししましたが」

「・・・ま、まさか・・・」

「はい。ベッドの裏で寝そべって、恥ずかしそうにベッドに入るお二人の様子を窺っておりました」

「ひぃいいいい!!」


 王城で部屋に入るときに、確かにモアさんと分かれたはず・・・。


「ふぅ・・・着実に『メイド』としての能力が増していることを実感します」

「いやそれ『メイド』の能力じゃないしっ!」

「ちなみに・・・」


 ま、まだ『ちなみに』があるのか!?


「上半身を裸にした後一旦『ジュノアール』様に変身してもらい、イリア様の胸の中に顔をうずめてもらい、赤ちゃんのように――――」

「いやぁああああ!!!」

「ジュノアール様が普段見せないあどけなさが・・・・ううぅ!!」


 またもや鼻血が噴き出た!


「はぁはぁ、スッキリ・・・」


 誰にも気づかれずそんなことまでしちゃうなんて・・・

 モアさん・・・おそろしい子・・・!



「そうそうジンイチロー。昨日アニーも帰って来てね、これを返してもらったんだが・・・」

 ばぁばは薄汚れた袋を取出し、俺の目の前に置いた。

 見たところ何の変哲もないずた袋だけど・・・。

「ミルキー様、これは『魔法袋』ですね」

「おや、モアはわかるかい」

「一度だけハピロン伯爵の客人が持参していたのを見たことがあります。見た目が一緒だったのでもしやと思いました」

「ばぁば、『魔法袋』って何?」

「『魔法袋』というのは、袋の開閉で異空間の扉の開閉が適う空間魔法のついた特級の魔道具さ」

 ゲームでよくあるアイテムボックスみたいなアレか?

「これをジンイチローにやる」

「え・・・特級品だろ?そんなすごいのもらえないよ!」

「いいんだよ。わたしが持っていても使い道がないんだ。荷物も小さくまとめられるし便利だろ」

「ありがとう、ばぁば。大切にするよ」

「注意するのは、入れた物をしっかり覚えておくことだ。入れた人間の記憶に連動するものらしいから、出す時に『何を出すのか』考えながら『掴む』んだとさ」

「うん、わかった」

「それと、大山脈に行く前に伝授したいものがある」

「・・・伝授?」

「空間魔法さ」

「魔法袋についているって言ってた、あの空間魔法?」

「そうさ。上級魔法だからそんじょそこらの魔法士じゃ覚えられないけど、ジンイチローならやれる」



 仕組みについて早速教えてもらった。

 まずはじめに異空間の入り口を開く魔法、次に入り口の大きさを決め安定化させる魔法、次に入り口を閉じる魔法・・・この3点をしっかり覚える必要があるようだ。

 ばぁばはこの3点を魔法陣を使ってコントロールしているようだ。空間魔法によって接続される空間は常にこの世界の『隣』にあり、入り口自体は魔法で簡単に開けられるらしい。問題は『安定化』らしく、それを実行するには相当の魔力を使うようで、一定の消費量を保つには魔法陣を使った方が便利だという。ただしそれは個人差があるので、魔力が高い俺には必要ないと言われた。また、それがネックになって普通の魔法士では小さい接合部を作るのがやっとのようだ。


「空間魔法というのはそれだけ『どうでもいい魔法』なんだが、使い方次第では『とてつもなく便利な魔法』になるんだよ。私はあえてその使い方については教示しないよ。こればっかりは使って試してみるんだ。閃いた時の『あっ!』は中々に爽快だよ」


 ばぁばからはそう言われたけど、収納に便利な魔法がどう化けるんだ?それに・・・


「これを覚えれば『魔法袋』なんかいらないんじゃ・・・」

「確かにね。でも『魔法袋』は魔力も使わないしいつでもどこでも使えるから便利なのさ。空間魔法の便利な点は大きさの指定ができることだよ。つまり『馬車』も入れられるし、中に入れば野宿もできる」

「・・・ふぅん、野宿ね。じゃあその空間に家を建てたら・・・」

「誰にも干渉されない家の出来上がりだね」


 もちろんそんなものを造る気はないけど。


「さて、まずは異空間の入口を開ける魔法だね。入口を開ける魔法については、感覚で「こうしろ」というよりも魔法陣の解説をしたほうが掴みやすいんだ」


 ばぁばは手のひらサイズの魔法陣をテーブルの上に出現させた。

 入口を開ける魔法陣は円陣四つのブロックに分け、順を追って展開されることで円陣が完成し、魔法が発動するという。

 一つ目のブロックが『認識』。名のとおり『隣』を認識するためのもの。この時点でこの世界と『隣』との間に緩いつながりができるようだ。

 二つ目のブロックが『設定』。この世界と『隣』をつなぐために、互いの位置を設定。座標軸をあわせるということか?

 三つ目のブロックが『接合』。『基本的な接合部』をつくる。座標軸が合えば『通せる』らしい・・・。

 四つ目のブロックが『安定』。『基本的な接合部』が掻き消えないよう、安定化させる。

 四つ目のブロックのオプションが『承認』。開通者のみ行き来できるようにすることもできれば、他者の通行許可の可否も設定できるらしい。ばぁばは念のため開通者のみ利用できるように設定するらしい。

「ばぁばは空間の中に何か置いてるの?」

「いや、今は何も。最近入れたのは王都で灰色ローブの男と戦ったときに隕石魔法の隕石を入れたぐらいだね」

「そんなこともあったね・・・」

「さて次の魔法陣だ。最初の魔法陣で安定化させた接合部を、任意の大きさに設定してさらに安定化させるものになる。ここで一番魔力を使うわけだが、放出しすぎると入り口が暴発して消し飛んでしまう」


 この魔法陣は三つのブロックで形成されている。

 一つ目は『入り口の大小設定』。任意の大きさに変えられる。

 二つ目は『安定化』。大きさを設定した入り口を魔力で安定化させる。接着剤みたいな役割かな。

 三つ目が『座標軸固定』。入り口が揺らぐこともあるらしく、念のため行うようだ。


「そして最後にこの閉じるための魔法陣だが、この魔法が『安定化』と同様に重要なんだ』


 この魔法陣は二つのブロックで形成されている。

 一つ目は『座標軸選択』。次に空間魔法を発動するときのために設定するらしい。これをしておけば第一の魔法陣で発動するときに幾分か楽になるようだ。

 二つ目が『閉口』。名のとおり閉じるための魔法だけど、『タイマー』を設定するらしい・・・が?


「注意点は、閉じるための魔法陣は第二の魔法陣をかける際に同時に発動させることだ」

「どういうこと?開けるための魔法陣を発動しているときに閉じる魔法陣を発動させるの?」

「そう。なぜなら『絶対に入り口を閉じることを忘れない』とは言い切れないからだ」

「念には念を押す、ということ?」

「うん、そうだ。入り口を大きく開けて安定化させてから1分後に閉じる、というように時限を加えるんだ」

「ここまで念を押す魔法ということは・・・もしかして門外不出の魔法?」

 ばぁばは力強くうなずいた。

「そういうことだ。わたしも師匠と呼ぶ人がいてね、この魔法はその師匠から教えてもらったんだ。そのときは『おっちょこちょいにはちょうどいいだろ』と言われてふて腐れたもんだが、今ではいい笑い話さ」

 かっかっかっ、とばぁばは乾いた笑い声をたてた。

「ジンイチローは大丈夫とは思うが、わたしもあんたも人間だ。忘れるのが得意な人間は、これくらい慎重にした方がちょうどいいのさ」


 確かにばぁばの言う通りだ。それにしてもばぁばの師匠ってどんな人だったのかな・・・。



 ということで、ばぁばから教えてもらったことはノートにメモし、その場で何度か練習してみた。だけど発動する兆しがまったく見られない。

「焦ることはないさ。練習すればいつかはできるようになるさ」

「難しい・・・回復魔法よりも難しいかも」

「そりゃそうさ。どの魔法指南書にも書かれていないんだからね」

「ちょこっとずつ練習して覚えていくしかないね」

「うん、そうしな。いきなり使えるんじゃ私の立場もないってもんさ。はははっ!」



ばぁばはお茶を飲み干すと、一息ついて俺を見た。

「さて今日はこれぐらいにして・・・もう一つジンイチローにやらなきゃいけないものがあるんだが、、それは明日にしようかね」


 にこにこするばぁばに、疑念が浮かぶ。

 どうして急に俺に対して色々と・・・。


 大山脈に行くとなればしばらくは離れるからだろうか。


 俺はそのあたりについては深く詮索しないようにした。



いつもありがとうございます。

PC投稿ができるようになりました・・・(泣

ですが執筆時間が極端になくなってしまったのは変わりないため、やはり投稿回数は減るかと・・・。

なんとかスピードを上げます!

次回投稿時もよろしくお願いします。


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