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第63話 魔人石

 

「『灰色ローブの男』ですって!?お父様からお聞きした王城襲撃事件の主犯ではありませんか!?」


 この『灰色ローブの男』の名はドルアンド。ハピロン伯爵の側近として数年前に張り付き、ハピロンの右腕として活躍しているようだ。

 俺が彼と出会ったのは数十分前のこと。『ジンイチロー』のまま刀を持ってウロウロしてはまずいと思い、やむを得ずジュノアールとなってイリアの魔法潰しの原因を探しに歩くことになった俺は、外にいくつも設置されていた紫色の石と魔法陣を早速発見。しらみつぶしに破壊していくと、最後に残った仕掛けのところにドルアンドがいた。

 魔法潰しの張本人だったからとてもお友達にはなれそうにもない。出会って1分と経たないうちに戦闘開始となった。

 こんな出で立ちだからなのか、最初は軽くあしらわれたものの、『ハイエルフ』の名を出した途端に殺気を込めて攻撃してくれるようになった。その後は気合を入れて戦うと、彼は変態した。そこで本当の彼の『姿』を見た。



 彼は、人間ではない。



 いや、元は人間だったのかもしれない。だが、何が彼をそうさせるのかわからないまま、そうこうするうちに彼の手によって屋敷の屋根に担がされてしまった。

 イリアと伯爵のキスシーンを見て絶望しろと言われたが、魔法も使えるようになったことだし、役者を揃えた方が面白くなるんじゃないかと不意によぎり、フェイントをかけた攻撃で見事彼を屋根から突き飛ばすことができた。



 会場の注目がハピロンと灰色ローブの男に集まる。祭壇にいた別の男はそそくさと祭壇を降りて列席者の中に紛れてしまった。

 イリアは俺が最も望むことを言ってのけた。これで会場の混乱が増すだろう。



「ですが・・・相手は人間ではありませんか!魔法を放つなど・・・」


「イリア王女、こいつは人間じゃない。人間の皮を被ったバケモノだ」


 ドルアンドは人間ではない。この祭場に来るまでに繰り広げた戦いの中で、彼は自分の腕を『剣』に変態させたのだ。


「ドルアンド!これは一体どういうことだ!?それにジュノアールまで!?」


 状況を掴めていない様子の伯爵は、自分の右腕の男に対して唾を飛ばしながら激高した。

「やれやれ・・・こんな茶番に役者として登場してしまうとは・・・ジュノアールさんに油断してしまった私の甘さがいけないのですね」

「イリア王女、列席者にあなたの魔法を見せつけるんだ」

「・・・」


 イリアはドルアンドに向かって腕を伸ばした。

 今ならイケるぞ。なんてったってドルアンドは落ちた衝撃からなのか、まだ足取りがおぼつかない。


「イリア王女、やめろ!あいつは俺の側近―――――」


 伯爵の言葉を遮るタイミングで、イリアは魔法を発動した。


 うっぷんでも溜まっていたのか、放たれた『炎弾』は普通の大きさではない。白炎は等身大の大きさを誇り、速さも十二分だった。

 ドルアンドはまたもや油断していた。まさかイリアがこれほど威力のあるものを発動するとは思っていなかったのだろう。蹴散らすつもりでいたのか、回避する姿勢を取らずまともに正面から喰らった。


 ドルアンドを中心に火柱が立ち上がり、その業火の中でもだえ苦しんでいる。


 火柱が収まったころには、ドルアンドの灰色ローブは黒く煤けてしまった。


「伯爵よ、ご覧になったか。これがイリア王女の実力だ。イリア王女、お見事だ。列席者に()()()形で魔法を披露できましたね」

「な・・・な・・・」

 伯爵が口をパクパクさせる中、俺はドルアンドを見た。


 何て奴だ。あんな業火の中にいても倒れもせず立ったまま祭壇を睨んでいる。


「人殺しめ!私の側近になんてことをするんだ!」


 伯爵はイリアに恫喝するも、イリアは睨み返した。


「その言葉、そっくりお返しいたします!すでに王城は『灰色ローブの男』を事件の主犯として目下手配中です!ハピロン伯爵、あなたは『灰色ローブの男』と結託して王国の転覆を狙ったのですね!」



 会場が騒然となった。



「ジュノアールさん、あなたの描いた茶番劇はどうにも単調で笑ってしまいます」

「はははっ、ここまで伯爵もノってくれるとは私も思わなかったですよ」

「ドルアンド!!ジュノアールと何を話しているんだ!?そいつは私の屋敷に侵入した手配犯だ!捕まえろ!」

「しかしジュノアールさん。あなたは私を過小評価しすぎているようですね。なぜ私がこれほどまでにハピロンの傍にいられたのか、どうして私が着任した時からハピロンの財が増えたのか、考えに及びませんか?」

「・・・」

「ククク・・・今からそれを証明して見せましょう。まずは皆さんに黙っていただきましょう」


 ドルアンドは右手を高く掲げると、ぶつぶつと唇を揺らした。


 しまった!詠唱か!


「ドルアンド!お前――――」

「『永劫黙認』」



 ・・・・・魔法・・・使ったんだよな?何も起きずにあたりはしんと静まり返っている。

 ちらっと列席者に目を移すと・・・



 ―――動けないのか・・・?


「私は数々の『状態異常魔法』を得意としているのですよ。このように皆さんの口を閉ざし、身動きが取れないほどその場に縛り付けることができるのですよ。ジュノアールさんもせいぜいその場で、イリア王女が我々の手に堕ちる様を見届けてください」



 ・・・

 ・・

 ・



「伯爵、お待たせしました」

「ドルアンド、私には魔法がかかっていないのか」

「当たり前じゃないですか。あなたにかけてどうするのです。ちなみにイリア王女にもかけていませんよ」

「列席者はどうする?こんな一部始終を見られては私も――――」

「ご心配には及びませんよ。エナリア商会のドンを黙らせた魔法がありますから、それを皆さんにかければよいだけの話です」

「そ、そうか!それならば合点がいくぞ」

「まずはイリア王女、あなたにその魔法をかけさせていただきます」

「ドルアンド、あなたは一体何をしようとしているのですか。本当に伯爵と王国の転覆を諮ろうとしているのですか」

「はははっ、転覆など恐れ多い。・・・そうですね、どうせここで話すことはあなたも皆も全て忘れてしまいますから、旺盛な知的欲求に多少は応えてあげましょうか。王城襲撃は私の作戦ではありませんが、確かに私の仲間が命令に則って行ったものに間違いありません」

「なぜあのような非道なことを!」

「非道?ボロネー様はこの世界を憂い、よりよくするために活動されています。王城襲撃はそのための第一歩だったのですが、失敗しました。何者かの邪魔が入り込んだようでね・・・まさかジュノアールなんてことはないでしょうけど。イリア王女はご存じで?」

「・・・知らないわ」

「・・・まぁ、あとで何でもかんでも喋ってもらいますから、今はそれでいいでしょう」

「あなた・・・ノーザン帝国の手の者ですか」

「それは・・・内緒ということにしておきましょう。伯爵は知らないほうがいいですから」

「伯爵・・・あなたは最初から王城襲撃を知っていたのですね。立派な反逆罪です!」

「ちょ・・・ちょっと待て!私は本当に何も知らなかった!これは本当だ!」

「今さらどの言葉を信用しろなど――――」

「イリア王女、伯爵は本当に何も知らないんですよ。そして、これから王家の誰かに起きることも」

「・・・え?」

「ですが悲しみに落ちることはありません。あなたはこれから先、我々の忠実な下僕となって我々の為に働き続けるのですから」

「ちょ・・・どういうことですか・・・」

「言ったでしょう?私の魔法は色々あると。エナリアのドンと同じ『魅了』をかければ、我々の意見にただ従う犬に成り下がるのみ。あなたをどう使おうが我々の自由ということです」

「伯爵といい・・・あなたといい・・・一体私を・・・・・私を何だと思っているんですか!!」

「ただの駒ですよ。それ以上でもそれ以下でもない」

「・・・」

「では伯爵、イリア王女を完全にあなたの忠犬として認識するように『魅了』をかけますがよろしいですか」

「あぁ、もちろんだ」

「そのかわり、時折王女を借りることがあります。よろしいですね」

「貴殿には世話になっているし、これからも協力しあいたい。構わないさ」

「承知しました。おっと、王女が魔法を使えることを忘れていました。伯爵、少々荒療治ですが我慢してください」

「首根っこを掴むくらい良い」

「ぅ・・・ぅぇ・・・こ・・・が・・・」

「王女、喋ろうとすると余計に苦しいですよ。では参ります」




 ―――ここが限界か


 ドルアンドが紫色の光をイリアに浴びせたところで、俺はアニーに目配せをする。アニーもうなずいたので、ドルアンドの直上に『炎弾』を放った。

 それと同時にアニーも急いで祭壇へ駆けあがり、伯爵の顔めがけてハイキックをぶち込んだ。

 痛そう~・・・。伯爵は床に転がって奇声を上げた。


 ドルアンドが目を丸くして固まった。。


「お前ら!どうして動ける!?」

 ドルアンドが怒気の混じった低い声で叫ぶ。

「どうしたもこうしたも、あんたの『状態異常』なんて屁でもないさ」

「なんだと・・・」

「私とジュノアールは・・・いえ、イリアすら『状態異常』は効かないのよ」


 手の締めが緩くなったようで、イリアは自分でドルアンドの拘束から離れた。

 首を押さえながらイリアはドルアンドを見た。


「その通りです。ジュノアール様がいればいかなる困難も乗り越えられるのです」

「・・・こいつら・・・」

「それに、この通り」


 俺は手を掲げると、状態異常回復を合わせた『エリア・フル・ケア』を発動した。

 列席者は光に包まれ、やがてそれが解けると次々に口を開いては叫び、中には逃げ出す者もいた。


 ―――ハピロン伯爵への罵声が飛び交う。


『話が違うぞ!』

『王族を裏切ることはないと信じていたのに!』

『反逆罪にされてしまうぞ!』


「形勢逆転、いっちょあがり」


 ドルアンドはぎりり、と歯を軋ませた。

「かかったフリをして泳がしたというのか・・・。茶番劇とはいえ、過小評価していたのは私でしたね。まさかこれほどの回復魔法を展開できる魔法士でもあったとは・・・・・・ちょっと待てよ、事件の時に王城にいたのはマーリンじゃなく、他の大賢者だとしたら――――」



 その時、ドルアンドの後ろにいた伯爵が彼を除けてイリアの足にしがみついた。

「王女!イリア王女!頼む!なんとかしてくれ!」

「・・・」

 イリアは蔑むように伯爵を見下ろした。

「まさかこんなことになるとは!このままでは反逆罪だ!」

 伯爵の狼狽ぶりは同情を誘うほど悲嘆に溢れていた。

 ドルアンドの魔法に未来を見出だしたはいいものの、調子に乗って地を出した途端にそれが無効化されてしまえば、さすがの伯爵にも失脚が迫って・・いや、『灰色ローブの男』とつるんでいた事実と大勢の証言があるので極刑も免れないだろう。

「反逆罪の適用は当然でしょう。あなたとドルアンドがしようとしたことの話はここにいるすべての人間が聞いているのですし、あなたがドルアンドと関係を密にしていたことさえ信じがたい事として受け止められるでしょうから」

「頼む!!」

「『不義を働いた』ことによる制裁は、わかっていますね?」

「は・・・」

「これはすでに無効となります」


 イリアは台の上に置いてあった紙を手に取ると、勢いよく破り捨ててしまった。


「ああ・・・あ・・・・あああ・・・・」

「残念でしたわね、ハピロン伯爵」


 がっくりと肩を落とすハピロン伯爵。



 だが、ドルアンドは口元を歪めながら伯爵の肩に手を置いた。



「伯爵。まだ終わっていませんよ。これがあればイリア王女は想いのままに動かせます」

「へ?」


 ドルアンドが握り締めているのは、紫色の宝石・・・。


「ククク、何を理由に諦めるというのです?まだまだ()()の理想には程遠いではありませんか。これをイリア王女の体内に押し込めば、私の魔法を使わずとも意のままですよ」

「ド、ドルアンド・・・?」



 まずい!



「イリア!逃げ――――」


「逃すはずはなかろう。イリア王女、受け取れ!」


 ドルアンドが俺達が反応するよりも早くイリアを掴んだ。


「いやああああああああ!!」

「クハハハハ!!!」


 すると信じられないことが起きた。伯爵が咄嗟にドルアンドとイリアの間に割り込んだ!


「ドルアンド!私のイリアに何をする!」

「!!」


 ドルアンドの持っていた紫色の宝石が、割り込んだハピロン伯爵の体内に瞬く間に吸い込まれていった・・・。


「ちぃっ!!」

「が・・・が・・・・ぎゃああああああああああああああああ!!」


 イリアが口に両手を当てて後ずさりしたので、すぐに駆け寄って確保。祭壇から降ろした。


「くそ・・・ハピロンめ。余計なことを・・・」

「ぎゃうあああああああああああ!!」

「ふふ、まぁいい。混乱に拍車をかけてもらおうか」

「ぎゃ・・・GYA・・・・・あGU・・・GUE・・・・・」


 伯爵の体のいたるところから肉塊が勢いよく浮き上がり、彼の体をますます大きく変貌させていった。服は膨れ上がる肉によって破かれ、唯一人間の名残を残していた肌の色も緑色や紫色、茶黒の混彩色へと変化させていった。顔も見る見るうちに眼球が飛び出て、その周りを新しい肉が取り囲み、舌が長く飛び出たかと思えば口の端も血を流しながら裂けていく。首はあるかないかなどわからないくらい頭と体に同化してしまった。腕は太くなったものの、その巨躯を支えられるほどのものではない。そのかわり股から伸びる太腿が蛙のように太く盛り上がり、巨躯を2足でもって支えられるほどに成長した。




 ―――質量保存の法則などどこへやら・・・




「は、伯爵・・・」

 イリアが慄き、俺の服の裾を引っ張るように掴んだ。


 大きくなる体はもう3mほどにも膨れ、伯爵の面影はもう消えてしまった。

 肉の増殖が止まったところで背中から無数の触手が粘液と共に排出された。宙でうねうねと無規則な動きを見せ、俺たちを窺っているようにも感じる。


 その容姿は、もはや本当のガマガエルそのものだ。


「これこそ『魔人石』の力だ!あらゆる人間を魔人石の恩恵に与らせるのだ!素晴らしき傑作・・・いや、世界を生み出さんがために我々は在るのだ!」

「『魔人石』?それがお前たちの目的だというのか!?」

「ククク、ジュノアールよ。こんなゲテモノをつくることだけを目的にしているのではない。いずれはわかる時が来るだろう」




 GYOEEEEEEEEEEEE!!




「もう戻らないのか!?」

「知らんなぁ」

「なに!?」

「戻そうとしたことなど一度もない。必要がないのでな。クハハハハ!!」


 ドルアンドはそう言って笑うと、突として祭場に降り立った。

「クク!もう一人、そう、魔力の高いあの女で実験しようと思っていたのだ」



 ドルアンドが真っ直ぐ駆けるその先には、一人の女性しか立っていない。


 俺達の戦いを見届けようとしていた、モアさん!!!



「女ァ!!お前も味わえ!!」


 瞬発力では敵わなかった。ドルアンドの後を駆けるがその距離が一向に縮まらない。


「逃げろ!!モアさん!!」


 くそっ!間に合わない!

 ドルアンドはモアさんの肩を掴むと、宝石をモアさんの下腹部に入れ込んだ!


「モアさん!!」

「あ・・・はが・・・・」


 斬りかかろうと近づく俺を薄ら笑いで一瞥したドルアンドは、高く跳躍して屋根に飛び移るとそのまま駆けてどこかへ去ってしまった。

 逃げやがったか・・・。

 でも今はドルアンドに構っている場合じゃない!

 俺は倒れ苦しむモアさんを抱きかかえた。

「モアさん!!しっかり!!」

「こ、こういうことだったのですね。わた、わたしがみた、あれは」

「くそっ、どうすれば!」

「じんいちろーさま、だいじな、おHAな・・・ジ・・・」

「ジン・・・・・ぅ・・・A・・・A・・・にげて・・・GA・・・・A・・・」

「モアさん!!」




 GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!







いつもありがとうございます。

次回投稿日は9/25日となります。

※ 49話を一部修正しました

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