第52話 パーティーのお誘い
「ばぁば、ただいま!」
「おかえり、みんな」
「ミルキー様、やりましたわ!魔法が発動できるようになりましたの!」
「おぉほぉ、それはよかったねぇ」
「ばぁば、私も精霊魔法が戻ったわ」
「アニーもかい。めでたいねぇ」
ばぁばとは数日会っていないだけなのに、何か月も会っていないかのように抱き合って再会を喜んだ。
早速ばぁばはお茶を淹れてくれて、俺がばぁばの隣に座り、アニーとイリアが隣合って座った。
俺達はこの家に帰る前にギルドに行き、依頼達成を報告。
オーガキングが現れたこともあわせて報告した。
キンニクマスター・ゴルドンさんにも状況を直接報告した。どこか出かける用事があるみたいだったので、手短に話し、詳細は後日することとなった。
依頼達成報酬をカウンターでもらい、ギルドを後にした。
ちなみに報酬は金貨15枚。3人で分け合った。
一番喜んでいたのは、イリアだった。
アニーとイリアを先に帰して、俺だけナターシャ魔法店に立ち寄った。
ある魔法陣を作ってほしかったからだ。
俺がデキるやつならこんな魔法陣がなくてもいいのだけど・・・。
出来上がった魔法陣は5枚。またもや半永久的に使用できるようにしてもらったので割高だ。あわせて金貨4枚の支出となった。
あくまでも念のための『お守り』だ。
走って追いついたのは、ちょうど二人が小道に入ったところだった。
俺達は事の成り行きをばぁばに説明した。
もっとも驚かれた話は、俺が死にかけたことじゃなく、それを回復させたものの話だった。
「まさか・・・青龍がやったとはね・・・」
「曰く、『青龍のかけら』らしいわ。ジンイチローの持っていた剣にくっついていたものらしいんだけど・・・」
マグナ村で聞いたアニーの話によると、刀が震えたと思ったら『声』が聞こえてきたという。『声』の主が自らを『青龍』と呼び、力のかけらをその刀に入れ込んでいるがために、俺の危機も感じ取り、かけらを通じてアニーと話したようだ。
機械がなくとも、力のかけらなんていうよくわからないものが通信機器の代わりになるなんて、便利な世界だな・・・。
何はともあれ、この力のかけらによって回復魔法が施され、俺は助かった。
しかし―――――。
「ジンイチローは見事に回復したけど、そのかわり何故か『かけら』は消えてしまった。だから、ジンイチローが剣を使って繰り出す技は、もう使えないみたいなの」
帰りの道中で何度か試したが剣技は発動しなかった。
俺の剣技は俺の固有のスキルではなく力のかけらあってのものだった、というわけだ。
初めてそれを知った時、むなしく悲しい気持ちにもなった。
やっぱり自分の能力ではなかったというむなしさと、技が繰り出せないという悲しさ・・・。この先やっていけるのかという不安があるのも事実だ。
でもそれと同時に、守ってくれたという感謝の気持ちでいっぱいでもある。
「でもね、ジンイチロー。フィロデニア大山脈にいる自分のところに来れば『カタナ』は復活させてもいいって、かけらが消える直前に青龍は言っていたわ」
なに!その話は聞いていなかった!
とはいっても―――。
「フィロデニア大山脈か・・・」
どこかで聞いたような名前――――――
あっ!!『カフィンの実』を調べたとき!!
「ばぁば、この前話したカフィンの実もそこにあるんだよ」
「ふむ・・・そうかいそうかい・・・それなら、イリアの護衛任務が終わったら行ってみたほうがいいかもしれないね」
アニーが不思議そうに尋ねた。
「ジンイチロー、カフィンの実って何?」
俺はアニーとイリアに簡単に説明した。
といっても、元の世界のことにも関わることなので、『聞いたことがあっていきたいと思っていた』程度に留めた。
そろそろアニー達にも、俺の出自について話した方がいいのだろうか・・・。
話が途切れたところで、イリアはお茶を一口含んで飲み込むと、ばぁばに切り出した。
「ミルキー様、わたくしは目的の魔法発動を果たしました。これで王城に戻り、ミニンスク市への出立準備を整えたいと思います」
「うん。イリアなら大丈夫だ。気合入れておやり」
「はい。それと、ジンイチローには許可を得ましたが、しばらく彼をわたくしの特別護衛人としてミニンスク市への帯同を果たしていただく所存となりました」
「ふふふ、そんなことだろうとは想像していたさ。ジンイチローもしっかり守っておやり」
「うん」
「さてさて・・・」
ばぁばはアニーを見ると、懐から何かを取りだした。手紙のように見えるが・・・。
「アニー、あんたはどうする?」
「え?」
「実はね、あんたたちがいない間にハピロン伯爵の使者がこの家を訪ねてきたんだ」
アニーは思わず口に手を当てる。驚きを隠せない様子だ。
「どうしてこの家にいることが・・・」
「さてね。どこかに情報網を張り巡らせているということしかわからん」
「ばぁばはこの中身を見た?」
「いいや。でも使者がそういっていたんだ。中身もそれについて書かれているだろうさ」
アニーは手紙を受け取り、封蝋を割って中身を取りだす。
手書きで書かれたものが2枚入っていた。
アニーは真剣な表情で文字を追い、読み終えたところで大きくため息をついた。
「・・・」
「アニー、何て書いてあったの?」
アニーは無言で俺に手紙を渡してきた。イリアも混じって手紙を読んでみた。
『親愛なるアニー殿へ。いかがお過ごしかな。先日は我が鉱山の岩オオトカゲの駆除に協力してくれたことは大変感謝している。さて、先般ギルドに託した伝言にもしたためたパーティーがあと数日後に開かれることとなる。私はそこでぜひ君に直接お礼を言いたいんだ。ついては、会場と入場時間を記しておくのでご参加願いたい。君に似合うドレスを用意しておくよ。また、特別に宿も用意しておくから使ってもらえると嬉しい。それではお会いできることを楽しみにしているよ。 モサロ・ハピロン』
読み終えた俺とイリアは顔を見合わせ、二人して唸ってしまった。
俺はもう一枚の紙を手に取り読むと、正式な招待状で、印鑑のようなものも押されていた。
「ばぁば、使者は何て言っていたのかしら」
「ぜひ来てほしいとしか言わなかったね」
「アニーさん。この手紙を読む限り、ハピロン伯爵はわたくしとの騒動がどう転んでも、あなたを手に入れようとしています」
「えぇ、そのようね・・・」
「・・・アニーはどうする?」
俯き気味だったアニーは、少し居直ってから俺を見た。
「むしろ、ジンイチローはどうしてほしい?」
「えっ」
思わずイリアが返事をしてしまった。
「―――――約束」
「・・・」
「俺はアニーに約束した。一緒にエルフの国に行こうって。ハピロン伯爵の夫人になれば、それが叶わなくなって――――」
「うん、決めた!」
フンス!と鼻息荒く立ち上がるアニー。
「ハピロン伯爵のパーティーに、参加するわ!」
「「 えええええっ!? 」」
俺とイリアの素っ頓狂な声のハーモニー・・・。
「どうしていくの!?断ってもいいのに!?」
「はっきり断ってやりたいのよ。ここで無視しても別の機会にまた誘われるのよ?何度も同じことを繰り返してほしくない」
「それは確かに・・・」
「それに―――――」
アニーはイリアを見た。イリアはぽかんとしていたが、何かに気付いたようにハッとして、それからアニーを睨んでいた。
「ま、そういうこと。だから、遊びに行くついでに私もミニンスク市入りするわ」
「はぁ~、結局アニーさんと一緒ですわ。せっかく抜け駆けしようと思ってましたのに」
「ふふ、そう甘くはないわ・・・」
そういえば、と考えに至る。イリアはどうやって城に帰るのかと尋ねたら、王都内にある空家から地下壕を抜けると、王城内の物置に辿り着くという。意図的に物置の中にある扉を開けられるようにしておいてあるようだ。これはもちろん機密事項だろう。
早速王城に帰るというイリアは、ばぁばと別れを惜しみながら抱き合い、再開を約束した。
俺とアニー、そしてイリアが家を出ておよそ20分ほど。
誰も後をつけていないことを確認し、目的の空き家へと入った。
地下室に入り、扉を開けた先に広がる地下壕への通路をよくよく眺めた。
「それではジンイチロー。戻ったら早速使いの者を差し出します」
「うん。よろしく」
「離れるのはつらいですが、またいつかお会いできます。そのときまでには――――」
「はいは~い、イリアは行こうか?」
アニーが俺とイリアの間に立ってイリアを促した。
「せっかくお別れの――――」
「今日中に会えるんだから余計なことはしなくていいと思うの」
「仕方ないですわね。それではジンイチロー、後程お会いしましょう」
「うん」
イリアは地下壕に降り立ち、一路王城へと目指していった・・・。
イリアが去った後、アニーが質問してきた。
「ジンイチロー、今日イリアと私がばぁばの家に帰るとき、どこに行っていたの?」
「あぁ・・・あれね。ナターシャさんのところに行っていたんだ」
「ナターシャ魔法店?」
「そう、ちょっと用事があってね」
「ナターシャの下着を見るため?」
「ブフォオオ!!」
な、なんという爆弾を放り込むんだ、アニーさんよ・・・
「ちがいます・・・」
「ならいいんだけど・・・」
アニーの予感通りの展開はありましたよ。えぇ、前回の訪問と同じく、確かに。
「魔法陣を買ったんだよ」
「また?今度は何?」
「ん~、ちょっとした『お守り』みたいなものさ」
「オマモリ?」
「あ、そうか、こっちでは『お守り』の概念はないのか・・・。何て言ったらいいのか・・・」
アニーは怪訝そうに俺を見つめる。
「わかりやすく言えば、『予防的配慮』さ」
「いや、全然わかりやすくないけど」
「すみません・・・」
「何かしらの危険から身を守る何か、ということ?」
「あぁ、そうそう。それ」
俺はポケットからその魔法陣を取りだした。
『炎弾』などの魔法陣と比べ、文字や模様がびっしりと描かれている。
「アニーにも持っていてほしくて・・・」
「わたしにも?ということは・・・」
「うん、イリアにもあとで渡す。何となくだけど、持っておいた方がいいんじゃないかと思って」
「何となくでこんなものを?どういう風の吹き回し?」
口では説明しにくい。とにかく、持っててくれさえすればいいんだ。
「まぁ、いいじゃない。ハピロン伯爵のことが終わったら教えてあげる」
「ふぅん・・・」
ばぁばの家に戻った俺達。
早速俺は出立の用意を済ませた。
「ごめんね、ばぁば。せっかく帰ってきたのに」
「いいんだよ、ジンイチロー。あんたたちから聞く話がたまらなく面白くてね。何が起きても、私はジンイチローの味方さ」
「ばぁば・・・」
すごく感動する言葉をもらったのに、それを言った肝心のばぁばといったら、やけににやにやと話していた―――――
前話の後書きに記した日付が間違っていました。申し訳ございません。
次回投稿は9/4の深夜だと思われます。投稿出来れば行いたいですが・・・。
投稿の際はまたお読みいただければ幸いです。