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第53話 メルウェルの指南

 

 びっくりするほど早く馬車の到着を知らせてくれたのは、メルウェルさんだった。きっとイリアの差し金だろう。


「ジンイチロー殿、お迎えに上がりました」

「わざわざメルウェルさんに来ていただいて申し訳ないです」

「イリア様からの直々の御命令ですから。お気になさらずとも結構です」



 ばぁばに出立の挨拶をしたあと小道を出ると、見馴れた馬車が停まっていた。

 乗り込んですぐに馬車は出発した。


「イリア様の魔法修行にご協力いただきありがとうございます」

「俺は何もしていないですよ」

「お帰り早々にジンイチロー殿のおかげで魔法が使えるようになったと、嬉しそうにイリア様がお話しされておりましたので・・・」

 ・・・ということは。

「メルウェルさんは、イリアが王城にいないことを知っていたのですね」

「はい。極々近い者しか知り得ないことです。団で私以外に知っている者はおりません」

「マグナ村や森の件については聞きましたか?」

「―――? いえ、そのようなことは・・・」

「だったらいいです。きっとイリアから直接話があるでしょう。それと、イリアが魔法を使えるようになったことは内密にお願いします」

「承知しました」


 余計なことを話してしまうところだった。話題を変えよう。

 と思ったら、メルウェルさんが先に口を開いた。


「質問してもよろしいでしょうか」

「はい」

「最近、私はずっとジンイチロー殿のことばかり考えてしまうのです」

「えっ!!」

「王城での一件から、ずっと頭から離れなく、ボーッとしてしまって・・・」

「ちょっ・・・わ、わ、わ、わ・・・」

 まさか、そんな、突然そんな告白・・・

「め、メルウェルさん。急にそんなこと言われても、俺、心の準備が―――――」

「すみません。ジンイチロー殿はどのように剣術を学ばれたのかがわからずにいて・・・。お会いすれば何かわかるかと思いまして」

「え?」

「・・・・・何か?」

「いえいえ、何でもありませんよ・・・」


 あぁ、心臓に悪い・・・。


「あらためてお聞きします。どのように剣術を学ばれたのですか?」

「・・・俺はどこかで修業した覚えもなければ天才的な才能があるわけでもありませんよ」

「そうなのですか・・・。あれだけの魔物をお一人で倒したということは相当の手練れだと思っていました」

「まさか。俺はむしろメルウェルさんに剣術指南をお願いしようとしていたぐらいなんです。本当です」

「私から?」

「はい。ちょっとした事情で、王城で魔物を倒した時に使っていた剣技が使えなくなってしまいまして。素人同然の俺からすれば、それがないと辛いものがあるんです。だから、少しでも剣術を学ぶことができれば・・・という勝手なお願いです。でも、メルウェルさんもお忙しい中ですから、無理強いはできません」


 メルウェルさんは真剣な面持ちで俺を見つめている。


「ジンイチロー殿は・・・なぜ剣を使いたがるんですか」

「それは・・・この『剣』があるからです」

「・・・そうですか」


 メルウェルさんは変わらぬ表情のまま青龍刀を一瞥すると、「ん~・・・」とため息を軽くついた。


「確かに『剣』があれば魔物は倒せますし、基本的な剣術を学べば底力は増すでしょう。ですが、ジンイチロー殿は剣がなくとも戦えるのでは?いや、むしろ剣を抜かずとも戦う術・・・「魔法」があるにもかかわらず、何故そこまでして『剣』にこだわるのかがわかりません・・・」

「まぁ・・・確かに・・・」


 俺がそんなに魔法が使えないことを知らないが故の考えだ。でも、剣術を学ぶ余裕があるのなら、さっさと魔法を使って、剣の間合いよりも遠い相手を打ち負かす方が手っ取り早い・・・というその考えは至極納得だ。


「持たざる私にとっては『剣』しかありません。魔法が使えればどんなによかったことでしょう。しかし、魔力が少ないうえに発動すらできなかった私は諦めざるを得ませんでした。ジンイチロ―殿は魔法を使えますし、ましてや発動が難しいとされる回復魔法をさらに広域発動までさせるほどの稀代の魔法士でもあります」

「持たざる者・・・ですか・・・」

 その点においては、俺はまさにそうだったかもしれない。魔法が使えないときは剣を握るしかなかった。

 でも今は魔法が使える・・・。

「メルウェルさん、すみません。確かにあなたの言う通り―――――」

「いえ!申し訳ございません!私はなんと出過ぎたことを!!ジンイチロー殿が名誉を厭わずにご相談くださったのに―――」

 メルウェルさんは自分の言葉に慄いてしまったようで、深く頭を下げた。

「メルウェルさん、頭を上げてください。『剣術』を習えばいいやと簡単に考えていた自分に喝を入れられた気分です。むしろ目が覚めました」

「いえ、ジンイチロー殿。いかに稀代の魔法士だからといっても、自身の間合いに入り込まれたら魔法の発動どころではなくなってしまいます。ジンイチロー殿の懸念も納得のいくものです」


 メルウェルさんはそういうと、一旦口を真一文字にし、大きくうなずいた。

「私が指南いたしましょう」

「で、でも・・・いいんですか?」

「えぇ。実際に剣を交えて、そこからあなたに必要な者が何かを感じたいと思います。ただ・・・」

「ただ?」

「おそらく、それは『剣術』ではないと思います」

「え?」

「なんとなく、と申しましょうか。あなたがこれまで戦ってきたことを考えれば・・・いえ、続きは王城でいたしましょう」




 気になることを言われ、もんもんしたまま揺られること数十分、王城の門をくぐり、この間と同じように城の玄関となる門へ到着。

 前回は数人の兵士の出迎えだったのに、その時の景色とは違い、多くの兵士の出迎えがあった。兵士が玄関への道の両端に並び、玄関には施政者と思われる人間が立っていた。

「ようこそおいでいただきました。私は内務大臣のナキ・パトスと申します。お部屋までご案内いたします」

「ありがとうございます・・・こんなにお出迎えいただいて恐縮です」

「いえ、むしろ少ないぐらいで失礼にあたるほどです。いやはや、イリア様といったら・・・」

 苦笑いをするパトス大臣。事情を知っているだけに、周囲はドタバタだっただろう。



 パトス大臣とメルウェルさんに案内された部屋は、以前と比べ2倍ぐらい広い。装飾も豪華そのものだ。部案内された後に、給仕の女性が10人ほど勢ぞろいし、この部屋の担当だと告げられた。みなさん仕事とはいえ、そんなにまじまじと見ないでもらいたい。若い女性に見つめられるのはどうも苦手で・・・。

 あ、自分も若いことを忘れていた・・・。


 給仕の女性に聞くと、この部屋は最も重要度の高い来賓が使う部屋らしく、他国の施政者や貴族が滞在するときに使うらしい。恐れ多いとはこのこと、いわゆるスイートルームってやつですから。

 前回同様、ばぁばの家が恋しくなる俺・・・。

 それにしても、本当に随分と豪華なお部屋。イリアの話だと殺風景な部屋をあてがってくれるとかいっていたような・・・。



 メルウェルさんもずっとこの部屋にいたけど、給仕とのやりとりが落ち着いたところで俺に声をかけてきた。

「しきたりについても学ばれるということをお聞きしましたが、今日はその予定がありません。もしよろしければ、先ほどの続きをいたしますか」

「ぜひ、お願いします」

「わかりました。ではこちらへ」



 案内された先は、城の正面ではなく裏手側に位置する庭だった。

「ここは騎士団だけではなく、兵士たちの訓練場にもなっているのです。ジンイチロー殿、少々お時間をいただいてよろしいですか。連れて参りたい者がいるのですが、私とジンイチロー殿の剣、そして、彼の者とジンイチロー殿も剣を交えていただきたいのです」

「はぁ・・・それは構いませんが・・・」

「ありがとうございます。すぐに戻ります故」



 10分ほどだろうか、メルウェルさんが誰かを連れて戻ってきた。女性のようにも見えるが・・・。

「お待たせいたしました。ご紹介します。この者は先日から我が第一近衛騎士団に入団したフレア・チェンバルです」

「ふ、ふ、フレア・チェンバルといいます!よよよよ、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」


 剣先を下に向けた状態で剣の柄を両手で握り、俺と目を合わせないように頭を下げられた。よほど緊張しているのだろうか。

 やや茶髪のおかっぱ頭が目を引く、細身の女性だ。


「この者は先日行われた入団試験で合格した者です。将来は近衛騎士団を背負っていく、実力でいえば私を超えていく逸材です」

「そそそそそんなことありませんっ!!メルウェル様を超えるななんて在り得ません!!」

 剣を放り投げてしまいそうな勢いで、全力で否定するフレアさん。慌てふためくフレアさんを余所に、メルウェルさんは俺に向かってうなずき、淡々と話した。

「さて、ジンイチロー殿。早速はじめましょう」





「まずはあなたが持っているその剣で、私に斬りかかってください。本気で構いません」

 メルウェルさんも俺も真剣で試合をすることになった。あくまでも『試し合い』だ。

 とはいえ、そういうメルウェルさんは無防備にも剣を下ろしてかなり力を抜いているようにも見える。

 玄人から見れば素人の俺の攻撃は簡単に受け止められるということか。

 それならば遠慮なくいかせてもらおう。


 俺とメルウェルさんとの間はおよそ3mほど。走ってすぐに斬りかかればすぐの距離だ。


 俺は剣を上げ、その姿勢のまま駆けた。

 間合いに入った刹那、刀を振り下ろした!


 しかし、いつの間にかメルウェルさんは俺から見て右後方へ避けていた。いつの間に動いたんだ!?

 空を斬った姿勢から、戻すように横に振っても空を斬ってしまった。何度か追いつめるように刀を振るけれども、防具にすら掠らない。

「これがジンイチロー殿の本気ですか?」

 細い目で俺を睨むメルウェルさん。少しイラっとしてしまった。


 こっちは素人なりに必死なんだよ!


 大きく踏み出し、一気に詰めた。


 これならいける!


 刀を大きく振りおろす!


 すると、メルウェルさんが初めて俺の刀を受けた。


「なるほど、大体わかりました。ではこちらから参ります。本気で受けないと、腕が落ちますからご注意を」


 メルウェルさんの瞳が燃えた気がした。ゾクっと背中が冷える。

 俺は瞬間的に後ろに引いたが、メルウェルさんはすぐに俺の間合いに入ってきた!

 その瞬間、剣が俺の頭上に!


「ぬぐぅ!!」


 間一髪、メルウェルさんの剣を受け止めた。左手で剣の筋を押さえてようやく止められた。

 しかし、これほど彼女の剣は重いのか!腕全体がびりびりと痺れるぞ!


「お見事。しかも私の殺気を感じて引いたのも良しです。あのままだったら左腕が落ちていました」

「う・・・ぐ・・・」

「続けますよ」


 グッと剣を押しこめられたと思ったら、急に引かれた。力を込めていたものだから勢い余って両手が浮き上がってしまった。

 まずい!

 彼女は容赦なく振りおろす!

 両手で柄を持って受けるが、衝撃を体ごと受け止めてしまい、バランスが崩れ膝が地面に着きそうになる。そこをさらに上から振り下ろされたため、最初のように左手で剣筋を支えて受け止めた。


「驚きました。その剣はかなりの業物ですね」

「・・・お褒めいただき・・・ありがたいですね」

「ですが、これでは宝の持ち腐れというもの。ジンイチロー殿が指南を受けたいというお気持ち、お察しします」

「それは・・・どうも。そろそろ腕が痺れて動かなくなりそうです・・・」

「・・・」


 メルウェルさんが力を抜いて、剣を納めてくれた。

「はぁ~・・・」

 本当に死ぬかと思った・・・。

「ジンイチロー殿。あなたは魔物との戦闘に慣れ過ぎているようです。もちろんそれでも構わないと思いますが、人間に対して『斬る』という覚悟が足りないようです。合わせて『間合いにはいってこられる』ことに馴れていないご様子。つまり、これまでの戦いは、魔物だけに特化した戦闘、間合いよりも遠くからの剣技と呼ばれる術・・・この二つが合わさって、ジンイチロー殿は勝利を収めてきたのだと思います」

「・・・おっしゃる通りです」

「重ねて申しあげるならば、素人ならではと申しましょうか・・・太刀筋があまりにも分かりやすく、避けやすいのです」

「ですよね・・・」


 あぁ、わかっていたことだけど、あらためて指摘されると凹むなぁ・・・。


「ですが、腑に落ちない点が一つあります」

「なんでしょうか」

「『速さ』です」

「?」

「フォレストホーンラビットを討伐した時のことを思い出してください」


 あの丘で戦った時のこと・・・。


「あのラビットたちの速さは、私が繰り出した剣の振りなど比べ物にならないぐらい速いのです。あなたが私の剣で後れを取るなら、なぜあなたはあの魔物達を討伐できたのですか」


 ・・・・・そうか、『魔力の循環』か・・・。


「忘れていたよ、メルウェルさん。俺はあの時魔力を循環させていたんだ」

「魔力を循環――――あのボマとかいう者も・・・」

「ぼま・・・がどうしたのですか」

「あぁ、いえ、こちらのことです。それよりも、ジンイチロー殿はなぜその魔力循環を行わなかったのですか。おそらくそれは『身体強化』に効果があるのでは?ジンイチロー殿であれば私の剣など止まって見えるでしょう。それとも行使しなかった理由がおありで?」

「多分それは・・・さっきメルウェルさんが言っていた人間に立ち向かう『覚悟』のことかと・・・」

「・・・」


 これまで魔物との戦いだけしか経験していた無かったから、魔力を刀に通すことなど意にも介さなかった。だからこそ『一閃』を放つことができたんだ。

 でも、今は対人・・・。多分俺の中で『人に向けて技が発動してしまったら』と考え、自然と魔力循環もできなかったのかもしれない。


 俺はメルウェルさんにそのことを説明した。


「なるほど・・・それなら合点が行きます。ですが、確か剣技が使えないというお話ではありませんでしたか?」

「その通りです・・・面目ない・・・。メルウェルさん、今度は魔力循環して試合しても構いませんか」

「もちろんです。むしろお願いします」


 いつも通り呼吸を整える。何度も繰り返してきたから、身体に魔力の通いがわかる。


 でも今日はいつもより多く回してみようかな・・・前からどうなるのか試して見たかったんだよね。


 丹田により意識を集中させて、魔力をもっと解放するようなイメージで・・・


 何か身体が軽い・・・


「ジンイチロー殿、よろしいですか?」

「えぇ、いつでもどうぞ・・・」

「・・・」

 メルウェルさんは俺を観察しているのか、しばらく俺を見つめると、不敵な笑みをたたえた。

「フレア、よく見ておけ。私が近衛騎士団は最強でないと言った理由がここにある」



 メルウェルさんは何歩か俺から距離を取るように引いた。



 それを見届けて、俺は足に力を入れた。



「メルウェルさん、行きますよ!」





いつもお読みいただきありがとうございます。

明日は投稿できると思います。

今後は基本的に2日に一度の投稿になるかと思います。

リアルが忙しくて執筆がしにくくなっています・・・。

修正は少しずつ日中に行います。

今後もよろしくお願いします。

※投稿後に軽微な修正を行いました。


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