第51話 新たな依頼
神秘的な雰囲気が包む森の中をゆっくりと歩く。
陽が木漏れ日となって辺りを明るく照らしている。
どこだろう、ここは―――
フィロデニア大森林とは違う、どこか別世界のような―――
俺の周りを何か小さいものが漂っているようにも感じる。
小さな光―――
あっちに行けっていうのか。
あっち・・・どっち・・・?
あぁ、あの開けた場所のことか。
開けた場所は光が集積しているかのように、より光り輝いて見える。辺りの地面には水が覆っているところもある。だから余計に陽が眩しく反射している。
大きな木がある。4人が手を広げてようやくつなげられるほどの太さだろう。
誰かがそこにいた。こっちを見ている。女性だ。
溢れんばかりの笑顔だ。誰だろうか、会ったことはない。
光り輝く淡い水色の髪の毛が今にも地面に届きそう。幼い顔立ちだけど、綺麗な人だな・・・。俺と同い年か?いや、俺よりも年上のような気もする。俺よりも身長は少し低いけど、体つきは大人の女性そのものだ・・・。
その笑顔に呼ばれるように、俺は女性に歩み寄った。目の前まで近づくと、俺はなんとなく理解した。
この女性こそ、森の神秘性そのものだと。
女性は何かを語りかけているのか、口をパクパク動かしている。
ごめんなさい。何も聞こえない。
それに気づいたのか、とても残念そうにしている。俺が何かしたわけじゃないんだけど、なんだか申し訳ないな。
ん?下を指差して、俺を見て―――――
ああ、『ここ』って意味か。うんうんとうなずいてみる。
ばぁっ、と彼女の暗い顔が晴れた。
今度は―――『私』?自分に手を当てている。うんうんとうなずいてみる。
彼女の後ろにある大きな木を触ってーーーまた『私』。手で何かを大きく囲って・・・そこに彼女が入って・・・もう一度同じ場所を、また手で囲って、そこに『私』がまた入って・・・俺を指差して・・・彼女は自分の胸の前で手を組み・・・
あぁっ!なるほど!
私はここにいる、俺はまたここに来る。
そう言いたいんだな!
彼女は大きくうなずいた。
でもどうやって来ればいいのかよくわからないな。ここがどこかも知らないし・・・。
俺が困った顔をしたら、彼女は優しく微笑んでくれた。
すると突然目の前が真っ白になった。
これは一体―――――
どうやら目を閉じているみたいだ。ゆっくり瞼を開けてみる。
ここは・・・村長の家・・・?
あれ?さっきの森は―――――
ああ、夢だったのか―――――
ベッドに横になっている俺。村を照らす朝陽が部屋の窓からも入り込んでいる。
そういえば、俺はあのデカい奴と戦って、そして・・・そうだ、殴られて倒れて・・・ここにいる・・・。
寝息が聞こえた。ベッドサイドにはアニーとイリアがいた。二人ともベッドにもたれかかるようにして寝ている。
そうか、俺はあいつにやられて、ここに運ばれたというわけか。
じゃあ、あいつはどうなったんだ?感じる限り、村は平穏そうだけど・・・。
二人の安らかな寝顔を見て、歯がゆい気持ちが湧いた。
本当ならあんなところで、あんなやつに倒されている場合じゃない。
二人を守るとばぁばと約束したのに―――――。
圧倒的に経験不足だった。そして、刀が繰り出す剣技に溺れた結果がこれだ。
もちろん経験不足は仕方のないことだけど、仕方がないからといって負けるわけにはいかない。
負けたら、この世界ではすべてが終わる。魔物との戦いは、勝たなければ絶対に生き残れないんだ。
でも俺は今こうして生きている。一体何が起きたのか・・・。
カチ――――――
音がする方に顔を向けた。鞘に納められた青龍刀が壁に立てかけられていた。
・・・少しでもあの刀を使いまわせられるよう、誰かに指南してもらえたら――――
不意に、あの人の顔が浮かんだ。
第一近衛騎士団のメルウェルさん―――――
修行をつけてくださいとお願いしたらどんな反応をするだろう・・・。
今のところ知っている人はあの人しかいないけど、王城を出ることは職務上あまりできなさそうだから、俺が直接会いにいくしか―――――。
「あれ・・・ジンイチロー・・・?」
アニーが半目で俺を見つめた。
「おはよう、アニー」
「・・・よかった・・・」
アニーは突っ伏したあと、すぐに顔を上げ、布団の中の俺の手を握った。
「よかった。あったかい」
「うん?」
「いいの。気にしないで」
すると、今度はイリアが目覚めた。
「イリアもおはよう」
「・・・・・う・・・ぐ・・・うぅぅぅぅぅぅ」
イリアも突っ伏したけど、肩を震わせて嗚咽してしまった。
心配をかけてしまった・・・。
「二人とも、もしかしてずっと看ていてくれたの?」
二人ともうなずいた。
「そっか・・・。ありがとう」
俺は上体を起こした。特に違和感はないけれど、アニーは横になっていろと言ってきかない。
何ともないと返したけど、NGがでた。
何でも昨晩の俺はびっくりするほど流血していたらしく、少しくらいは横になって休んだほうがいいとのこと。
そんなに血を流しすぎていたなら、どうして俺は上体を起こせるまで回復しているのか。
答えは簡単だった。
回復魔法―――――
アニーから聞いたそれは、普通のことのようで普通でないこと。
俺以外はこの村に回復魔法を使える者などいないはず。
アニーは首を横に振ったあと、俺に手渡したのは、『黒迅青龍刀』―――――。
回復魔法を施した者の正体を知り愕然とした。
それと同時に、寂寥感も覚えた。
朝食はイリアが部屋に持ってきてくれて、それを食べてしばらく横になった。
このとき、二人が何かを言い争っていたけれど、お腹が空いていたこともあってそれを見ながらおいしくいただいた。食べ終わっていた俺に気が付いた二人は、なぜか俺に詰め寄って、ものすごく怒られた。
ごはんを勝手に食べて怒られるなんて、保育園の頃を遡ってもないような気がする・・・。
昼過ぎになってようやく『歩行許可』が下りたので、家にいた村長に声をかけた。
固く握手され、男泣きされた。
村長と話をする最中、アニーとイリアも混じってきたので、俺が倒れてからのあいつの動きについて尋ねた。回復魔法のあたりはきいていたけど、あいつのその後についてはまだ聞いていなかった。
結果的に、あいつはアニーとイリアによって倒されていた。
あのでかいやつはオーガキングというやつらしい。
ゴブリン達をまとめていたことは、かなりの衝撃だと村長も話していた。詳しくはわからないどけ、異種族が異種族を率いることはまず見たことがないという。それだけ今回のケースは異例だったというわけか。
魔法が放てるようになったアニーとイリアのコンビで倒したというから、びっくりするやら嬉しいやら―――。
アニーの精霊魔法も復活したし、イリアも自分で魔法を発動できるようになった。
一つの目的は達成された。
まだゴブリンの残党が出現するかもしれないというので、ひとまず今日は休養も兼ねて、帰らずに滞在することとなった。
それと、村長には建物を壊してしまったことについても謝罪した。
村長は意にも介さず、むしろ気にかけながら戦わせてしまったとこちらが謝罪された。
翌日――――
昨晩は村の男達が交代で警備をしたところ、数体のゴブリンが出現したというが、先日からの襲撃に比べればなんということはなかったようで、あっさり討伐したという。
朝食を食べ終わり、帰り支度を済ませて村長に挨拶した。
「村長、数日間大変お世話になりました」
「何を言いますか。皆さんのおかげで村が守られました。お礼を言わなければならないのはこちらです。本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げる村長。横にいるサリナさんも続いた。
「いえっ、そんな・・・」
ゆっくり頭を上げると、サリナさんが歩み寄った。
「ジンイチローさん、『マグナ茸』の時期になったら、またお越しください。腕によりをかけてお料理させていただきます」
「ありがとうございます。ギルドで依頼を見かけたら来ますね」
「はいっ!そのときはご奉仕させていただきます!」
「えぇ、よろしくお願いします」
「イリア、この子やっぱり危険だわ(ボソボソ)」
「同感ですわ(ボソボソ)」
村長から依頼達成の証明書をもらったあと、村人からの拍手をもらいながら、マグナ村を後にした―――――。
・・・
・・
・
「お父さん、あの方たち、不思議な方たちでした」
「お前はあの方々の正体に気付いていたのか」
「いえ・・・?正体って・・・?」
「あの男性――――名前を聞いてまさかとは思ったが、噂に聞いた大賢者かと――――」
「えっ!?」
「それに、あの藍色の髪をした女性―――――」
「お綺麗な方でした・・・うらやましい・・・」
「それはそうだ。あの御方こそ、フィロデニア王国第三王女のイリア様だ。王妃に似て美しい方だ」
「な・・・・・」
「いいかサリナ、今の話は秘密だ」
「・・・えぇ、もちろんそうします―――」
「何故この辺鄙な村からの依頼を受けて下さったのかはわからない。だが、事情があったんだろう。私はあえて知らないふりをした。お前が知らなくてよかったと思っている」
「・・・」
「・・・ところでサリナ、何か私にいいたいことがあるんじゃないか」
「・・・」
「何となくだが、察しはついている。話してみなさい」
「・・・今日あの方たちとお別れして、決心がつきました・・・」
・・・
・・
・
「ジンイチロー、話があります」
「ん?」
草原の大きな木の下で座って休んでいると、俺の前に立ったイリアが神妙な面持ちで切りだしてきた。
「うん、いいけど・・・」
イリアが草原に向かって歩き出すので、アニーに聞かれたくないことでもあるのかと思い、アニーをちらっと見た。
アニーはうなずくだけだった。
何の話か知っているみたいだ・・・。
「話って何?」
「はい・・・」
休憩していたところから随分離れた。こんなに離れなくてもいいんじゃないかと思ってしまった。
「ジンイチローのおかげで、わたくし、ようやく魔法を発動できました。あらためて感謝いたします」
イリアは深々と頭を下げた。
「ちょ・・・やめてよ。魔法はイリアががんばった成果じゃないか。俺は関係ないよ」
「いえ、あなたがいなければ何も変わりなかった。ただ悔しい思いをしたまま人生を終えるところでした。ですがあなたと行動を共にする中で、『王族』であるということを忘れ、わたくしの知らなかったわたくしを知ることが出来ました。心が晴れやかになったおかげで、魔法の発動にも繋がったのだと思います」
イリアは俺の手を取って、その手で包み込んだ。
「本当に・・・ありがとう・・・」
イリアの言う通り、晴れやかな笑顔だ。
「うん、どういたしまして」
「ですが、お話したいことはここからが本番です」
「えっ?」
「魔法は確かに発動しました。ですがハピロン伯爵と対峙するとき、何が起きるか不安でなりません。誰かに、傍にいてほしいのです・・・」
すがるように俺を見つめる、イリア。
あぁ、つまり・・・
「一緒についてきてほしい・・・と言いたいわけ?」
うんうん!とイリアは大きくうなずく。
「ジンイチロー。これは第三王女としての依頼です。わたくしがミニンスク市を訪問する間の、特別護衛人として、任命いたします!」
依頼と言いながら『任命』とは・・・これまた王族の権力を振りかざしてきたな・・・。
そうはいっても、俺にとっても都合がいい展開だ。
「イリア。その依頼、受けるよ」
「ジンイチロー!!」
イリアが俺の胸に飛び込んできた。
はっ、としてアニーの方を見やる。
アニーはいつの間にか木の陰に座ってこちらを見ないようにしていた。
俺はイリアを引きはがした。
「ただし、条件がある」
「条件―――とは?」
「イリアはこれで城に帰るんだろう?」
「えぇ、そのつもりです」
「イリアが城に帰ったら、すぐに俺を呼んでほしい」
「ま!まぁ!」
「俺はしきたりというものがわからないから、王城で即席のしきたり講座をしてほしい」
「もちろんですわ!」
「それと・・・」
「それと?」
「メルウェルさんと、しばらく二人でやりたいんだ」
「・・・・・」
イリアが後ろに倒れる!!
さっと後ろに回って抱きかかえる。
「じ、ジンイチローが・・・メルウェルと・・・そんな・・・まさかの展開ですわ・・・」
「俺もまだまだだ。だから、メルウェルさんとの時間を何とか作ってほしい。メルウェルさんも忙しいのは十分承知している。でも――――」
イリアは手を挙げて俺の言葉を制止した。
「わ、わかりましたわ・・・。城に帰ったら、色々と手配いたします・・・。お部屋もご用意いたしますわ・・・メルウェルのためですもの・・・。ですが、そんなに雰囲気の良いお部屋でないので・・・少々殺風景で・・・」
「ありがとう。でも俺は殺風景な方が落ち着くけどね。なんだったらどこでもいいよ」
「ど、どこでも・・・はぁ~・・・」
覇気が急に消えたイリア・・・。
なっ!頭を垂らして意識を失ってしまった!
イリア!大丈夫かっ!?
次回投稿は9/1の深夜かと思われます。
投稿の際はまたお読みいただければ幸いです。
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