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第50話 近衛騎士団入団試験

 

 大賢者ジンイチローが魔物と戦いを繰り広げた王城の外庭に、続々と兵士や魔法士、施政者たちが集まりはじめた。


 今日は任命式でもある。


 任命式では、余裕のある部署から王城への勤務を命じられた者、また、兵士の場合は一般兵から上級兵や騎士団への昇進が行われる。


 しかし、それは本来ならば年に1回のみ。


 臨時的に行われるのは他でもない、先日の魔物襲撃事件をきっかけにした人材不足が原因だ。

 思った以上に死傷者の数が昇り、王城へ人材を補おうとすれば王都全体の警備人材に支障をきたすことにつながっていく。


 また、襲撃事件は近衛騎士団へも深刻な被害を生んだ。


 アルマン王やイリア王女の護衛にあたり犠牲になった騎士団員の中には、今年入団したものも少なからず存在し、団員の士気にも影響している。

 入団が叶うのは、長年兵士として勤め、かつ実力のある、忠誠心の高い数少ない人間だけである。よって、兵士の間で、この近衛騎士団に入団することが兵士としての極みと考える者も少なくない。


 そしてこの入団には慣例の『試験』が行われる。


 『試験』の華となるのは、第一近衛騎士団長、メルウェルである。


 彼女は貴族出身だが、出自に問わない実力に重きを置く人物として兵士達から熱い評価を受けていて、彼女が直接『試験』の担当を行うことから、毎年その会場には、娯楽の少ない兵士達が集う一大イベントとなる。



 そう、『試験』とは、彼女との決闘である。



 この決闘に勝てば、近衛騎士団入団は確実だ。だが仮に負けたとしても、彼女に認められた者は入団の華を添えられる。

 日々特訓や精進を続ける者にあっては、その日を運命の日と位置付け、研鑚を積んでいるのだ。


 そして、その『試験』は、本日臨時的に開催される。外庭に皆が集まるのは、こうした理由からだった。

 この『試験』をもって近衛騎士団の入団が決定し、その後執り行われる任命式までに下部の兵士達の処遇が確定する。



 広く円状に人が縁取り、試験コートを自然と作り上げていた。



『それではこれより近衛騎士団の入団試験を開始する!! 第一近衛騎士団、団長、メルウェル・ランドは前へ!!』



 歓声と共に軽装備のメルウェルがコートの中心へ歩んだ。

 手には木剣が握られている。


『事前申請のあった者は3名だ!!まずは一人目、コルエン・タルナド!!前へ!!』


 コルエンと呼ばれた男は、年齢で言えばメルウェルと同じくらいだろうか。

 メルウェルを見下したようにニヤニヤしながら登場した。


「こんにちは、メルウェル嬢。俺のことは覚えておいでか?」

 メルウェルは無表情のままコルエンを見やった。

「名はどこかで聞き覚えがあるかと」

「けっ!澄ましやがって。俺はあんたと同郷の貴族さ。その節は世話になったなぁ」

「・・・何のことやら」

「ふんっ、シラを切る気か・・・」


 コルエンが手に持っているのは木剣ではなく、本物の片手剣だ。


「今日はあんたをこれで追いつめてやる。俺はあんたにコロウヌスでボコボコにされて以来、ずっとこの機会を窺っていたんだ。だから約束しろ!もしあんたが俺に負ければ、今日は夜伽で眠らせないようにしてやる!」

「ふん、下衆が・・・」


 周囲が『夜伽』と聞き、あのメルウェルにそれを言うのか、と色めいた。



『それでは試験を始めよ!!』



「確か、何でもありだったよなぁ」

「あぁ、何でもアリだ」

「なら、これはどうだっ!!」


 コルエンは空いていた左手をメルウェルにかざすと、その手から何かが射出された。

 メルウェルは構わずそれを避ける。

 彼女の後ろの人だかりに当たるかと思いきや、その直前で何かに阻まれた。


 王城魔法士による結界魔法が施されていたのだ。



「ふん、これを避けるのか・・・」

 コルエンの左手には魔法陣の紙が添えられていた。

「下衆は下衆なりに努力しているということだな」

「言いやがって・・・」

 ぎり、と歯ぎしりをするコルエン。


 彼はもう一度彼女に手を差し向け、魔法を発動した。

 今度は一度だけでなく、連続した発動だった。メルウェルもそれを読んでか、一度だけの回避でなく、照準をずらそうとコートを大きく駆け回った。

「なひゃひゃひゃっ!!走れ!!無様に走れ!!」


 すると、メルウェルは進行方向を突然変え、コルエンに向かって走り出した。

「なっ!」

 メルウェルは彼の射出する魔法が水魔法であることが何となくわかった。きっと一番相性の良い魔法陣を選んだのだろう、と。


 魔法陣を使って戦闘をするとき、一番気を付けなければならないのが、対人戦闘である。何せ、魔法陣を起動して魔法を発動せしめるとき、必ずと言っていいほど魔法陣は光る。

 メルウェルにはそれが見えていた。


 自分に向かって撃つのなら、正面切ってただ避けるだけでいい、と。


 間合いを詰められたコルエンは動揺した。

 無表情のまま自分に詰め寄ろうとする姿は、彼にとって想定外だった。


 彼女の木剣の間合いに詰め寄られたコルエンは、咄嗟に魔法陣を彼女に突き出す。


 しかし、彼女はそれも見切っていた。


 間合いに入ったところで駆けた足を止め、下から彼の左手を木剣で叩き、上げた。


「ぎゃぅ!!」


 左手が上に持ち上げられると、彼女はすぐさま彼の喉元に木剣を突き刺す―――動作で止めた。


 ひらひら、と魔法陣の描かれた紙が、音もなく地面に落ちた。



『そこまで!!勝者メルウェル・ランド!!』



 あっけない戦いと言わんばかりに、彼女は木剣を仕舞うと彼に向かってため息をついた。

「よくぞ兵士にまでなろうとした気概だけは褒めてやる」

「くそっ・・・」

 コルエンは赤くはれ上がった左手を押さえながらそう吐き捨て、人だかりの中に消えて行った。



『続いて2戦目、ボマ・ドナン、前へ!!』


 ボマと呼ばれた男はメルウェルがすっかり隠れてしまうほどの巨体の持ち主だった。


「俺に木剣は通用しない。だから当てても構わない。参ったと俺が言うまで続けてほしいんだが」

「好きにしろ」


 メルウェルが変わらぬ表情でボマに言うと、ボマはにやっと笑った。


「いい!その顔いい!」

「はぁ・・・」

 今回の『試験』は変者ぞろいだ、と小さくつぶやくメルウェルだった。



『それでははじめ!!』


「うおぉおおおおお!」

 ボマはメルウェルに向かって突進した。

 メルウェルはそれをひらりと躱す。

 男はそれを見るや否や、にやっと笑った。


 その刹那――――


 男がメルウェルに向かって()()()


「!!」


 メルウェルはボマの動きに一瞬動転したものの、すぐに避ける動作に入った。

 避けて直ぐに、彼女の元いたところにボマが腕を伸ばしていた。突きの姿勢だ。


「おしい・・・」

「・・・」

「次いくよ!」


 先ほどと同じように、ボマがメルウェルに一気に詰め寄ると、彼は彼女を容赦なく突いた。

「ぐっ・・・」

 彼女は木剣の刀身でもって拳突きを止めた。

「これもおしい」

「お前、まさか・・・」

「ふふ、そうよ・・・」


 したり顔でメルウェルを見やった。


「俺は魔力を身体強化に充てる稀な奴でな!あんたの動きなんて遅くて拍子抜けだ!」

「・・・」


 メルウェルは今日初めて木剣を構えた。

 そして、ボマに向かって駆けた。


 そして間合いに入ると、ボマの左半身に木剣を振りぬこうと―――

「見えるよ!甘い!」

 ボマは体をずらして避けようとした――――


 ところが、メルウェルの木剣は空振りするどころか、いつの間にか彼の右半身を捉え、振りぬいていた。


 バチィイイン!と彼の右半身が震えた。


「なっ・・・」

「私の番だ」

 ボマが防御の姿勢を取る前に、彼女は右、左、正面突き、胴切りと続けざまにボマの体を木剣で攻め立てる。さながら布団たたきで叩いているかのような光景にも見えなくもない。

 彼の腕や顔に痣が出来つつあった。


「ぐっ・・・いで・・くそ・・・」

「どうした、はやく参ったと言わないのか」

「まだだぁああ!」


 ボマは逆上して、両手を上げて襲いかかろうとして飛び掛かってきた!


 それが勝敗を分けた。


 メルウェルは彼の胴体を斬った。随分と大きな音が腹から鳴り響いた。


 ボマはその衝撃に耐えきれず、泡を吹いて倒れてしまった。



『勝者、メルウェル・ランド』



 会場から歓声が上がった。



『最後となる!フレア・チェンバル、前へ!!』


 大人しそうな女性が前に出てきた。

 剣を握り締め、恥ずかしそうにしている。


「よ、よろしくお願いします」

「うむ・・・」


 メルウェルは感じた。


 この娘は先ほどの2人の男よりも相当出来る、と。



『それでははじめ!!』



「あ、あの、私からいいでしょうか」

「いちいち聞かなくてもいい」

「あ、あ、あわわわわ、でう、ですよね!」

「・・・」


 とても俊敏には見えない。しかし、彼女の剣を見ていると不思議な感覚に陥ると思ったメルウェル。

 これは剣を突き合わせないとわからないかもしれない・・・。


「おい、私の剣はあるか!」


 メルウェルが誰かを呼ぶと、同じ団員の男が彼女の剣を持ってきた。


「フレアとやら、申し訳ないが真剣で戦わせてもらう」

「が、ガーーーン!!」


 あきらかに動揺するフレア。

 メルウェルはそんな彼女にお構いなしに、彼女へ向かって駆けた。


 メルウェルはフェイクをする気もなかった。

 見た目でわかる攻撃、剣の柄を両手でもち、間合いに入れば斬りこむというわかりやすい姿勢で駆け込んだ。

 間合いに入る直前で振り上げの動作をした。


 フェイクはないが、本気の斬りこみだ。


 そして、わずかに殺気を込めた。



 刹那、フレアからもわずかな殺気を感じたメルウェル。



 フレアはいつの間にか足を開いて腰を落ち着かせ、メルウェルの攻撃を弾いた。

 メルウェルの腕が勢いよく宙に持ち上げられると、フレアはそこを見逃さず、構えて剣を突き出すが、宙に浮いた腕の勢いそのままにメルウェルがくるりと横回転。

 フレアの突きを今度はメルウェルが弾いた。

 本人たちにとってはとてもゆっくりした動作にも感じたが、周囲の者は素早い動きと捕えたようで、これだけで大歓声を2人に送った。


「あ、あの、ごめんなさい」

「・・・」


 殺気に敏感に反応するフレアに、メルウェルの心はもう決まった。メルウェルの剣を弾くときの迷いのなさ、隙を見つけたときの斬りこみの速さ―――。


 見込みがある―――――。


 剣をしまうメルウェル。驚きの表情を隠せないフレア。


「この勝負は引き分けとする。フレア・チェンバルよ。貴殿を近衛騎士団に歓迎する」


 会場が一瞬静まり返った後、地響きのような歓声が轟いた。



 フレアはただただ恥ずかしそうにモジモジしていた―――。






『試験』が終わり、メイルを装備しなおすと、以前ジンイチローの歓迎セレモニーを行った会場へ移動するメルウェル。


 彼女の表情は浮かない。


本当は、『試験』の担当は外してほしかった。


 彼女のことをいかにも最強のようにまくしたてようとするが、彼女は決してそうは思わない。


 自分よりも少し若い黒髪の男性――――「大賢者」が、王城事件の際に大活躍した。


 しかも、魔法はほとんど使わず、持ち前の剣技で魔物達を倒したというのは、兵士達から聞いた特筆すべき事実だ。


 彼から色々と聞き出したい。何をもって魔物と対峙しているのか、どんな感覚で剣を振っているのかなどなど・・・。


(今度会ったら絶対に聞かねば・・・)



 自分よりも強い相手に会ったことがない彼女は、その顔から察するに、好奇心を隠し切れないようだ―――――。








明日投稿できないかも・・・です。できたとしたら同じ時間帯に投稿します。

そのときはまたご一読のほどよろしくお願いします。



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