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第48話 ゴブリン襲来 その3

 

 姿を現したゴブリンは10体ほど。俺達や村人との間合いを確かめるように、ゆっくりと歩みを進めている。


「出来そうか、アニー」

「・・・えぇ。あなたのおかげで目が覚めたわ」

「アニー、まずは一体だ」

「・・・」

 アニーは何歩か踏み出すと、ゴブリン達がピクリと反応した。やつらは全員アニーに的を絞ったのか、足の先が全て彼女へと向けられた。


 一体のゴブリンがアニーに向かって斬りこんだ。


 アニーはそれを軽やかに躱すと、剣を振りおろそうと腕を上げた。


 そこに、別のゴブリンが襲いかかってきた。


 アニーはそれも躱す。


 しかし、すぐに別のゴブリンが・・・。



 ・・・だめだ、これでは埒が明かない。


 これを繰り返せばアニーは囲まれる。いや、囲まれる以前に死角から覆い被せられる。


 アニーが別のゴブリンを躱したところで、俺は死角に回り込んでいたゴブリンの首を容赦なく斬り落とした。


 ゴブリン達がそれに気づき、アニーと俺から距離を置いた。


「ジンイチロー、ありがとう」

「あのままじゃ囲まれてたよ」


 村の男達も加勢し、ゴブリン達に襲いかかった。早々に俺が斬りつけたのがいい勢いになったのか、気合よく戦っている。

 その時、どこからともなく声が響いた。




「入り口がみんなやられたみたいだ!誰か行けるか!?」





 その声を聞き、俺とアニーは目を合わせた。



「ジンイチロー!行って!私は大丈夫だから!」


 アニーの瞳に憂いはなかった。

 俺は大きくうなずいて入り口方面へ向かった。




 入り口に到着した時、村人の多くに矢が突き刺さり、倒れていた。ゴブリン達はそんな村人たちに躊躇なく剣を突き刺そうとしていた。


 俺はそんなゴブリン達に『炎弾』を放っていく。


 イリアはどこだ!?


 あたりを見回すと、入り口の隅にゴブリンが群がっているのが見えた。その周りに、骸と化したゴブリンも数体横になっていた。


 そこにイリアの姿が見えた。必死に短剣を振っている。横になっているゴブリンはイリアがやったのか?

 しかし、そんなイリアの足元はおぼつかない。

 ゴブリン達はそれをわかっていて相手にしているようで、徐々に村の外へと押しているようにも見える。


 申し訳ないが、俺は村人よりもイリアを優先した。駆けてイリアのもとへ急ぐ。


 ギャアギャアと俺を指差して叫ぶゴブリンが現れ、それに気づいたイリアの周りのゴブリン達が、イリアのみぞおちに拳を入れた。




 イリアはゴブリンに体を預けるように倒れた――――――。




 ゴブリンはそのままイリアを担いで闇に消えようとした。



 ――――させるか!!!



 俺は魔法陣『土塁』を発動させ、ゴブリン達の目の前に土の壁を作った。闇の奥へと消えないように、さらに連続発動。退路を断たれたゴブリン達は、やむなくイリアを地面に落とすと、俺に向かって剣を持つ腕を伸ばしてきた。その中の一体は弓を引きはじめた。


 イリアを地面に落としたところで勝負はあった。


 建物のないところなら、遠慮なく『一閃』を放てる!


 そして矢が放たれるかどうかの際で、俺は『一閃』を放つ。


 イリアの寝ている傍で、ゴブリン達の体がゴトゴトと落ちていった。

 それを見ていた村の外にいるゴブリン達は、みんなでギャアギャアとわめき散らした。


 はじめて『土塁』を使ったが、発動する自分対象でなくても防御魔法として有効だったようだ。何となくだけど、今後魔方陣を使わずに発動できるイメージは掴めた。



 イリアの元へ駆け寄ると、目を閉じたまま動かない。

 魔法を使わずに敢えて短剣で戦っていた――――となれば、魔力が・・・。


 しかし、こんな短期に魔力切れを起こすなんて―――。


 俺は『フル・ケア』をイリアにかけた。

 魔法によって放たれた光の放出が止むと、イリアは静かに目を開けた。

「イリア」

「ジンイチロー・・・」

「大丈夫?」

「うん・・・ごめんなさい・・・」

 イリアはほっとしたのか、見る見るうちにその瞳を潤ませた。


「もう大丈夫だよ」

「わかっています。わかって・・・ごめんなさい・・・」


 俺はそっと抱き寄せた。


 そうした方がいいような気がした。


 俺の胸の中で、イリアはむせび泣きいた。



 そんな俺とイリアを、ゴブリン達は飽きもせずわめきたてて指差している。





 さて・・・忘れてはいけない、村人の治療。





 イリアを宥めてから体を離すと。生きているであろう村人の元へ寄った。


 生きていることの確認ができた村人に刺さる矢を引き抜き、最後に『エリア・フル・ケア』を発動。


 村人すべてに光の珠が行き届く。


 回復魔法の現れで、ゴブリン達は急におとなしくなった。


「イリア、立てる?」

「・・・はい」

 涙を拭き、立ち上がるイリア。その瞳は、戦いが始まる前のそれに比べたら、とても軽やかに見えた。

「ジンイチロー、今ので大分スッキリしました。わたくし今ならいけます」

「まさか、魔法が?」

「えぇ!」


 イリアは一歩前に踏み出すと、腕を伸ばした。

 目を閉じ、すぅっと息を吸って、深く吐く。

 そして、静かに目を開けた。


「行きますわ! 『炎弾』 !! 」


 白い大きな炎の塊が、わめき散らしていたゴブリン達めがけて高速で飛んでいく!


 避ける間もなく、ゴブリン達はその餌食となり、燃え盛った。


 力なく倒れていくゴブリン達・・・。


「やりましたわ!ジンイチロー!」

「あぁ、成功だ!」



 その時だった。村の入り口の方から、ゴブリン達の2陣目がやってきた。


 だが様子がおかしい。俺達を指差しているが、その視線は村の外に向けられている。


 誰かがいるのか?


 大きな足音が響いたとおもったら、そこには『ゴブリンキング』・・・ではない、それより大きな魔物が村の入り口に現れた。

 一目瞭然、こいつはリーダーだろう。


 その大きな魔物には頭に角が生えていて、体毛も目立つ。背も2mを越えていて、手に持っている金棒が凶悪さを増して見せていた。いったいあの金棒はどこで手にいれたのだろう・・・?


 しかし、どこからどうみてもゴブリンではない。


 そいつは歯を軋ませながら俺達を睨んでいる。手下の損失の一端に俺達が絡んでいることを理解しているようだ。


「ジンイチロー、どうみてもアレはゴブリンではないようですが、リーダーであるのは間違いありません」

「うん・・・」


 リーダーが現れたのはラッキーだ。頭さえ落とせば、ゴブリンの集団は離散する。しかし、こちらは手負いの村人を抱えながらの戦いになってしまう。万が一人質を取られると厄介だ。


 となれば・・・


「イリア、頼みがある」

「は、はい!」

「さっき『フル・ケア』で村人達を回復させたけど、まだ立てない人もいる。立てる村人と一緒にその人達を村の安全なところへ移してほしい」

「ですが・・・」

「この入り口付近なら他よりも少しは広い。奴をやるなら打ってつけだよ。それに、明日このゴブリン達と張り合うほどの村人が確保できないなら、奴らも態勢を整える前・・・今日のうちに片付けたほうがいい」

「丸太柵の方はいいのですが、どうやら反対側の柵にも若干ゴブリンが回り始めたようです。向こう側で小競り合いの様子も見られますわ」

「安全なところへ移した後、イリアはそちらに回って加勢してほしい。今日、ケリを付けるぐらいの気持ちで」

「・・・わかりましたわ。アニーさんは大丈夫ですか?」

「アニーなら心配ないよ」

「そうですか・・・」

 イリアは、フッと笑ったみせた。


「村人の皆さん!立ち上がれる者はそうでない方を安全なところへ移すお手伝いをお願いします!わたくしが護衛します!」


 イリアが声高に叫ぶと、急ぎ足で立てない者へ肩を貸し、村の中心方面へ歩いていく。

「ジンイチロー、気を付けて」

「あぁ、イリアも」

「えぇ!」


 イリアが村人に駆け寄るのを目視し、再びデカイ奴に照準を定める。

 そいつはゴブリン達に何やら掛け声をかけているようだ。種族の違いでも言葉は通じるのか?


 そういう命令だったのか、弓を持ったゴブリン10体ほどが入り口を入って駆けていく。


 どうやらイリア達のあとを追うように走っていくようだが、俺がそれを許すはずもない。

 俺の前でまとまって走るとどうなるか、学習が足りない様子。

 ゴブリン達の背後に駆け寄り、『一閃』を放つ。


 ゴブリン達はあっけなくその身をバラバラにして沈黙した。

 しかし、代償として建物の屋根が一部欠損した。

 あとで村長に謝らないと・・・。


 残るゴブリンは数体。声も出せずにうろたえているのがわかる。

 デカイ奴は足で地面をたたき上げ、相当怒り心頭のようだ。


 さて、あいつも『一閃』でどうにかできるか・・・?




「さぁ、この建物に入って身を隠して!戦える人はこの方たちの護衛をお願いします!」

「イリアさんはいかがするのですか!?」

「わたくしは外で応戦をして参ります」

「面目ない・・・」

「何を言うのです。村の方たちの戦いはこれからです!荒れた村の立て直しと、『マグナ茸』の収穫準備も控えているではありませんか。皆様の力は、明日を生きるためにこそ蓄えるべきです!・・・ゴブリンが来たら応戦を余儀なくされますが、それまではお休みください」

「なんとありがたいお言葉・・・。まるで王からの御言葉のようだ。そのお心、確かに留めておく」


 あはは・・・・・。



 わたくしは伝え終わると、外へ飛び出しました。

 一部の建物に火が回り、村人がそれを消そうと躍起になっていますが、侵入したゴブリン達がそこへ容赦なく襲いかかっています。村人が近くにいては魔法を発動できません。

 思い切って駆け寄り、侵入したゴブリンの背後を一刺ししました。

 苦悶の表情を浮かべ、絶命するゴブリン・・・。


 村を襲わないと生きていけない・・・子孫を残すことができない・・・。


 ふいに同情にも似た感情がわたくしを覆いますが、いちいちそんなことを考えていては防衛も何もありません。首を振ってかき消すと、次の目標を探します。


 丸太柵の方のゴブリンは打ち止めなのでしょうか、村人の勢いが増しています。


 反対側の柵は薄暗くてよく見えませんが、『ゴブリンメイジ』なるものが魔法を放っている様子。先ほどの建物は火魔法が原因のようです。


 ジンイチローにも言われたとおり、反対側の柵へ回ることにしました。


 すでに柵の一部が破壊され、ゴブリンの侵入を許していました。ですが少数です。

 わたくしはゴブリン達の作戦について思うところがありました。


 丸太柵側からの侵入は奇をてらったもので、村人の動揺を誘うにはもってこいでした。


 しかし、どうもそれに囚われすぎたようです。


 明らかにこの柵側から侵入した方が、丸太柵より弱いこともあり効果的だったでしょう。丸太柵の破壊に気を取られている隙に大群で押し寄せたら、この村は終わっていたでしょう。

 昨日のアニーさんとわたくしだったら簡単に押し切られ、ジンイチローの助けが来ないうちに囚われの身となり、一生を大森林にあるだろうゴブリンの集落で余生を送っていたかもしれません。


 わたくしたちの作戦も浅はかでしたが、圧倒的に有利だったはずのゴブリン達の作戦が稚拙だったことで、今日のわたくしたちの優勢に繋がったと云えます。



 ゴブリン達はわたくしに目もくれず、抵抗する村人に気を取られています。


 ゴブリンメイジも同じく、村人に向かって必死に魔法を発動しているようです。



 一気にカタをつけます!



 覚えたてではありますが、出力を上げて参ります!


「『炎弾』!」


 先ほどの初めての発動に比べるとより大きな白い炎の塊が、柵にいるゴブリンの一団に向かって行き・・・・・・見事命中!


 虚を突かれたゴブリン達は燃え盛る仲間を見て唖然としています。


 弓を持った村人達が、この機を逃すまいと、矢を一斉に放ちました。


 立っているだけのゴブリンは、ただの的です。



 この柵にいるゴブリン達は、全滅しました。



 わたくしは、アニーさんの元へ駆けました。





 うじゃうじゃ湧き出たゴブリン達が、急にうろたえはじめた。

 丸太柵の裏から出てくるゴブリンがいなくなったことを考えれば、『控え』もいないという考えに行きつく。


 村人に発破をかけるなら今ね!


「みんな!ゴブリンはもう湧いてこないわ!ここのゴブリンを倒せば、全滅よ!」


「「「 うぉおおおおしっ!!! 」」」


 男達に気合が漲る。


 所狭しといたゴブリン達も、今では屍となって転がっているだけ。



 ジンイチローには「大丈夫」と強がった私は、彼がいなくなった後も、想像以上に手こずった。

 でも、『一緒に行こう』と言ってくれた彼の優しさが、私に力をくれた。

 一振り、一振りと重ねるごとに、身が軽くなっていく。

 自分の中の感覚が研ぎ澄まされていった。

 自分の中の魔力も、精霊魔法を放つ時の感覚も蘇った気がする。

 手のひらの上に、軽く精霊魔法で火を起こしてみた。



 ・・・点いた。



 よし――――!!



「みんな!下がって!!魔法を放つわ!!」


 私の声に、男達がすぐに反応。


 私は線上に村人がいないことを確認した後、すぐに炎のシェルをゴブリン達に向かって打ち込んだ!


 ゴブリン達の胸や頭に穴が開き、すぐに発火。次々と倒れ込んでいくゴブリン達。


 残ったゴブリンも手負いになった。


「今よ!!」


 男達がゴブリン達に殺到。次々に剣の餌食になっていく。


 ふぅ・・・。このエリアの防衛は成功のようね・・・。


「アニーさん!!」

「イリア!?」

 振り返ると、イリアが駆けてきた。

「イリア!無事だったのね!」

「アニーさんも!よかったですわ。それに、精霊魔法が復活したようですね」

 イリアはゴブリンを見てすぐに直感したようだ。私はうなずいて応えた。

「えぇ。あなたはどう?」

「わたくしも、ついに魔方陣なしで発動できましたわ」

「よかったじゃない!おめでとう!」

「ふふ・・・ありがとうございます・・・」

「・・・」

「・・・」

 無事を確認できたからか、急に話すこともなくなってしまった私たち。

 でも、イリアは違うみたい。

 何か言いたそうに、私を窺っている。

「イリア?」

「・・・いえ、なんでもありません・・・というよりも、この場で話すことではありませんわ」

「そう・・・」

「そ、それよりも!ジンイチローです!ジンイチローが、大きな魔物と戦おうとしています!」

「ゴブリンキングかしら」

「いえ、それが・・・そうではないのです・・・」


 イリアから聞いた特徴を聞いて、吃驚した。

 まさか異種族であるオーガが、異種族の者たちを率いていたとは夢にも思わなかったから・・・。

 でも、ただのオーガじゃない。おそらく『オーガキング』と呼ばれる、滅多に出現しない特級の魔物。グランドベアよりも能力は高いかもしれない・・・。


「ジンイチローのもとへ急がないと!」

「えぇ、アニーさん!」






 気だけが焦る。あぁも『一閃』を幾度も躱されると、何をどうしていいかわからなくなってしまったからだ。


 あいつは『強い』。その強さは力だけじゃない。『経験』がものをいっているようにも思えた。


 それならばと、距離を取っての『一閃』がだめなら奴の間合いに入り込んで叩き込んではどうかと閃いた。



 しかし、それは甘かった。



 駆けて斬りこもうとしたとき、俺の斬りこみの動作に合わせてすでに躱しの体勢にもちこまれていた。気付いた時にはもう遅い。俺の『一閃』は空を斬り、そして、俺の横がガラアキになった―――――。



 しまっ――――――!



 俺の体が、奴のもつ金棒に打たれて宙を舞った。そして地面に叩きつけられた俺は、落ちた衝撃で息が止まりそうになった。


「がひっ・・・はっ・・・がぁ・・・・ぁ・・・」


 立てない。いや、立たねば・・・。音でも出ているんじゃないかと錯覚するぐらい、頭から血が流れている。見る見るうちに地面に吸い込まれていった。


 でかい図体のくせに、動きは俊敏だった。


 奴は俺に素早く駆け寄ると、まるでサッカーボールでシュートを打つように、立とうとする俺のわき腹を蹴り上げた。


「・・・・!!」


 一瞬、目の前が真っ白になった。わき腹から変な音が聞こえた。


 腹の奥底から、我慢が利かないほどの激痛が走る。


 まさか、内臓が・・・これ、やばいやつかも・・・。


 急いで『フル・ケア』をかけようとするが、その暇を奴は与えてくれない。


 これも経験の差なのか、俺が回復魔法が使えると知ったからなのかはわからない。でも、ただただ蹴られ叩かれだけを繰り返され、俺の思考力がどんどん飛んでいく・・・。


 そう・・・何か・・・何かしなければ・・・


 このままじゃ、俺、殺される・・・




 奴の棍棒が俺の目の前で―――――





※ 8/28 軽微な修正をかけました

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