第46話 ゴブリン襲来 その1
夕食の時間に、村長へゴブリンの襲撃の度合いが強まる恐れについて話をした。
男たちは護衛に立つ前に、必ず村の集会場前の広場に集まるというので、それに参加することになった。
辺りは夜の闇に包まれていて、家の前やあちこちにある松明置き場の炎が、村を明るくしていた。
広場はたき火が燃え盛り、集まった人たちの顔を照らしている。
広場には俺達の噂を聞き付けてか、男たちは勢揃いしていて他の村人や女性達も集まっていた。
村長は村人を一瞥して口上した。
「皆の者、こちらは我らの依頼を受けて遠路王都から来て下さった冒険者の方々だ。この方たちの話によると、ゴブリン達は襲撃の度合いが強まるかもしれんとのことだ」
男たちは俺達を見ると口々に不安の声をあげた。
『こんな三人だけじゃあゴブリン達には太刀打ちできないぞ』
『ひ弱そうな女に何ができる』
『信用できるかよ・・・』
アニーとイリアへの批判はムッとしたが、信用できないという意見については無理もないと思った。どの程度の力量があるかもわからない奴から助言を仰がれても一概に信用はできない。
でもそれは、連日の襲撃による疲れと不安の表れかもしれない。
ざわつく広場に、イリアが声を通した。
「みなさまにお話があります。わたくしたちはつい最近、たった三人でゴブリンの集落を壊滅させました」
広場にどよめきが起きる。
『集落といったって、10体程度の奴らだろう!』
「総数で言えば、100体を軽く超えていましたわ」
静寂に包まれる広場。イリアの声がよく通った。
「特にこのジンイチローが、一人でそのゴブリン達を葬ったのです」
「イリア殿、それは真か」
村長が割って入った。
「えぇ。本当です」
「ジンイチロー殿、貴殿はどのようにゴブリンを?」
広場の注目の的になってしまった。イリアは至って真剣なまなざしで俺を見た。
「確かに、ほとんど俺がやったようなもんです。この剣と魔法で」
鞘から刀を引き抜き、片方の手の上で炎を作り出した。
「このように、ゴブリン達との戦闘は経験済みであり、わたくしたちがギルドで依頼を受けた理由はまさしくそれです。少しでもみなさまの力になりたくここに馳せ参じました。命がけであることは同じです。ともにゴブリン達を殲滅いたしましょう!」
男たちは次々とうなずきあった。イリアの言葉は不思議と素直に響く。王家の人間として、人心掌握に光るものがあるかもしれない。そのおかげでどうやら一先ずの信は得られたようだ。
「イリア、ありがとう」
「勝手なことをしてしまい、すみません」
「いいんだよ。それに、『ひ弱そうな女』と言われてイラっとしたのも事実だし」
「あれ以上言われていたら、本当に殴り倒すところでした。踏みとどまれたのは成長したからということでしょうか」
「あはは・・・」
すると、村長が俺に寄った。
「ジンイチロー殿、あなたは剣術と魔法の心得があるのですね」
「いえ、剣術などという崇高なものはありませんよ。ちょっとした事情があって、真似事ができるだけですよ・・・」
そして配置についた。
村の入り口には、俺とイリア。少し離れて、村の中央付近にはアニーを付けた。まだアニーは精霊魔法も魔法陣を使った魔法も発動できないが、警戒の意味を込めての配置だ。
イリアを入り口側に待機させたところで、俺はアニーの様子を見に行った。
アニーは村の建物の裏に、もたれかかるように立っていた。
「アニー」
「ジンイチロー!あっちは大丈夫なの?」
「うん。まだ平気さ。アニーが気になって様子を見に来たんだよ」
「うん・・・」
アニーはうかない表情を浮かべた。やっぱり・・・。
俺はアニーの横に寄った。
「アニー、まだ怖いんじゃない?」
「・・・」
「無理しなくていいんだよ」
「無理なんかじゃない。でも・・・」
「この依頼を受けたとき、少し不安そうな顔してたからね」
「やっぱり、ばれてたか」
「うん」
「・・・・・怖いよ」
「・・・」
「ゴブリンを見てもまともに戦えるかどうか、はっきり言ってまだわからない」
「そっか・・・」
「ほんとはこんなこと、今さらって感じ。でもジンイチローになら不思議と話せるの。弱い自分もさらけ出せる」
「アニー。気にせず、もっと弱音吐いてもいいんだよ」
そういうと、アニーはもたれかかった体を戻し、突然俺を抱きしめた。
びっくりした。でも、アニーは震えていた。
「こわい・・・こわい・・・ジンイチロー・・・ほんとはすごくこわい・・・」
俺は腕を回し、優しくアニーの後ろ髪を撫でた。
「大丈夫だよ、アニー。今回はみんながいる。俺もちゃんといるよ」
「うん・・・」
アニーの抱きしめる力が強くなった。
「ジンイチロー、こうしてるとすごく落ち着くの」
「そっか・・・」
すると、アニーがすぅっと俺から離れた。
「・・・もう、こういうときはもっと気の利くセリフをいうものよ」
「ごめん、不慣れでさ・・・」
「まったく・・・」
といいつつも、アニーの顔には微笑みが灯っていた。
「アニー、君なら大丈夫だよ」
「ジンイチロー・・・」
アニーに手を振って一旦別れると、イリアのもとへ急いだ。
「イリア、ゴブリンはまだのようだね」
「・・・」
「ん?どうしたの?」
「・・・どうしてアニーさんにだけ・・・」
「えっ」
「あとでしっかりいい子いい子をしていただきますわ」
イリアはぷいっとあさっての方向を向いてしまった。
もしかして、さっきの見てたのか・・・
ほどなくして、村の外にいた見張りが鐘を鳴らしながら村の中に入ってきた。
『来たぞ!ゴブリン達だ!今日は多いぞ!』
俺とイリアは互いを見やった。
「来ましたわ」
「あぁ、やるぞ」
俺は青龍刀を引き抜く。松明の明かりの中、黒く染まる刀身を確認。
それと同時に、村の入り口にゴブリンが姿を現した。闇から浮き上がってくる姿がとても不気味だ。
3体どころの話ではない。1体が見えたと思ったら、10体以上の姿がその後ろで薄らと浮かびあがった。残念ながら、俺達の予測は当たってしまったようだ。
村の男たちの足が動かない。これだけの数だから無理もないだろう。それに慌てて飛び出せば逆に餌食になる。
そしてゴブリン達は武器を持っていた。短剣、片手剣、後ろには弓をもつゴブリンさえいる。
ゴブリン達は一斉に走って村に殺到した。
男たちは個々に応戦。イリアも魔法陣を使って『炎弾』を放つ。俺も入り口へ『炎弾』を放つが、もはやイリアのそれとは比較にならないほど大きい。この威力と着弾した時に起きる小爆発から、『爆炎弾』といった方がいいだろう。『爆炎弾』は闇に吸い込まれて爆発。刹那、多くのゴブリンが燃え盛るのが見えた。村の入り口が異様に明るくなる。
明るくなったおかげで、入り口にいるゴブリンの態勢も明らかになった。まだまだ控えが並んでいた。狡猾にも波状的に攻撃を仕掛けようとしていた節がある。しかし、後方部隊は『爆炎弾』を使って次々と葬っていく。建物があるので剣技が使いにくいものの、魔法が使えるというのはありがたい。とはいえ派手にぶちかますと、遠方とはいえ建物に被害が及びそうなので、放つときはなるべく魔力を押さえぎみにした。
しかし、『爆炎弾』を喰らっても森に逃げるゴブリンがいない。あくまでも体勢を整えようとしているのだ。
強力なリーダーによる統率が為されているのか・・・?
ゴブリンが村の通りに入らないようにと男たちが道を塞ぐように立ち、そこへゴブリンが力ずくで突破しようと殺到した。
奮闘する男たちだったが、やや押されている。放っておくと危ないので、ゴブリン達を後ろから次々と斬りつけた。
呆気にとられる村人達。
俺は振り向いてイリアを見た。
外さないよう、慎重に『炎弾』を発動。村人に弓を引こうとするゴブリンを死角から狙い撃っていた。
イリアは時折もう片方の手を突き出していた。自らの発動する魔法も試そうとしているのだ。目の前のゴブリンに気を取られ過ぎていないようなので、ひとまず安心した。
そのときだった―――――
背後―――つまり、村の中央で大きな轟音がした。
振り返ると、一本の丸太に火がつけられ、下から突き上げられるように上下に動いているのが見えた。
やはり、『ゴブリンメイジ』はいるのか・・・。
そうか、今日の襲撃は『あっち』が本命か!
丸太は村の外側へ倒れた。丸太は人が一人通れるほどの幅があった。ゴブリンならなんなく通れるはず。
あっちには戦えるものがアニーしかいない。
嫌な予感がよぎった。
「イリア!こっちは任せた!」
「はいっ!」
そうはいっても入り口の外にはゴブリンがまだまだ控えている。
俺はアニーのところへ向かう前に入り口側に駆け寄り、外へ向かって『一閃』を何度か放つ。
すぐに踵を返し、ゴブリンの倒れる音を背中に聞きながらアニーのもとへ向かった。
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「なんなの・・・」
私の目の前で突然丸太に火がつき、大きく燃えた。
熱い!目も開けていられないほどの熱さ!
丸太は見る見るうちに炭化していく。
すると今度は、丸太を支える土が勢いよく地上に噴き出し、丸太を揺さぶっていた。
浮き上がってしまった丸太は、外側へ向かって倒れてしまった。
空いたすき間から、ゴブリン達が顔を覗かせた。
鼓動が高くなる。
あの時のことが鮮明によぎる。今目の前にいるゴブリンと同じ、下衆な笑みをたたえながら私に向かって弓を引く、ゴブリン達の顔・・・。
息が荒くなる。落ち着かなければ。
ゴブリン達が次々に村に侵入してきた。私を見て指をさしている。次々と侵入するゴブリンが、私を囲もうと、近づいてくる。
剣を握る手が痛い。肩に力が入り過ぎて動かない。
脚が、震えている。
動けない。
動けない。
ゴブリンの一体が私に飛び掛かってきた。防御しようととっさに腕を上げるけど、上手く動けない私は、体に飛びこみやすいように腕を上げただけになってしまった。
ゴブリンの顔が胸に当たった。それだけじゃない、体を押さえられ、抱きしめられる形になってしまった。
全身に悪寒が走る。
私は上げていた腕を、思いっきり抱きしめてきたゴブリンの頭に剣の柄ごと振りおろした。
ぎょえへっ
ゴブリンは白目をむいて倒れた。
だけど完全に囲まれた。まずい・・・。
剣を振りおろして、眼前のゴブリンだけでも斬ろうとした。でも、敢え無く避けられる。
体勢を整えたところで、すぐ近くにいたゴブリンに斬りかかろうとした。
そのときだった。
「きゃああああああああああああああ」
女性の声だ!そちらに目を向けると・・・・・サリナ!!なぜあなたがそこに!?
ゴブリンはいとも簡単にサリナを担ぎ、外へ行こうとしてた。
わたしはそのゴブリンのもとへ行こうと一歩踏み出した。
その瞬間、私のおなかにゴブリンの拳がめり込んだ。
「ごっ・・・ふぉ・・・」
拳が離れると、もう一度同じ場所にめり込んだ。
脚が崩れ、視界が暗くなる・・・。地面に倒れ込んで・・・。
「アニー!!」
じんいちろー・・・?
ぎゃへぇやああああああああああああ!!!
耳をつんざくほどのゴブリンの悲鳴。薄い視界の中に、ゴブリンたちの絶命した姿が入り込んだ。
途端に、まばゆい光が私を包み込んだ。
あたたかい・・・ジンイチローと同じ・・・。
光が収まると、私の腹部の鈍痛が消えていた。
少し遠くで、さらにゴブリンの悲鳴が木霊した。
ゆっくり起き上がると、ジンイチローはサリナにも回復魔法を施しているのが見えた。
目を覚ましたサリナは、ジンイチローを見るや否や泣きだして彼の首に手を回して抱きついた。
さっきの私と同じように頭を撫でるジンイチローを見て、例えようのない胸の痛みが広がった―――――。




