第45話 マグナ村
「そうかい。それは気づかなかった。すまないねぇ」
ナターシャ魔法店から帰った俺達は、早速ギルドでのこと、ミモザさんとナターシャのことを報告。
イリアの一件についても話した。
「アニーの首輪のときに気づければ・・・無理にギルド登録をしなくてもよかったんだよ」
ばぁばはイリアの手をさすった。
「ミルキー様は全く悪くありません。わたくしがもっと早くにお話しすれば済んだことなのです」
イリアはその手で、ばぁばの手を取り優しく包みこんだ。
「出立は明日かい?」
アニーがうなずいた。
「えぇ、そうよ。お昼の前に行こうと思ってる。3、4日はマグナ村に滞在することになると思う」
「そうかい・・・。みんな、気を付けて行ってくるんだよ」
「「「 はい! 」」」
「それと、ジンイチロー」
「うん」
「アニーとイリアのこと、しっかり守るんだよ。二人を守れるのは、あんたしかいないんだ」
「うん、ばぁば」
俺とばぁばはうなずきあった。
翌日の昼前に、ばぁばの見送りのもと、俺達はマグナ村へ出立した。
マグナ村への行路は非常に簡単だ。王都の西城門を出て歩くだけ。
というのも、西城門を出ると向かって右側方面には、フィロデニア大森林の裾がマグナ村方面へ広がっており、この裾沿いを歩けばやがてマグナ村へ到着する。
西城門から外は、特に何もないなだらかで平らな地形で、背丈の長い草は生えておらず、足元に少し伸びる程度の草が一面に広がっている。草原には所々大きな木が生えていて、ほどよい休憩場所になっているのか、時折冒険者たちが身を寄せていた。
ばぁばからお昼ごはんのパンをもらっていたので、俺達も大きな木の下で休憩しつつ、マグナ村へと向かった。
大森林の裾に少しずつ近づくように歩くこと、およそ3時間・・・。
村の入り口のようなものが見えてきた。
「あれがマグナ村かな」
「そうね。他に集落はなかったはずだから、おそらく」
「入村したら、まずは村長に会いに行かなきゃ」
「イリアの身分は隠したままでいいわね?」
「えぇ、その方がよいでしょう」
入り口は広く、番人が立って出迎えるということもなかった。
もっと閑散として小さいというイメージでいたがそうでもなく、いくつもの家や商店、石造りの建物もある、割と大きめの村だった。
村人と思しき人に村長の家を尋ねると、村の中央に位置する大きな家だと教えてもらい、早速向かう。
「こんにちは~」
扉を叩いて声をかけると、若い娘さんが出てきた。
歳で言えば俺と同い年かそれよりも少し上程度だろう。茶色い髪が背中まで伸びていて、少し胸元が緩めのベージュのワンピースを着ていた。
「はい、どちら様でしょう」
「この村からのゴブリン討伐の依頼を受けギルドから派遣されてきた者なんですが、あいさつにとお邪魔させていただきました」
「・・・本当ですか!?少々お待ちください!」
娘さんは驚きの表情を浮かべ、慌てて家の奥へ消えて行った。
すぐに、家の中でこちらへ駆ける音が聞こえてきた。
扉に現れたのは、壮年の男性で、少し白髪も混じっていた。体つきは大きい方で、もしかしたら武術の心得もあるのかもしれない。
「お待たせしました。私が村長のトーザと申します。どうぞ中へお入りください」
「ありがとうございます」
家に招かれ入るとすぐに応接間があり、そこへ座るよう促された。
俺を中央にして三人並んで座り、テーブルを挟んで正面に村長が座った。
「あらためまして、村長のトーザです」
「私はジンイチローです」
「アニーです」
「イリアと申します」
村長はイリアの名を聞いても特に反応しなかった。
「このたびは私どもの依頼を受けていただき、誠にありがとうございます。それで、失礼を承知でお聞きしたいのですが」
「はい、なんでしょう」
「本当に、依頼を受けていただいたのですか」
「は、はい。それが何か?」
「あぁ・・・ははは、いや・・・」
村長は苦笑いをしたようにみえたが、すぐにその顔を叩いて、首を横に振った。
「すみません。いや、本当に来て下さるとは思いもよらずに、大変失礼いたしました」
「いえいえ」
そのとき、娘さんがカップに入った水を持ってきてくれた。
「紹介が遅れました。これは私の娘のサリナです」
「サリナと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく」
俺はサリナさんと目が合うと、サリナさんが赤くなった。
サリナさんがおじぎをして、俺も軽く会釈すると、ついその胸元に目がいってしまった。
これはいけない、以後気を付けないと――――――
ムギュッ!!
「ぎひっ!」
ムギュッ!!
「ぎゃっ!」
「ん、どうかされましたか?」
「い、いえ、なんでもありません・・・」
強烈な力で俺の太ももをつねったのは・・・。
ちらっと横目でアニーを見ると、いつになく、にっこりしていた。
ちらっと横目でイリアを見ると、いつになく、にっこりしていた。
こ、こわい・・・。いっそのこと怒ってくれ・・・。
「さぁ、サリナも座って話を一緒に聞きなさい」
「わかりました」
サリナさんが座ると、村長が居直った。
「さて、ギルドではどこまでお話をお聞きになられたでしょうか?現在のこちらの状況とあわせて情報共有を行いたいと思うのですが」
「はい」
俺はギルドで聞いたことについて全て話した。
それと、ゴブリンの一群には『ゴブリンキング』と『ゴブリンメイジ』がいる可能性についても伝えた。威力偵察をして大群で押し寄せる日を諮っている可能性があるとも話した。
それらを聞いた村長の顔色が翳った。
「ゴブリンキングとメイジ、ですか・・・」
「あくまでも推測ですが・・・」
「いえ、実は私も薄々感づいてはいましたが、考えないふりをしていました。というよりも最悪の事態を考えたくない、と申した方が・・・。村長としては失格です・・・」
「無理もありません。あまりにも予想外だったでしょうから。ですが村長は危機を感じたからこそ、ギルドに依頼したのですよね」
村長は大きくうなずいた。
「えぇ、まさしく。村でも男衆が番を務めて守ってはいるのですが、今回ばかりは勝手が違いました。毎晩違う方法でゴブリンが襲撃をしてくるので、男衆の疲弊も重なりまして・・・。もちろん魔物が出ること自体は日常茶飯事ですが、はぐれたゴブリンが稀に出没する程度だったんです。ところが・・・」
「意図的な襲撃に何度も会い、狙われている、と」
「はい。それに・・・」
村長はサリナさんを見た。
「先日の襲撃の際は、このサリナがさらわれそうになりまして・・・」
俺は驚き、サリナさんを見た。
サリナさんはとても不安そうに俯いていた。
「ゴブリンは執着心が強いとも聞きます。まだ村の若い娘たちの誘拐はないものの、この村の者は毎日を不安の中過ごしているのです」
「あの!」
サリナさんが顔を上げて言った。
「本当によろしくお願いします!私が出来る限り皆さんの活躍を支えられるようご奉仕させていただきますから、なにとぞ、よろしくお願いします」
サリナさんが頭を下げた。
「私からも、あらためてお願いします。今、サリナが少し触れましたが、宿につきましてはこの私の家を使ってください。2階にちょうど3部屋空きがありますから、お好きに使ってください。この家は昔宿屋でして、お風呂もあります。英気を養っていただくには最適かと」
お風呂!!久しぶりのお風呂か!!
俺はアニーとイリアを見る。二人ともうなずいた。
「それではお言葉に甘えて、お世話になります。よろしくお願いします」
俺達はその後も村長と状況確認と打ち合わせを行った。
ここ数日、ゴブリンは村の外からは魔法による攻撃を仕掛け、村の入り口からはやや体格の良いゴブリンが短剣を持ち現れたという。討伐したゴブリンはあわせて3体で、3体目を倒して翌日以降は無理に村の中に入ろうとせず、代わりに魔法を使った攻撃と、稀に矢が飛んできたそうだ。
他の被害はあまりないものの、若干の食糧が奪われた程度だったようだ。女性への被害は未だないものの、先日のサリナさんの誘拐未遂はこの村に住む女性にとってショックが大きいと、村長は離した。
ちなみに男衆は交代で番を務めるため、5名3班編成としているようだ。班それぞれに魔法が使える者1名をいれているという。どれくらい魔法が使えるのか尋ねたところ、火魔法と水魔法、風魔法がそれぞれの班に組まれているという。そのほかの者は魔法陣による発動も経験したことがないようだ。あくまでも『経験がない』だけで、成功の有無の実態は不明だ。
俺達三人は村の様子を見て回ることにした。すると、いつの間にかサリナさんが同行することになった。
「村の外周はこのように柵でおおわれていて、容易な侵入は出来ないようになっています。それに、大森林側の方は、見ていただいておわかりとは思いますが・・・」
大森林側は、大きな丸太の木の壁が一面に設けられていた。これは圧巻だ。
「よくこれだけの丸太を柵代わりに・・・どうやってこれを?」
「これは王都に依頼して、魔法士の土魔法で穴を深く穴を掘ってもらい、そこに人手で丸太を立て、人手で土をかぶせたあと、さらに土魔法で固めるのです」
「なるほど。丸太側の侵入はほぼ無いに等しいですね」
「えぇ。ですが、先日の魔法によると思われる攻撃は、この丸太越しでした」
「うーん・・・」
「この村には魔法士がいないですし、魔法が使える者はわずかです。それに、使えるといっても回数に限度がありまして・・・」
なるほど・・・。回数が限定されるからこそ重要な場面で使えるよう配置しないといけないから、侵入リスクの高い入り口側に魔法が使える者を配置していただろう。丸太側の対処はほぼ皆無か。
「ちなみに、食糧保管庫は村のどの位置に?」
「二か所あります。一か所目は村の入り口付近で、先日はここを襲撃され少しだけ備蓄食料が奪われました。もう一か所は私たちの家の隣です」
「避難所か何かはありますか?」
「そういったものは、あいにく・・・」
「それぞれの家でやり過ごす、ということですか」
「はい」
目の届かない所で誘拐が起きても救えない可能性もある。どこか数か所に避難して守護しやすいようにするという手もあるとは思うけど・・・。
「アニー、イリア、帰ってから少し打ち合わせをした方がよさそうだね」
「そうね。配置や役割も決めたほうがよさそう」
「賛成ですわ」
村長にもう少し聞かないといけないこともあるし・・・。
「サリナさん、ありがとう。一旦家に戻ります」
「お役にたててうれしいです。ジンイチローさん」
「こちらこそ」
「・・・」
「・・・」
サリナさんがじっと見ているような気が・・・。
「さ、ジンイチロー、行くわよ」
「ジンイチロー。時間がありません。行きますわ」
二人が俺の手をグイグイッと引っ張っていった・・・。
三部屋を1人ずつ使うことに決め、打ち合わせはアニーの部屋で行った。
「今日も襲撃があると思う?」
「あるでしょうね。それに、もしかしたらいつもより多数で押し寄せるかも」
「そう思う根拠は?」
「根拠はないわ。ただ、これだけ『威力偵察』をしたら村の概要もおおよそ把握したと思う」
「うん・・・」
多数で襲撃するという最悪の事態を考えたほうがいいのだろうけど・・・。
だが俺達のもう一つの目的は、イリアの魔法発動の練習とアニーの勘を取り戻すことにある。
イリアをどこに配置するのかも大事だ。
アニーは続けた。
「それに、もう一つ大事なことがあるわ。イリアの帰省の時期を考えて私は3、4日とばぁばに言った。つまりその期日までの間にゴブリン達を全て討伐しなければいけない。でないと、依頼未完遂のままイリアを帰すことになる」
「それだけは、わたくしとすれば避けたいところです」
「確かに依頼完遂まで続けることはできるけど、長引くのもよくない」
「そう。長期化すれば村人がもっと疲弊し、村が襲撃に耐えられなくなる恐れがある。まだ余力があるうちに、全て討伐した方が・・・」
「短期決戦ですわ」
三人ともに、うなずきあった。
「よし、それじゃあ、配置は―――――」
その後俺達は、サリナさんから夕食の支度が出来たと呼ばれるまで、打ち合わせを続けた――――――。




